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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
二章 試練のダンジョン
26/90

5話 試練のダンジョン

どうも皆さん。

最近寒いし、仕事で火が吹き始めた私です。

いやはや、地獄が見え始めて泣き出しそうです。

でも、そんなことを気にする事無く、何とか書いております。

あぁ、頑張れば、きっと報われると信じ、今日も頑張るぞぉ(現在2017/02/12 23:42)

では、次話で会いましょう ノシ


2017年3月12日:修正

        内容を修正しました。

 時計台の針が八時を指し、この集落内に鐘の音が鳴り響く。時計台の近くを集落の住人たちが、これから最終試験を受けるキャティさんたちを囲っている。彼らを応援しているような内容が聞こえるのだが、当の本人たちは緊張しているようで声が裏返っている。そんな中、私たちの到着に気が付いたのか、囲っていた住人たちが道を開いてくれた。

 今回の最終試験に挑む私を含めた五名と、最終試験を仕切る監督官であるリューちゃんが揃ったことで、この場にいる住人達がザワザワと騒ぎ始めた。これから最終試験が始まるとのことで、皆がこうして時計台前に集まって来たのだ。時間ギリギリに着いたのだが、皆が私たちの到着したのを確認してから拍手を始めた。いきなりの事で何が何だか分からなかったが、私は一礼してからキャティさんたちが並んでいる方へと向かう。右から順に『ホムちゃん、リシューさん、ジュデッカくん、キャティさん』と並んでいるので、必然的にキャティさんの左隣へと並んだ。自身の身なりを確認し、気合を入れ直す。これは勝負衣装である。そう思うと、私以外の皆も勝負服なのか気になり、皆の方へと顔を向けて服装をチェックする。

 ホムちゃんは黒いズボンに、グレーのシャツを着ている。そして、その上に私と同じ緑色のコートを羽織っている。確か、あれはイスズ様が初めてホムちゃんに作ってあげた服だったはず。つまりホムちゃんの勝負衣装なのだろう。


(ホムちゃんの勝負服――いいなぁ。全部、イスズ様が一から作った服。いいなぁ)


 そんなことを思いながら、次のリシューさんの服装をチェックする。その服装はいつもの僧侶服ではなく、リューちゃんと同じ着物姿であった。黒生地の着物には、赤い彼岸花と青い蝶が描かれており、腰に巻かれた白帯には何故か小刀を指していた。そして、いつものように錫杖を右手で握っている。


(リシューさんの勝負服かな? 着物姿でイスズ様を――いや、その前に着物の着かたが解からない!! ここは、リューちゃんと相談しよう)


 さて、次にジュデッカ君とキャティさんだ。ジュデッカ君は着慣れている『白のシャツ』と『薄茶色の長ズボン』だ。左右の腰には、二丁の銃を納めているホルスターが付いており、それを隠すためか、太ももとくらいある長い漆黒のコートを羽織っている。なんだろう、第一人称が『殺し屋』にしか見えない。でも、あえてここは何も言わずにキャティさんへと顔を向けた。綺麗な藍色のローブを羽織っており、ローブの下はジュデッカ君と同じ服を着ていた。これが属にゆうペアルックと言うモノだろうか。でも、違うところがあるとすれば、キャティさんは腰に指揮棒を指している。


「お、おは、おはようございます、ミーア様」


「うん。おはよう、キャティさん」


 私の視線に気が付いたのか、いつものようにキャティさんは笑顔で挨拶するのだが、緊張しているせいか声が若干裏返っていた。だが、気にする事無く挨拶を返してから微笑みながらキャティさんを見つめた。どうやらそのおかげか、キャティさんの緊張が多少解けたらしく微笑み返してくれた。今思うとキャティさんとは友達なのに『様づけ』なのはどうかと思ってきた。ダンジョン内で、あだ名で呼び合えるような中に慣れたら良いなと思う。そして、私もいつかはイスズ様の事を様付けではなく『さん付け』で呼べるくらいにはなりたい。様付けじゃないと恥ずかしくて、壁に額を何度も打ち付けたくなる衝動に駆られる。きっと、キャティさんも私と同じように『さん付け』で呼びたいのかもしれない。


(こういう時に、あの御方がいればチョチョイと「きっかけ」を与えてくれるのになぁ)


 そんなことを思いながらリューちゃんのいる方へと体の向きを変えた。そこには時計台の前で、私たちを見つめているリューちゃんの姿があった。そして、先ほどまで賑やかだった皆の声が一瞬にして静まり返える。これから試験が始まるからか、リューちゃんは真剣な表情で私たち五名をひとりひとりを見た。その眼は教え子を見守るような優しくも鋭い眼差しだ。そして、全員を見終えると話し始めた。


「さて、まさかこれ程の人が集まってくるとは儂も思わなかった。皆が皆、お主ら五名を見送りに来たようだな。まぁ、大半がこのダンジョンで手に入るお宝が気になるのだろうがな。さて、この話はこの辺にしておくとしてだ。今回の最終試験の内容が『ダンジョン五十階層踏破』だ。そして、ダンジョンに入れば試験開始となる。また、試験内容についてはダンジョン内に入ってから発表する。皆、準備は良いな」


 リューちゃんの最後の問いに私たちは「はい」と答えると、微笑みながら指を鳴らした。すると、先ほどまで着物姿っだリューちゃんは一瞬にして灰色のスーツを着た姿へと変わった。下には白いワイシャツを着ており、赤黒いネクタイをしている。そして、腰には黒い金棒を下げている。今まで和服姿のリューちゃんしか見た事が無いだけあって、スーツ姿のリューちゃんもカッコイイ。そう言えば、昔は黒スーツに灰色のコートを羽織っていたような気がする。あの時のリューちゃんは右目に傷はなく、愛刀である斬馬刀を腰に差していた気がする。それがいつからか着物姿に金棒を腰に差しているわけだ。あの斬馬刀――確か、名前は『煉獄』とだったか。あのリューちゃんの愛刀はどうしたのだろうか。そんなことを思っていると、リューちゃんはそのまま時計台の扉の方へと向きを変える。そして、ドアノブに手をかけると、そのままドアノブを回した。鍵がかかっているはずのドアは、リューちゃんの魔力によって『ニャリーン』と言う音とともに鍵はゆっくりと開かれる。イスズ様は、いつもこの音を聞くと驚くのだが、リューちゃんは驚くことはなかった。本人曰く、別に驚くことでもないらしい。全二百八十通りの泣きボイスがあるのに、驚かなとは流石はリューちゃんである。ちなみに、其の二百八十通りの中には、私のボイスも存在する。いずれ、イスズ様が引いてくれたら嬉しいなぁ。


「さて、では行くぞ」


 リューちゃんはドアを引くと、そのまま中へと入って行く。その背中は、どこか懐かしさを感じさせる。お父さんのような、とても大きな背中である。旅人時代からずっと両親と呼べる人はいなかった。いや、正確に言えば旅人になる前からずっと私は『ひとりぼっち』だった。旅人になってからは、ずっと隊長の家にお世話になっていた。だから、私に両親が出来たことが、今になってすごく嬉しかったんだと今になって気づいた。失って気が付いたからだろう。リューちゃんの背中が、あの日の父の背中とどことなく似ていた。


(父さん、母さん……。私、頑張るね)


 天国にいるであろう両親に、この想いを心の中で呟いてから一歩を踏み出す。私を育ててくれた両親のためにも、この試験をクリアーするんだ。その気持ちを胸に、一歩、また一歩とリューちゃんが待つダンジョンの中へと入って行く。時計台の中へと入ると、壁には設置されている灯篭に火が灯る。正面奥にある壁には社が置かれており、一輪の花が供えられている。大人が十人くらい入れる程の広さがあり、部屋の中央に地下へと続く階段がある。階段の広さ大は横に二人並んで降りられる大きさで、壁はレンガで作られており天井近くにはランタンが均等に配置されている。そして、その階段の前にリューちゃんが仁王立ちで待ち構えていた。まるで鬼神が門を護るような――あぁ、リューちゃん鬼神だった。


「さて、これより試験内容について説明するのだが、まずは昨夜旦那から道具袋の入った収納指輪を預かっている。この収納指輪を今から君たちに配る。この指輪を着けると、二度と外すことはできない。この指輪は、魂の中へと入り封印される。ただ、そこにあると認識すればこのように召喚される」


 リューちゃんはそう言うと右手の甲を此方へと向けた。すると、右手の人差し指に翡翠色の指輪が現れた。その光景にリシューさんと私以外は驚いた表情をする。私は旅人だから知っているから驚くこともないし、リシューさんも目が見えていないから反応がない様だ。そんな私たちを見てか、リューちゃんはそのまま説明を続けた。


「基本、収納指輪は右手人差し指に着ける。認識すれば指輪を呼び出す事が出来るが、最初に着けた場所にしか呼び出す事が出来ない。だから、婚約指輪などを着けることも考慮して右人差し指に着けている。さて、アイテムの取り出し方だが、収納バックと同様に『何を取り出したいのか』を想像し、指を鳴らせば取り出せる。ただし、何が入っているのか分からなくならないように、ちゃんと紙に書いておくとかするのも良いだろう。では、これより一人ずつ配っていく。皆が装着したのを確認後、試験内容を発表する」


 リューちゃんはそれを告げると、右手で指を鳴らすと四つの指輪が私たちの前――もとい私を除く四名の目の前に現れた。その理由について理解しているし、説明するのもどうかと思うのだけど。簡単に言えば、私が旅人だから別に指輪がいらないだけである。それに、私はイスズ様の妻なので指輪を先に貰っていると言いきれる。そのため、私の前に現れなかったことに、皆が不思議に思うことはなかった。そして、一度も躊躇うことなく指輪をはめるのを確認すると、リューちゃんはコートの内ポケットから一枚の紙を取り出す。内容を確認したと思ったら、後すぐに指を鳴らし紙は燃やした。


「さて、ミーアについては指輪を先に渡してるが、入っているアイテムは同じだ。さて、皆がはめたのは確認した。これより、最終試験を開始する。試験内容はシンプルであり、たった一つだけだ。生きて、このダンジョン地下五十階層まで到達することだ。このダンジョンについては、昨夜説明した通り転移魔法によって箱の世界へと転移する。箱の中はダンジョンになっており、その中を探索する仕組みとなっている。まずは、実際にその眼で見た方が良いだろう。ついて来い」


 リューちゃんは階段を下りるのに続いて、私達もダンジョンの中へと入って行く。先頭にいるリューちゃんを導くかのように、壁に備え付けられたランプが光りだす。その光景が、まるで私たちをダンジョンの中へと誘うように見えた。いや、間違いなく誘っているのだろう。ダンジョンと言うのがどんなモノなのかは、集落にいる冒険者たちから聞いている。ダンジョンは、得物をおびき寄せるために宝と言う餌を撒くのだと。


(やっぱり、緊張するなぁ。初めてのファンタジーの世界だけど――あれ、旅人の世界も魔法とかあったような気がする? あれ、そうなるとファンタジーの世界って、初めてじゃないのではないかな。あれれ)


「大丈夫、大丈夫、大丈夫」


 さて、そんなことを考えていると、右隣から小さな声で『大丈夫』と繰り返しながら唱えるキャティさんの声が聞こえた。キャティさんの方へ顔を向けると、少し顔が青くなっており、手が少し震えていた。私はそれほど緊張はしていないんだが、やっぱりキャティさんたちにとっては『旅人が創ったダンジョン』なため、凄く緊張しているようだ。私は黙ってキャティさんの手を握ると、驚いたのか此方へと顔を向けた。


「大丈夫だよ。私たちが傍に居るから」


 微笑みながら言うと、キャティさんは黙って頷いた。先ほどまで青かった顔に、赤みが戻ってきた。


「うん。ありがとう、ございます。ミーア様」


「ミーアで良いよ。それに、私もちょっとだけ緊張しててね。このままで、良いかな?」


「は、はい」 


 嬉しそうに返事をするキャティさんに嬉しくなり、つい「えへへ」と言ってしまった。恥ずかしいからとかではなく、なんか嬉しくて出てしまった。それにつられたのかキャティさんも「えへへ」と呟きながら、一緒に微笑みながら手を握りながらリューちゃんの後を追うように階段を降りて行く。


「ここが、第一階層の入口だ」


 目の前に大きなフロアが広がる。広さとしては、武道場と同じくらいの大きさ――では、分かりにくいよね。大体、人が五十人は余裕で入れるくらいの広さで、壁はレンガで床は石畳である。そして、床には巨大な『大鷲の絵』が描かれた魔法陣があり、私たちに反応してか淡い青い光を放っている。私は目の前の大きな魔法陣を見ていると、正面奥の方から赤く発光しているの何かに気が付いた。奥の方へと顔を向けると、そこには床の魔法陣と同じ魔法陣が光っていた。何故、床に描かれている魔法陣と同じだと分かったかと言えば、赤く光っている魔法陣の絵が大鷲だからだ。


「さて、説明を始める。ジュデッカ、このダンジョンについては聞いているな」


「はい!! このダンジョンは、全十階層の短いダンジョンです。ですが、各階層に配置されている魔法陣によって箱の世界へと転移します。箱の世界も同じく十階層のダンジョンだと聞いております」


「その通りだ。そのため、このダンジョンは地下百階層だと発表している。だが、このダンジョンには、他にも面白い機能がある。このダンジョン内には、店が存在する。落ちているアイテムを拾い、ダンジョン内のお店で換金することで物資と交換する事が出来る。まぁ、それについては実際に試験を開始すれば分かるだろうから、説明は省略させてもらう」


 ダンジョン内に店があると言う事に、私は驚いてしまった。まるで、昔私が熱中していたダンジョンゲームと同じなのだ。だが、この世界の人にとっては新しいダンジョンなのだ。だからか、リシューさんは驚いた表情をしている。そう言えば、リシューさんは元々冒険者だった事を思い出した。昔、お父さんから聞いたことがあった。リシューさんとお父さんは同じ冒険者であり、ギルド『白炎の翼』の一員だった。そして、あの難攻不落と呼ばれた『バルフェリア塔のダンジョン』を攻略した一人だ。そんな彼ですら驚くのだから、このダンジョンは規格外なのだから、驚くのも仕方がないのかもしれない。


「さて、ジュデッカが言っていた通りだ。この床に描かれている魔法陣に乗ることで、箱の世界――いや、箱のダンジョンへと転移する。そして、箱のダンジョンの最深部にいるフロアボスを倒すことで『紋章の鍵』を手にする事が出来る。この紋章の鍵については、実物がないのでな。実際にフロアボスを倒して貰わねば、その鍵がどんなモノかは見てもらえば早い」


「師匠!! フロアボスを倒すことで、その鍵は必ず手に入るのですか?」


 ジュデッカ君の疑問について、私は驚いてしまった。確かに、必ず鍵が手に入ると言っているが、本当なのか疑問になる。イスズ様たちが確認したから問題はないと、私は思い込んでいた。だが、それが本当なのか気になるのも確かである。


「あぁ、必ず手に入る。実際に俺も何度かこのダンジョンに挑み、検査確認をした。約千五百回は潜ったが、千五百回必ず鍵は手に入った。だから、鍵は必ず出ると断言が出来る」


「なるほど。ありがとうございます」


 元気よく返事を返すジュデッカ君に対し、私は『千五百回は潜った』と言う言葉に、私は絶句してしまった。そんなに潜る必要があるのかと、思ってしまったのだ。でも、だからこの集落がここまで凄い状態になったのだと納得してしまった。でも、潜り過ぎなような気がするのは、私だけでしょうか。そんな事を思っていると、隣にいるキャテイさんは私の方へと顔を向けて「すごいね」と笑いながら言った。確かに凄いのだが『やり過ぎじゃないかな』と、キャティさんに言いたかった。でも、それは言えず「そうだね」と答える事しかできなかった。


「まぁ、普通に面白くて挑み続けたわけだが。正直に言ってやり過ぎたような気がするが、ダンジョン内で死ぬことはない、安全かつ初心者にも優しいダンジョンだ。それ故に、結構な数潜り確認したわけだ。さて、話を戻すとしよう。その紋章の鍵が、この部屋の奥で赤く発光している魔法陣を解く鍵であり、アイテム神像の宝を開ける鍵だ。そして、先ほども告げたように、フロアボスを倒すことで鍵は手に入る。鍵を入手後に、フロア中央に帰還用の魔法陣が開かれる。帰還後、その鍵でこの奥にある魔法陣の鍵を解除し次のフロアへと移動する。これが、このダンジョンの大まかな流れだ」


 リューちゃん一通り説明を終えると、私の方へと心配そうな表情を向けた。何を聞かkれるのか大体想像できているため、身構えることもなく苦笑してしまう。


「さて、今さらだが、嬢ちゃん。旅人の世界以外の『ファンタジーの世界』は初めてだったな。ダンジョンに挑むこと自体、あまりお勧めできないのだが大丈夫か」


「うん、大丈夫だよ。今までの管轄は『魔法も存在しない』いたって普通の世界だったかな。仕事としては、単調な作業だったけどそれなりに楽しかったかな。でも、だからかな。初めてのファンタジーの世界。それも、イスズ様と同じこの世界で仕事が出来る事に凄く緊張してるけど、凄く楽しみでもあるかな。後、ダンジョン探索は今まで一度も体験したことないから、ワクワクもあるけど凄く緊張しているかな」


「「「ぇ」」」


 リューちゃんからの『ミーアは旅人です』宣言に、リシューさん以外の全員が驚いていた。リシューさんは驚かないと思うと、やっぱり旅人の世界で修業したから見分けることが出来るのかもしれない。だから、驚かなかったのだと思う。しかしながら、リューちゃんと同じ目を持っていると思うと、なんだか不思議な気持ちになる。二兆ほどある世界の中で、旅人の候補者が一人いれば良いくらいの確立なのだけど、リシューさんは間違いなく旅人の候補に選ばれる逸材だ。そして、リシューさんは間違いなくリューちゃんの後釜になれる存在。つまり、私の上司になる可能性がある存在なのだ。そう考えると、この世界の旅人候補が見つかったとして喜ばしいと思う半面、先輩が後輩に追い抜かれると言う複雑な気持ちになる。


「そうか。今思えば、確かに旦那と同じ世界――それも、ファンタジーの世界は初めてだったな。基本、ファンタジーではない世界で儂と共に仕事をしていたな。そうなると、確かに緊張して仕方がないか。さて、お前たちにも伝えておくが、ミーアは儂らと同じ旅人だ。今朝、旅人として目が覚めた。だが、その力はまだ完全に戻っていない。それ故に、お前たちとほぼ変わらないと思ってくれ。常にダンジョン内では、皆危険が平等にやてくるだ。何があっても、仲間と共に協力し合い、最終試験を乗り越えろ」


 私たちは「はい!!」が返事をすると、満足したのかリューちゃんはニヤリと笑った。額に生えた長い犬歯にギラリとする鋭い左目が、より鬼としての怖さを倍増させている。でも、その姿こそ鬼なのではないだろうか。だが、この四年間一緒に暮らしていることで、リューちゃんに対しての恐怖心はなくなった。性格が性格だからとも言えるかもしれないけど、なんだかんだで面倒見がいいような気がする。そう言えば、貴族の人たちも最初は怖がっていたが、いつの間にか茶飲み仲間になっていた。この集落の一角にある喫茶店で、よく貴族の人たちと今後の貴族の在り方を話し合っていたような気がする。その他にも、この集落に住む奥様方から『子どもたちと一緒に駒遊びや凧揚げとか、とにかく一緒に遊んでくれる』と、嬉しそうに話してくれる。そんなリューちゃんに対して、リシューさんは何やら納得したような表情をした。一体何を納得したのか気になったけど、リシューさんはそれについてリューちゃんに言う。


「なるほど、だから親方様と同じ色を放っていたわけですな。初めてお会いした時から親方様と同じ魔力、同じ覇気の輝きを放っているので、少々気になっておりましたが。なるほど、そう言う事でしたか」


 いきなりの衝撃的事実に、私は絶句してしまった。


「ほぉ。そこまで見抜いていたのか。やはり、儂と同じ目を持つ者には分かると言うわけか」


 リューちゃんは鋭い目でリシューさんを見た。あの目は、きっと「コイツ、出来るな」的な目つきだ。長い付き合いだから分かるのだけど、あの目を向けるときは間違いなく『旅人候補』を見つけたときだ。


「いえいえ、見抜いてなどはおりません。それに、まさかリューセン様も同じ目をお持ちな事に、私の方が驚きですよ」


「そうか? 青蓮から何も聞かされてなかったか。あいつなら、普通に儂の事を話していそうだったが」


「いえ、まったく。しいて言うのでしたら、青蓮様の奥様が作るおはぎが美味しすぎて、虫歯になった話が大半ですかな」


 何故か、青蓮様ののろけ話ばかり聞いたと言うリシューさんに対し、今はそんな事よりも私が旅人だと気づいた事が気になってしょうがない。あの言い方だと、私と初めて出会ったときから『旅人』だと気が付いていたことになる。この疑問を晴らすために、私は試験前だとは言えリシューさんに聞くことにした。


「その、初めて会ったときから、リシューさんは気づいていたの? 私が旅人の一人だって事に」


「いいえ、そこまでは分かりませんでした。ただ、親方様の放つ色と同じ色を放っている珍しい子程度しか思っておりませんでした。何せ、世界は広い。同じ色を放つ魔力、覇気を持つ者もおりましょう。私は以前、冒険者として各地を旅しておりました。その時にも、同じ色をした者たちと出会いました。ですが、あそこまで同じ気を放っている者には、一度も会ったことがありません。それ故、私には『珍しい』としか思っておりませんでした」


「め、珍しい?」


 リシューさんから出た『珍しい』と言う言葉に、何と返せば良いのか分からず復唱してしまった。普通の人なら気になって聞いたりすると思う事なのだが、リシューさんはそれをあえて聞かずにいたのだ。よく聞かないでずっといられたなと思ってしまったのは、私だけではないような気がする。でも、今思えばリシューさんはこの集落に来て五日後にオショー様の元で修業を始めたので、この世界ではなく旅人の世界に行ったことを思い出した。そうなると、聞く暇なんてなかったかもしれない。


「えぇ、実に珍しい事です。先ほども言いましたが、魔力や覇気と言うのは人それぞれ色が違います。同じ色を放っているとは言え、やはり若干ではありますが色合いに違いがあります。流石に一瞬で同じ色の違いを見分けることは出来ないのですが、それでも集中すれば分かります。その結果、旦那様とミーアさんの色が完全に一致した。だから、珍しいと思っただけです。それに、あまり深く聞くのも悪いと思いましたからね。あえて、聞かなかったのです」


「そ、そうなんだ」


 それしか答えようがなかった。いや、この回答しか思い浮かばなかった。そんな私の事を気にする事無く、リシューさんはフムフムと私を見つめると「なるほど」と呟いた。何がなるほどなのかと聞きたかったのだが、すぐにリューちゃんの方へと体を向けると話し始めた。


「確かに竜仙様の言う通り、まだ完全には目覚めきれていないようですな。初めてお会いした時よりも輝きが強くなっておますが、何故か点滅をしておりますな。なるほど、目覚めたばかりとは、こう言う事ですか。この試練は私たちの試練だけではなく、ミーア様の力を取り戻す試練なのですな」


「あぁ、その通りだ。だが、これはあくまでもお前たち五人への試験だ。儂としては、お前たちが無事に試験を乗り越えられると信じている。さて、前置きが長くなったな。今回の試練について、説明を始めるとしよう」


 そう言うとリューちゃんは指をならし、一本の野太刀を目の前に呼び出した。それは蒼い鞘に納まった刀なのだけど、とても強い魔力を放っている。触れるのさえ躊躇ってしまうほど、恐ろしい力を感じた。その刀には見覚えがある。あれは、確かイスズ様が工房で作っていた物だった気がする。完成品だけは観たことがあったから言えるが、一体何の材料を用いて作られたのか知らないが、見ただけであれが危険な物だと理解出来てしまうあたり、この世界ではない物を利用して作られた物に違いない。そんなことを考えていると、リューちゃんはこの刀について説明を始めた。


「この刀の名は『妖刀 夜兎』と言う。この刀はかなり危険な刀であり、この世界の核と同じ力を持った刀だ。ちなみに、このダンジョンの核を切り離す鍵でもある。今回の試験内容は、この夜兎を所持し、地下五十階層――いや、正確に言えば『五回目の箱の世界』をクリアーすることだ」


「うわー。それ、なんて無茶な試験なんでしょう。私、めっちゃ怖いんですが」


 つい本音が口から出てしまった。私以外の皆は『あれ、それだけですか』と言うような表情をしている。この試験内容の鬼畜レベルに気づいていないのだ。妖刀夜兎がこのダンジョンの核を切り離す鍵だと言っていた。つまり、このダンジョンを完全に殺せる鍵なのだ。そんなのが近づけばどうなるか。それを理解出来ているからか、私はつい本音が出てしまったわけである。


「あぁ、嬢ちゃんはちゃんと気づいているようで何よりだ。では、この刀は嬢ちゃんに任せるとしてだ。お前たちは理解できていないだろうから説明しよう。先ほども言った通り、この夜兎は、このダンジョンの核を切り離す鍵だ。つまり、このダンジョンにとって、自らを殺すことの出来る危険な刀なわけだ。そんなもんを持ってやってきたら、ダンジョンはどう思うか――ジュデッカ、お前ならどう思う」


「それは、全力で侵入者を殺して刀を奪い取りま――、ぁ」


「理解できたようで何よりだ。つまり、このダンジョンが本気を出してくると言うわけだ。その中を、お前たちは地下五十階層もとい地下五階へと降りなければならない。それがどれだけ危険な事か理解できるだろう。一つ目の箱の世界から本気を出してくるわけだ。それを生き残れる者など、数が限られるだろう。だが、お前たちは儂らが鍛え上げた。つまり、この試験内容でダンジョンを攻略できるだけの器が出来ていると言うわけだ。よって、今回の最終試験はこの鬼畜難易度で頑張れと言うわけだ」


 そう告げると、リューちゃんは私に夜兎を渡し、後ろにある魔法陣の方へと歩き始めた。私は指輪を呼び出して夜兎をしまってから、リューちゃんの元へと歩き始めた。魔法陣の中央で立ち止まると此方へと振り向き、腰に差している金棒を抜くと地面に突き刺すように金棒の先を地面へとつける。その姿を見つめながら、私たちは魔法陣の中へと向かう。今回の試験がどれ程危険なものなのか理解したらしく、肩に力が入った状態で魔法陣の中へ入る私たちにリューちゃんは何も言わず真剣な眼差しで見つめる。全員が魔法陣の中へと入ると、魔法陣の外円から青い光が天井へと向けて伸びていく。


「さぁ、ここからが本番だ。いままでの修行を思い出し、この試験を無事に合格せよ。第一の世界。それは、決して沈むことの無い太陽が照らす大森林。多くの動物たちが住む楽園とも言える場所であり、我々の最初に挑む世界」


 その一言一言を聞き逃さないよう、私たちは真剣に聞く。最初の試験にして、第一階層の世界。その世界の名を――


「第一階層、白夜大森林。これより、五名の第一の試験を開始する」

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