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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
17/90

16話 情報整理

一週間以内に投稿できて、私は嬉しいです。

でも、もっと早く投稿できるよう、頑張らなければ orz


2016年6月13日(月):誤字修正+文面ちょっとだけ修正

          誤『闇市馬』⇒正『闇市場』

 旅館の自室にて、ボルトの部隊から持ち帰ってきた資料を読んでいた。木製のテーブルの上にはジャックが整理した資料があり、今回の襲撃の本当の目的を知るために資料に目を通していた。そこには、この集落をどう襲うかについての細かな内容が書かれていた。その中でも、この集落を襲う目的に『道具のダンジョン』が含まれていた。だが、キャティさんから『バルト王国への鉱石輸出の妨害』と聞いていたが、それ以外にもあったようだ。特に、この集落に道具のダンジョンがあることを知り得た理由が解からない。なんせ、この集落に住んでいた者たちですら知らなかったのだ。それを、どうやって知り得たのか。そこが問題である。


「この資料を読む限り、どうもシャトゥルートゥ集落のみを狙っていたようには思えない。旦那、この資料には『バルト王国とサルトディエ王国の戦争』と書かれています」


 竜仙から渡された資料を受け取り、書かれている内容を読む。そこには、バルト王国とサルトディエ王国の戦争について書かれていた。確か、サルトディエ王国は魔王が統括している魔族の王国だ。三百年前にあった、バルト王国とサルトディエ王国の戦争。そして、邪神が目を覚ました事で戦争が止まり、現在まで何事もなく平和になったわけだ。それなのに、また戦争を起こそうとしているらしく、この資料には多くの計画が書かれていた。他にも、この計画に賛同した者たちや協力資金を提供した者などの名前が書かれていた。そこには、自身の娘や息子を生贄に捧げても良いなどが書かれており、怒りのあまり資料を持つ手が強く握ってしまった。


(自身の子どもを、道具としか思えていないのだろうか。読んでいて、これほど胸糞悪いものは久しぶりだ)


 読んでいるだけで怒りが込み上げてくるのだが、その気持ちを抑えつつ手に持つ資料を読んでいると、気になるワードが書かれた資料を見つけ黙読する。そこには『闇市場について』が書かれていた。闇市場――いや、闇市とは穏やかではないのだが、内容を読む限り奴隷による人身売買の内容は書かれていなかった。基本、闇市と言えばこのような世界では奴隷や盗品の販売などが有名なのだが、この資料には多くの『曰く付きの武器』を販売する内容が書かれていた。それ以外に、その曰く付きの武器の製法までも書かれていた。そこには、魔物以外に『人間の生き血』や『汚れた魂』を使う内容が書かれているのだ。そして、その下には『シャトゥルートゥ集落』の名が書かれており、住民の拉致方法や死体となった人間の魂を回収する方法について記載されていた。だが、最後の箇所に「本作戦は、バラルドラゴンの予想以上の猛攻により集落は全損し、住民は全滅したと考えられる。また、我々への追尾により、住民の拉致及び魂回収は失敗。この結果、本作戦は失敗と判断された」と書かれていた。


「竜仙、この資料を見ろ!! もしや、今回の襲撃の『本当の目的』はこれだったのではないか」


 手に持っている資料を竜仙に渡し、闇市の項目を指差した。その項目を竜仙は黙って読んでいると、おもむろに竜仙は床に置いていた資料をテーブルの上に置き指差した。そこには、ガーランドから報告にあったキャティさんの父親『アラド・ランド・ファルティシア』に関する記述があった。その内容を見る限り、目を背けたくなるような内容が書かれていた。


「集落を壊滅させるために、死体を利用し集落を襲わせる。その死体が、キャティさんの父親だったわけか。母親の死体も回収する手はずだったようだが、キャティさんとジュデッカ君のおかげで、死体を発見されることもなく済んだ。確か、今ボルトの部下たちが遺体を回収しに行っているのだったな」


「えぇ、その通りです。旦那、これからの事を考えても、この組織を潰すべきなのではないだろうか。旦那の能力があれば、ここからでも罪人を殺せる。今が、その時なのではないか」


 竜仙が真剣な表情で言うのだが、俺は首を横に振る。本来なら、このような罪人に対して問答無用で能力を使用し殺すのだが、実は事情があり能力を使用することができないのだ。その事情と言うのが「狂い神の件」である。目覚め始めているとは言え、まだ他の世界に起きている異変解決が終わっていない。その事については、この資料を整理する前に伝えているので問題はない。なので、竜仙の提案は最もなのだが、それが出来ないでいるもどかしさにとても悔しい思いなのだ。取り敢えず、今は別の方法を考えているので問題はないだろう。なんせ、これ程の物証が手元にあるのだ。殺すよりも、社会的に殺した方が良いだろう。ただ、そのせいで無関係の者まで公開処刑にされる可能性もありえる。なので、この件は慎重に行なわなければならない。

 俺はどう説明するべきなのか悩んでいると、竜仙は異変のことを思い出したのか「あぁ、そう言うわけか」と呟くと、一人で納得したように黙って頷いた。なので、この話は終わりにして資料の内容を一度整理するために、テーブルの上に置かれている付箋を手に取り、今回の背景を付箋に断片的に書き、居間に広げられた大きい紙へと顔を向ける。畳四枚ほどある紙に、この付箋を貼っていく。付箋を貼る前に今回の件についての要点、目的などを書いて貼っていく。そして、出来上がったものを壁近くに置かれたホバー機能付きのホワイトボードに貼り付け、竜仙とともにそれを見つめながら考えをまとめ始めた。また、ホワイトボードにはマジックペンが備え付けており、色は『赤・青・黄色・緑・紫・橙・黒』の七色である。


「さて、つまり今回の事件を纏めるとだ。キャティさんの話では、シャトゥルートゥ集落の襲撃は、バルト王国への鉱石の輸出を止めると言う名目で行なわれた。だが、実際は実験の為に集落を襲撃し、そこに住む集落の住民全員の拉致及び死体となった住民の魂を回収するつもりだった。そして、おまけとして『道具のダンジョン』を手に入れるつもりでいた。そこまで良いな、竜仙」


「あぁ、そこまでは間違いないだろうな。でだ、その実験をするために『義盗賊アルテシア』の頭である『アラド・ランド・ファルティシア』を殺害し、作戦を成功させるために死体を利用し、人形として操りアジトに潜入。その後、死体の妻であるキャティさんの母親を殺害。そして、義盗賊を内部崩壊させた。てなわけだな、旦那」


「あぁ、そうだろうな。特に、アジトに囚われていた者たちは、曰く付きの武器を作製するための材料にする予定だった可能性がある。そして、その資金提供をした貴族の情報も此処にある。本来なら、外部の手に渡るのを恐れ、魔法による証拠隠滅を図りたかったようだが、我が部下の力でその機能を無効化したわけだ」


 この襲撃事件をまとめるに連れて、俺はミーアと初めて出会ったときに見た『あの映像』に対する矛盾点が気になり、この場でもう一度あの映像を見直すことにした。今回は竜仙にも見せたかったので、モニターにその映像を映し出した。そこには、二匹のドラゴン同士が戦っている風景と、その攻撃の飛び火で集落に住む者たちの死ぬ光景が写っている。


「旦那、その映像は集落襲撃時の映像か?」


「あぁ、その通りだ。この映像を見てくれ。どう見ても、ドラゴン同士の戦っている風景にしか見えない。だが、ホムホムから聞いた話では、ジュデッカがドラゴンの卵を割ったことで、集落に逃げたジュデッカ君を追い、ジュデッカ君を燻り出すために集落を襲ったと言っていた。この映像に写っている集落から逃げようとしている者が、正しくジュデッカ君本人だろう。そして、その後を追うのが今回捕獲した罪人だろうな。さて、ここまでは良い。矛盾点は特に見当たらない。だが、聞いた話ではドラゴンは夫婦で、卵を割ったジュデッカ君を追いかけ、集落に隠れたジュデッカ君たちを殺すために、集落の住民を襲ったと聞いている。そうなると、この映像に矛盾が生じる。何故、ドラゴン同士が戦闘をするのだ? 彼らは夫婦のはずだ。夫婦同士が殺し合うなど、まず有り得ないだろう」


「確かに、旦那の言う通りだな。もし、この映像やホムホムが言っている事が本当だとすると、このドラゴンに対して『夫婦』と認識していること自体が間違っているのかもしれん。もし、ドラゴンが三体いたとしたら納得はできるのだが、死体は愚か痕跡のようなものすら発見することが出来なかった。それに、この映像に映っているドラゴンだが、あそこに並んでいた死体とはどう見ても大きさが違いすぎる」


 竜泉の言った通り、この映像に映っているドラゴンと死体として発見したドラゴンとは全く大きさが違う。だが、ホムホムは確かに『集落を襲った』と言っていた。何故、このような矛盾が生じたのか、正直に言って解からない。もしも、ジュデッカ君を追っていたドラゴンが『別の集落』を襲ったのならこの矛盾も解決する。だが、部下からの報告を受けた際、この集落以外に被害を受けたような場所は発見できなかったと報告を受けている。つまり、ドラゴンの襲撃についての矛盾を解決しなくてはならない。


「竜仙。ドラゴンの死体についていた傷跡から、他のドラゴンの皮膚片など何か情報はないか。この矛盾を解決しなければ、ミーアにこの集落襲撃事件の真相が説明できない。彼女には知る権利が有り、今回捕獲した罪人をどうするか。それも、彼女に決める権利がある」


「――あぁ、旦那の言う通りだ。俺たちが罪人の未来を決める権利はない。どちらにしろ、俺たちは部外者。決めるのは、ミーアだけですな。んで、両ドラゴンの件ですが、科捜研の結果が届きましてな。どうやら両ドラゴンの傷口から微量ではありますが、互いの血液が付着していたようでなぁ。つまり、あの二匹が争いあった事は明確なですが、この映像を見る限り姿形が全く違う。この世界のドラゴン事情が解かれば、この矛盾も解決できそうなのだが」


「ハァ。この世界のドラゴン事情、か。この世界に来るまで、アリアからの資料を見ていたのだが、ドラゴンの姿が変化するような内容は書かれていなかった。どうして、ドラゴンが姿を変えるのか。それが解かる者と言えば――ハァ。そうなると、彼奴に頼むしかないか」


 本来なら今の時間で呼びたくはないのだが、今はすぐにでも情報が欲しいのだ。なので、仕方がなく指を鳴らし、映像を消し通話画面へと変えた。今回はとある方に通信をするために、通話画面に切り替えた。通話の相手については、俺の部下である『青蓮(しょうれん)』である。彼は古くから竜を育てる事を生業にしている一族の者だ。特に竜を育成するのが趣味で、寺の仕事の中に『竜の餌作り』などを含ませる程の『竜好き』である。今の時間は夜中の二十一時を回ったところで、そろそろ青蓮がお経を読む時間だった気もするが、少しだけ時間を借りるとしよう。


『おや、御館様では御座いませぬか。このような時間に、如何なされたか?』


 まだ画面は暗く、映像が反映されていない。だが、画面の方からは、竜仙より少し低めではあるが男性の『ハスキーボイス』が聞こえた。返答をしようとすると、ようやく画面に映像が写り青蓮の姿が映る。そこには白髪の男性が経典を両手に持った状態で写っていた。前髪は目を隠す程の長さがあり、右目だけ見えるように切られている。キリッとした目つきをしているが、先ほどまで仕事だったのだろう。少々疲れているのか、こげ茶色の瞳から生気をあまり感じられなかった。そして、住職と言う仕事ゆえに今日も袈裟を着ており、経典を持つ左手には数珠を持っていた。


「疲れているところ、すまない。青蓮の知識が必要でな、助けてくれないか」


『ほぉ、私めでよろしければ。御館様が助けを求めると言うことは、竜絡みでは御座いませぬか?』


「あぁ、その通りだ。青蓮に、この写真と映像を見てもらいたい」


 俺はそう言って、写真と映像を青蓮へと添付送信した。すぐにデータが届いたようで、青蓮は添付された写真と映像を開き、それを見てか目を細めた。


『これは――あまり、良いものでは御座いませぬな』


 映像を観ながら言う声は、どこか悲しそうな重たい声だった。


「あぁ、そうだな。要件を言うとだ、俺が知りたいのは写真と映像に映っているドラゴンが、同一なのかが知りたい。現状、死体はこの集落のために使われ、確認のしようがない」


『なるほど、そうで御座いましたか。えぇ、この竜の遺体――いえ、素材とでも言うべきか。そちらは、私の方にも届いております。今朝でございますが、カトゥルから『二匹の竜の心臓』を受け取りました。すぐに調べた結果、両竜には『限界突破』と『体型変化』をした痕跡があり、その負荷によって心臓が一時停止し、そのまま息を引き取ったと考えられます。この映像を見る限り、体型変化後によるものでしょう』


 青蓮からの報告を竜仙がすぐにメモを取り、俺は青蓮の話の内容を最後まで聞く。


『元々、竜の全てとは言い切れませぬが。竜の種類に応じて『体型を変化させる竜』と『限界突破による肉質変化が可能な竜』が存在します。その世界についてでございますが、先ほどの二つを可能とする竜が存在するようですなぁ』


「それが、あの二匹のドラゴンだと?」


『さよう。また、この映像を見る限りですが、雌竜――あぁ、映像で言うと、右側の集落に向けて火炎を放っている竜でございますが、雄竜の精神を操ろうとしておりますな。この映像を観ますと、精神操作を行なう際、精神支配の他にも身体に負う傷の痛みを共有する『感覚共有』も行なわれております。さらに、そんな状態にも関わらず、無理をして『体型変化』と『限界突破』まで使用されている。この状態では、最終的には心肺が完全に停止するのも道理でございます』


 青蓮は落ち着いた声で、映像を観て解かった内容を聞いた。だが、ドラゴンにそのような力があるなど知らなかった。ドラゴンは長命であり、魔力量はかなり多い方だと聞いている。だが、その程度で心肺停止が起こるなど信じられない。


『まぁ、竜にも得意不得意がありますからな。四重に体質や精神の魔術を発動したこともありますが、怒りという感情により極度の興奮状態だったのでしょう。この状態ならば、確実に心肺停止するのも仕方がないと思われます。心臓が止まる瞬間に効果が一斉に切れ、多大な負荷がかかり、元の姿に戻ったのと同時に停止し、そのまま地面に落下した。そう考えられますな』


「そうか。青蓮、ありがとう」


『いえいえ、御館様の役に立てれば本望でございます』


 青蓮は深く頭を下げお辞儀をするのを見て、聞くべき内容は聴き終えたので通話を切るはずだった。竜仙のその一言がなければ、間違いなく通話を切っていた。


「青蓮。こっちの世界の住人が、お前のところに居ると言う情報があるのだが。まさかと思うが、いないよな?」


『あぁ、彼のことですか。えぇ、居りますよ』


「やはりか。儂へ報告なしに連れて行くとは、どういうことだ」


 珍しく不機嫌そうな表情で言う竜仙を見てか、青蓮は面白いものでも見ているように歯を剥き出しにしなが笑っている。そう言えば、竜仙と青蓮は同い年で、小さい頃からの悪友だと聞いたことがある。それ故か、俺の目の前でも上司部下関係なく、至って普通に呼び捨てで答えた。


『申し訳ありませぬなぁ。本来ならば、竜仙にお伝えするべきだったが、シータ様が此方に参られ、あの者の面倒を頼まれましてな。てっきり、シータ様がお伝えしたものだと勘違いしておりました』


「またかぁぁぁあああああああああああああ」


 頭を抑えながら叫ぶ竜仙の姿を見て、青蓮が腹を抱えて笑っている。仕事中とは言え、部下が上司に対して呼び捨てと言うのは如何なものだろうか。ここは、上司として叱るべきなのだが、なんだか楽しそうなので叱るのは止めた。竜仙のこう言った一面が見られるのは、青蓮やボルトがいる時のみなのだ。だが、そろそろ『俺』か『儂』か、一人称を統一して欲しい。


「まぁ、竜仙はお前の上司だから、今後はちゃんと竜仙に報告するんだぞ」


『了解いたしました。竜仙、もう一つ報告がある』


「ぁ? 一体なんだ」


 不機嫌な表情で答える竜仙に対し、先ほどまで笑っていた青蓮は真剣な表情になった。その表情を見てか、竜仙も不機嫌な表情から真剣な表情へと戻り、俺と竜仙は青蓮からの報告を待つ。


『実は、他世界の影響が予想以上に酷いそうで。駆り出されている旅人様では足りず、我々のような部下も駆り出されております。狂い神による「起源の揺らぎ」が原因で、それほど多くはありませぬが――百ほど、世界が消滅いたしました。他世界が受けたダメージも相当なものだったらしく、いずれ滅ぶ可能性のある世界が千を超えたとのこと。現時点では、異変を解決するのに最低でも十年以上はかかるとのこと。現在、御館様の上司の指示で、我らの部下が対応しております。そこで、どうか我ら六神将も旅人様がたのお手伝いをしたいと思うております。御館様と二竜皇の御命令一つで、我らはすぐにでも行動に移せます。如何、致しましょうか』


 青蓮の報告を聞き、一瞬だが回答に困ってしまった。まさか、そこまで被害が甚大だとは予想していなかったからだ。起源の揺らぎについては、俺や部下たちが一番理解している。何故なら、実際に体験してきたからだ。部下たちも行動していると聞けば、もう俺がどう指示を出すべきかは決まったようなものだ。


「そうか。お前たちも無月隊長の指示に従い、すぐにでも行動に移してくれ。ただし、なにか有り次第、すぐに無月隊長や卯月副隊長に報告をすること。また、こちらの世界に関わるような内容が出た場合、俺への報告も頼む」


『御意。では、私はこれにて』


 青蓮の通話が切れ、目の前の画面が真っ暗になった。それを確認してから指を鳴らし画面を消し、ホワイトボードに貼られた紙へと青蓮からの報告を付箋に書き貼り付ける。そして、今回の事件について最終確認をした。


「最後の確認だ。竜仙、今回の件についてまとめあげよう」


「了解だ、旦那。んじゃ、儂が項目を書いていくから貼られた付箋を分けてくれ」


 そう言うと、竜仙はホワイトボードに備え付けられたマジックペンを手に取り、二つの項目を書いていく。項目は『集落襲撃の理由』と『義盗賊』と書かれ、貼られている付箋を取り外し、項目ごとに貼り分けていく。全てを貼り分け終えてから、最終確認を始める。


「シャトゥルートゥ集落は、二匹のドラゴンによって滅ぼされた。だが、これは犯人を炙りだすために行なわれた。案の定、ジュデッカ君は釣られ、集落の外へと逃げ出した。その後を追ったドラゴンたちに対し、集落の住人はミーアを残して全滅。そして、四重にかけた体型変化や精神操作により、極度の興奮状態に陥っていたせいで心肺停止になり二匹ともジュデッカ君を追う途中で力尽き死亡した。では、シャトゥルートゥ集落が襲われた原因について。これは、二つの理由がある。一つは『バルト王国への鉱石輸出の妨害』だ。これにより、バラド王国の鉱石製品の製造を遅らせ、攻め込む算段だったと考えられる。また、それによって二つ目の理由である『バルト王国とサルトディエ王国の戦争』を起こすつもりだったのだろう。だから、シャトゥルートゥ集落を消す必要があった。竜仙、シャトゥルートゥ集落の件については以上だ。次は義盗賊についてまとめよう」


「あぁ、そうだな。では、義盗賊については儂がまとめよう。義盗賊の頭である『アラド・ランド・ファルティシア』は、ガーランドから『五ヶ月前』に亡くなっていた可能性があると報告を受けている。何故、アラドが死ななければならないか。その理由は、闇市による『曰く付きの武器を作る』ためだ。生きた人間の血や魂を用いて、曰く付きの武器を作るために無関係の集落を襲った。だが、ジュデッカのミス――いや、ミスするように妨害したと言うべきだな。それにより、ドラゴンはジュデッカを追った。そして、ドラゴンによる集落の襲撃に便乗して、何人か連れ去る手はずだった。だが、それは失敗に終わった」


 竜仙は振袖の中から赤ボールペンを取り出し、付箋の間に矢印をつけて行く。一つ一つ情報を整理しながら、正しい答えを導き出していく。


「そして、死体となったアラドを操っていた罪人。ガーランドと同じ混血種である可能性があると、こちらもガーランドから報告を受けている。そして、罪人はアラドの死体を操り、キャティの目の前で奥さんを殺害。殺害の理由は、曰く付きの武器の作製ではなく、アラドと同様に操り人形にするつもりだったのだろうな。だが、キャティによって死体は埋葬されたため、アラドのような人形になることを阻止した。って、わけだな」


「あぁ、それであっているだろう。また、囚われていた冒険者や他の集落で生き残った住民たちは、武器作りとして殺される予定だった可能性がある。この原因は、間違いなくシャトゥルートゥ集落の住民の拉致に失敗したのが原因だろう。だが、俺たちが来たことにより計画は全て崩れ去ったわけだ。さて、今回の件はこれで以上だろう。竜仙、これより罪人への罰を与える準備を行なう。竜仙、集落の住人を広場に集めてくれ」


「了解した。旦那、罪状はどうする」


 このファンタジーの世界で『罪状』を決めることになるとは、正直に言って思いもしていなかった。だが、こうして物証が揃った以上、裁くしかないのだ。罪状についてはもう答えは出ている。


「まぁ、この世界で罪状なんていらないと思うがな。罪状は『殺人罪』及び『死体遺棄』と『拉致監禁』だ。さらに『婦女暴行』もセットで良いだろう。後は『強盗致死傷罪』が適用されるかどうかだな。まぁ、子どもを拉致し、それを人質にして暴力行為をしたと言う場合もあれば――と、言うか。コレだけあれば、確実に死刑確定だがな」


「なるほど。では、今回はどのような死刑を執行するか、だな」


 竜仙から死刑執行の話が出たのだが、どうするかはもう決めている。ここまで酷いことをしてきたのだ。それ相応の苦しみを与えるのが道理ではないだろうか。ただ、どちらにしても『地獄』に落ちるのはかわりないことだ。ならば、地獄と同じ苦しみを与えることが重要だ。


「それは、もう決めている。だが、どれにしようか悩んでいる。竜仙は『釜茹で』と『切腹』か。どちらが良いだろうか」


「そうだな。儂なら回復魔法をかけながら、じわりじわりと切腹での痛みを与え続け、最後に首を切り落とすだろうな」


「なるほどな。いや、やはり今回はミーアに決断してもらうか。あの罪人どもが犯した罪に対し、己が犯してきた罪の重さを理解させ、最後にミーアに決めてもらう。それで良いな」


 竜仙に同意を求めるように声をかけると、竜仙は黙って頷き今回の件をミーアに一人することに同意してくれた。そして、俺はホワイトボードに書かれている内容を見直し、罪人どもが犯してきた罪を確認し、強く拳を握り締める。これから行なうは、罪人の死刑執行である。今来ている灰色のコートを脱ぎ、指を鳴らし灰色のコートをしまい、鮮血のような鮮やかな紅いコートを取り出し着替えた。


「旦那、ライラから預かった刀をお返しいたします」


 コートを着替え終えたのを確認してから、竜仙は二本の刀を俺に手渡した。一つは黒い鞘に納められた打刀だ。卍の唾に柄頭は鈴がついている。それだけで、この刀が愛用刀であると解かる。こいつは俺の相棒である「逆刃刀 幻竜」だ。そして、もう一つの刀にも同じように鈴と唾がついているのだが、鞘の色が違い紫色の鞘に収められていた。鞘には竜が描かれており、この刀がなんなのか理解できた。


「妖刀 銀狐か」


 この刀で、俺は何人もの罪人の首を躊躇することなく切り落としてきた。俺は先に幻竜を受け取ってから指を鳴らして刀をしまう。その後、すぐに銀狐を受け取って腰に差す。


「んじゃ、行くか」


「あぁ。そうだな、旦那」


 俺らはホワイトボードに書かれている内容をミーアたちに告げるため、この部屋から出て集落広場へと歩き始めた。歩く足取りは重く、これから人の命を奪うと言う事への責任。死刑執行人とは、とても辛い役職だ。人の命を奪うと言うことは、その命を背負うと言うことなのだ。その行為をやるのは、ミーアではなく、俺が殺るべきなのだ。いや、やらなければならないのだ。


(また、俺は罪人を殺すのか。せめて、ミーアにはこの重みを背負わせたくない。だが、いずれは覚悟しなければならないだろうな。だから、せめてその重みで心が潰れぬよう、そばに居続けよう)


 俺たちはホワイトボードに貼られた紙を剥がし、付箋が剥がれないように慎重かつ丁寧に折りたたむ。集落の住人が集まれば、この集落で起きた事件――いや、殺戮と言ってもいいだろう。この残忍な計画を立て、実行させた罪人どもの罪の重さについて説明をしなくてはならない。そのため、この紙を用いて説明をするつもりだ。ただ、一点だけ気がかりなことがある。それは、ミーアの精神状態である。もし、このことを知ったら、ミーアは怒りで我を忘れるかもしれない。でも、ミーアには聞く権利があるのだ。俺たちがミーアに話さないと言う権利自体、俺たちにはないのだ。後は、ミーアが聞くのか聞かないのか。ただ、それだけだ。


「さぁ、この集落で起きた殺戮の真実を語り、新しい明日へと向かうために全てを終わらせよう。ミーアや、この集落で生きると決めた者たちのために」


「あぁ、そうだな。旦那、行くとしよう」


 部屋の扉を開き、集落の広場へと歩き出す。

 ミーアのために。

 この集落に住む決意をした者たちのために。

 罪人どもが犯した罪を説明するために。

 そして、これから起こる残忍な罪人どもへの、死を与えるために。



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