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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
19/90

18話 四年後

あぁ、また投稿が遅れてしまった orz

面白い小説が、多すぎるのがいけないんだ!! なろう小説が面白すぎて執筆が疎かになってしまった。

でも、頑張って書き続けるので、よろしくお願い致します!!

では、次話で会いましょう ノシ

 山の上にあるシャトゥルートゥ集落は、いつものように賑やかであった。鍛冶屋や調合屋、それに錬成所には今もなを、数多くの冒険者たちがやって来る。つい最近――と、言うより昨日だが無事にダンジョンが完成した事で、多くの冒険者が目を輝かせていた。だが、一般開放するのはもう少し後になる。まずは、今後のことも考えてミーアたちの最終試験を終えた後に一般開放をする予定である。その事を伝えると、皆が残念そうな表情をしていたが理解はしてくれた。今後、この集落に危機が訪れないためにも、ミーアたちの試験として難易度を少し高めに設定して作った。このダンジョンを無事に制覇できたとき、この集落を任せられる存在になっていることを期待している。

 さて、集落について話そう。あの件以来、この集落の発展は急速に進んだ。そのおかげか、この世界では最高峰の防衛能力を持った集落が完成してしまった。俺の手で『キメラゴーレム部隊』を作り上げたのだが、その結果この集落目当てに襲いに来た盗賊団たちが、キメラゴーレムの手によって捕獲され命を散らす結果となったわけだ。今でも、あの死刑執行装置は街のシンボルになっているが、盗賊が来る度に使用されているせいか治安がすこぶる良い。ダンジョン前に設置していたのだが、今は集落の西側にある『研究施設区』の中央に設置されている。


「ふぅ、もうあれから四年も経つのか。時が経つのも早いものだ」


 そう、もうかれこれ四年は経った。俺の部下たちは二年前に無月隊長からの退去命令を受け、元の世界へと帰っていった。部下たちが帰ることを知った者たちが、ここに住む住人全員に教え、最後には涙を流しながら見送った。あの時は、最後の別れと言う事もあり大宴会をしたが、あの時は良い思い出になった。そうそう、思い出といえば、ホムホムがティエさんと結婚したことだ。去年だが嬢ちゃんが遊びに来て、ティエさんとミーアを含めた三人で女子会を開き、最後に俺へ『ティエさんがホムホムと結婚する』と嬢ちゃんから話があった。なんでも、あの盗賊団の死刑執行をした次の日から、ホムホムがティエさんと特訓するようになり、気がつけば同じ部屋で過ごすことになって、その後結婚まで至ったわけだ。


「できちゃった婚とかなぁ。それに、まさかティエさんの親父さんが竜人族の王様だったとか、いろんな意味で驚きだったな。まぁ、ホムホムを見て気に入ってくれただけでも、ありがたかったかな」


 そんなことを思い出しながら、机の上に置かれた山のようにある資料を整理している。この四年間ずっと旅館で寝泊まりしているせいか、いつの間にか『欅の間』が『五十鈴様の寝室』に変わっていた。いつの間に変えたのか疑問だが、今回は深く追求するのは止めた。それに、毎日届けられる報告書と今後の集落の増員が考えられるため、住人の人から出される対策案などの資料をこうして確認せねばならない。


(はぁ、もう四年が経つんだな。無月隊長からの報告がないが、やはり被害が甚大なのだろうか)


 かれこれ四年は経過しているのだが、一向に現状の報告書が来る気配がない。それだけ、他の世界に悪影響を及ぼしているのだろう。そうなると、俺もこの集落のある場所から動くことができない。それに、俺がすべきことは去年で終わっている。なので、こうして資料整理と、集落の農作物生産数と炭鉱で取れる鉱物採取数の確認作業を行なっている。冒険者と言っても、今のところジェイクさんの率いる『赤翼の騎士』と言うギルドの連中だけだがな。意外にもジェイクさんところのギルドは中規模ギルドで、人員が五十名ほどいるらしい。その全員が、今この集落にいるわけだ。


「ぁ、この報告書。ジェイクさんからの武器強化依頼じゃないか。これは――あぁ、冒険者ランクAの方から、武器と防具の属性再付与申請書だな。そう言えば、俺の許可がないと出来なかったな」


 机の上に置かれた印鑑を手に取り、書類に印を押して許可箱に入れる。さて、次の資料に手を取ると、そこにはギルド本部についての許可申請が書かれていた。それを見て、ギルドの事を思い出す。そう、三年前にシャトゥルートゥ集落に総合ギルドが出来た。総合ギルドとは、四つのギルドが集合した巨大なギルド施設である。おもに『冒険者ギルド』、『商業ギルド』、『工房ギルド』、『医療ギルド』の計四つのギルドが一つに集まったギルド本部のことを『総合ギルド』と呼ぶのである。そのおかげで、俺と竜仙は冒険者ギルドのカードを作ることができたわけだ。ランクについての振り分けは、いずれ語ることにしよう。


「ふぅ、だいぶ集落の景気が回復したな。ギルド長とのダンジョンについての話し合いをすれば、俺の仕事は終わりだな。後は、ホムホムとジュデッカ君に引き継いで貰わないとな」


 手元にある資料の山を片付けながら、今日の予定を思い出すことにした。今日の予定は『ギルド長との会談』だけである。ギルド長に今回作成したダンジョンについての説明と、ギルドの人員確保の現状について確認をする予定だ。現在のシャトゥルートゥ集落支店の総合ギルドには、ギルド長を含めて計六名しかおらず、ギルド長と副長に各四つの部署に一人ずつ受付嬢がいるのだが、昨年から冒険者の来客人数が増え始め、ギルドの受付嬢が悲鳴をあげると言うより、愚痴が多くなったとのことで増やす事について相談しなくてはならないのだ。一様、俺はこの集落の運営を仕切っているのもあり、俺から出向く羽目になったのだ。


「よし、これで資料確認と整理は終わりかな」


 手に持っていた資料確認と書類整理を終え、机の上に置かれた緑茶の入った湯呑を手に持ち飲み始める。現在、旅館の一室で毎日届けられる書類を整理している。この旅館を領主邸にすることとなり、この俺が泊まっている一室は俺とミーアの部屋となっている。この四年もの間、俺と二竜皇はミーアとホムホム、ジュデッカ君にキャティさんを鍛えてきた。そして、六神将の青蓮は『ロイ・シュバルツ』と言う男性を鍛えたらしく、今は『璃秋(りしゅう)』と言う名を与えたらしい。修行を終えたロイ君に会ったのだが、第一印象が眠そうであった。体は栄養が足りないのか細く、手に持っている銀色の錫杖で体を支えているように見えた。だが、筋肉はそれなりにあるようで、合唱した際に腕の上腕二頭筋に立派な力こぶができていた。青蓮のもとで修行したおかげで、健康体になったのかもしれない。そして、いつも眠たそうな細目で微笑んでいた彼だが、目を開けた時の瞳の色に驚いてしまった。彼の目は灰色に染まっており、俺の姿が全く見えていなかった。だが、彼はまっすぐ俺の元へと歩いてきたのだ。多分だが、風を読んだのだろうと思い、深くは聞くことはしなかった。そんな彼は和尚が住んでいたお寺に住み、毎日決まった時間にお経を読んでいる。そう言えば、去年だが璃秋の元奥さんとお子さんが集落に訪れ、なんだかんだあって璃秋が再婚した。何があったのかは知らないが、詳しくは詮索しないでおこう。


「イスズ様。そろそろ、総合ギルドへ行きましょう」


 璃秋について考えていると、いつの間にかミーアが部屋の中に入っていた。気配消しがだいぶ上手くなったようで、考え事をしている間でもすぐに気づくことが出来なかった。それに、昨日結婚式を上げたばかりだと言うのに、未だに俺を様付けで呼んでいる。そろそろ『さん付け』とかでも良いような気がするのだが、まだしばらくの間は『様付け』だろう。さて、そんなことを考えつつも手に持っていた資料をまとめ終え、書類を入れるために後ろに置いてあるカバンを手にとった。ドラゴンの皮で造られた緑色の肩がけバックで、ボタン部分にはドラゴンの血が結晶のように固まった紅玉を使用している。そんな高価なバックの中に二十枚程資料を詰めていく。ミーアの言う通り、そろそろギルド長に会う約束の時間だ。ミーアは俺の傍まで来ると、先ほど書類を入れたカバンを手に取り肩に下げると俺へ向けて微笑んだ。少し恥ずかしそうな照れ隠しのような、そんな可愛らしい微笑みに俺も知らずうちに微笑んでいた。


「あぁ、そうだな。取り敢えず、ギルド長との会談を終えたら昼食にしよう」


「はい!! では、行きましょう」


 意気揚々と歩き出すミーアの後を追うように、壁に掛けている赤いロングコートを羽織り、玄関前に置かれているハリセンを腰に差してから旅館の客間から出た。旅館の廊下をしばらく歩いていると、ミーアが申し訳なさそうにロングコートへと目線を向けた。本来なら、灰色のコートを着ているのだが、諸事情で今手元にはない。何故かと言うと、灰色のコートは二年前にミーアとの実践を交えた戦闘訓練でボロボロになったので嬢ちゃんにコートを預けている。手を抜いていたとは言え、ミーアは竜仙とシータに鍛えられたのだ。手を抜いての戦闘で、まさかコートがボロボロになるとは驚きだ。


「その、あのコートってお気に入りだったんですよね」


「ん? あぁ、あれは旅人専用のコートじゃないから問題ない。まぁ、嬢ちゃんに修復を任せているから問題はないさ」


「そうですか。でも、始祖様に修復を依頼すると『とんでもないのが出来る』とリューちゃんから聞きましたが、どんなのが出来るのでしょうか」


 竜仙を『リューちゃん』と呼ぶのに、俺のことは『五十鈴様』である。この格差は一体何だろうか。俺のこともあだ名とかで呼んで欲し――いや、竜仙が怒るから五十鈴さんと呼んで欲しいものだ。さて、ミーアの言う通り、嬢ちゃんにコートの修復を任せているが、嬢ちゃんは『俺の装備品』になると暴走する。どう暴走するかと言うと、普通に直せば良いものを『魔力吸収』とか『触れた者は、必ず死ぬ』とか、変な付与効果をつけてくる。なので、出来れば何も付与効果しなくて良いから、普通に直して欲しいものだ。


「そうだな。出来れば、変な付与効果を付けないでくれれば良いのだが」


「そうですね。五十鈴様が作って下さった双鉄扇に、始祖様が『魔法攻撃強化 中』と『斬撃 毒』の効果を付けたらしいのですが、使ってみたのですがあまり実感がないのです」


「あぁ、嬢ちゃんの悪い癖だ。だが、その双鉄扇は鈍器として使用する以外にも、開いた状態で斬撃が可能だ。って、二年前に説明したか」


 そんな話をしながらギルドに向かっていると、旅館のロビーから冒険者たちが何かの会議をしていた。真剣な表情で会議をしているので話しかけるのも悪いと思い、俺たちはそのまま旅館から出る。広場のある方向へと向かっている間も、子どもたちの楽しそうに笑う声や、市場の活気ある声が聞こえる。集落に来る商人のおかげで、シャトゥルートゥ集落の景気も良くなり、遠くから来る冒険者や貴族などが観光に来るようになった。最初は犯罪奴隷が集落を歩いていることに驚いていたが、仕事風景などを見学しては「あれが、あの殺人鬼だと言うの!?」など驚いていた。まぁ、そんな活気のある市場を歩き、お寺の方向へと向かう。ギルド施設はお寺の近くにあり、依頼を受けるついでに安全祈願を祈る冒険者が増えているとか。なんでも、安全祈願の願掛けをしてから『上位魔物の討伐』に行った冒険者が、無傷で帰ってきたのが原因らしい。


「イスズ様、ありがとうございます」


「ん? 何がだ」


「そ、その。私の生まれ育った集落を、こうして生き返らせてくれたことです」


 頬を赤く染めながら言うミーアを見て、初めてこの世界に舞い降りた日のことを思い出した。ミーアに呼ばれ、この集落へと降り立ち観た光景は、戦争に巻き込まれたかのような廃墟と化していた。そんな集落を俺の部下たちは二ヶ月で元の状態に戻し、その後は敷地拡大と必要施設を二年の間に作り、現在は集落と言うより町に変わってしまった。本来なら『シャトゥルートゥ町』とでも名乗ったほうが良い気がするが、そこは各王国の王様らの会合で決まるらしく未だに『シャトゥルートゥ集落』となっている。


「あぁ、そうか。まぁ、俺の部下が調子に乗ってここまで集落が拡大してしまったが、集落がこうして活気が良くなれば、シャトゥルートゥ集落に住んでいた亡くなった者たちの弔いにもなる。さぁ、ギルドが見えてきたな」


「はい!!」


 嬉しそうに笑うミーアに、俺は集落を蘇らせて良かったと心の底から思えた。ギルドに向かう途中、犯罪奴隷だった者たちと派遣奴隷だった者たちが必死に建物を建築するのが見えた。俺に気がついて手を振る者もいれば、その場で深く頭を下げる者たちもいる。犯罪奴隷たちは立派に更生できたようで、今ではこの集落の一員として立派に働いている。

 しばらく歩いていると、大きな岩を彫っている女性が目に入った。岩を専用の彫刻刀で削り、誰かの石像を作っていた。取り敢えず、作業の邪魔をしないためにギルドの方へと歩いていると、とても印象深い狂気的な石像がギルド玄関を挟むように立っていた。その石像とは『ガーランド』である。何故か解らないが、狼のような鋭い目つきにダンディーなヒゲを生やし、ピチピチの燕尾服を来た人間姿のガーランドが『サイドリラックス』のポージングをしている石像が立っているのだ。そう言えば、奴隷や冒険者たちから、ガーランドを神と崇める者もいると聞いていた。確か『筋肉神』だったような気がするが、まさか完成度が高すぎるガーランドそっくりの石像が目の前にあることに、俺は口をあんぐりと開けた状態になってしまった。この石像は、昨日まではなかった。まさかとは思うが、あの彫刻掘りをしていた女性が作り、ギルド長たちが設置したのではなかろうか。あまりにもショッキングな光景に、気がつくとミーアへと顔を向けていた。それはミーアも同様だったらしく、俺と同じように口をあんぐりと開けた状態で見つめ合っていた。


「――ぃ、イスズ様」


「ミーア、言わなくていい。取り敢えず、ギルドに入ろう」


 俺はそう告げてから、ミーアの手を握り総合ギルドの中へと入った。部屋の中は活気が良いというより、とても煩かった。ギルド玄関から中に入ると、左右の壁側にテーブルと椅子が置かれ、防具や武器を腰に下げた冒険者たちが酒を飲みながら騒いでいる。いや、騒いでいると言うより自慢話をしているようだ。また、部屋の中央に配置されたカウンターにガタイの良い男性がおり、その男性の元へと商人や冒険者が集まっていた。


「おぅ、オメェら!! 一列に並んでくれ」


 男性がそう言うと、冒険者たちは一列に並び要件を男性に伝えると、その男性は書類を取り出しては部署ごとに捌いていく。その姿を見ていると、此方に気がついたらしく受付に来る冒険者たちを一時止め、俺のもとへと歩いてきた。実は、この男性こそこのギルドの支部長である「ジェイク・シャウト」である。どうやら本当に人が足らないようで、ジェイクの目は死んだ魚のような生気のない緑色の瞳だった。初めて会ったときは綺麗な水色のハーフショートヘアーが、今ではボサボサで見る影もない。顔立ちがよく、好青年だったジェイクが、今では目の下にクマを付けているのだ。どれだけ大変な思いをしてきたのか、ジェイクの顔を見ればすぐに分かってしまう。


「おぉ、イスズ様!! ようやく、着ていただけましたか」


 俺を見るやいなや、俺の手を掴み激しく上下に振る。ジェイクの目から涙が溢れているのは置いておくとして、俺が来るのを本気で心待ちしていたようだ。まぁ、今回はダンジョンの説明と従業員の件についての話し合いだ。だからこそ、ここまで興奮しているのだろう。俺が引くくらいに。


「と、取り敢えず!! 今、冒険者と商人を捌きますんで、二階の応接室でお待ちください」


 血走った目で俺を見つめるその迫力に、俺は頬を引きつらせながら「ぁ、あぁ。わかった」と言うと、ジェイクは嬉しそうに微笑み受付へと戻っていった。人間、切羽詰るとところまで行くと、ジェイクみたいになるのだと改めて実感した。今思えば、無月隊長の秘書である死神様も「あの人はどこに逃げたぁぁぁああ」と叫んでは、隊長を捕獲するために罠を仕込んで探しに行ったのを思い出す。だが、あれは怒り狂って捕獲するのに狂気じみたモノを仕込んでいたきがする。


「イスズ様、二階に行きましょう!! そして、会合をささっと終わらせて昼食にしましょう」


「あぁ、そうだな。まぁ、人員の確保に関しては早急に対応するべきだな。ギルドに何名必要とか、ギルド施設に必要な家具なんかも話し合う必要があるな」


「イスズ様が介入すると、ギルドの闇まで粛清しそうですね」


 ミーアが嬉しそうに言うのだが、俺が何故そこまで粛清せねばならないのだろうか。どちらかといえば、密かに乗り込みギルドの不正資料を見つけ出し、ギルド運営者を調きょ――いや、粛清して真っ当なギルド長に変えるだけだ。取り敢えず、五右衛門風呂とアイアンメイデンに三角木馬を用意して、徹底的に――いやいや、少し頭を冷やすとしよう。最近、罪人への更生指導をしていなかったせいで、少々悪い方の性格が出てしまったようだ。


「いやいや、俺はそんな粛清なんてしないさ」


「でも、調教はしますよね」


「うん――っは!?」


 ニヤニヤと微笑むミーアに、顔に手を当てて苦笑するしかなかった。

 さて、二階の階段を上り応接室と言う看板のついたドアの前にいる。部屋に入れば良いのに何故入らないかと言うと、もう大体の人が解かっているだろう。そう、鍵がかかっており部屋には入れないのだ。その為、今ミーアは副支部長を呼びに『副支部長室』へ向かわせている。その間、とても暇である。


「はぁ、やっぱり人の増員は考えといた方が良いな。こう言う事態を想定しても、去年にでも報告してくれれば良かったものを。資金が足りなかったなら、言えば俺の貯蓄を出してやったのに」


 そんなことを呟きながらも、このギルドに必要な人材について、面接なども考えると俺か竜仙が一緒に行えば問題はないはずだ。そんなことを考えていると、左側の方から足音が近づく音が聞こえた。顔を向けた先にはミーアともう二十代くらいの女性が、何やら話し合いをしながら此方へと向かって来る。腰まである長くて綺麗な銀髪に、琥珀色の綺麗な瞳の女性だ。顔立ちは凛々しく、目つきは狼のように鋭い。どう見ても、やり手のキャリアウーマンである。まぁ、服装がギルド専用の黒いスーツを着ているせいもあり、もうキャリアウーマンとしか見えない。


「イスズ様、遅れて申し訳ありません」


「いやいや、謝らなくて良いですよ。アルテマ副支部長」


「いえいえ、私どものために来て頂いだのです。それなのに、私どもの方が遅れてしまったのです。謝るのは当然でございます」


 何故だろう。このパターンは、どちらかが折れない限り続くような気がする。取り敢えず、このまま話が長引くのも嫌なので俺の方が折れようと思ったが、アルテマさんの方から折れたらしく「取り敢えず、詳しい話は中で」と言うと、応接室の鍵を開けアルテマさんは中へと入った。その後を追うように俺とミーアも続いて応接室の中へと入った。部屋の中には、二脚の長いソファーが向かい合うように配置されており、その間に木製のテーブルが一台置かれている。左側の壁には三本の長剣が飾られており、右側には暖炉がある。窓ガラスは正面の壁側にあり、太陽の光で部屋が明るい。


「奥の席へどうぞ。今、お茶を用意しますので、少々お待ちください」


 そう言うと、アルテマさんは応接室から出て行った。その姿を見届けつつも、俺たちはソファーに座りカバンから書類を何枚か取り出した。今回、ダンジョンについての説明書類と、ダンジョンの運営にともなる人件費増大の件を伝えなければならない。そうなると、さらにこのギルドの従業員が悲鳴をあげるだろう。


(はぁ、錬成所の連中を何人か臨時で貸し出すべきか。それとも、ギルド内でのネットワークで何人かギルド従業員を雇うべきか。どちらにしても、現状を考えても最低二十名は必須か。各ギルドに受付嬢を三名ずつ配置するとして、受付が二名には絶対に必要だろう。解体屋を作っておいて本当に良かったわ)


「イスズ様、この資料でよろしいのですか?」


 ミーアがテーブルの上に書類を五枚取り出し、目の前のテーブルの上に置いていく。ダンジョンやギルドなどが書かれた項目のみを取り出しているようで、今回の話し合いには不要な書類が一枚あったが、早いうちに終わらせておくのも良いだろう。そうなると、今日終わらせた書類も竜仙に渡すべきかもしれない。急ぎの内容はなかったとしても、明日届ける手間も省けるはずだ。それに、書類の他にも渡してもらいたい物もあるからな。


「あぁ、それで問題ない。あと、ミーアに頼みたいことがある」


「はい、なんでしょうか」


 コートの内ポケットから茶封筒を取り出し、封がしてあるかを確認してからミーアに渡した。不思議そうな表情で茶封筒を受け取ったミーアに説明した。


「竜仙のいる『武道場』に行って、カバンの中に入れてある他の資料を届けに行ってくれないか。あと、この封筒には『ミーア専用の防具』についての書類が入っている。一緒に旅をするのなら、いろいろと必要になるからな。すぐにでも、竜仙に渡して欲しい」


 専用防具と言う言葉を聞いて嬉しそうに微笑むと、ミーアはすぐに立ち上がり「分かりました」と一言を残し、カバンを肩に下げて応接室から出た。ミーアなら問題なく竜仙のもとに辿り着くとは思うが、念の為にコートの内側に施された魔術印に魔力を流し込んだ。このコートは『ミーアに何かあれば強制的に転移する』ように作られたコートだ。なので、すぐに駆けつけられるから安心して送り出せる。


「おや、ミーア様はどちらに」


 ミーアと入れ違うように、三個のティーカップと一本のポットが置かれたトレイを持ったアルテマさんが入ってきた。俺はミーアに頼んだことを説明すると、納得したようでトレイをテーブルの上に置いた。新品の白いカップとポットで、アルテマさんはポットを手に持ちカップに淹れていく。色や香りからしてアールグレイだとは思うが、液体はミルクティーのように白い。これは、紅茶の類ではないだろうか。そんな事を考えていると、アルテマさんは微笑みながら説明してくれた。


「ラティマーラの茶葉で作られた紅茶です。会議などに出される定番の紅茶ではありますが、リラックス効果がある紅茶です。ミルクを一緒にすると、より甘味が引き出されて美味しいのです」


 アルテマさんの説明を聞きながら、紅茶の入ったカップを手に取り飲む。ミルクの甘味とラティマーラの茶葉から出ているのだろう、アールグレイのような柑橘系の匂いによって安心感が生まれる。


「確かに、良い香りだ。さて、そろそろ本題に入ろうか。ギルド長は忙しそうだから、アルテマ副支部長に話すとしよう」


「了解しました」


 正面のソファーにアルテマさんが座るのを確認してから、俺はダンジョンについての説明をするために指を鳴らして模型を取り出す。このダンジョンについて説明するのなら、ダンジョンの構造の解かるもので説明するほうが、理解するのも早いのだ。アルテマさんは模型に目を輝かせながら、俺は今回のダンジョンに最初に潜入してもらう人を言う。


「今回、ミーア、ホムホム、ジュデッカ、キャティ、璃秋の計五名に、俺の作ったダンジョンに挑んでもらう予定です。ダンジョン自体は地下十階層までの短いダンジョンです」


「なるほど。それでしたら、まだ冒険者になったばかりの方でも挑戦ができますね」


「えぇ、あくまで通常ならばですがね」


 テーブルの上に置かれた書類の一つを取り、アルテマさんへと手渡した。資料にはダンジョンの大まかな構成が書かれており、ダンジョンコアについてなどが詳しく記載されている。最初は真剣に読んでいたアルテマさんも、内容を読んでいくにつれて目が輝いていく。多分、このダンジョンの売りの部分だろう。正直に言って、このダンジョンを作るのにかなり骨が折れた。なんせ、このダンジョンは『ランクによって行ける階層が決まる』のだ。


「このダンジョンは、地下一階から十階までに転移装置があります。また、下の改装に行くには『ダンジョンキー』が必要となります。転移装置を踏むことで、別の施設へと転移します。転移先はそこに記載されている『アイテム神像にある十段箱』の中に転移されます。簡単に言えば、挑戦者が小さくなり、箱の中にあるダンジョンを攻略するわけです。各箱の最下層にいるフロアボスを倒すことで、ダンジョンキーと転移装置が現れます」


「なるほど。地下一階で転移装置を踏み、アイテム神像にある箱の中へと転移される。そして、箱の最下層にいるフロアボスを倒すことで、ダンジョンキーと転移装置が現れ、元の地下一階へと戻る。その後、その鍵で地下二階への鍵が開かれる。その後は、先ほどのがループされ、最後の地下十階にて鍵を開くことでアイテム神像に到着する。なかなかに、面白いダンジョンですね」


「えぇ、その通りです。さらに、ダンジョンキーは最後のアイテム神像に置かれている『宝』を開ける鍵でもあります。このダンジョンは、一日に十人までしか入れません。それもチームとしての参加のみです。このダンジョンに入るには、ギルドカードのダンジョンの扉にかざさなければなりません。十一名以上になると、自動的に扉が閉じるようになっております」


説明をしている中、アルテマさんは資料に目を通しながらカップに手を取り紅茶を飲んだ。真剣な表情で書類と睨めっこするのを見つめながら紅茶を飲む。しばらくして、説明の続きを始める。


「そして、このダンジョンの特殊な点ですが。それは、挑戦者が力尽きた際『強制的にダンジョンから追い出される』と言うことです。このダンジョンには挑戦者の魂なんてものは要りませんからね。基本、ダンジョンの挑戦者が全滅及び戦闘不能になった場合に強制的に転移するように作られています。その後、一ヶ月間はこのダンジョンに入ることはできません。つまり、初心者でも死ぬ確率がグッと抑えられたダンジョンなわけです」


 話を聞くに連れて、アルテマさんが嬉しそうに微笑む。どうやら、好印象のようだ。そもそも、ダンジョンを作るのにはかなり苦労した。ボルトと俺が『夢の女神 アーシェ』を強制的に呼び出し、案を出し合いながらなんとか完成させたのだ。ちなみに、テストプレイはちゃんと行なったので、今のところ問題はない。


「そして、アイテム神像に到着すると十段箱が宝箱へと変わり、各々が手に持つ鍵で箱を開けるわけです。ちなみに、このダンジョンにはコアがあるのですが、それを抜き取ることはできません。その書類に書かれているように、壁に埋もれており砕かない限り取り出すことはできません。ただ、その代わりダンジョンの年数など関係なくレベルも固定化されます。アイテム神像の宝は、ダンジョンクリアー後に自動的に入れ替わりますので、永久的に使用可能です」


「なるほど。初心者にも優しいダンジョンではありますね。レベルも固定化されるのも中々良いですし、永久的に使用できるのはとても魅力的ですね。ですが、現在の人手ではダンジョンの管理も難しいです」


「えぇ、確かにその通りです。ですので、今回の総合ギルドの従業員についての増員について、現状どうなっているのかを聞きに来たのです。このギルド支店に対して、従業員が何名ほど必要なのか教えて頂けないでしょうか。金額面も含めて、我々が手伝いますので」


 そう言うと、アルテマさんはため息を吐くと肩を落とした。そこまで金銭的に余裕がないのだろうか。手に持っている資料をテーブルの上に置くと、一度深呼吸をしてから話し始めた。


「現状、人員不足は確かにそうです。ですが、イスズ様のような崇め奉られるべきお方にお金をお借りするなど、ギルドとしてではなく私個人として末代の恥さらしになってしまいます」


「いやいや、そこまで考えなくても。俺を崇め奉るなんて、別にそこまで大ごとにしなくても」


「いいえ、それが普通なのです!! 旅人様は、この世界を救ったお方であり、我々ギルドの創設者でもあります。このギルドもそうですが、我々ギルドに所属する全員が貴方様を崇め奉っているのです。なので、お金を借りるなど我々はできません」


 真剣な表情で語るアルテマさんに、若干引きながらも俺が折れることになった。ここまで我々旅人のことを想ってくれている事に、そこまで嫌な気はしないが若干怖い。まぁ、隊長がこの世界に関わった時点で何かしら嫌な予感はしていたのだが、ここまでとは予想できなかった。


「ま、まぁ、取り敢えず、だ。人員増加の件については、俺も手伝うから気軽に相談してくれ」


「はい、ありがとうございます。一様、ギルド本部から何名かこの集落に来るはずなので、問題はないかと思います。では、そろそろギルド長と交代しなくてはならないので、私はこれで」


「あぁ、俺もそろそろダンジョンの発表をする予定だ。では、これで」


 こうして結局ギルド長と話し合うことはなく、応接室を出るとギルド長が目の前におり「すいません、私もう無理」と言う一言を残し、応接室の中へと入りソファーの上で仮眠を取った。その姿をみながら、俺は「早く人員が増えれば良いのだが」と呟きつつも、俺はミーアたちの待つ武道場へと向かうのだった。


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