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階級フェイト5

カヤソラシン「お年玉ちょうだい!」

スカラー「だってさ、ヒューイ」

ヒューイ「え、俺?」

カヤ「お年玉くれないと……」

ソラシン「殺す!!」

ヒューイ「ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

俺達が組織の拠点である屋敷に戻ってきたのは、大通りに出発してから一時間半ぐらい経った頃だった。残りの三十分を各自の部屋で過ごし、俺とヒューイはティカに言われた通りミーティング室に来ていた。

……来たのはいいが、ここに来いと言ったティカはおらず、そのまま二十分近くが経とうとしている。

シンはティカが貸すと言った部屋にいるはずだ。


「わー!暇だー!」


さっきからヒューイは暇だ暇だと言いながらも楽しそうである。

その様子をため息と共に眺めながら更に五分後。

突然ガチャリという音と共に扉が開いた。

自然と視線がそちらに集まる。


「あら、待たせたかしら」


「何でシルヴァが?」


入ってきたのはティカではなくシルヴァだった。彼女は左の横髪をオレンジ色の大きめの髪留めで留めており、それをしている時は決まって仕事中のため、今も仕事中であることが分かる。


「ティカに呼ばれたのよ。彼女ももうすぐ来るわ」


と、丁度シルヴァが言ったタイミングでまた扉が開き、閉まりかけるのを押すようにしてティカが入ってきた。すぐにヒューイが飛んでいって扉を閉まらないように支える。


「ありがとうございます」


ティカは声に出してヒューイに礼を告げる。感謝されたヒューイが本当に嬉しそうに笑ったのは、言霊のせいだけではないだろう。


『皆さん、お待たせしてすみません』


ティカはシルヴァの隣まで進んで来て話を始めた。ヒューイも俺の隣に戻ってくる。


『次の依頼について説明します』


依頼。その単語が出た瞬間に場の空気が緊張する。何せここには、俺、ヒューイ、シルヴァの上官組がいるのだ。三人が揃って取り掛かる依頼は滅多にない。それほど難易度が高い依頼だということだろう。


『先程の捜索依頼の依頼主ですが……彼の所へ行ってソラを連れ戻してくだい』


この組織は、ティカを裏切るもの以外の依頼なら基本的に何でも引き受ける。前の依頼主を裏切る依頼も例外なく引き受けられるのだ。


「シンからの依頼ですか?」


と、ヒューイ。


『その通りです。ソラが無事なら、連れ去った男は殺しても構いません』


それなら多分、ヒューイがいるところで戦闘になり、その戦闘にヒューイが加わると男は殺されるだろう。ヒューイは規制がなければ殺してしまう。手加減を知らないわけでも、出来ないわけでもない。彼の身には、子供の頃からそうしてきたせいで殺すことが染み付いているのだ。


『男についてはシルヴァから聞いてください』


ティカはシルヴァに視線を移した。

シルヴァはその青い目で一同を見回し、口を開く。


「男の名前は犬塚。家は貴族街の東寄りにあるわ」


言いながらポケットから写真を取り出し、俺に差し出す。受け取って見てみると、大きめの家の写真だった。三階建てくらいか。


「それが犬塚の家……というか屋敷よ」


確かに上級貴族の屋敷としては普通の大きさだ。これといって変わったところはなく、強いて言えば少し庭が狭い印象がある。


「番兵は基本的に二人。門を入った所の庭にいるわ」


番兵がいる家は上級貴族でも珍しい。貴族はあまり家柄の関係ない人を庭のような目のつきにくい敷地内に置きたがらないし、そもそも貴族街に平民は入らなかったり、防犯設備が整っていたり、貴族自身が武器を扱えたりするので、あまり見張りをする意味が無いのだ。


「毎日いるのか」


と、俺。


「ええ。今日もいるわ」


と、迷わずにシルヴァ。

その青い目で俺をじっと見つめて続ける。


「貴族街の東側に行くことに変わりはないわ。気をつけて」


組織の屋敷は西端にある。

横長の貴族街の真ん中からは高級街と大通りに繋がる道が伸びており、そこで東側と西側が分かれているのだ。

……俺が生まれた屋敷は東端にあった。

けれど、だからといって何故気を付けなければいけないのだろう。何に気をつければいいのだろう。


「気をつけるって?」


「……分からないならいいのよ」


シルヴァは言いながら視線をヒューイに移し、移されたヒューイは苦笑して頷いた。


「……?」


「まあ、任せろって」


俺が二人のやり取りを不思議に思っているとヒューイが何故か得意気に言ってきたが、何を任せろなのか。……一体俺は、何を任せたのか。


「私からはそれくらいよ」


俺が疑問の答えを出す前にシルヴァが話を終わらせた。それを聞き、ティカが俺とヒューイを交互に見て口を開く。……いや、実際に開いたわけではないが。


『質問はありますか?』


「「ありません」」


即答。質問をしてしまうと頭に入れる情報が増えるので、出来ればしない方がいいのだ。ティカやシルヴァは言っておかなければならないことを抜からない。だから、言われてないことは基本的にどうでもいいことで、俺達の判断に任せられることが多い。


『話はこれで終わりです。頑張って下さいね』


「スカラー、今度一緒にご飯食べたい。覚えておくから」


最後にとびっきりの笑顔で激励を送ったティカは、一方的に約束を取り付けてしまったシルヴァに車椅子を押されてミーティング室を出て行った。


「……待って、何で俺はシルヴァに誘われねぇの?」


と、表情をなくしたヒューイ。


「うるさいからだろ」


「なぁんでぇえ!いいじゃん別にー!」


「準備出来たら部屋の前で集合な」


「あっ待てよ!一緒に部屋まd」


そういうわけで、俺は悲痛(?)の叫びを背中に聞きながらひとりでミーティング室を出て扉を閉め、ヒューイを置いて自室へ向かい始めたのだが、結局後から走ってきて追いついたヒューイと一緒に部屋の前までたどり着いたのだった。


そして約10分後。


「早いな」


「いつものことじゃん?」


俺が背中に主武器(メインアーム)であるライフルを背負い、腰のベルトに副武器(サブアーム)であるハンドガンを二挺と、それらに対応する弾倉(マガジン)を差し込み、ポケットにティカから貰った薬が入っていることを確認して部屋を出ると、そこでは既に準備を終えたヒューイが待っていた。


ヒューイの主武器は諸刃の太刀だが、湾曲が最大限に抑えられた形をしておりあまり目立たないため、細身の長剣に近い。本人にとってはこの形が丁度扱いやすいものだったのと、長剣よりも太刀と呼んだ方が格好いいという変な理由で今に至る。俺と同じように背中にぶら下げる装備の仕方をしており、左利きのため左肩に持ち手がくる傾きになっている。


「高級街の西側に時計塔があるだろ。そこが俺のスタート位置だ」


急に俺がそんなことを言うので、ヒューイは一瞬何を言い出すのかという顔をしたが、すぐに意味を理解したのか頷いた。


「準備が出来たらマイクで知らせてくれ」


もちろん、この準備はさっき俺達が行った武装するという意味の準備ではない。

研究部が開発した小型の耳に装着するタイプのマイクは、依頼中に遠くの仲間と連絡を取ることを可能にした。


「時計塔からの移動手段はカヤに頼んである」


「了解。……カヤの実力知らねぇんだけど、任せて大丈夫なのか?」


「あいつは執行部だぞ」


「……そうだったな」


カヤは確かに弱い。けれど、人じゃない友達がいて、人が絶対に出来ないことを可能してのけるのはカヤだけだ。


作戦を共有したところで、俺とヒューイがどちらともなく目的地の犬塚という男の屋敷に向かおうとした時。

すぐ後ろでドアが開く音がした。振り返ると、丁度シンが貸し出された部屋から出てきたところだった。

特にかける言葉もなかった俺は、踵を返して依頼に向かおうとしたのだが。


「待って」


……止められた。仕方なくもう一度振り向く。


「僕も連れて行って」


「は……?」


「え……」


そのお願いは、ヒューイさえもすぐに言葉が出ないほど唐突で無茶なものだった。

俺はシンの度胸を推し量るように、すっと目を合わせて告げる。


「ダメだ」


「どうして?」


「弱いやつは足でまといになる」


そのひとりの行動で戦況は一変する。慣れてない初心者を連れて行ってそのカバーをする暇はないし、今は依頼主でもあるので死なれると報酬が受け取れなくて困る。そもそも子供が行くような依頼ではない。


「じゃあ、僕が足でまといにはならないって証明できたら」


シンは揺るがない。自分の力に自信があるのか。もし本当に周りを振り回さないほどの能力があるなら、もし本当に死なないだけの強さがあるなら、そのひとりの行動で戦況はいい方に一変するかもしれない。


「……それに、ソラを止められるのは僕だけだ……」


シンは少し視線を落として、呟くように付け足した。

ソラを止めるとはどういうことだろうか。


取り敢えず俺だけの判断で決められるものではないので、俺はずっと黙っているヒューイに視線を向けた。


「ヒューイ、どう思う」


「ん?まぁ、俺から一本取れたらいいんじゃね?」


さらりと結構な難題をシンに突きつける。そしてシンを見ると、一段と低い声で付け足した。


「本気なら、そんくらい出来ねぇとな」


普段は俺に冷静すぎるとか子供の相手が出来ないタイプだとか言ってくるが、本当に残酷なのはヒューイの方だと思う。


「よーし、やるなら訓練所行こうぜー」


ヒューイはまた軽い調子に戻り、伸びをしながら玄関に向かって歩き始めた。俺とシンは、多分今からやる戦闘を準備運動くらいにしか思っていないであろうヒューイに着いていく。

……ヒューイがいるとその後ろを歩く癖が出来ているのは恐らく気のせいではない。

訓練場は屋敷を出てすぐ隣にある。ちなみに、屋敷の前は庭だ。

ちらりとシンの方を見ると、その横顔はフードに隠れて見えなかった。




――簡単に負ける気はない。


けれど、この人は。普段飄々としていて雑な扱いを受けているようなのに、ふとした瞬間に何か別のものを見ている気がする。

警戒しておいた方がいいかもしれない。


――ソラのために。


――……自分のために。

実力がなくても意思でなんとかしろ。




皆さま、あけましておめでとうございます!

ついに新年ですね!小説家になろうでは二度目の新年です!なんとかお正月に更新できました。こんなところまで読んでくださってありがとうございます!


さあ、次回から楽しい楽しい戦闘シーンだ!(血涙)

【作者は戦闘シーンのある小説ばかりを書くくせに、戦闘シーンを書くのは苦手です】

こんな作者と小説ですが、新年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m

今年もいい一年になりますように!

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