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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
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11話 錬成所

どうも、今回の投稿が遅れてしまいまして、申し訳ありませんでした。

やっぱ、ゲームにハマると作業ペースが落ちますね(汗

さて、次話も頑張って書いていきますので、皆様、今後ともよろしくお願い致します。


では、ノシ

 竜仙と別れ、俺はボルトと二人の少女を連れて錬成所へと向かっている。ダンジョンを攻略後に大剣を受け取ったが、邪魔だったため収納指輪へと収納している。なので、現在はダンジョンで手に入れた短刀を腰に差し、右脹脛にナイフを収めている。武器を装備する必要もないのだが、念の為に装備しておくことにしたのだ。

 さて、現在目の前には、ボルトの傍を歩いている少女たちの姿があった。竜仙からは「メルトちゃんとイリスちゃんだ」と紹介を受けてはいるが、顔も体型も魔力量に魔力の色までも全てが一緒なせいで、右がイリスちゃんなのか、それとも右はメルトちゃんなのか全くわからない。それに、俺とボルトの年齢を聞いてきたので、正直に「俺は十五歳で、ボルトは二十二歳だ」と答えると、まさかの「私たち、ボルトさんの二歳下だよ」と嬉しそうに答えてくれた。その瞬間、俺とボルトは絶句してしまったのは言うまでもなかった。見た目が十代前半で実年齢が二十歳と言う者に会うなど、旅人として働いて来た中で初めてだった。取り敢えず、今から二人のことは「ちゃん」付けで呼ばずに「さん」付けで呼ぶとしよう。それに、二人ともボルトのことが気になるようだし、このまま二人が「ボルトと結婚まで行けたら良いなぁ」なんて思いつつも俺は介入せず、後は当の本人たちに任せるとしよう。


(はぁ。まさか二十歳とか信じられんが、本人が言っているわけだし。まぁ、良いか。さて、気持ちを入れ替えてだが。隊長からの許可書、副隊長の手紙。まだ、二通とも読んではいないが、ホムンクルスの作成している間に、手紙の内容を確認するとしよう。そこまで急ぎのないようではないから、緊急の印が押されていなかったわけだし。今日のうちに確認しておくとしよう。後は、ライラから『俺の刀』を受け取るはずだったのだが、ライラの奴が『刀を研いでくる』と書き置き残して、俺の刀ごと持って行ったせいで受け取れなかったな)


 ライラが刀を持って行った事に対して溜息を吐き、気を紛らすために集落の風景を見回す。まだ、所々にドラゴンの被害を受けた家を解体する部下の姿や、家やよく解からん建物を建てている部下の姿を見て目を輝かせている奴隷たち。そんな風景を見ていると、これからの作業のペースのことを考えなければならない。部下もいずれはこの世界から去るのだから、建物などの修復は『この集落に住む人たち』に任せなくてはならない。ならば、奴隷達に任せてみるのも良いのではないだろうか。確か派遣奴隷や犯罪奴隷がいると聞いたが、彼らなら建物くらいは建てられるのではないだろうか。


(竜仙に任せると負担が大きいからな、部下たちに指導を任せるとしよう。彼奴らなら、犯罪奴隷の扱いを任せても問題はない。逆に、奴隷達がどうなるのかが心配であるが)


 そんな事を考えながら歩いていると、錬成所と書かれた看板がかけられた建物が見えてきた。錬成所にしては公民館のような大きさはあるが、構造としては三階建ての建物のようだ。よく見ると、看板らしきものが錬成所の玄関近くに置かれており、ボルトたちと共にその看板の前で立ち止まった。そこには各階層になんの施設が置かれているのかが書かれていた。一階は錬金術者たちへの仕事依頼や休憩場所のある階らしく「休憩室・依頼受付・受け渡しカウンター」と書かれていた。二階から上は仕事場らしく、二階は「簡易練成室」で三階は「高位錬成室」と書かれていた。


(作りとしては、ガルドの工房と似ているな。確か、ボルトの弟子だったよな。そうなると、この錬成所の設計はガルドが立ち会ったのだろうか)


 そんな事を考えながら、錬成所の出入りするドアの前に立ち止まった。形は観音扉のように左右で開くことのできるタイプのドアだ。木材ではなくガラスで作られたドアにプラスチック製のドアノブが付いていた。ガラス越しではあるが建物の内部が見え、玄関を入ってすぐにカウンターがある。どうやら、あのカウンターで依頼を受諾と受け渡しが行なわれるようだ。右奥には階段と部屋の奥へと続く通路があり、俺の予想だが通路の奥には「会議室」などが置かれているのだろう。左奥には休憩室があり、食堂の看板が置かれていた。さて、ドア越しではあるがカウンターの前で、首輪をつけた奴隷達が何やら指導を受けていた。


「このカウンターでは、依頼の受付を行ってもらう。そして、製品が完成した際に受け渡しする場所は、此処になる。で、ここでの対応については――」


 額に角が生えたスーツ姿の男性と、ところどころに赤いシミが目立つ白衣を着た青年が、奴隷達に説明をしていた。彼らはボルトの弟子たちであり、スーツの男が鬼族の「仁」で、白衣の青年が「ガルド」だ。そして、仁が奴隷達に説明しており、ドア越しではあるが「派遣奴隷の皆様には、カウンターでの受付担当と錬金術を学び、作成担当に分けたいと思います」と言っている声が聞こえた。そんな光景を見て、ボルトは嬉しそうに笑うと俺の方へと顔を向け、ニヤリと微笑みながら言う。


「御館様、これで竜仙様たちの負荷が軽減されたな」


「あぁ、そのようだな」


 竜仙たちにこの件について話すことにするとして、奴隷達が必死にメモをとっているため、とても入りづらい状況である。ところで、ひとつ疑問があった。何故、鍛冶屋と調合屋があるのに、錬成所なんてものを作ったのだろうか。鍛冶屋と調合屋だけあれば、問題はないような気がする。その件についても、彼らに訪ねてみることにしよう。ドアノブを握り講義を受けている彼らの姿を見ながら、静かにドアを開けて錬成所のロビーへと入る。すると、部下が俺の方へと体を向け敬礼をした。部下たちがいきなり俺に対して敬礼をしたことに驚いたのか、皆が俺の方へと体を向けた。その中で、白衣を着た一人の青年が此方へとやって来た。ボサボサと乱れたショートヘアが、どうも寝起きの青年にしか見えなかった。なんせ、いつものように眠そうな表情で、細い目つきからは赤い瞳が俺を見つめている。


(ガルドか。いつもと変わらない眠そうな表情だが、まさか――また、夜通しで作業なんてしていないよな)


 ガルドはフラフラと此方へと歩きながら、俺たちに向けて手を振りながらやって来た。フラフラと体を揺らしながら、ニヤニヤと笑いながら鼻ちょうちんを作りながら立ち止まった。寝ているのか、起きているのか、まったくもって分からない。一回小突いたほうが良いのではないかと思いながら、取り敢えずボルトへと顔を向けた。そこには、青筋をヒクつかせながら微笑んでいるボルトと、ポカーンと口を開けたままガルドを見つめているイリスちゃんたちの姿があった。確かに、この姿を見れば誰だってこんな反応をするだろう。しかしながら、このまま放っておくのも、通行の邪魔である。さて、どうやって起こすべきか悩みながら、その場で指を鳴らしハリセンを取り出した。見た目は普通の画用紙で作られたハリセンなのだが、実はコレ「武器」である。形状記憶合金に、スペースシャトルに使用されているアルミニウム合金とオルハリコンを使用した、対ボケ殺し専用ハリセンである。普通のハリセンと見分けをつけないように、画用紙と同じ色のコーティングが施されており、重みについては何らかの技術のおかげで「普通のハリセンと同じ重さ」にしたらしい。そんなハリセン如きに科学技術の粋を注ぎ込まんでも、もっと別のことに注ぎ込むべきなのではないのだろうか。


(これで頭を叩けば、確実に起きるだろう)


 どう見ても寝ているとしか思えない。それにしても、こんなにも器用に立ったまま寝ながら鼻ちょうちんを作るとは、ボルトの部下は本当に面白い奴らが多いしかしながら、もう少し緊張感を持てないものだろうか。一様、上司を前にしているのだが、一向に起きる気配がない。夢と現実が分かっていないのだろうか、今度は何かを追っているのかそのまま外へと出て行こうとしている。一体、この子は何の夢を見ているのだろうか。とても興味があるのだが、このまま放置するとボルトのキツイ一発を受ける事になる。仕方がなく、その場で軽く自分の左手の平に向けてハリセンを叩いた。流石は鉱物で作られたハリセンである、とても良い音が響きで耳と左手が痛い。手に持っているハリセンを見つめ、その場でため息を吐いた。なんでも、これで頭を叩けば頭蓋骨が吹っ飛ぶとか言っていたが、今までこれで人の頭を叩いたことがないので、それが本当なのか怪しいところだ。


(今度、これでこの世界の魔物を叩いてみるか。いざとなれば、ミーアの専用武器に――)


 一瞬だが、ミーアがこのハリセンを持つ姿を想像した。なんだろう、とても残念な子にしか思えない。いや、ハリセンで数多くの魔物の頭部を爆散させたり、腹に一撃を与えて臓器を内部破壊――いや、こんな危険なものを持たせてはダメな気がし、心の中で「これは俺専用の武器にするべきだ」と結論づけた。こんな『ネタ武器』は俺にこそ相応しいと思いながら、目の前で鼻ちょうちんを作っていたガルドの方へと目線を向ける。


「ふへら? なんですかぁ、先ほどの爆発音わぁ」



 ハリセンの音と共にガルドの鼻ちょうちんが破裂したようで、眠そうな目を両手で擦りながら此方を見つめた。そして、擦っていた手を白衣のポケットに突っ込むと、細い目を開きニヤリと微笑んだ。どうやら完全に目が覚めたようで、微笑みから満面の笑顔に変わった。そして、完全に目が覚めた最初の第一声がコレである。


「御館様ぁ~、おはようございますぅ~。グゥ~」


「寝るな!! 起きんかい」


 また、鼻ちょうちんを作り夢の世界に逃げるガルドを見て、つい右手に握っているハリセンでガルドの頭を叩いてしまった。すると、一瞬にしてガルドの頭部が吹き飛び、床一面に脳みそや頭蓋骨の破片などが散乱し、床や壁には大量の赤い血が広がった。その光景を見た部下以外の全員が、目を見開き悲鳴をあげた。だが、すぐにその悲鳴は止む。何故ならば、先ほどのガルドの死体や血が一瞬にして砂へとなり、一箇所に砂が集まると人の姿へと形を作りだしたからだ。そんな異様な光景を見れば、誰だって悲鳴がやんでしまうだろう。さて、しばらくすると人の形を作っている砂が光の粒子となり、光が完全に消えると、ハリセンで叩かれる前のガルドの姿へと戻るのであった。


「御館様ぁ、いきなり殴らないでくださいよぉ!! 旦那様の本気の一発で、一回死んじゃったじゃないですかぁ――って、それ無月隊長と共同開発した技術の粋を集めて作られた最高峰のハリセン。その名も「破壊力抜群、ボケ殺し用専用ハリセン コバルト君二世」ですよ!! ま、まま、まさか、僕の頭部は、それで叩いたから吹っ飛んだのですか!?」


 頬をふくらませながら文句を言うガルドの問いかけに黙って頷くと、一瞬にして満面の笑みへと変わりその場でジャンプしながら「やったぁぁぁあああああ!!」とはしゃぎだした。


「私と無月隊長が作ったハリセンの第一被検体になれましたぁ!! ですが、まだ威力が足りませんね。今度は威力測定もしなくてはなりません。属性能力が付与できるかの確認もしなくてはなりませんねぇ。これは、もう!! 胸熱ですよぉぉぉおおおおおおお!!」


 何故こんなにテーションが高いのだろうかと思いながら、ボルトが「おら、こっちへ来い」とガルドの首根っこを掴みながら階段のあるフロアへと歩き出す。取り敢えず、仁に向けて苦笑しつつも、ボルトたちの後を追う事にした。


 さて、今は三階の大錬成部屋に来ている。当然だが、ハリセンは戻している。なんせ、ハリセンを持っていると、ガルドが「もう一回、やります? やっちゃいます?」と、目を輝かせるので、すぐさま戻した。さて、三階へ着くと、すぐ目の前に鉄の扉がある。その扉を開くと、三階のフロア全部を使用しての大錬成部屋となっていた。部屋の中央には巨大な大釜が置かれており、部屋の壁には沢山の棚が置かれていた。あれは錬金術者が使う「錬金釜」である。それに、錬金釜を挟むように三mはあるだろう長いテーブルが二卓置かれてあり、計測器やスポイトなどの調合で使用する器具などが置かれている。また、依頼書を貼るためのボードが壁にかけられており、そのボードの前にデスクが配置されている。そして、棚にはまだ錬成用の素材や書物なども置かれていなかった。


「此処で錬成するのか。ガルド、この部屋の使い方を教えてくれ」


「はぁい。ボルド様、そこのテーブルは作業台となります。そこに置かれている器具類は、この世界の材質で作ったものです。部屋の中央に配置されているのは『錬成釜』ですが、こちらも探鉱で採掘した素材を用いて作られています」


 ガルドが説明をしている中、イリスさんたちは作業台に置かれている器具類を見ていた。錬金術の機材に興味があるらしく、作業台に置かれた器具を指差しながら俺を見つめていた。イリスさんが指さした物は、昔小学生時代の理科の授業で使った『上皿天秤』だった。左右に皿が置かれ、右皿に粉末にした薬品を乗せ、左皿に重りを乗せることで重さを測るものだ。今の時代では電子天秤などがあり、これは主に授業で使われるものだ。他にも個体の材料を測る上皿天秤もあるのだが、それもちゃんと完備されている。この世界についての知識は頭に叩き込んでおり、医療ギルドと言う場所で『電子天秤』を使っているらしい。まぁ、この世界に召喚された者たちの知識が、この世界に生かされているわけだ。


(イリスさんたちは、見たことがないのか? なら、使い方も含めて説明してあげようかな)


 イリスさんたちの不思議そうに見ている、微笑みながら「これは、上皿天秤だよ」と教えてから使い方を教えることにした。


「これはな、粉末状にした材料の重さを測るための器具だ。真ん中に均等に書かれた黒い線と真ん中に赤い線があるだろ? これで重さを測るんだ」


「どうやって測るの?」


「それは――そうだな、実際に使ってみようか」


 俺はその場で指を鳴らすと『二種類の素材』が置かれている二枚の皿と、ガラスのポットが作業台の上に召喚させる。右の皿の上には大牙が置かれ、左の皿の上には草花が置かれている。これは、昨夜侵入してきた魔物の素材である。確か、大蛇の毒牙と集落に生えていた薬草である。これで解毒薬を作ることが出来るが、まずは天秤ばかりの使い方を見せることが重要である。その為、まずはこの大牙を粉末にする。


「まずは、この牙を粉末にしてから説明するな」


 ボルドがガルドを説教している中、作業台に置かれたすり鉢を使い粉末状にする。すり鉢をするのを見て「私もやる」とイリスさんかメルトさんのどちらかが言う。正直に言って、見た目が一緒なので誰が言っているのか全く解からない。だが、やってみたいと言うので、大牙を粉末にする作業をやらせることにした。取り敢えず、大牙をまな板に載せ、オルハリコン製の包丁で細かく切り、すり鉢に入れてから渡した。必死にすり鉢で粉末状に砕いていく姿を見ながら、片方の少女が頬を膨らませながら言う。


「メルトちゃん、ずるい。私もやる」


 どうやら、メルトさんだったらしい。イリスさんに何をさせるべきか考えていると、ボルトたちは錬成釜を使って何やら精錬を始めていた。向こう側の作業台にはドラゴンの素材らしきものが置かれており、試験管台には赤い液体の入った試験管が数本置かれている。どうやら説教を終えて、本格的にホムンクルスの作成に乗り出すのだろう。ガルドが忙しなく素材など足りない物がないかを確認し、ボルトはドラゴンの脳みそを手に持って何かを確認していた。その光景を見ながらイリスさんにも出来る物を考えていると、ガルドが何種類かの材料を手に持ち此方へとやって来た。それはメルトさんが必死に粉末にしている大牙と同じ大きさはある爪と、綺麗な深紅色の鉱石のような物を三つ持っている。今回の錬成に必要ではない物なのか、メルトさんが作業している作業台の上に置かれた。


「ガルド、これは使わない物なのか」


「えぇ、これは流石にホムさんの作成には使えませんので。それに、これは武器への属性付与などに使えますが、それなりに数があるのでイリスちゃんたちの研修に使ってください」


 ガルドの言葉を聞いて、イリスさんは「やった、やった」とその場で嬉しそうに飛び跳ねると、作業台に置かれた爪を手に取った。ガルドはイリスさんたちの年齢を知らないから「ちゃん」付けのようだ。あえて教えないことにして、俺はイリスさんが嬉しそうにまな板の上に乗せて、包丁で細かく切り始めた。その光景を微笑ましく二人で見つめていると、気になっていたことを思い出したので、ガルドに質問をすることにした。


「そうか、ありがとう。ところで、錬成所ってなんだ? 鍛冶屋と調合屋があれば十分な気がするが」


「そう言えば、説明しておりませんでした。鍛冶屋と調合屋に関してですが、あくまで武具の作成と回復薬などの調合をメインとして提供するものです。鍛冶屋では属性武器や無属性武器の作成など行ない、調合屋では『回復薬や薬に補助効果をもたらす』など回復アイテムの調合を行なう以外に、実際に販売も行なわれます。いわゆる、普通の鍛冶屋と調合屋ですね」


 笑顔で説明している中、背後からボルトの殺気を感じ取った。ガルドが心配になり顔を向けると、ニコニコと笑っているが顔は青ざめていた。ボルトの方へと目線を向けたのだが、ガルドと同様にニコニコと笑っている、だが、体中を覆う金色のオーラを見て、本気で怒っているようだ。だが、説明を途中で終わらせたくないのか、諦めがついたのか解らないが説明を続けた。


「ご、ごっほん!! では、錬成所では何が行なわれるのか? それはですね、武具や回復アイテムの補助効果や属性の取り変えや取り外しを行ないます。例を挙げますと「火属性の武器を、水属性に変えたい」と言う依頼が来たとします。本来なら鍛冶屋では行なわれません。ですが、錬成所ではそれを八割の確率で成功させることが出来ます。また「回復アイテムの補助効果を高めて欲しい」と言う依頼があれば、使用方法についての説明書も含めてお渡しします。つまり『鍛冶屋や調合屋ではできない事を錬成所で取り扱える』と、いうわけです」


「なるほど、説明ご苦労。ボルト、貴重な時間を取らせてしまい申し訳ない。後は、お前たちに任せる」


 俺の言葉を聞いてボルトが深い溜息を吐くと、背中に纏わせていたオーラが消え去った。そして、ガルドへと手招きしながら錬金釜へと向きを変えた。ガルドたちが作業しているのを見ながら、俺は隊長たちの手紙を取り出した。しかし、イリスさんたちの作業が終わるまで、俺が目を離すのは拙い。なので、彼女たちの作業が終わってから読むことにする。


(二人とも楽しそうに作業しているな。やはり、何が何でもボルトと結婚してもらうとしよう。俺のコネを使えば、確実にボルトとイリスさんたちは――)


 そんな『ボルトお見合い大作戦』的な事を考えていると、メルトさんが俺のコートの袖を引っ張りながらジッと見つめていた。さて、何故メルトさんだと解かったのかと言うと、イリスさんが必死にすり鉢の棒で細かく切ったドラゴンの爪を粉砕している。それはもう必死になって『ゴリゴリ』と音を立てながら、鼻歌を歌いながら笑顔ですり鉢をすっている。


「イスズ様、粉にできたよ。次は、何をするの?」


「そうだねぇ。イリスさんの作業が終わったら、実際に上皿天秤を使って測定してみようか。今度、メルトさんたちが作ってくれた材料を使うからね」


「解かった!! ねぇ、イスズ様」


 何故か、メルトさんに様付けで呼ばれた。いや、それだけじゃない。この集落にいる全員から、何故か『様付け』で呼ばれるようになった。まぁ、そんな事を気にしても仕方がない。身長は俺と同じくらいあるため、上目遣いにはならないが真剣な表情で俺を見つめている。


「なんだい?」


「ボルトさんて、恋人いるの?」


 ド直球の問いかけだったが、俺は首を横に振った。ボルトは恋人や妻を作ろうとはせず、錬金術師としての仕事一筋だった。恋愛など一度もしたことがないわけだから、きっとメルトさんたちは苦戦するだろうが、俺たちには恋愛成就の神々がいるので何とかなるだろう。なので、メルトさんの耳に囁くように「彼奴、恋人はいないぞ。あと、彼奴は妻を三人まで作れるぞ」と教えてあげた。その瞬間、頬をりんごのように真っ赤に染め、両手で頬を触りながらイリスさんのいる方へと歩き出した。


「イリスちゃん」


 現在、絶賛作業中のイリスさんの傍に行き、両手でイリスちゃんの左腕を握った。イリスさんは先ほどからすり鉢に入れた細かく切った爪を入れ、潰してはすり、潰してはすりを繰り返しやっていたので、途中で腕を掴まれた事で潰す作業ができず、頬を膨らませてメルトさんの方を向いた。


「何、メルトちゃん」


「ボルトさん、恋人いないんだって!!」


「!? ほ、ホント?」


 何故だろう、彼女たちのはしゃぐ姿を見て和んでしまった。恋って、こうやって実るのだろうか。いやはや、青春をしているなぁと思いながら、シミジミと彼女たちを見ていると、背後から「ここは、どこホム?」と言う声が聞こえた。なんと言うか、少女のような綺麗な声なのだが、何故か語尾が「ホム」である。少々気になり後ろを振り返ると、満足そうに頷きながら満面の笑みで錬金釜を見つめるガルドと、全身を使って驚きのあまり半歩後ろに下がり仰け反るような体勢をするボルドの姿があった。


「ホム? 貴方は、誰ホム? 不思議な力を感じるホム!! ところで、僕は誰ホム?」


 大釜の中から声が聞こえるのだが姿を現そうとはせず、今の状況が読めていないらしく困惑している声だけが聞こえた。取り敢えず、どんな子が出来上がったのか気になり大釜の方へと歩き出すと、声の主の両手が大釜のふちを掴み顔をだけを出した。顔だけを見た限りでは、アンティークドールのような可愛らしい少女の顔に、雪のような綺麗な純白のショートヘア。左目の下には泣きボクロがあり、サファイアのような綺麗な青い瞳で部屋の中を見回している。


「ボルト。お前に全て任せてしまったが、俺はお前のことを信頼していたから任せたのだ。だが何故、子どものホムンクルスが出来たのか。何が起こったのか、今すぐ説明しろ」


 ボルトに対して威圧的な態度を取りつつ、この子が生まれた経緯についての説明を求めた。その姿を見ているガルドが、顔を青ざめながらガクガクと足を震わせながら見ている。そして、ボルトはすぐに俺の方へと振り返ると、真剣な表情で「はい、分かりました」と言い、すぐに錬成に使用した素材についてのメモ帳と、入れた順番を記載している紙を作業台から取り読み上げた。


「今回のホムンクルスの生成に使用したのは、二対のドラゴンから剥ぎ取った脳みそを二つ使用しました。まず、記憶の宝玉を作ることから始めたのですが、この錬成釜の中に予め御館様の血液が入っていたらしく、二つの脳みそを入れてしまった事で、強制的に錬成が始まったようです。その為、急いで素材を投入したのですが、不完全な形ではありますがホムンクルスの生成には成功しました」


「そのようだな。本来なら、魂を持たない器が出来るように生成するはずだが、その魂が使用された形跡がない。竜仙から魂の件を聞き、俺はこの目で実際に会った。だが、このホムンクルスからはその魂の気配を感じないようだが」


「はい。本来なら最後に錬成釜へと魂を入れて完成だったのですが、魂を入れる前に完成してしまったようです。私の確認不足のせいで、この様な結果を招いてしまい、誠に申し訳ありませんでした」


 その場で頭を下げるボルトに続き、ガルドも頭を下げる。俺の血を使うことは知っていたが、まさか素材を入れるより先に釜の中へ入れられていたとは、ボルトもガルドも注意力散漫である。ベテランだからとは言え、確認をする癖をつけなければならない。やはり、俺も作業に加わるべきだったと後悔したが、もう過ぎたことだから致し方がない。肩の力を落とし、ボルトへ微笑みながらボルトのもとへと向かう。


「もう過ぎたことだ、仕方がない。それよりも、ホムンクルスの件を片付けよう。ちょっと、そこの君」


 ボルトの隣で足を止め、俺は錬金釜の中から顔だけを出しているこの子へと微笑みながら問いかけた。すると、部屋の周りを見渡していたこの子は俺の方へと顔を向けると、微笑みながら首をかしげた。なんと言うか、とても可愛らしい女の子に見えるのだが、本当に女の子なのかどうか。取り敢えず、錬金釜から出てもらう必要がある。


「ホムむ? 貴方は誰ホム?」


「俺は御心 五十鈴だ。お前の――うん、お前の父親だな。なんせ、お前さんは『俺の血』を素材として作られたのだからな」


「作られた? 僕は作られたの? 教えて、教えて」


 錬金釜の中から飛び出だし、全裸の状態で俺の下へと走ってきた。肉体を見た限りだが、身長は百五十cmくらいの健康的な肉体をした『十代前半の少年』である。取り敢えず、ホムンクルスの生成は終わったのだ。それに、こんなに元気の良い少年が出来たわけだし、俺の血を使っての精錬でこうなったわけだし。それに、旅人がホムンクルスを作れるのは「一世界に一体まで」と、誓約で決められているため、もう作ることはできない。だが、この少年から感じる魔力はベラーダとほぼ互角だ。鍛えようによっては、最強の戦士になりそうだ。


「あぁ、後でな。取り敢えず、まずは服を着せるか。ボルト、服の手配を」


「了解しました。ガルド、ここはお前に任せた」


「了解しました」


 こうして、シャトゥルートゥ集落での当初の目的だった『ホムンクルスの生成』は終わった。俺たちは失敗したと思っていたのだが、このホムンクルス――そう、ガルドが勝手に「ホムホム」と名づけたこの少年。この後、その力に驚かされる事になろうとは、この時の俺たちは思いもしなかったのであった。




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