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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
21/90

20話 ダンジョン開き

どうも、私です。

皆様、もう7月も残り25分で終わりですね(現在2016年7月31日 23時35分)

本当に、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

取り敢えず、今回の二十話で一章は終わりです。次回は第二章になります。

第二章では、ミーアをメインとして書く予定なので、もう少し案を練っていこうと思います。


さてさて、頑張って二章を書くかな(^^|||

では、次章出会いましょう ノシ

「ところで、何故ダンジョンを創り上げたので御座いますかな? 今、この集落の現状を見ても、ダンジョンを作る必要がないと思われますが」


 しばらく璃秋と共に歩いていると、急に璃秋から質問が飛んできた。ダンジョンを創った理由を聞かれるとは思ってもいなかった。だが、確かに何故ダンジョンを創ったのだろうか。確か、何か理由があったはずなのだが思い出せない。元々、ダンジョンを作らなくても試験はできるのだが、何故創ったのだろうか。ダンジョンを攻略して、意気揚々とダンジョンの作成を考えていた。何かきっかけがあった気がするのだが、何がきっかけだったか本当に思い出せない。


「うぅむ、全く思い出せん。ただ、その場のノリで創ろうと言う話をボルトにして、このダンジョンを創った気がするな」


「ノリでダンジョンが創れるものなのでしょうか……。ま、まぁ、少々疑問ではございますが、ダンジョンを創れるだけでも凄いものですな。ダンジョンは、女神さまが我々に与える試練でございます。それを、御館様はいとも簡単に作り上げた。それだけでも凄いものですが、こうして集落の防犯設備も作り上げた。御館様が居れば、あらゆる集落がシャトゥルートゥ集落同様に強固な防衛都市(・・)になりますな」


 何故か嬉しそうに笑う彼に、ついついため息が溢れてしまった。嫌味ではないとは思うが、まさかその言葉が出るとは思ってもいなかった。そのせいかあの日のことを思い出してしまい、頭を抱えてしまった。


「それ、皮肉じゃないよな。まぁ、部下の管理ができていなかったのが原因だがな。まぁ、要塞化させなかっただけ、本当にまだマシだ」


「ほぉ。この集落の状況で『まだマシ』ですか?」


「あぁ、その通りだ。昔、この世界とは別の世界――まぁ、俺たち旅人のいる世界と言うべきだな。そこで、俺の部下たちが廃墟となった集落を見つけてな。一晩で『超巨大要塞飛空都市』を作り上げたわけだ。それ以来、俺の許可なしで勝手なことをさせないようにしているが、彼奴ら俺の観ていないところで要塞化させるからな。まぁ、その結果がこの現状だがな」


 深い溜息を吐くと、璃秋はなんだか不思議そうな表情をしている。飛空都市と言うものが気になるのだろうか。何か懐かしそうな表情をしながら、その場で立ち止まり空を見上げる璃秋に、なんて声をかけるべきか悩んでしまった。飛空都市と言うものが気になるのか、それともその目で見る事のできない世界への絶望か。ただ、璃秋の表情はいつの間にか安らかな笑みを浮かべながらジッと空を見上げていた。


「空飛ぶ都市ですか。私の目がまだ健在の当時、多くの都市を旅しておりました。ですが、一度として、空を飛ぶ年を見たことがありません。空飛ぶ都市――きっと、美しい風景が広がるのでしょうな。雲にも手が届き、心地よい風が吹くのでしょう」


「あぁ、確かにな。部下が創った飛空都市だが、本当に思い出に残る良い都市だったよ。朝日が登る風景が、今でも印象に残っている。璃秋が望むのなら、旅人の世界へ連れて行ってやるよ。そしたら、まず先にその目を治さないとな。そしたら、一緒に飛空都市をまわろうか」


「それは、良いですな。妻や娘を連れて、空を飛ぶ都市を周る。いつか、そのような願いが叶うと良いですな。ハッハッハッハ」


 とても楽しそうに笑う璃秋の姿を見つつ、俺はこの世界のことを思い出すことにした。この世界には空中都市は愚か、飛空都市すらない。もし、このシャトゥルートゥ集落を飛空都市にすれば、ある意味で盗賊団からの被害は抑えられるはずだ。まぁ、部下たちがハメを外してなければ問題はないと思うが、ないとも限らないのだ。俺の知らないところで集落をさらに強化している可能性はある。

 徐々に時計台に近づくにつれて、騒ぎ声が聞こえて来た。どうやら、ダンジョン開きの話がいつの間にか広がっていたようだ。その声を聞いてか、璃秋は嬉しそうに笑いながら語り始めた。


「集落の者たちの生き生きした声が聞こえますなぁ。近づくにつれて歓声も大きくなっていきますな。いやはや、活気良い集落とは良いものです。それに、御館様たちによって、この集落に住んでいた亡くなった者たちも、とても喜んでいるでしょう。本当に、この眼で集落を見ることができないのが残念で仕方がない。二十代前半までは見えていたのですが、半ばを迎えてから病で見えなくなりました。ですが、だからこそ気づけたのかもしれません」


 璃秋は立ち止まり、空を見上げ微笑んだ。その笑みが、何故か青蓮に似ているような気がする。まさか、そこまで悪影響を受けているのではないだろうか。今思えば、青蓮のもとで修行した連中の大半が、青蓮と同じ笑い方をしていた気がする。そう考えると、璃秋は青蓮の影響をモロに受けている可能性が高い。そんな事を思いながらも、璃秋の言葉を聞く事にした。


「人とは、残酷なものなのだと。助けを求める子等に手を差し伸ばす事もなく、ただ見て見ぬふりをする残酷な者たちなのだと。ですが、それでも数少なくはありますが、こうして御館様のように手を差し伸べる方もおられる。その手の暖かさに、私は心から救われました。だからでしょう、私は御館様のような誰隔て無く手を差し伸べるような、そんな人間になりたいのだと」


 璃秋は顔を此方へと向け、いつものように優しい表情をする。何故、和尚が璃秋を選んだのか。なんとなくだが、理解することができた。和尚は、璃秋の心の中にある闇を見つけ、その闇に心が飲み込まれないよう璃秋に「不殺の道」へ導いたのだろう。その結果、璃秋はこのようになったわけだ。


「それが、璃秋が力を求めた理由なのか」


「なのかもしれませんな。救いを求める子等へ手を差し伸ばし、正しき道へと導く。そのために、私は力を求めたのかもしれませんね。ハッハッハッハ」


 そう言うと、璃秋は嬉しそうに笑う。その笑い方が青蓮に似ていることは置いておくとして、璃秋のことをしれてよかったと思えた。どんな事があろうと、力を求めた理由を理解していることは良い事だ。ただ純粋に力だけを求める者や、己の野心のためだけに力を求める者。そんな人間を俺は何度も観て来た。彼らは、いずれもその夢を叶えることなく死んでしまった。だが、それでも彼らは純粋に強かった。それは、己の掲げる野望を理解していたからだ。しかし、璃秋のように誰かを守る為に力を求めた者は、彼らとは違う。誰かを守ろうとする彼らの強さは、前者たちをも凌駕する強さを持っている。尊き者を、愛する者を守る強さは、想像を絶するほどである。


「そうだな。だが、すべてを救えるとは限らない。だから、すべてを救おうとは思うな。俺だって、すべてを救うことなんて出来ない。俺の手で救える者なんて、それほど多くはないからな。さて、皆が待っているようだし。ちょっと早歩きで行くが、璃秋はついて来れるか?」


「確かに、その通りですな。さて、早歩きは少々難しいですが、それに代わる物でしたら用意しております。ささ、皆の待つ会場へと急ぎましょう」


 そう言うと、璃秋は指を鳴らした。すると、璃秋の手に持っていた錫杖は消え、代わりにスクーターが現れた。青い色のスクーターなのだが、何故かカーナビが取り付いている。ファンタジーの世界にスクーターが現れたことに驚いたのだが、それ以上にそれに平然と乗る璃秋に驚愕してしまった。盲目のはずなのに、普通にグリップを掴んで乗っている。そして、璃秋がアクセルを回すと音声案内が急に流れ始めた。


『どうも、オート運転システムパララです。これより、運転を開始します。目的地を音声でお伝えください』


「集落の時計台へ、お願いできますかな」


『了解致しました。では、安全運転で案内いたします』


 すると、至って普通にスクーターが低速で動き始めた。その姿を唖然とした表情のまま見送ってしまった。まさか、異世界でスクーターを見ることになるとは思いもしなかった。と言うか、まずありえないだろう。なんでこの世界にスクーターがあるのかが気になったが、大体誰が作ったのか予想ができる。三年前だが、今後のことを考えてか移動するための乗り物を作りたいとの話があった。その中で作られた一台が、あのスクーターだった記憶がある。まさか、その一台が璃秋の手に渡っていたとは予想外である。


「御館様、行きましょう」


 なんだか平然と時計台へと向けて走行する璃秋から声をかけられ、すぐに「あぁ」と返事を返してからもう一度スクーターを見た。魔石を利用して作られたスクーターと聞いていたが、あそこまで立派な物ができるとは我が部下ながら『良い仕事をする』と感心してしまう。やはり、彼奴らに集落の復興などを任せて良かったと心の底から思う。


「さて、さっさと行くか」


 その言葉を呟き、璃秋の後を歩きながら追いかけた。なんせ、広場に近づくにつれて、集落の住人たちの数が多くなってきたからだ。周りを見渡せば、住人や冒険者たちが酒を飲んで楽しそうに笑っている。言葉で言い表せば、現状どんちゃん騒ぎ状態である。時計台へと向かうに連れて、道の両端に一列に屋台が並んでいた。その光景は日本のお祭り風景と似ており、ラムネの瓶などの飲み物が入れられた氷水のクーラーボックスの前で販売する出店店員や、焼きそばのような食べ物を販売している店員など、多くの者たちが楽しそうに、数多くの食べ物や飲み物を販売している。そんな数多くの出店の前で、親の手を引っ張りながら駄々をこねる子どもや、両手いっぱいに食べ物を持って友達の待つ場所まで歩いている青年などなど、本当に楽しそうに笑っている。もう、これだけ言えば分かってもらえるだろう。もう『祭り』になっている。いつの間にか設置されているテーブルには、美味そうなソーセージとバーラと呼ばれる黒ビールの入ったジョッキが置かれており、冒険者や住人たちが乾杯をしてバーラを飲んでいる。きっと明日は、全員疲れ果てて家か宿にずっと入ったままだろう。まさに、廃村のように誰もいない幽霊集落状態になるわけだ。


(はぁ。頼むから、あまりハメを外しすぎないでくれよ)


 明日のことを思うと頭が重くなり、つい左手で顔を覆い溜息を吐いてしまった。少しは成長をしてもらいたいのだが、もう諦めが肝心とでも言うべきだろうか。楽しそうに笑っている子どもや大人たちを見てしまっては、俺が口出しすることなどできない。あんなに楽しそうに笑う者たちに、ハメを外すなと忠告する方が酷な話である。そんなわけで、彼らに何か言うわけでもなく、ただこの時間を楽しむ彼らを見守ることにした。やはり、祭りは楽しまなければ損である。

 さて、皆が美味そうに飲んでいる姿を見ながら、俺はやるべきことを思い出し時計台の前へと向かう。広場を東京体育館ほどの広さにしてしまったせいで、集落にいる者たちが出店やテーブルの配置など、全てがこの広場に集まっている。そのせいか、時計台周辺に人が集まりすぎて目的地にたどり着くのに時間がかかりそうだ。今思えば、一週間ほど前に竜仙や住人たちが何かこそこそと作業をしていたのを見た覚えがあるが、まさかこの祭りの準備だったのではないだろうか。そう考えると、広場に設置されているテーブルの大半が真新しいのも説明がつく。


「ハァ。祭りの件は良いが、そっちに集中するならギルドの方を手伝ってやれよ」


 そんなことを呟きつつも、人の波に逆らうことなく目的地の時計台へと歩く。こうして祭りの中を歩いていると、ダンジョン開きの発表はどうなるのか疑問になった。竜仙が「大船に乗ったつもりで任せてくれや、旦那」と言っていたが、彼奴のことだから何かネタを仕込んでいるに決まっている。長年の付き合いだから大抵のことには驚かないが、あの時に見せた竜仙の笑みが今でも印象に残っている。あの表情は、間違いなく何か企んでいる時の表情だった。そのせいか、すごく不安で仕方がない。


「それにしても、やはり祭りは良いな。日本に住んでいた頃のことを思い出す」


 前世で俺の妹だった二人のことを思い出してしまった。彼女たちと一緒に行った夏祭りが、今も鮮明に思い出として残っている。だが、今はその事を思い出すべきではない。今はやるべき事をさっさと終わらせて祭りを楽しみたいのだ。俺だって、たまには祭りを楽しみながら酒を飲みたいのだ。綿菓子やたこ焼き、それにりんご飴が食べたいのです。なので、さっさと璃秋を追いかけるとしよう。この人の波のせいで、璃秋とはぐれてしまった。きっと璃秋はもう先に行っているだろうから、急いで璃秋たち待つ時計台へと向かう。今回、ダンジョン開きについてと璃秋たち五名の発表をする予定だ。その後は、ダンジョンの調整を行ない、問題なければ一般開放する予定である。


(ダンジョンの構造を説明する必要はないとしても、仕組みについては説明したほうが良いよな。いや、それはギルド長に一任しているから説明する必要もないか。取り敢えず、ダンジョン開きと挑戦者だけで良いか)


 何を伝えるかを考え終え、出店などを回りながら人の波に乗りつつ目的地へと向かう。時計台へ向かっている間、席に座りながら『焼きそば』を食べる子どもたちが俺へ向けて嬉しそうに微笑みながら手を振ってくれた。俺も手を振り返すと満面の笑みを浮かべ、テーブルの上に置かれていた水風船やお面を手に取り、それらを見せるように精一杯手を伸ばして見せてくれた。子どもたちの手を振るう光景に気がついた大人たちが俺に気がついたらしく、子どもたちの隣席に座っていた男性陣がとても楽しそうに手に持ったバーラを掲げながら叫んだ。


「親方!! 一緒に飲みませんか!!」


「おう!! 発表が終わったら、一緒に飲むぞ」


 そう告げると、男性陣が「了解っス」と答えバーラを飲み始めた。美味そうに飲むその光景を見ながら、さっさと発表を終わらせ飲みたいと言う気持ちになってきた。だが、飲むのなら竜仙たちも連れて一緒に飲みたい。だから、今日はさっさと発表を終えてから沢山飲むとしよう。


「さて、さっさと行かないとな」


 彼らに手を振りながら、時計台へと歩き続けた。時計台に近づくに連れて、何か模様し物でも開かれているのだろうか、急に人の密集率が高くなっていく。どうやら時計台前に舞台が設置されており、そこで歌手と演奏者たちによるライブが開かれていた。あの歌手の女性は確か、先週くらいに来た旅芸人の一座の一人だったような気がする。まぁ、その件は置いておくとして、今は竜仙がどこにいるのかが重要である。予想では、あの舞台の裏側にいるはずだ。だが、あそこまで行くには大回りするか人並みをかき分けるしかない。時間は決められていないのだが、この人並みの中をかき分けても、大回りしても舞台裏へ到着するのには時間がかかるだろう。あまり彼らを待たせる訳にもいかないので、本当は使いたくはないのだが、能力を一つだけ使用することにした。


「完全停止」


 その一言を呟くと、先ほどまで活気の良い住人たちの声が止んだ。周りを見渡すと、この場にいる全ての住人が固まっていた。空を見上げれば一羽の鳥が翼を広げたまま、その場で固まっている。隣にいた男性は、曲に合わせてジャンプしていたようで、体を空中に浮かせたまま泊まっている。さて、何が起こっているのか説明するべきだろうか。別に時間を停止しているとか、自分だけが早く動いているとかではない。この世界を停止させただけだ。時間停止系の能力者でも、この領域にはたどり着けない。なんせ、本当にすべてを停止させているのだ。時間、存在と言った、この世界の全てを停止させている。まぁ、簡単に言えば「この世界に存在する全てを停止させた」と思えば良い。んなわけで、俺はそのまま空中へと飛び上がりライブ中の舞台へと着地した。


「停止中だからまだ良いが、解除した状態で空を飛んだら彼女たちのライブを邪魔してしまうからな。さて、このまま舞台裏へと行くか」


 演奏中だった彼女らに当たらないように最善の注意を取りつつ、竜仙たちが待っているだろう舞台裏へと歩く。遠目だったから解からなかったが、どうやらガールズバンドだったようで、歌手や演奏者たちは全員女性だった。目は良い方だったが、男装姿だったので女性だとは全く気付かなかった。ボーカルは人間でギターとベースはエルフ。ドラムは竜神族のようだ。そんな四人組のユニットのライブなのだ。盛り上がらないはずがない。この集落でのライブで、彼女らの人気に拍車がかかれば良いと思った。


「さて、無事に舞台裏へ到着っと」


 舞台裏に着くと、そこには慌ただしく動いていたのだろう。数名のスタッフが次の演目の準備に取り掛かった状態で停止していた。そして、奥の方――つまり、時計台の前では竜仙が腕を組んで立っていた。ただ、どうやら俺を待っていたようで、完全停止中にも関わらず腕を組みながら一定のリズムで右人差し指を左の腕を叩いていた。まぁ、当然のことだが、この完全停止中に動けるのは『俺が認めた者』のみである。つまり、竜仙だけがこの停止空間で行動ができるわけだ。いずれは、ミーアやホムホムも行動できるようになるだろう。ただ、それまでは完全停止中は動けないままである。さて、そろそろ竜仙を待たせるのも悪いと思い、竜仙のいる方向へと歩きながら声をかけることにした。


「すまん、遅れた。」


「ぉ、ようやく来たか。旦那、こっちはもう準備が出来ているぞ」


 竜仙が振り返ると、背後でミーアが満面の笑みで此方へ向けて手を振っていた。その瞬間、歩みを止めてしまった。先程も言ったと思うが、この空間で行動ができるのは竜仙のみのはずなのだが、何故かミーアが動いている。いや、ミーアだけじゃない。ホムホムやジュデッカ君たち――つまり、ダンジョンに挑んでもらう五名が動いているのだ。何故動けるのか気になったのだが、竜仙の足元に何か魔法陣のようなものが光り輝いていた。あれは、竜仙の固有結界である。それを見て納得した。つまり、こうなる事を理解していたらしく先に魔法陣を展開していたわけだ。それなら、動けるのも理解できる。


「竜仙、能力を解除する。その魔法陣を消しておけ。即席とは言え、もうそろそろ限界じゃないのか?」


「あぁ、確かにその通りだな。即席ではあるが、そろそろ限界でな。お願いする」


 竜仙が頭を下げるのを見てから、その場で指を鳴らすと硬直が解け動き始めた。すると、足元の魔法陣の光が消え、描かれていた魔法陣の絵は煙とともに消滅した。それを確認してから竜仙の隣まで向かい、挑戦者である五名の姿を確認する。五名ともジッと俺を見つめており、俺が何を話すのか待っていた。


「これより、俺はダンジョン開きの発表をする。その際、俺はお前たち五名の発表を行なう。ダンジョンへ最初に潜入してもらう事にはなるが、詳しい説明は宿に戻ってから話す。今は、気負いせず至って普通に壇上に立っていれば良いから」


 ミーアたちにそう伝えると、何故か璃秋以外の四名が緊張している。壇上の上に立つことに緊張しているようで、先程とは打って変わってガチガチに肩を立たせている。なんと言うか、それほど緊張するようなことでもないのだが、やはりこういった経験がないからか緊張してしまうのだろう。そんなミーアたちを見て、竜仙は面白そうに笑いながら言う。


「ハッハッハッハ!! ガッチガチに固まってらぁ。今回のメインはあくまで『ダンジョン開き』であり、お前らはそれを引き立て役だ。それに、今宵の祭りを楽しむのに、そんなガッチガチじゃ、締まらないだろうて」


 そう言いながら、竜仙は振袖の中から一本の瓢箪を取り出した。それは竜仙が昔から愛用している瓢箪で、中にはアルコール度数がかなり高い酒が入っている。確か『テキーラ』と同じくらいだと聞いたことがある。さて、その酒の入った瓢箪の蓋を開けると、酒を一口だけ飲むと不敵な笑みを浮かべ言い放つ。


「オメェらは、旦那が作ったダンジョンに挑む第一号だ。その栄誉ある称号を、そんなガッチガチな状態で迎えてぇのか? オメェらの後に挑む者たちの手本になるよう、胸張って堂々と壇上に立ちな」


 竜仙の言葉を聞いて、その場にいる五名全員の顔つきが変わった。先ほどまでガッチガチだったのだが、何か荷が下りたのかリラックスしたような感じだった。本来なら逆に緊張すると思うのだが、皆が皆リラックスしている。一体何が起こったのかと言うと、これは竜仙の能力である。これが竜仙の持つ力の一つである『飲み』だ。竜仙は彼らの『緊張』を飲んだわけだ。だから、皆の緊張が取れたわけだ。


「んじゃ、行くか。旦那は、儂の合図で壇上に上がってくれ」


「了解した。んじゃ、その間に準備しておくわ」


「あぁ、解かったぜ。んじゃ、行くぞオメェら」


 竜仙の言葉を聞いて五名が黙って頷くと、壇上――つまり、舞台の上り階段のある方へと歩き始めた。そんな彼らの姿を見届けながら、周りで忙しなく作業をしているスタッフの邪魔にならないように階段前へと向かう。演奏が終わったようで、額から汗を流しているガールズバンドたちが階段を下りて来た。スタッフからタオルを受け取ると、汗を拭いながら此方へとやって来る。その表情はとても誇らしく、やり遂げたものが見せる輝かしい笑顔があった。そんな彼女たちだが、竜仙たちが近づくのに気がつくと歩みを止め竜仙たちに向けてお辞儀をした。そんな彼女たちに気がついたのか、竜仙もお辞儀をするとそのまま階段を上り舞台へと上がる。


「竜仙に任せて正解だったな。彼奴なら司会を任せても問題ないだろうし」


 竜仙たちが舞台へと上がるのを見届け、呼ばれるまで何をして待とうかと考えていると何やら右隣から視線を感じた。まぁ、視線を向けている者が誰なのか解っている。なので、取り敢えず顔を向けた。そこには先ほどのガールズバンドが立っており、四名とも目を輝かせながら俺を見ている。


「ぁ、あの? も、ももも、もしかしまして、た、たぴ、たたたた、旅人様でしょ、しょうか!!」


 ド緊張するボーカルの女性に目が丸くなる。俺の聞き間違いじゃなければ、先ほど「たぴ」と言わなかっただろうか。極度の緊張から『たぴびと』と言わなかった事に凄いと思ったのだが、何故か足が生まれたての子鹿のように震えている。旅人って恐怖の対象なのだろうかと思いつつも、彼女たちになんと声をかければ良いのか悩んでしまった。彼女たちへと目線を向けると、何故か顔を真っ赤にして俺を見つめながら口をパクパクとあけたり閉じたりしている。どうやら恐怖から来るものではいないようで安心した。


「ライブ、お疲れ様。どうだった、この集落でのライブは?」


「は、はい!! と、とても、楽しめました」


「そうか、それはよかった。発表の後も祭りは続くから、目一杯楽しんでくれ」


「はい!!」


 彼女たちの元気ある返事を聞き、つい目の前のボーカルの女性の頭を撫でてしまった。その瞬間、ボーカルの女性は頭から湯気が出て「ピュピー」と言うと、そのまま後ろへと倒れていく。何か可愛らしいところがあって良いじゃないかと思ったが、頭を撫でただけで倒れるとは面白い子である。取り敢えず、このままにしておくのは可哀相なので旅館の一室で休ませる事にした。コートの胸ポケットから手帳を取り出し、その場で一筆をしたためる。内容は『宿手配について』であり、旅館の女将である「ラーマ」宛である。書いた内容を一度確認してから手帳から破り、ドラムを叩いていたドラゴン族の少女に声かけた。


「さて、そこのドラムを叩いていた子」


「ぁ、はい!! なんでしょうか?」


「これ、旅館の女将に渡せばタダで泊めてもらえる。発表の後に旅館で宴会も開かれるのでな、今夜はそこでゆっくり休んでくれ」


「は、はい!! ありがとうございます」


 ドラムの子が手紙を受け取ると、舞台の方から『では、この集落のダンジョンについて儂の主にして――』と言う声が聞こえた。どうやら、もう時間のようだ。仕方がなく俺は舞台へと続く階段へと体の向きを変え、彼女らに顔だけを向け微笑みながら言う。


「今夜の宴会で君たちの名前を教えてくれ。なに、宴会の席では皆が楽しめなきゃ損だからな。それと、あまり緊張しすぎると体に悪い。一度深呼吸をして、心を落ち着かせなさい。では、竜仙に呼ばれたので行ってくる」


 彼女たちにそう告げてから、舞台への階段を上がる。舞台の外では、皆の歓声が此方側まで聞こえる。それほど、皆がこの瞬間を待ちわびていたのだろう。なら、この集落の皆の為に発表するだけである。皆が心待ちしていた『ダンジョン開き』を、この祭りを楽しむ者たち全員に宣言する。階段を一段一段しっかりと踏みながら上るに連れて、会場の外からは皆の感性が響き渡る。皆、俺が来るのをまだか、まだかと待ちわびているのだろう。正直に言って、まさかダンジョン開きの宣言をこれ程待ちわびていたとは思いもしなかった。やはり、ダンジョンという夢とお宝に興味があるからなのだろう。そう思うと、俺は何故か笑みが溢れてしまった。なんせ、俺もまた彼らと同じなのだ。こうして旅人の職に殉じているとは言え、やはりダンジョンと言う『ロマン』に心躍らない方がおかしい。

 さて、階段を上り終え舞台へと上がると騒がしかった皆の声が一斉に静まり、皆が俺をジッと見つめている。その中には、この集落に第一番目に来た貴族の娘さんや、Sランク級の冒険者たちもいる。皆が皆、この瞬間を待っていたのだと目線だけで感じ取れる。彼らにとってダンジョンとはとても意味のあるモノなのだろう。冒険者なら誰しもが『ダンジョンの宝』を得るためにその命をかけ探索をし、貴族たちはダンジョンの宝を求め冒険者と取引をする。皆が皆、各々の思いの中、このダンジョンの宝を求めて来たのだ。


「旦那、よろしくお願い致します」


 竜仙の隣で立ち止まると、真剣な表情で竜仙からマイクを手渡される。まさか、この世界でマイクを手に持つ日が来ようとは思いもしなかった。


「あぁ、わかった」


 手に握るマイクを口元まで持っていくと、ざわめきが少しずつだが大きくなっていく。その中には「ようやくか」や「待ってたぜ、この瞬間を」などなど、皆の声が聞こえてくる。なので、手早く発表をする事にした。なんせ、ここで長々とダンジョンの構造などを話しても、皆の興奮が冷めてしまうに決まっている。


「長い間、待たせてしまって申し訳ない。我ら旅人と夢の女神アーシェと共に作り上げた新たなダンジョン。このダンジョンの調整に四年もかかってしまった。冒険者や貴族の方、それに商業人たちには長らく待たせてしまった。これについて謝罪をする。申し訳なかった」


 手に持っているマイクを下げ、皆へと向けて頭を下げた。その瞬間、ざわめきが止み一瞬にして静寂が会場内を包んだ。旅人である俺が頭を下げたことに驚いているらしく、皆が息を飲んでいるようだった。頭を上げ、マイクを口元の位置まで戻して彼らに告げる。


「この集落から始めよう。全ての終わりを覆すために、俺らはこの世界に舞い降りた。このダンジョンは、君たち冒険者に俺ら旅人が与える試練だ。是非とも、君たちに乗り越えてもらいたい。我らにとっては簡単すぎるダンジョンではあるが、皆にとっては重い試練だろう。だからこそ、俺は告げる。生きろ。そして、乗り越えろ!! 俺が与えるお前たちの試練だ!! そして、今、この時――」


 ゆっくりと深呼吸をしてから竜仙へとマイクを投げ渡し、この集落の全員が聞こえる程の声で叫んだ。


「試練のダンジョンの開放を宣言する!!」


 俺の最後の言葉を発した瞬間、会場にいる全ての者たちの歓声が集落に轟く。皆の歓声と共に、時計台の鐘が鳴り響いた。まるで、この瞬間を待ちわび祝福するような、とても綺麗な鐘の音が響き渡たるのだった。








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