3話 超えるは、己自身
どうも、11月は風邪ひき、熱だし、ぶっ倒れる月でした。
みなさん、体調管理はしっかりとしましょうね。私みたいになると、辛いですから。
さて、ようやくミーアの記憶が完全に戻ります。
これで、ようやくダンジョン編を本格的に書けます。
では、次話で会いましょう。
高原に響く金属のぶつかり合う音。不思議な光景が広がる世界だとは言え、この幻想的な場所に相応しくない音が響いているのだ。だが、それだけではない。先ほどから大地がところどころで爆散しているのだ。まるで、大砲の玉や爆弾によって爆散したように、地面が抉れていく。そのせいで、この幻想的な風景が台無しになっているのだ。
さて、そんな状況の中で、二人の女性がガンブレードを構え振るう。その度に金属音が響くのだが、急に爆発する音が響いた。一人は人間で、もう一人は狐獣人。その二人が武器を振るいながら、真剣な表情でぶつかり合っている。二人は殺し合いをしているわけではないのだろうが、第三者である俺が見た限り『殺し合い』をしているようにしか見えなかった。
「まさか、ミーアがミントだったとは、な。正直、驚きを通り越して嬉しくもある」
ミーアが戦闘している姿を見ながら、隣にいる着物姿の嬢ちゃんへと顔だけを向けて言う。今日は白地の着物に蒼い蝶と鳥の刺繍がされた着物である。いつも思うが、俺に会いに来る時に限って化粧をするのはどうかと思う。せめて、外に出るときも化粧をしてもらいたい。まぁ、スッピンでも綺麗なのだから別に良いが、やっぱり俺に会いに来る時だけと言うのは、やめてもらいたい。さて、そんなことを考えていると、嬢ちゃんは何が面白いのか口元を扇で隠しながら微笑みながら言う。
「そうね。ダーリンにとっては、彼女は後輩であり想い人でもあったわね。でも、私としても想定外だったわ。まさか、探し人がこの世界にいたなんて。フフフ、でもこれで後一人で済むのね。本当に長かったわ」
何やら嬉しそうに笑う嬢ちゃん。もとはと言えば、この嬢ちゃんが原因で今まで苦労させられたのだ。第一、旅人になる前からの付き合いとは言え、いつも嬢ちゃんに振り回されていたことを思い出すと、疲れが一気に出てくる。現在目の前に広がる光景の事だって、最初は嬢ちゃんの仕業だと思ったくらいだ。
「ん、今一人と言ったか? 確か、ミーアを入れて後三人必要だったはずなのだが――って、なんで俺は肯定してるんだ。まったく、なんで十五人も妻が必要なんだよ。俺には何の説明もなしに、勝手に話が進んでたからよく分からなかったが、そろそろいい加減に教えてくれ」
「ダメよ。何かを知ると言うのは重要な事だけど、今はその時ではないのよ。本当ならダーリンに教えても良いのだけど、帝と無月との契約で話すことが出来ないの。ダーリンがミントを探すために必死になっていたのは知っていたわ。私はそれを叶えるために、彼らと契約を交わした。だから、話す事が出来ないのよ。それに面倒ごとを嫌う貴方のために、いろいろと手回しをしたのよ。そう、御心姉妹とちょっとお話をしたのよねぇ」
そう、俺が休暇を貰うまでの間、ずっとミントを探していたのだ。あの狂い神との死闘で行方不明になってしまった『ミント・ローテリア・アルテシア』こと通称『ミーア』を、俺は今まで探し続けていた。まさか、このような形で出会うことになるとは、俺は予想できなかった。と言うか今、さらっと聞き捨てならないことを言っていなかったか。先ほど『あの子たちとお話しをした』と言っていたが、まさか御心姉妹って俺の妹だったあの二人の事を言っているのだろうか。いや、間違いであって欲しいのだが、この嬢ちゃんならありうる。
「でも、まさかあの子――ミーアがミントだったとは思いもしなかったわ。初めて逢ったときは感じ取れなかったけど、旅人の力を感じ取れないように鍵を封印していたわけね。無月からはそんな話は聞いてなかったんだけど、フフフ。あの人らしいと言えば、あの人らしいわね。フフフフフフ」
何故か、嬢ちゃんが楽しそうに笑っている。だが、目は笑っていない。長い付き合いとは言え、嬢ちゃんが怒ってはいない事は解かる。それにしても、嬢ちゃんと隊長がタッグを組むといろいろと恐ろしい。何が恐ろしいって、隊長と嬢ちゃんによる嫁探しが恐ろしいのだ。未婚の旅人たちに対して、お見合いをセッティングしたりするのだ。まぁ、そのお見合い相手と旅人さんの相性が普通に良いのだから、なお恐ろしいのだ。それに、既婚者の旅人に対しても気が付けば、嫁もとい妻が増えているのだ。なんと言うか、なんなのだろうか。俺の知らない間に裏では部下の嫁探し奮闘中とか、真面目にやってそうで怖いし止めてもらいたいものだ。
「さてと、目が覚めた時の貴方への第一声が気になるけど、そろそろ私たちも帰りましょう。あまりこの場所に長いをするのはよろしくないわね。ここはミーアにとって『神聖な場所』なのだから、これ以上は私たちがいるべきではないわ」
「あぁ、その通りだな。この場所は『ミーアの精神世界』だ。俺たちのような部外者が、あまり長居をして良い場所ではない。それにしても、中々に良い戦いをしている。ガンブレードの扱い方も上手くなっている。二人の強さはほぼ互角だが、ミーアが押しているようだな。この勝負の勝敗のカギは、どちらの覚悟が上なのかだろう。後は、本人同士の戦いか。ミーア、頑張れよ」
声が届いているとは思えないが、戦闘中のミーアへと告げる。金属音のぶつかる音を聞きながら、先ほど嬢ちゃんが言っていた『妻が増えた件』について聞くとしよう。いや、絶対に『いつの間に妹二人を説得したのか』について聞き出してやると決意を固めてから、いつも通り『世界退場』を行なうために、指を鳴らし強制的にこの世界から退場した。
お互いの武器がぶつかり合う中、微かにだがイスズ様の気配を感じた。その事に、アルテシアも気づいている様だが、それでもなを攻撃は続いている。ガンブレードの引き金を引く度に聞こえる炸裂音と衝撃波。リューちゃんやシータさんに教わったこと、そして昔の自分の事を思い出しながらアルテシアの攻撃を防いでは反撃をする。今の状況は、アルテシアが攻め、私が受けと言う状態である。カウンターを決めても良いのだが、現在のアルテシアは乱絶化状態である。カウンターに対するカウンター攻撃もあり得るため、ここは攻めに転じず、受けと隙をついての反撃を繰り返している。私の予想だが、アルテシアは私の『幼少期の記憶』を持っていると思う。何故なら、私の記憶は現在六十パーセントまでは回復している。何故、パーセントで表示できるかについては、先ほどから頭の中で『六十パーセントの復元が完了しました』と告げているからである。さて、現状で残り四十パーセントが戻っていない。その戻っていない記憶だが、間違いなく『幼少期の頃』の記憶だと思う。そして、思い出した記憶の中で、何度も読んでいた『あの事件』の記事について思い出せないのだ。そう、私が剣を握るきっかけとなった『私が犯した連続殺人事件』の記憶である。
「「ブラッド・フレイム!!」」
ロストメモリーに装填している弾丸を一発だけ放ち、刀身に鮮血のように紅い炎を纏わせる。それは彼女も同じことを考えていたようで、同時に同じスキルを発動させた。だが、そのおかげでアルテシアの乱絶化は解けた。そういえば、乱絶化について忘れていたような気がするが、それは後々思い出すことにして、私はアルテシアの元へと駆ける。今が好機であり、今こそ攻めに転じるべきタイミングである。
「ッチ!? 効果時間が切れちゃったか。でも、ようやく攻めに転じてくれるなんて嬉しいわよ。ミーア!!」
互いに炎を纏ったガンブレードをぶつけ合うと、衝撃波により私たちは吹き飛ばされる。同じ技が同じタイミングでぶつかり合ったせいで、力が反発し合い、纏っていた炎が相殺されるはずが暴発して吹き飛んだわけだ。だがしかし、当然のことながらお互いに無傷である。別に手を抜いているわけでもないのだが、それでも無傷なのに驚いてしまった。どうやら自動的に魔力障壁が展開したようだ。まぁ、お互いに覆っていた炎が消えてしまったわけだけど、十メートル以上離れてしまったのは痛手だ。これでは、攻めに行こうにも魔法攻撃による集中砲火が待っている。そう考えると、此方から動くのはあまり得策ではない。
「私自身との戦闘って、やっぱり燃えるものね。ミーア、貴方もだいぶ記憶の整理が出来たようね。そろそろ攻めに転じてくれるのは嬉しいのだけど、ロストメモリーのリミッターをそろそろ外した方が良いわよ。私、楽しくて手加減が出来なくなって来たもの」
「そう。ところで、リミッター? ロストメモリーにリミッターなんてかけてあったかしら」
「あぁ、そっか。そうよね、それについての記憶は、私が持っていたんだったわ。ごめんなさいね、うっかりしていたわ」
アルテシアはそう言うと、シリンダーに直接弾丸を装填しハンマーを引いた。これから攻撃が来るのだと警戒したのだが、何故か「別に構えなくていいわよ」と言うと引き金を引いた。その瞬間、急に立ちくらみを覚えたのだが、先ほどと同様に記憶が戻ったのだとすぐに分かった。それに、あのガンブレードの引き金を引いた瞬間、私とアルテシアとの間に何かが繋がったような気がした。
すると、フラッシュバックするかのように『ある光景』が映し出された。無月隊長が私の昇進祝いとして下さった『ロストメモリー』と使用方法について、何故か音声なしで映し出された。何故、音声がなしなのかは、多分だが先ほどのアルテシアの行動が原因なのだろう。だが、あえて文句は言わない。おかげで、必要な記憶が戻ったような気がする。それに、どうやら私はと『繋がる』ことで、ほぼ力を戻ってきたよう。現状を考えると約八十パーセントは戻ったはずだ。
「なるほど、これが貴方の言っていた使い方なのね」
ガンブレードのシリンダーに右手を触れる。徐々に魔力を込めると、回していないはずなのにシリンダーが急に回りだした。その回転は凄まじく速く回ると、刀身に熱が伝わり始めた。速度を増すごとに、シリンダーの部分が発熱により真っ赤に燃え始め、その熱はシリンダーから刀身へと熱が広がり始めた。ロストメモリーの完全な解放とは『記憶を燃やす』と言う事なのだが、私の記憶は燃えてはいない。代わりに何かが燃えているのは解かっている。だが、それが何なのか分からないのだが、そんなことを気にする必要などない。
「さぁ、始めるとしましょう。アルテシア」
魔力を止めると、シリンダーが徐々に回転が遅くなり、完全に止まった。すると、何かがはまる音が聞こえた。さらに魔力を流すたびに炎の色が赤から金色へと変化した。金色に光るたびに炎の威力が増していく。何かが燃えているのは分かっているのだが、一体何を燃やしているのだろうか。そんな疑問が押し寄せている中、彼女がそれについて教えてくれた。
「本来なら記憶を燃やし、力に帰るはずなのだけど――これは、まさか!? 滅力を燃やしていると言うの? 違う。そうか、貴方の体質!! ブラッド・コードを燃やしていると言うの!? ぁ」
彼女は『しまった』という様な驚いた表情になったのだが、そのおかげで私は完全に記憶を取り戻す事が出来た。正確に言えば、九十九パーセントは回収できたわけだが、まだ完全に一つ取り逃している。それは、今目の前にいる『アルテシア』と呼ばれていた頃の私である。記憶を渡したことで繋がっている状態で、私は彼女から主導権を奪い取ったのだ。そのおかげで、私は『アルテシア』以外の記憶は完全に取り戻したわけだ。
「そっか、ようやく理解できた。これが、私の戦闘スタイルなのね」
「はぁ、なんてことをしちゃったのかしら。まったく、私としたことが『私以外の記憶』を全部返却してしまうなんて、失敗しちゃったわ」
「えぇ、そうね。ちょっと抜けてるところは、本当に昔の私を思い出すわね。貴方は、昔の私そのものだものね」
いつものように微笑みながら、ロストメモリーの刃先を彼女へと向けた。私にとっても、幼少期の『アルテシアだった頃の記憶』を取り戻す為には、彼女に認められる必要があった。だからこそ、私は彼女を超えるしかないのだ。殺人鬼と呼ばれた私を、今ここで超えるのだ。私が、あの人のそばにいるためにも。アルテシアに向けたガンブレードは金色に燃え上がる炎を見つめるのだが、そんな私を見て何故か嬉しそうに笑いながら引き金を二度三度引いた。その瞬間、アルテシアに握られたガンブレードに蒼い炎が覆った。
「えぇ、そうね。こんな私だったから、一刀たちに出会えた。そして、長い年月を経て、こうして一刀たちに逢えた。本当に長かったわね。こんな日が来るなんて思ってもいなかったわ。そうでしょ、ミーア」
「そうね。今更だけど、本当に長かったわね。貴方たちがこの『夢の世界』に呼び出してくれたから、こうして私の記憶が戻る事が出来た。でも、もう目覚める時間よ。だから、終わらせなきゃならない。この長い夢の時間をね」
ロストメモリーを握る手に力が入り、シリンダーに魔力を込め弾丸を装填しハンマーを引く。ここからは本気で戦う事になるような気がする。先ほどからアルテシアから放たれる殺気に、私のテーションが高くなっている。戦闘狂ではないのだが、どうしても血がたぎってしまう。これはもしかしたら、幼少期に関係している可能性がある。
「えぇ、そうね。では、始めましょうか。貴方の言う通り、この長い夢を終わらせるために、ミーア」
その言葉を最後に、私とアルテシアの戦闘が始まる。お互いに同じタイミングで走り出し、ほぼ同じタイミングで斬撃を放つ。同じ存在だからと言うのもあるが、やはり攻撃に出るタイミング、斬撃を放つタイミングと引き金を引くタイミングも、すべて同じなのには面白いと思った。それはアルテシアも同じだったようで、互いに笑みが零れつつも攻撃の手を緩めることはなかった。攻撃するたびに黄金と蒼の炎が花のように舞い散り、ガンブレード同士がぶつかり合う音と引き金が引かれたことで響く弾丸の爆発音、そのすべてが幻想的で美しかった。一秒一秒の駆け引きによる攻防に、私は持てるすべてをぶつける。竜仙やシータさんに教わったことをアルテシアに教えてるために、攻撃の手を緩めずにただ前へ前へと走る。押されている事をアルテシアは理解しているのに、それでもその笑みを絶やすことなく私の攻撃を受け止め、カウンターで私の攻撃を弾き攻めてくる。だが、その行動も理解できたからか、即席ではあるが防御魔法陣を発動し防いだ。
「本当に、凄いわね!! 私のカウンター攻撃をすべて防ぐなんて」
「そう言う、貴方こそ」
アルテシアの一撃一撃がぶつかり合う度に腕が痺れるのだが、そんな弱音を吐いていられるはずもない。アルテシアは、本当に強い。当時の私が何のために『力』を求め『誰』のために戦っていたのか。その覚悟が、アルテシアを強くさせている。そんな中、私は攻撃を与えながらも考えていた。私は『私のような存在を増やしたくない』から強くなると言う想いから力を求めた。だが、アルテシアは何のために力を求めたのか。ただ、それだけが気になっていた。だが、私は負けるわけにはいかない。アルテシアに勝つと、もう決めたことなのだ。ロストメモリーを右斜めに振り上げ斬りかかるのだが、それをアルテシアはガンブレードで防いだ。一瞬だが見せる苦悶の表情に今が好機と押し込み、そのまま鍔迫り合いへと持ち込む。
「ぃっつ!? やっぱり貴方の攻撃は重いわね!! でも、私だって負けてないでしょ」
アルテシアの嬉しそうに笑う。その笑顔は純粋無垢な子どものように、とても可愛らしい笑顔を向ける。きっと、この笑顔こそアルテシアの本当の笑顔なのだろう。その笑顔を向けるアルテシアに『今なら聞けるのでは?』と思い、鍔迫り合いの中で話しかける。
「えぇ!! 本当に貴方の攻撃は重いわ!! 一撃一撃が重すぎて、手が痺れて来たわ。アルテシア、一つ聞いても良い?」
「こんな状態で質問なんて、よほど余裕なのかしら? まぁ、良いわ。何かしら?」
「貴方は、何のために力を求めたの」
その瞬間、アルテシアの笑みが消えた。その眼は私を睨むかのように、真剣な表情へと変わった。あれほど純粋な笑顔を向けていたアルテシアが、私の一言で真剣な表情になったのだ。何か地雷でも踏んだのだろうかと思ったが、それでも気になったのだ。何故、アルテシアが力を求めたのか。幼少期の私が何故『殺人鬼』と呼ばれたのか。その答えがそこにあると思ったのだ。
「そうね、貴方は知るべきかしら。でも、それは貴方が私に勝つことで理解するはずよ。私は、ただ、今の貴方と戦いたいだけ。貴方の覚悟がどれ程のものなのかを、私自身で確かめたかった。貴方が守りたい者たちを、今の貴方が守れるのか。それを知るためにも、私は貴方と戦うの。さっきも言ったけど、私の強さの理由を知りたいのなら私に勝ちなさい」
「そうね。なら、私は貴方を超える!! 貴方を知るために、私の持つ全力をもって貴方を倒す」
鍔迫り合いの中、私は引き金を二回引く。金色に輝く炎は一瞬にして膨張しいく。魔弾の属性は『炎』と『炎』である。アルテシアは、きっと『大爆炎』と言う『その場で爆炎の爆発を起こす』技だと勘違いしたらしく急いで離れたのだが、私が行なうのは爆発ではない。これはイスズ様から教わった武器強化の一つである。どうやら、アルテシアはこの技を知らないようだ。いや、その部分だけ観ることが出来なかったのかもしれない。だから、私はこのチャンスを無駄にするわけにはいかない。私は神々しく燃え続けるロストメモリーを片手にアルテシアの元へと近づいた。今なら私の一撃を与えることができるはずだ。
「っな!?」
「アルテシア!! これが私の覚悟よ!!」
刀身に纏った黄金の炎が伸び、長いの炎の刀身へと変化した。炎の刃とでも言うべきか、私が知る限りとても長い炎の剣へと変貌した。私の身長など優に超えている炎を纏ったガンブレードに、アルテシアは驚いた表情をしている。これが、私が学んだ技の一つであり、この勝負に勝つための切り札の一つである。私が思うに、アルテシアはイスズ様との特訓については観ていないはずだ。なんせ、隔離世界での特訓だったのだ。あの場所に介入できるほどアルテシアに力が残っていた可能性はない。だからこそ、この技で倒す。
「灼熱の炎に身を焦がせ!! 焔一閃!!」
アルテシアへ走りだし、横薙ぎにロストメモリーを振る。斬撃を防ごうとアルテシアが防御の姿勢を取ったが、炎の刃を防ぐことなど不可能であり、そのまま炎の刃でアルテシアの体を斬り裂く。確かな手ごたえを感じアルテシアの方へと振り返ると、そこには黄金の火柱が空へと向かって伸び上がっていた。その中では、きっとアルテシアがいるのだろう。先ほどの技を出したことで、ロストメモリーを覆っていた炎は消え去った。これで勝負は終わったと思ったのだが、すぐにその火柱が消えた。あの火力ですぐに消えるとは思えないのだが、今確かに目の間で火柱は消えたのだ。
「フ、フフフ。やっぱり、強いわね」
火柱があった中心には、ガンブレードを地面に突き刺したアルテシアの姿があった。先ほどの一撃が効いたのか、肩で息をしながら苦しそうな表情をしている。元々は、鉄扇で行なう技だったのだが、ガンブレードでも応用が可能だったようだ。それを確認できたのは良いのだが、まさかあの一撃を受けても立っていられるとは驚きである。でも、先ほどの一撃がアルテシアにはかなり効いたようで、あのガンブレードなしではもう立ち上がれないのか足がガクガクと震えている。
「焔薙ぎの、一撃とは、いつ、覚えたの、かしら? スゥゥ、ハァァ。そっか、一刀が貴方に教えたのね。なんと言うか、一刀らしいと言うか、まったく。竜の因子による技の一つを教えるなんて。でも、この一撃を貴方がものにしていたなんて、驚きを通り越して、尊敬してしまうわ」
たった一回の深呼吸で、体力が回復したのか震えは止まっていた。あの短時間で完全に回復するなんて、やはり夢の世界だからだろうか。普通に考えても、こんな短時間で回復でいるはず――あぁ、例外がいた。うん、それを除いても超回復なんてありえない。
「やっぱり、強いわね。本気で戦ったと言うのに、私にあの一撃を与えた。この勝負、私の負けよ。本当に、強くなったわね、ミーア」
嬉しそうに笑うその表情は、どこか清々しい爽やかな笑顔だった。地面に突き刺したガンブレードを引き抜くと、そのままガンブレードを持ったまま私の元へと近づいて来る。その眼には敵意はなく、私に近づくに連れてアルテシアの身体から光の粒子のようなものが出ていた。
「アルテシア。私は、貴方を超えられたのかしら」
「えぇ、超えたと思うわ。長い間ずっと貴方の事を見守ってきたけど、本当に――本当に強くなったね。これなら、私も安心して戻る事が出来るわ。さぁ、これが最後の鍵よ」
嬉しそうな声で言うアルテシアは、私の目の前に立つとガンブレードを地面に突き刺した。そして、とても嬉しそうに微笑みながら、羽織っているコートの胸ポケットから一枚の長方形の紙を取り出した。紙には何も書かれておらず、何の変哲もないただの紙である。その紙をアルテシアは私の手に持っているロストメモリーに張り付けると、そのままロストメモリーの中へと入った。そして、地面に突き刺さっている『私と同じ名』のガンブレードが急に金色に光り出したかと思えば、その形状を球体へと変化させ先ほどの紙と同様にロストメモリーの中へと入った。
「さて、これで無事にロストメモリーを元に戻せたわね。これで私の最後の役目も終わりね」
「最後の役目? それはどういうこと」
「そうね。話しても良い頃合いね。正直に言うけど、私はアルテシアではないわ。あくまで、アルテシアと言う名を借りているだけ。私の本当の名は『ロストエデン』よ。今貴方の手に持っているロストメモリーの完全体とでも言えばよいのかしら。これでも、貴方とともに多くの敵を倒してきたパートナーよ? そう、幼少期からの付き合いだけどね」
アルテシアは――いいえ、ロストエデンは嬉しそうに微笑む。そのまま地面に突き刺したガンブレードのグリップを握ると、ガンブレードとともに身体が光輝きだした。身体から光の粒子が現れるのを見つめながら、私もロストメモリーを地面に突き刺すとロストエデンは語り始める。
「昔、貴方は小さな手で私を握り、多くの悪党を殺してきた。ただ一人の弟を護るために、数多くの敵を屠ってきた。その手を血で染めても『大切な弟を護るために』ただ只管に殺してきた。だけど、貴方は無月隊長と出逢い、全てが変わった。貴方があの人の元で暮らすようになって、弟とともに大きく変わったわ。多くの事を教わり、大切なことを沢山知った。その経験があるからこそ、今の私たちがいる。ミーア。一刀の待つ場所に戻ったとき、きっと貴方は旅人としての貴方に戻っているわ。それが、どう言う事なのか理解しているわよね」
「うん、知っているよ。一つの世界に旅人は二人まで居られる。そして、補佐の使い魔は一人。計三人までが世界に介入できる限界数だよね」
私の答えに満足したのか「その通りよ」とアルテシアは言うと、徐々にその姿が透けていく。どうやら姿を保てる限界が来たようで、大地からも光が空へと飛んでいくのが見える。目覚めの時が来たようで、私の身体も透けていることに気が付いた。
「フフフ、そろそろ夜明けのようね。そう言えば、ミーアには言ってなかったわね。私は確かにロストエデンと言う武器だけど、元は貴方の一部だったのよ。記憶を補完する保管庫的なモノね。だから、貴方の今までの記憶を保有することが出来たの。それと、私を外に出したままでは危険なのよ。だから、基本的に私は貴方の魂の中で眠っているわ。本当にピンチな時に、私の名を告げなさい。そのとき、私は貴方を助けるために、その力を解放するわ。だから、忘れないで」
徐々に光が強くなっていく中で、ロストエデンは優しく微笑むとただ一言を私へと告げた。
「私はいつだって『貴方のそばにいる』と言う事を」
そういうと、視界を飲み込むほどの強い光によって私は元の世界へと戻るのだった。
「――ぅ、うぅん。あれ、ここは?」
気が付くと、私は布団の中で眠っていた。どうやら無事に元の世界に戻れたようで、五十鈴もといイスズ様の胸の中にいた。心地よい彼の心臓の鼓動音を聞きながら、ここが現実世界なのだと実感する。眠気眼を擦りながらも、イスズ様の匂いを嗅ぐ。太陽のような温かな匂いに、私は顔を埋めながら「えへへ」と呟く。全てを思い出したからもあるが、やっぱりイスズ様の匂いは心が落ち着く。そんな事を思いながら顔を埋めていると、私の頭に温かな手が乗っかる。そして、優しく頭を撫でる手に顔を上げると、優しく微笑むイスズ様がいた。
「おはよう。そして、おかえりなさい。ミーア」
いつものように優しく声かけるイスズ様に、私は満面の笑みでいつものように答えた。
「おはようございます、イスズ様!! そして、ただいま。一刀さん」




