17話 執行
こんばんわ。もうタイトルが思い浮かばない私です。
さて、後5話くらいかな?
そのくらいで、第一章は終わりです。取り敢えず、第二章の事も考えつつ引き続き書いていこうと思います。
では、私はこのへんで。次話で会いましょう ノシ
集落広場へと着くと、そこには部下によって集められた冒険者や奴隷たちがいた。これから何が行なわれるのか解からないまま集められたようで、先ほどから冒険者や奴隷達がざわめいている。その方向へと向かうに連れて、彼らのざわめく声が大きくなる。そんななか、俺たちは部下たちによって設置されたガラスの牢屋へと向かう。初めて牢屋を見るのだが、何故か形が『巨大な三角すい』だった。三角すいの頂点部分には、何故か紅い球体が浮いている。あれが一体何なのかとても気になるのだが、そんな牢屋と言うべきか悩むモノの中にいる罪人たちを見つめるキャティさんとジュデッカ君がいた。それにしても、まさかダンジョンがあった場所の前に立てるとは予想外であった。この牢屋、後でどうするのか気にはなるが、その件は後にする。
「どうやら、嬢ちゃんたちもいるようだな」
「そのようだな。それにしても、無事にジュデッカ君が目を覚ましたようだな。あのまま、死んでしまうような事がなくて安心した。後で、医療班にジュデッカ君の診察を頼むとしよう」
その場で指を鳴らし、一枚の紙とボールペンを取り出し診察許可書を書く。歩きながら書いているせいで少し書き終わるのに時間をかけすぎたが、無事に書き終え龍仙に手渡した。
「確かに受け取った。では、儂が部下に頼んでおく。取り敢えず、まずは真実を話さなければな」
「あぁ、そうだな」
そう言って、俺は集まっている方へと歩くのだが、どうしてもジュデッカ君の容態が気になるため、二人の事をもう一度確認するべく顔を向けた。旅館で寝ている間は髪をおろしていたキャティさんだが、今はポニーテール状に髪を結んでいる。今思えば、二人の見た目なんて気にしていなかった事を思い出し、キャティさんたちの姿を再度確認する。キャティさんは白いワンピースを着ており、緑色のハイヒールを履いている。ツインテールにしている金髪は風に揺れ、青い瞳はジッと在任たちの姿を見ている。顔立ちは、まだ幼さは残るものの優しそうな目をしている。だが、キャティさんが義盗賊の話をするときは、やはり頭の娘とでも言うべきか、とてもキリッとした目つきになったのを思い出す。
そして、ジュデッカ君だ。当初、体中傷だらけでボロボロだった服は、部下たちが用意したのだろう。今は真新しい黒いシャツと焦げ茶色のチノパンを着ており、その上に緑色のコートを羽織っている。ハーフショートの黒髪は先ほどまで寝ていたためか、ボサボサになっており、牢屋を見つめる綺麗なルビーのような紅い瞳には、どこか生気を感じられなかった。罪悪感とでも言うのだろうか、ジュデッカ君の小さな背中には背負いきれない程の重みを背負ってしまい、どうすれば良いのか解らず苦しんでいるように感じた。
「竜仙」
竜仙へと顔を向けると、俺と同じことを思っていたのか黙って頷いた。
「旦那。儂が皆に説明するので、キャティたちはお任せします」
「すまない。では、またあとで」
竜仙に報告を任せ、罪人のいる牢屋の方へと向かう。牢屋までもう少しのところで立ち止まり、竜仙たちのことが気になり顔を向ける。現在、部下たちが用意をしたのであろうホワイトボードに先ほど作成した紙を貼り、今回の一件について説明を始めているところだった。説明を聞いた者たちは、今回の集落に起きたことや囚われた理由を知り、泣き出すものや怒りを抑えるために歯を食いしばる者などがいた。
「イスズ様」
キャティさんの声が聞こえ振り返ると、此方へと体を向ける二人の姿があった。ジュデッカ君は俯きながら涙を流し、その涙が地面へと流れ落としていた。自身が犯した罪の重さを理解しているのか、それとも義盗賊の頭が死んでいた事を聞かされたのか。どちらにしても、涙を流し続けるジュデッカ君の背中を優しくさするキャティさんを見て、きっと大丈夫だろうと結論づけた。キャティさんが傍にいる限り、きっとその重みに耐えられるはずだ。だから、俺は何も言わず牢屋の方へと目線を向けた。まだ、目が覚めていないらしく、牢屋の中で全員仰向け状態で倒れている。これは、キャティさんが確認するためだろう。そこの配慮を欠かせない我が部下に対して、俺は「貼り付けでよかったのでは」と思ってしまったのは内緒にしておこう。もう一度、二人の方へと目線を戻すと、二人とも俺へと体の向きを変えており、キャティさんは真剣な表情で口を開いた。
「イスズ様。この度は、私とジュデッカ君を救って頂き、ありがとうございます」
深く頭を下げるキャティさんに、ジュデッカ君は何も言わず頭を下げた。本来なら、なにか言葉の一つや二つは発するのだが、今のジュデッカ君の精神状態では言葉を発することができないのだろう。だからか、キャティさんはジュデッカくんの代わりに話を続けた。
「イスズ様が『伝説のお方の部下』であるとはつゆ知らず、あのような態度をとってしまい申し訳ありません。そして、ミーアさんの大切な方々を奪ってしまった罪を、私たちは償いたいと考えております」
「そうか。ミーアには、その事を伝えたのか」
キャティさんは俺の問に対して「はい」との一言を告げると、ジュデッカ君は俺へと目線を向け流れる涙を拭うと、その場でゆっくりと深呼吸をした。心の整理のために行なったようだが、まだ彼の手は震えている。それでも彼は覚悟を決めたのか、ゆっくりとだが話し始めた。
「イスズ、様。私は、多くの罪を犯してしまいました。私は、この集落の住人を巻き込んでしまった。雄竜が私を守ろうと雌竜を止めようとしたのを、私はただ呆然と見ていることしかできませんでした。私が、シャトゥルートゥ集落に行かなければ、このような悲惨なことにはならなかった」
溢れ出す涙を拭いながら必死に声を出して話すジュデッカ君に、俺は何も言わずただ彼の頭に手を乗せ優しく撫でた。今はただ、こうしてあげることで心の重荷を少しでも和らげる必要があると感じたからだ。嗚咽を出しながらも、声を出して泣き続けるジュデッカ君を見つめ、撫でている手を離し両腕を組んだ。これから、二人に集落と義盗賊に起こった事について説明しなければならない。だが、それを聞く覚悟があるのか、確かめなければならない。だからこそ、俺は敢えて二人に問いかける事にした。
「今、集落襲撃の件について竜仙が説明している。そして、お前たちにも教えなければならない。お前たちには、知る権利がある。知りたくないのなら、聞かなくても良い。だが、知りたいのなら覚悟が必要だ」
「覚悟、ですか」
キャティさんはジッと俺を見つめ答える。だが、その目には迷いのようなものが有り、とても深い闇の底を見ているようだった。その目を見たことで、また嫌な記憶が蘇りかけたのだが、歯を食いしばり表情に出さずに黙って頷いてから話の続きを始める。
「そうだ。真実を知る覚悟だ。生半可な覚悟で、これから語る真実を知ってもらいたくない。それに真実を知れば、君たちは正常な考えが出来ないかもしれない。そして、間違いなく君たちは復讐をしにこの集落を出る。だが、俺はそれを望んではいない。復讐を果たした先にあるのは、虚しさだけだからな。だからこそ、二人が間違った道に進んで欲しくはない。だから、約束をしてくれ。真実を知ったとしても復讐なんて事を考えず、今回の件に関わらないと。それが出来ないうちは、語ることはできない」
俺の話を聞き終えると、二人は互いに顔を見つめ合い急に相談を始めた。何の相談を始めたのか、大体は検討がつく。俺が語る真実に対して、聞くべきなのか相談しているのだろう。二人が平常心を保てるのか心配ではあるが、先ほど見た二人の目を見て問題ないと思った。だからこそ、二人の返答をジッと待ち続ける。
(何故だろう、な。彼らを見ていると、幼少期のボルトとベラーダの事を思い出す。彼奴ら、いつも俺の話を聞くときは必ず二人で相談していたな。だからだろうか、どうしてもこの二人が気になってしまう。だが、きっと二人なら乗り越えられる。ボルトたちと同じように、幾多の試練を乗り越えて、きっと二人が一緒なら、必ずな)
久しぶりにボルトとベラーダの事を思い出していると、キャティさんたちの相談が終わったらしく、お互いに頷いてから「分かりました」と俺へと告げた。その目には、もう迷いを振り払った『覚悟を決めた』者たちが見せる目をしていた。その覚悟を受け取り、俺は集落が何故襲われなければならなかったのか。義盗賊の頭を殺した理由について、手に入れた資料をもとに導かれた真実を話す。集落襲撃の本当の理由を聞くに連れて、先ほどまで真剣な表情が崩れ、キャティさんは口元を両手で抑え、ジュデッカ君は両手を強く握りながら必死に耐え続けていた。そんな姿を見つめながらも、説明を終えるまで耐えられるか疑問に思いつつ話を続ける。
「――と、言うわけだ。これが、義盗賊アルテシアの内部崩壊とシャトゥルートゥ集落に起きた事件のすべてだ」
すべてを話し終えると、キャティさんは俯きながら牢屋方へと向かい、牢屋の目の前に立つと罪人たちの方へと顔を上げる。その眼差しは、怒りが篭っているような気がした。ジュデッカ君など、空いた口が塞がらない状態である。今回、ジュデッカ君たちにだけこの件に関わった貴族たちの家名を教えた。上げていった貴族の家名を告げる中で、ジュデッカ君だけが『アストリア家』と言う名を聞いた瞬間、ほんの僅かではあるが顳かみが動き奥歯を噛み締めていた。ジュデッカ君にとってアストリア家になにか因縁でもあるのか解らないが、ジュデッカ君にとって思い出したくない事なのかもしれない。
「さて、キャティさん。牢屋の中にいる罪人――いや、盗賊に顔見知りや仲間はいるだろうか」
「――いえ、見当たりません。もしかしたら、私を逃がす際に私の知り合いは全滅したのかもしれません。リューセン様の部下の方に、お母様の遺体と私を逃がしてくれた部下の遺体を回収して欲しいと伝えております」
牢屋を見ていたキャティさんの手が、いつの間にかジュデッカ君の手を握っていた。すると、ジュデッカ君も牢屋の方へと体の向きを変え罪人たちを見る。キャティさんの手を握り返しながらジッと見つめているのだが、急に何かに気がついたのかジュデッカ君は俺の方へと顔だけを向けた。驚きのあまり目を見開き、口は半開きの状態である罪人へと指差していた。
「イスズ様!! な、何故、アストリア家の暗部たちが此処に居るのです!!」
「ん? どう言うことだ!! 説明しろ」
「はい。牢屋にいる盗賊団の全員は、アストリア家の影の部隊です。アストリア家はバルト王国の暗部として、王国を救っておりました。アストリア家は裏の世界に精通しており、暗殺の他にも死刑執行人なども平気でやります。その中でも、暗部は暗殺や裏工作などを生業にしている部隊です」
ジュデッカ君からの話を聞き、今後の方針が確定してしまった。このままでは、アストリア家の暗部たちが襲いに来る可能性がある。それも、俺がこの集落を去る日に必ず襲いに来るはずだ。そうなれば、この集落に住む事になる奴隷たちや冒険者がどうなるか運命は決まってしまう。
「なるほど。なら、もう答えは出た。この集落に住む者達を守るためにも、我ら旅人が作り上げた英知をもとにして、世界最強の人型ゴーレム集団を作り上げるとしよう。フフフ、久しぶりに楽しめそうだ」
「「ひ、人型のゴ、ゴゴ、ゴーレム」」
「あぁ、その通りだ。それと、この集落に住む者たち全員を鍛えなくてはならない。我が部下たちに、伝えておくか」
部下たちへの指示も決まった所で、竜仙とミーアが此方へと向かってきた。そろそろ、刑の執行をする時間のようだ。牢屋にいる罪人の刑は後にして、まずはガーランドが連れてきた罪人の刑を始めなければならない。竜仙たちが俺の前で立ち止まると、ミーアはキャティさんたちの方へと体を向ける。真実を知ったことが原因なのだろう、先ほどから足が震えている。必死に怒りを抑えているのだろうと判断し、俺は竜仙へ二人に説明を終えたこととジュデッカ君からの情報を伝えた。ミーアにも聞こえるように説明したので、さらに怒りを増幅させた可能性がある。だが、それでもミーアは歯を食いしばり耐えている。その目はキャティさんたちにではなく、牢屋の中で気を失っている罪人たちへと向けられている。だが、それはミーアだけではなくキャティさんやジュデッカ君も同様だった。アストリア家に因縁でもあるのか、ジュデッカ君からは怒りではなく憎しみが込められているような気がした。
一、二分ほど経っただろうか、ミーアはその場で深呼吸をして心を落ち着かせると、真剣な表情で改めてキャティさんとジュデッカ君へと体を向けた。それに釣られてか、キャティさんたちもミーアの方へと体の向きを変えた。ミーアは一度口を開いたがすぐに閉じ、強く拳を握りしめながら覚悟を決め話し始めた。
「キャティさん、ジュデッカさんに対しての罰は、この集落を守ることです」
「「ぇ!?」」
「それが、貴方がたが償う罰です。どんな事があろうと、貴方がたの命に代えても守ること。それが、私から貴方がたに与える罰です」
キャティさんたちへの罰を伝え終え荷が下りたのか、先ほどまで強く握っていた拳を解き、俺の方へと顔を向けて「これで良いですよね」と微笑みながら言った。ミーアにとって、この集落は大切な故郷であり、命に代えてでも護ることをキャティさんたちへの罰にしたのだろう。その罰に対して、異議を出すかのようにキャティさんではなくジュデッカ君が驚きながら質問してきた。
「私は、ミーアさんの集落に来たせいで、集落はドラゴンに襲われ大勢の人が亡くなった。これだけでも大罪を犯せば王国ならば死刑は確定します。それなのに、何故、私に生きて罪を償う機会を与えるのですか?」
ジュデッカ君にとって、生きて罪を償う意味が解らないようだ。ミーアだって本当ならその手でジュデッカ君を殺したいと思っているだろう。でも、理解しているのだ。ジュデッカ君を殺したとしても、大切な人たちが帰ってくるはずが無いことを。だからこそ、生きて償う道を与えたのだ。その方が、より苦しいのだから。
「確かに、私は貴方を殺したいと思っています。貴方がドラゴンの卵を割り、この集落に逃げて来たせいで皆が死んでしまった。でも、貴方を殺しても大切な人が生き返ることはない。だから、私は生きて償って欲しいんです。この集落は新しく生まれ変わるけど、私だけではこの集落を守る事はできない。だから、貴方たちがこの集落を守るの。それが、貴方がたに相応しい罪の償いかたです」
ミーアはジュデッカ君へ説明すると、まだ納得は出来ていないような表情をしていた。だから、俺がジュデッカ君へと説明する事にした。
「ジュデッカ君」
「は、はい!! なんでしょう、イスズ様」
「死ぬってのは、償う方法としては簡単だ。だが、それは逃げることでもある。自分では償いきれない罪を、死んで償うなんて楽な道を選んではならない。生きている限り、生きて償うべきなんだ」
旅人になる前の俺には、死んで償う道だけしかなかった。そんな俺が言うのも可笑しな話だが、だからこそジュデッカ君に言えることがあるのだ。俺には出来なかった償い方を、ジュデッカ君は出来るのだ。だから、俺はその事を思いながら話を続ける。
「君たちが犯してしまった罪は、今の君たちにとって確かに重い罪だ。だが――だからこそ、今君たちには生きて償うべきだ。例え、今死んだとしても、その苦しみは永遠に続く。後悔というものに心つぶれ、死んだことへの後悔ばかりがその心を埋め尽くす。だからこそ、今はこの罪を生きて償いなさい。寿命で死ぬ瞬間まで、精一杯生き続け償い続けたとき、きっと解かるはずだよ」
「生きて、償い続ける」
ジュデッカ君はその言葉を呟き俯くと、その状態で深呼吸をしゆっくりと顔を上げた。覚悟を決めた時と同じ表情になり、黙ってその場でお辞儀をすると「分かりました」の一言を告げた。ジュデッカ君は、生きて償う道を選んだのだ。それは、キャティさんも同様のようで、しっかりとジュデッカ君の手を強く握りお辞儀をする。その姿を見て、ミーアは黙って頷くと次の裁くべき相手の方へと向きを変えた。その方向には牢屋があり、罪人の方へと右人差し指で指差し睨みつけながら言う。
「彼らに与える罰は――」
その次の言葉を言おうとしたが、その言葉を告げるべきなのか悩んでいた。彼女が決めたことなのだ。だから、俺たちは黙ってジッとミーアが下す『判決』を待つ。そして、ミーアは覚悟を決め、牢屋にいる罪人へと告げた一言にキャティさんは黙って頷いた。
「死刑、です。この集落と同じように他の集落を襲い、多くの人を殺した者たちです。その人たちの恨みを、苦しみを、彼らは償わなければならない、です。だから、最も残酷的な死が、相応しいと、思います。それに――」
ミーアは怒りに満ちた表情で罪人たちへと向けて言う。
「彼らが生きている限り、私のように苦しむ人が沢山作られてしまいます。今、ここで彼らを止める――いえ、殺さなければならない、です。だから、私は彼らに死を与え、彼らを操る者達を、手を貸す貴族たちを、それを黙認する王たちを、私は許さない。彼らが犯した罪に相応しき罰を、私は与えたい」
その一言一言に、強い信念と覚悟が伝わってきた。ミーアは、本気で怒っているのだ。彼らを操る者たちや、今回の件に加担した貴族たち――そして、王たちを決して許さない。そんな気持ちがキャティさんにも伝わったようで、黙って頷くと罪人の方へと体の向きを変える。そして、ジュデッカ君はミーアに向けて話し始めた。
「そう、ですね。彼らに相応しい罰だと思います。彼らは暗部ではありますが、善人をも殺す人たちです。僕の両親を殺した此奴らには、相応しい罰です。それに、僕は父さん達を騙した貴族たちを許せない。罠にはめた彼奴らに、相応しき罰を与えたい」
ジュデッカ君の目から感じ取れた憎しみの感情は、彼らに両親を殺されたことが原因なのだろう。まぁ、ジュデッカ君の過去についてはいずれ聞くことのしてだ、彼らへの死刑を行なうことにしよう。ただ、俺が行なうよりも早く、牢屋の上に浮いている球体から無数の手が出現し、そのままガラスへと張り付いた。手のついた部分から何やら赤い霧上のものが牢屋の中に流れ込むと、罪人どもが目を覚まし、急にもがき苦しみ始めた。一体何が起こっているか気になり、竜仙へ向けて話しかけた。
「あれは一体何だ? あの赤い球体から出た手も気になるが、あの赤い霧はなんだ?」
「あぁ、あれか。あれは、魔力を奪う霧だ。儂ら旅人や部下にとっては、まったく意味をなさない霧だが、この世界の住人にとっては『魔力を失う』と言うことは『死』を意味するようでな。つまり『魔力=生命力』と言うわけだ。盗賊団のアジトでガーランドがこの霧と同じ効果を持つ技を放ったのだが、戦闘し捕獲した罪人がこの集落に到着した時点で心肺停止していた。すぐに蘇生処置を施して蘇生したんで、取り敢えず牢屋の中に入れている。その結果から、魔力を根こそぎ奪い続ければ死ぬと言うことが分かってな。だから、こうして魔力を奪い続けているわけでさぁ。ちなみに、その吸収した魔力は今後の集落の電気ラインに使われる予定だ。無駄のない、クリーンな使い方だ。まぁ、酷い殺し方には変わらないがな」
竜仙の説明を聞き、俺は「まだ、この集落の防衛を強化するつもりなのか」と呟き、頭を抱えてしまった。我が部下の考えで、罪人どもの魔力は有効活用されると思うと、なおさら不憫に思ってしまう。多分、最終的には魂までも電気ラインとして使われるのではないだろうか。そんなことを思いつつ、竜仙へとジト目を向けため息を吐いた。周りを見ると罪人たちの最後を見届けようと、冒険者たちも牢屋の前まで近づいていた。その為、なるべく彼らに聞こえないような声で龍仙に話す。
「ハァ、なるほど。奪った魔力の有効活用か。電気はどうやって通すのかなど、ちゃんと報告書に記載しとけよ。後、ダンジョンがあった場所は再利用するから、立ち入り禁止の立札を立ててくれ。さて、電気ラインなどの件は置いといて。それにしても、確かに酷い殺し方だな。魔力を徐々に奪われ、苦しみながら死期を待つだけか。なんだか可哀想にも思えるが、此奴らのせいで集落の住人は殺された。それを考えても、これが相応しいのかもな。俺が手を下す必要もなかった」
腰に差している妖刀の鞘を軽く握り、牢屋の中で苦しみもがき続ける罪人たちを見届ける。首を掻きむしる者や、目を見開きながら喉を抑える者など、様々な光景が広がっている。地獄絵図と言うのは、こう言うものなのだろう。ミーアたちにはあまり見せ続けたくはない光景なのだが、三人とも動こうとはせずジッとその光景を真剣な表情で見つめている。ミーアにはこの光景がどう映っているのだろうか。集落の住人の悲鳴を思い出しているのか。それとも、罪人どもの最後を見届けるために無理をしているのだろうか。ただ、黙って見つめるミーアを見つめていると、俺の方へと体の向きを変えた。
「イスズ様」
ミーアが話しかけてきた事で、この場にいる全員が俺へと体の向きを変えた。ミーアが俺の名を呼んだことで、すべての視線が俺へと集中している。竜仙やキャティさんたちなら解かるのだが、この場にいる冒険者たちや奴隷達までも俺を見ているのだ。何とも言えない空気の中、ミーアは俺に向けて強い意志の篭った一言を告げた。
「私、強くなりたいです」
ミーアは、竜仙やシータから武術と魔術を学んでいるはずだ。それだけでも、より強くなれるのだが、何故か俺へとその決意を告げた。俺は竜仙へと顔を向けたのだが、何故か嬉しそうに微笑みながら頷いていた。どうやら、竜仙がミーアに何かを吹き込んだようだ。
「どうして、強くなりたいんだ?」
「もう、二度と私のような存在を作らないためにです。イスズ様、私にイスズ様の技を教えてください!!」
急にミーアから俺の技を教わりたいと言う宣言に、一瞬だが思考が停止してしまった。竜仙は俺の技を知らない。隊長達を除いてただ一人だけ――シータだけが、俺の技を受け継いだため知っている。つまり、二竜皇の二人がミーアにカミングアウトしたようだ。俺の技のほとんどは、どんな敵に対しても『即死』を与える技ばかりである。そんな危ない技を、ミーアは学びたいと言ったのだ。そんな宣言をされたせいで、俺の頭が一瞬フリーズし、思考が停止したわけである。
「――はぁ!? な、お、俺の技を、か?」
「はい!! そして、私もライラさんと同じように、イスズ様の傍にいられる存在になりたいんです。お願いします!!」
ミーアが頭を下げると、この場にいる俺や牢屋の中にいる罪人たち以外の全員が頭を下げた。何故か分からないが、俺の部下たちまでも頭を下げている。ドッキリにかかった気分にはなるものの、彼ら全員が強くなりたいと願っているのか俺には分からない。だが、このような状態だと断るに断りきれない。これが日本人としての性なのだろうか、どうやって断るべきか悩んでしまう。だが、顔を上げたひとりひとりが、決意を決めたような強い瞳で此方を見ているのだ。彼らの決意に対して、断ること自体が失礼なのではと言う思いが生まれてしまった。そして、最後のトドメがミーアである。目を潤ませながら「ダメですか?」と言うのだ。もう、こうなると完全に俺の方が折れるしかない。なので、ため息をついてから諦め口調で告げた。
「はぁ、わかった。ただし、ミーアにだけ俺の技を教える。それ以外に、強くなりたい奴は竜仙たちに学べ!! それで妥協してくれ、良いな!!」
『はい!! イスズ様』
皆が一斉に俺の名を叫んだので、その場で深いため息を吐いてしまった。これからの事を考えると確かに必要なことなのだが、面倒事が増えるのだけは勘弁して欲しかった。何故なら、この集落の全員を指導する場所がないのだ。その為、また、竜仙たちの暴走を駆り立てる結果となるのは目に見えていた。それの尻拭いなどを考えると、本当に面倒くさい。
「あぁ、泣けるわ」
こうして、シャトゥルートゥ集落ドラゴン襲撃の件は終わりを告げた。まさかの集落に住むことになった者たちの教育や指導を部下たちが行ない、俺はミーアに武術を教えることとなった。この件が解決してからと言うもの、集落は日々進化し続けた。俺はミーアの指導をしながら、シャトゥルートゥ集落専用の人型ゴーレム部隊とダンジョンの作製を行なった。最初はいろいろと問題が増えて大変だったが、今ではミーアの成長に喜びを感じている。その間も多くの盗賊団が攻めてきたが、集落の住人の手で全員返り討ちにすると言う異様な光景も見てきた。正直に言って、やりすぎた感があり、竜仙と共に頭を悩ませることになったのは言うまでもなかった。
そして、あの出来事から四年が経ち、現在は――




