19話 今後の方針
はい。遅れて申し訳ありませんでした!!
いや、サボっていたわけではないのですよ? なんか、納得いかないところを微調整してたら、結局この時間になってしまった。現在2016年7月7日の午前0時46分くらいかな。
あぁ、次回はもう少し早く書けるよう頑張ろう……
武道場に向かっている途中、中央広場にキャティさんが何故か嬉しそうに璃秋さんへ話しかけていた。そして、璃秋さんは困ったような表情をしながら聞いている。一体何があったのか気になり、キャティさんたちの元へ向かう。
「なるほど、夫婦とは何かですか。難しい質問ですね。私がこの目になる前は、お互いに支え合っておりましたな。一緒に生活していくにつれて、互いの嫌な面が見えて来ます。でも、それでも傍に居たいと思えたから長く続いたのかもしれませんね」
「なるほど。そ、そのですね。私たちも、そろそろ結婚しようと思っていまして、一緒の家に住む予定なのですが」
何やらキャティさんと璃秋さんが真剣に話をしている中、いつもならキャティさんと一緒に行動しているジュデッカ君の姿が無いことに気がつき周りを見渡すと、竜仙とミーアに話しかけられているジュデッカ君を発見した。何を話しているのか気になるものの、俺はダンジョンのある方向へと向かう。元々、中央広場に俺たちが作ったダンジョンが有り、ダンジョンがあることを分かりやすくする為に『赤い鳥居』が経っている。また、ダンジョンへと続く地下階段を覆い隠すように『レンガ造りの時計台』が建っている。このレンガ、物理及び魔術攻撃無効化の効果が付いており、あらゆる攻撃を無効化する素晴らしいレンガである。もちろん、このレンガはこの集落の防壁に使われている。さらに、この時計台の入口部分にある『キメラダイト性のドア』には特殊な鍵がかかっており、ドアを開けられるのは『俺、竜仙、ホムホム』の三人のみである。
さて時計台の前につき、ドアがちゃんと閉まっているか確認するためドアノブを掴み右に回しながら押した。ちゃんとドアは閉まっているようで、ドアが開閉することなかったので安心はしたものの、一応念のためにドアノブに『旅人のみが持つ力』を流し込む。すると、ドアの方から『ニャリーン』と言う奇怪な音が聞こえ、若干引きつつもゆっくりとドアノブを回しながら押す。すると、ゆっくりとドアが開き時計台の内部が見える。壁には灯篭が設置されており、正面奥にある壁には社が置かれている。部屋の大きさは、大人が十人くらい入れる程の広さである。部屋の中もとても綺麗で、階段の方から冷たい冷気が流れてくる。
「中は問題なさそうだな。よし、明日にはダンジョンを開けられるだろう。取り敢えず、ダンジョンに入るメンバーはアルテマさんに伝えた。後は、メンバーを招集して、最終試験の説明をすれば終わりだな」
時計台の中の確認を終えてドアを閉めると、ドアの鍵が締まる音が聞こえた。オートロック機能がついたドアだが、今度は意味不明な音は無く普通に鍵がかかったようだ。取り敢えず、俺は指を鳴らし腰に差しているハリセンを消し、いつものように武器を下げず無防備な状態にする。正直に言って、俺に武器はあまり必要ないのだ。拳で殴るだけで、大抵の魔物や人間が死んでしまう。だからこそ、俺の体には百以上のリミッターをかけているのだ。軽く月面に足を付けただけで月がスイカのようにパカッと割れたと言う悲しい経験があるため、百以上のリミッターをつけているわけだ。ちなみに、そうなったのは竜の因子を植えつけられた以降の話である。
「旦那? どうしたんだ、時計台の前でボーとして」
背後から竜仙の声が聞こえたので振り返ると、そこにはミーアと竜仙が立っていた。ジュデッカ君と話は終わったようで、俺に気がついたらしくこの場所に来たようだ。取り敢えず、時計台の確認をしてきただけであると伝えた。そろそろ、このダンジョンも開放する日が来たのだ。今日中にはダンジョンに潜入する者たちの発表をして、明日にはダンジョンに挑んでもらう予定だ。
「そうだ、旦那。無月隊長から旦那宛に手紙が来たぜ」
「無月隊長から!? まさか、異変が解決したのか?」
竜仙の右手に一枚の黒封筒が握られており、封筒の表面には白色の翼が描かれている。そして、いつものように封筒から鬼神の力が放たれている。竜仙の力ではない事は確かで、封筒を受け取り、すぐに裏面を見ると『桜の朱肉印』が押されていた。封筒の封を切り、封筒の中を確認する。そこには、一通の手紙が入っていた。毎度のことだが、手紙じゃなくて通信で話してくれても良いのではないだろうか。封筒から手紙を出すと、今回も二枚あるらしく一枚一枚直筆で書かれていた。いつもなら部下の教育や『秘書から逃げる』のに忙しく、パソコンで要件を済ませる隊長がまさかの直筆である。取り敢えず、手紙の内容が気になり、すぐに確認することにした。
『五十鈴、元気にしているか? 取り敢えず、他世界での異変はなんとか解決することが出来た。だが、あくまで異変の解決だ。他世界が負ったダメージが想像を絶し、エネルギー供給をしている「パイプライン」の全てが壊れた。そのせいで、多くの他世界に『生命を創り出す』ためのエネルギーを供給できなくなった。今は技術者たちを掻き集め、修復の方を全力で進めている。特にお前のいる世界のパイプラインは、現状を見てもほぼ絶望的な状態だ。今は急いで修復はしているが直るまでに、あと二ヶ月くらいかかる可能性がある。この手紙を読んでいる頃には、作業も半分位終わっているはずだ。だから、もう少しだけ我慢してくれ。パイプラインが直り次第、すぐにでも通信で報告をする』
隊長の手紙を読みながら、現在の状況について確認をする。どうやら、なんとか四年間で異変だけは解決できたようだ。起源の揺らぎによって、パイプラインが壊れる程のダメージを負わせるとは、この世界の狂い神は『完全体』に近づきつつあるのかもしれない。そう考えると、すぐにでも行動に移すべきだ。だが、修復が終わっていない現状で旅を始めるのは拙い。隊長から報告が来るまでの間に、ミーアたちの最終試験をするとしよう。
(隊長が異変解決に乗り出しても四年もかかるとは、それほど強大な存在なのか? だが、狂い神の力によってパイプラインが壊れるなど、今までの事を考えても前例にないぞ? それこそ『俺のような存在』なら有り得るのだが、俺が知る限り同じ存在は全て殺したはずだ)
そんな事を考えながら、二枚目を読み始めた。
『始祖から聞いたぞ。お前とボルト、夢の女神アーシェの協力により、試練のダンジョンを無事に完成させたようだな。まずは、おめでとう。これからのダンジョン探索など、お前の持つ知識が役立つだろ。今後も、その調子で頑張るように。それと、息子がお前に会いたがっているぞ。ダンジョンを完成させたと聞いて、こっちの世界にもダンジョンを作らないかって、毎日第二部隊長に提案をしているらしい。まぁ、アイツも結構乗り気みたいでな。新米の旅人たちへの試験として、帝に提案をしているところだ。そんで、まさかの帝までも乗り気になってな。そっちの仕事が終わったら、大忙しになるだろうな。だが、今回の一件はそう簡単に解決できんだろう。お前にしか出来ない仕事だとは言え、本来なら俺も手伝うべきだった。だが、そっちの世界では俺の顔がバレている。すまないが、竜仙と共にそちらの仕事を頼む』
「旦那、隊長からなんと」
「あぁ、読んでいる最中だが――うん。この一件が終われば、さらに忙しくなると書かれている。それと、隊長が手伝いたかったらしいが、この世界では顔バレしているらしく、手伝えなくて申し訳ないだってさ」
竜仙にそう伝え、最後の文面を読むことにした。
『最後に、終焉の始まりのことを覚えているか? 当時、お前のいる世界はかなり危機的な状況にあった。狂い神と神竜の目覚めと暴走。そして、殺したはずの『初代』の復活。多くのことが一度に起こり、世界が本当の意味で終焉に向かっていた。今は、もうそのような現状にはなっていないが、また同じ現象が起こらないとは限らない。だから、慎重に行動してくれ。旅人は、世界を正しい方向へと進めるのが仕事だ。ついでに、好きなだけ暴れて良いからな。その世界に住む者たちは、俺たち旅人の役目も理解している。ただし、暴走しすぎはダメだぞ? ほどよく、心をへし折るくらいにしておけ』
「ふむ、好きなだけ暴れて良いのか。まぁ、この集落の現状を考えてみても、うちの部下が暴れすぎたようだが。まぁ、良いか」
手紙を封筒にしまい、その場で指を鳴らし封筒を指輪の中へとしまう。この手紙を読む限り、パイプラインが直らなければ仕事に移ることができない。ならば、ここは最終試験について考えるとしよう。最終試験へと挑む五人へ、ダンジョン探索を行なってもらう予定だ。だが、出来たばっかりのダンジョンだ。その五人をダンジョンに挑んでいる最中に、予期せぬ自体が起こらないとも限らない。今回は、五人を監視する試験管が必要な気がする。
「無月隊長は、儂らのことをよく理解しておる。隊長からの許可も得たのだし、今後は好きなだけ暴れて良いってことだな」
「あぁ、確かにな。俺としては、遅かったと思うがな。お前と部下たちの頑張りで、集落が本格的に要塞化しているがな。俺は、あれほど「ハメを外すな」と言ったのに、防衛設備の自動化や警報設備までも完備。さらには、自動追尾弾すらも作ったよなぁ。言っておくが、俺はそこまでしろとは一度も言っていないがなぁ。はぁ、もう過ぎたことを一々突っついても仕方がない。さっさと、飯でも食いに行くか」
「あぁ、そうだな。ところで、旦那」
面白そうな物でも見ているのだろうか。満面の笑みで俺を見る竜仙に、俺は若干頬を引きつらせながら「なんだ」と答えると、俺の後ろを指差した。一体何なのかと思い後ろを振り向くと、そこには頬を膨らませながら俺の着ているコートの右脇あたりを掴んでいるミーアがいた。
「むぅぅぅううう」
不機嫌そうな声で唸るミーア。話に参加できず、ずっと蚊帳の外にいた事もあり、不機嫌そうに尻尾を左右に振っている。そんなミーアを見て苦笑しながらも、今朝は忙しすぎてミーアの姿――もとい、服装などをちゃんと見ていなかったことを思い出した。今日は俺とお揃いの白地のTシャツに、灰色のチノパンを着ている。今回は、ドラゴンの翼膜で作られたホムホムと同じ緑色のジャケットを羽織っている。そんなミーアが不機嫌そうに俺を見つめている。
「ごめんごめん。さて、昼飯にするか」
ミーアの方へと体を向けたくても、先ほどから強くコートを掴んでいるため向くことができない。なので、仕方がなくこのままの体勢でミーアの頭を撫でると、機嫌が良くなったようで目を細めた。嬉しそうな表情で「はい」と呟いた。まぁ、取り敢えずミーアが機嫌良くなったようなので、さっさと昼飯にするとしよう。
「さぁ、旅館へと戻るぞ」
気がつけば、ミーアはコートを掴んでいる手を離しており、手を後ろに組んで「エヘヘ」と微笑んでいた。俺が右手を差し伸ばすと嬉しそうに俺の手を握り、頬を赤く染めながら尻尾を忙しなく振っている。そんなミーアを連れて旅館の方向へと向きを変えて歩く――いや、歩こうとしたのだが、竜仙が俺の左肩を掴み静止した。いきなりだったので、竜仙の方へと顔を向けると真剣な表情で俺を見ている。何か、話したい内容でもあるのか向きを変えると、竜仙は右手に封筒を持っていた。それは、ミーアに届けさせた手紙である。ミーアが届けてくれた手紙には最終試験のことが書かれているため、竜仙には確実に伝わっているはずだ。手紙の内容には『今回は公正なジャッジをするためにも、俺は試験監督官になれない。なので、竜仙には負荷をかけることになるが、今回の件は竜仙に一任することにした』と、書かれている。なので、それについて質問があるのだろうと思い、体を向けた。すると、そのまま封筒を俺に向けて渡すので、首をかしげつつも受け取った。
「旦那、大体は解かった。仕事の依頼は受ける。だが、例の件はどうするんだ? 現状、この集落の警備状況はかなり発展している。それに、ゴーレム部隊も問題なく可動している状況で、儂らがいなくても問題ない状況にした。もう、この集落を出ても問題ないはずだ。だから、そろそろ儂たちも本腰を入れる時じゃないのか」
「あぁ、竜仙の言う通りなのだが。いや、まぁ、そう言うわけにもいかない理由があるんだ。詳しい話は、昼飯を食べ終えてからにしよう。あまり、大勢の前で話す内容でもないんでな。それに、午後からは最終試験の発表をせねばならない」
「了解した。では、飯を食いながらでも教えてくれ」
そして、俺たちは旅館に戻り自室に戻ると、昼飯が用意されていた。今日は『山菜の天ぷら』とイワナに形が似ている『セリウの塩焼き』に、美味そうな白米と味噌汁だった。昼飯を食べる前に、竜仙へ隊長からの手紙を渡した。その後、昼飯を食べながらミーアと他愛のない話をしていると、竜仙は「御馳走様でした」と言うと隊長からの手紙を読み始めた。最初は驚きの表情をしながら読んでいるが、次第に真剣な表情になっていく。そして、最後まで手紙を読み終えると、両腕を組みながら目を瞑った。どうやら考え事を始めたようで、何やら小さく頷きながら何か考えをまとめているようだ。そして、ミーアが食べ終えたところで目を開き、手紙を封筒に戻すともう一度封筒の表面を見てから俺に手紙を返し、その場で一度深い溜息を吐いてから話始めた。
「旦那、今後の方針はどうするのだろうか。この手紙を読む限り、まだ儂らが仕事に出るのは不可能だろうな。他世界の影響も心配だが、エネルギーラインの崩壊など、今までにないことが起こっている。そんな中、儂らの仕事を考えると、この集落でやるべきことはもう殆ど無いに等しい。だが、何故今更になってダンジョン開きの五人がアレなんだ
」
「あぁ、その件か。最初は、俺たちだけで行こうと考えていたが、ミーアがどうしても一緒に行きたいと言うのでな。今回の最終試験の結果次第で、同行を許可するつもりだ。その後は、各地にある狂い神の欠片を集める旅を始める。四年も行動できなかったことを考えても、そろそろ行動に移すべきだからな。隊長から連絡があり次第、旅を始める予定だ」
「了解だ。では、その方針で進めるとしよう。ミッちゃんも、やる気があるようだしな。解かった、儂も協力しよう。旦那の依頼、儂が引き受ける」
竜仙はそう言って立ち上がると、竜仙はミーアに渡した茶封筒を袖から取り出すとそのままミーアに手渡した。不思議そうな表情で俺の方を見るので、俺は何も言わず頷くとミーアは封筒から手紙を取り出し読み始めた。
『今回、最終試験として試練のダンジョンに五名ほど挑んでもらう。なので、竜仙には試験監督官とし、五名の探索者と共にダンジョンに潜入してもらいたい。現状の五名の実力を確認するのが目的だが、このダンジョンは二年しかまだ可動していない。何が起こるか分からないため、竜仙には状況に応じて行動をして欲しい。そのため、今回の試験では『ダンジョン地下五十階層の到達』で終了とする。だが、体力に余裕があり、地下五十一階層以降まで進行可能だと判断した場合、そのまま監視を進めて欲しい。そして、五名の実力を判断し、シャトゥルートゥ集落を任せられるかどうかを判断してもらいたい。そして、竜仙が危険だと判断した場合、すぐにでも彼らの戦闘行為を止めてでも逃げ帰ること。今回のダンジョンに挑む者は「ホムホム・ジュデッカ・キャティ・璃秋・ミーア」の計五名だ。ミーアは俺の妻という事もあり、俺では公正なジャッジができるとは思えないのでな。竜仙には迷惑をかけてしまうが、今回の試験監督官の仕事を引き受けてくれ。以上、よろしく頼む』
最後まで読み上げると、ミーアはポカーンと口を開けたまま俺を見つめた。実はミーアには「ダンジョンの試験を受ける者は五名だけ」だと説明しており、ミーアが挑むことだけは伏せていたのだ。それに、ライラのように俺のそばに居たいと言ったから、俺は一からミーアに技を教えてきたのだ。夫として、師匠として、ミーアがどこまで成長したのか、とても気になるのだ。俺たちと旅をするのなら、ある程度は力を付けなくてはならない。だからこそ、今回の最終試験にミーアを入れたわけだ。この最終試験の結果次第で、一緒に連れて行くかどうかが決まるのだ。アホの子になっているミーアに、苦笑しながらも優しく話しかけた。
「ミーア。今回の最終試験は、ミーアにとって一番重要な試練となるはずだ。この四年間、多くのことを経験し、技術を身につけた。この最終試験は、ミーアにとって今まで学んだ出来事すべてを発揮する集大成の場でもある。」
「集大成、ですか? が、頑張ります!! 最終試験、頑張ります」
興奮気味で『頑張る』を二回も言うミーアに、竜仙は黙って頷きながら目線だけは俺を向けていた。目を見れば大体解かるのだが、竜仙は「旦那、妻であるミーアにちゃんと言うように」と言っている。なんというか、俺がミーアの手綱を持てと言っているようで、何とも言えない気持ちになった。だが、ここは夫としてちゃんと注意はした方が良いのだろう。なので、ミーアに注意を含めて言う事にした。
「まぁ、張り切りすぎて怪我をしないように。それと、今回は手紙に書いてあるように五名で挑む。つまり、チームを組んでの試験となるわけだ。敵の行動を見極めるだけじゃない、味方との連携も重要になってくる。個性的な仲間と連携をし、どう勝利を掴んでいくのか。今のミーアに必要な――いや、今回の最終試験に挑む全員が経験せねばならないことだ。だからこそ、頑張るんだぞ」
「はい!! じゃ、ホムホム君たちを呼んできますね」
「あぁ、中央広場の時計台前に全員集合させてくれ。その後は皆で準備を整え、旅館に集合だ。ミーアを含む計五名は、今夜は旅館の別室にて泊まること」
そう告げると、ミーアは嬉しそうに微笑みながら「はい」と言う返事をして、そのまま部屋を出て行く。その後に続くように竜仙も「んじゃ、儂も準備をする」と言い残して部屋を出て行った。ミーアや竜仙と会話をしながら賑やかだった部屋が、一瞬にして静寂に変わってしまった。なんと言えば良いのだろうか。この状況を一言で表すと『寂しい』だろう。久しぶりに、寂しさを感じてしまったが、今はそんな事を考えている暇などない。今日には集落全員に報告と、ダンジョン開きの開催についての発表もせねばならない。
「あぁ、面倒くさい仕事だな。隊長はいつもこんな事をやっているのか。あぁ、本当に面倒だ」
そんな事を呟きながら、俺はミーアたちが挑むダンジョンについての情報を整理しなおすことにした。今回、ミーアたちが行くダンジョンは俺とボルト、そしてアーシェさんが協力して作り上げたダンジョンである。つまり、この世界にとってイレギュラーなダンジョンが完成したわけだ。そのダンジョンに、ミーアたちが挑むことになる。正直に言えば、何が起こるか解からないダンジョンにミーアたちを向かわせることが不安で、試験監督官として竜仙を同行させることにしたのだ。当初は、試験監督官などいらなかったのだが、ミーアたちに何かあったら大変なので急遽作り、竜仙にその大役を任せたのだ。
「竜仙なら、任せられる。だが、やはり俺が試験監督官をやるべきだろうか? いや、俺がやったら手緩くなる。ここは竜仙に任せるのが一番だ」
俺以外に誰もいない部屋で、独り言を呟く自分自身に何故か涙が込み上げてきた。寂しいとかではなく、今度はなんと言えば良いのか。うむ、虚しいとでも言えばしっくりくる。そんな事を思いながら、壁に掛けている赤いロングコートをジッと見つめる。あのコートは、俺の罪を表している。俺が今まで犯してきた罪の象徴であり、殺人鬼だった頃の俺を忘れないための戒めでもある。
「さて、そろそろ仕事に戻るか」
立ち上がり壁にかけられているコートに手を伸ばし、そのまま着るのではなく肩に掛けて部屋を出た。旅館の中では忙しなく従業員が働いており、部屋の片付けや掃除などを行なっている。そんな作業中の従業員の姿を見ながら、俺はこの集落のことを考える。俺はこの集落に来てから、部下たちと共にこの集落を復興するために尽力してきた。奴隷たちもこの集落を善き方向へと進めるために力を貸してくれた。犯罪奴隷達も、最初は反感を持っていたのだが、俺らの姿を見て次第に協力してくれるようになり、今ではこのような活気ある集落へと変貌した。その集落で、明日ダンジョン開きが始まるのだ。
「皆が、どんな反応をしてくれるのだろうか。取り敢えず、冒険者は喜ぶだろうな。今思えば、皆がダンジョン開きを楽しみにしていた事を思い出したわ。今日の午後に発表したら、一瞬にして祭りが始まるんじゃないだろうか」
そんな恐怖に駆られつつも、集落の中央広場へと向かう。集落が一気に盛り上がり、祭りを開くのは別に良いのだ。ただ、次の日が怖いのだ。正直に言おう、祭りが終わった次の日の朝、午前十時を回っても人が出てくる気配がなく、まるで廃墟のように静まり返えるのだ。誰一人として家から出ることなく、虫の音一つない静まり返った集落に恐怖したのは言うまでもない。そんな中で音を立てることなく、気配を消した状態で警備を行なうゴーレム部隊に背後から声を掛けられてみろ。普通に考えても、トラウマになるに決まっている。あれ以来、シャトゥルートゥ集落での祭りが起こるたびに、次の日に起こるあの風景が脳裏を過ぎるのだ。だからか、あまり大々的にダンジョン開きを宣言したくはない。
さて、しばらく歩いていると右側から璃秋の姿が見えた。相変わらず錫杖を手に持ちながら、地面を錫杖で突っつきながらゆっくりと歩いている。まだ、中央広場には着いていなかったのだが、先に璃秋に出会えたようだ。璃秋にも最終試練に受けてもらいたいので、話しかけることにした。
「璃秋。こんなところで何をしているんだ」
「おや、御館様では御座いませぬか。先程は御声がけできず、申し訳ありません」
頭を下げる璃秋に、俺は苦笑しながらも「いやいや、別に構わないさ」と答えた。なんせ、璃秋はキャティさんと会話中だったのだ。そんな時に俺が話しかけるのは、悪いと思って声をかけなかったのだ。それに、キャティさんが結婚を考えているのだ。やはり、そこは人生の先輩が答えるのが当たり前である。
「そうで御座いますか。私は今、気分転換に散歩しておりました。ところで、御館様も散歩ですなか」
「いや、これから最終試験の発表をする予定でな。中央広場に向かっているところで、離愁を見かけただけさ。そうだ、最終試験の一人がお前なのでな。一緒に来てくれないか」
「ほぉ、私が最終試験の一人で御座いますか。なるほど」
手元に持つ杖を肩に掛けると、嬉しそうにニヤリと笑う。今思えば、璃秋は青蓮の弟子だったことを思い出した。彼奴の戦闘狂が完全にうつっているような気がする。青蓮のことだから『修羅界で鍛えましたよ。アハハハハハハ』と――いや、言っていたわ。あの馬鹿のしたで鍛えられたのなら、こうなっても致し方がないだろう。
「血が騒ぎますなぁ。私がこの目になる前は、これでも有名な冒険者でしてな。多くのダンジョンに挑んでは、アイテム神像にある宝を手に妻の待つ家に持って帰っておりました。今じゃ、この目でございます。あぁ、とっても血が騒ぎますなぁ。まぁ、そのせいで『不殺』の肩書きも名乗れないのですがな。アハハハハハハ」
「そうか。まぁ、いずれは璃秋も『不殺』の名を語れる日が来るさ。何故、青蓮が不殺に拘るのか。その意味を理解したとき、きっと璃秋も強くなれるだろう」
「御館様がそう仰っしゃるのでしたら、そうなのでしょうな。私が『力を求めた理由』を忘れない限り、いずれきっと『不殺』の名を語れる日が来ると、青蓮様も仰っておりました。この試験もまた、不殺への修行の一つなのやもしれませんな」
「あぁ、きっとそうだろう。さて、そろそろ向かうとするか」
そして、俺は璃秋とともに集落の中央広場へと歩き出した。目が見えなくとも風を読んで隣を歩く璃秋に、経った三年でこれ程までの力を手に入れたのだ。璃秋は本当の意味で強くなれたのだろう。そう思うと、俺が選んだ五人は多くの経験をし、立ち向かう努力をした者たちだ。彼らなら、俺の出す最終試験もクリアーできるはずだ。この試験が、彼らにとって成長に繋がるかどうか。正直に言って、俺には解からない。だからこそ、俺は敢えてこの五人を選んだのだ。
(さて、ミーアたちなら乗り越えられるはずだ。力を求めた理由を理解しているのなら、きっと乗り越えられる。あのダンジョンは、普通のダンジョンとは違うのだから)
心の中で呟きながら、竜仙たちの待つ時計台へと向かうのだった。




