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転章 LonelY BeasT

ヒューイ「そういえば、拠点にしてる屋敷に食堂っぽい所はあるけど、人が働いてる気配はないよな?」

ソラ「確かに!」

シン「どうなってるのか気になる……」

ティカ『企業秘密です』

私は、自分の生まれも、本当の両親――つまり人間の両親の顔も知らない。

気にしたことさえなかった。

自分は自分。今私に見えるものが、私の全て。

それでよかったから。


私は獣。

生まれた時からそうだった。


森は私の住処で、家族の居場所だ。

お母さんはとても優しくて、いつも私のことを褒めてくれる。

お父さんはとても頼りがいがある。困ったことがあれば、何でも解決してくれる。


「お母さん、行ってくるね」


「ええ、いってらっしゃい。人間はとても強いから、気をつけるのよ」


「うん、ありがとう」


今日は私が狩り当番だ。ご飯を採ってくる役目。私は家族の中では狩りが得意な方で、よく狩り当番になった。家族のために動くのは好き。


私は、絶好の狩りポイントへと向かった。

そこは、人間の言葉でシンデンと呼ばれている。森の奥深くにあるためあまり人間が寄り付かない場所だが、数日に一度だけ複数の人間がそこで不思議なポーズをとっている。


「いた……」


今日も。

いたのは三人の人間。膝を床につき、両手を胸の前で組んで頭をたれている。

私は、彼らから身を隠すようなことを一切せず、堂々とそちらに歩み寄った。

足音に気づいた三人全員が、顔を上げてこちらを見る。

そして……。


「君、どうしたんだい?お母さんとお父さんは?」


人間たちは皆、何だか複雑な表情を浮かべる。

私には人間の言葉が分からない。

彼らがその表情をする意味も知らない。

しかし、獣にとって、相手が全くこちらを警戒しないというのは好都合でしかなかった。


私は、一番近くにいた人間にゆっくりと歩み寄り、全体重をかけて飛びついた。

暴れる人間を押さえつけ、首に手をかける。



こうして私は、何人もの人間を殺した。

生きるためだった。

……私を森に捨てたのは、人間でしょう?



私は上機嫌で家族のところへと戻った。

三つの死体の腕をズリズリと引っ張って。


「ただいまー!」


「おかえりなさい、無事でよかった」


「お母さん、見て見て!私今日もちゃんと狩りが出来たよ」


「ほんとね、貴方は偉いわ。きっと、お父さんも喜ぶわね」


「うん!私、また次も頑張るよ!」



そしてまた別の日。

その日も私は狩り当番だったが、残念なことにシンデンに人間はいなかった。

諦めて別の獲物を探そう。

そう思って踵を返しかけた時、急にシンデンの中が眩しく光り始めた。


「何……っ?!」


思わず目を瞑って、再び開けた時。

私は、とても神々しい獣を見た。

毛並みは降りたての雪のように真っ白でふわふわ。身体の大きさは私の三倍くらいある。白い狼のようだったが、背中には二つの翼が生えていた。


「貴方、は……?」


「私は、ここに祀られている神獣」


銀色に輝く狼は、私を見下ろして言う。


「ずっと、お前のことを見ていた」


「私を?」


「そうだ。私には、人間を導く役目が課されている。今のお前は人間ではないが、可能性としてもう一つの道を指し示してやろう」


「何を言っているのか分からないよ」


「そうだな、ではこう言おう。お前の母親と父親には寿命が迫っている」


「え?」


「両親が死んだ後、お前が路頭に迷わぬよう、新しい生き方を用意しておく」


「待って、寿命だなんておかしい。だってお母さんもお父さんもまだ元気だし」


「まぁ、そう思うなら思っておけば良い」


そう言い残して、神獣は消えてしまった。


後から知った話だが、私の家族は人間から魔物と呼ばれていた。

魔物は、自分の死を悟ることなく死んでいくらしい。

だから寿命に気付くことはなく、寝て起きたら突然死んでいた、というのが普通なのだ……。


そしてある日。

私が狩りを終えて家族の元に戻ると、そこには異様な光景が広がっていた。


「お母さん……?お父さん……!」


地面に倒れ伏したお父さん。その下には血が広がっている。

お母さんは、一人の人間と対峙し、喉を鳴らして威嚇していた。人間は見たことのない道具を両手に持っている。

人間が私たちを殺しに来たのだ。


「お母さん!」


私が叫んで駆け寄ると、人間は右手に持っている道具を私に向けた。


私は、それが銃だと知らずに。


お母さんを守るようにして両手を広げる。


「やめて!殺さないで!」


私には人間の言葉が話せない。

だから、私が何と言おうと、それは魔物の唸り声にしか聞こえなかっただろう。

けれど人間は、道具を私に向けるのをやめた。目を丸くして、私の後方に視線を移している。お母さんを見ているような感じじゃない。

一体何を見ているのか不思議に思った私は、恐る恐る後ろを振り返った。


そこには、いつの間にかあの神獣が静かに佇んでいた。白銀に輝く狼は、相変わらず私たちを見下ろしている。


「貴方は、あの時の……!」


どうしてここに?

助けに来てくれたの?


「その人間が、お前の道標となる」


「どういうこと?」


「私が用意したお前の新しい人生が、その人間にかかっているということだ。だから、ここで殺し合いをしてはいけない」


「でも、あの人間はお父さんを殺した!お母さんのことも殺そうとした!私は許せない!」


私は勢いよく人間の方を振り返る。

すると、何故か人間は私に背を向け、走り去ってしまった。


「え、どうして……?」


私がもう一度後ろを見ると、そこにもう神獣はいなかった。


そして。

その翌日から、人間はシンデンに来なくなった。

食料は着々と減っていく。

お母さんは、少しだけ元気がないように見えた。神獣が言っていた、寿命という言葉が気になる。


「お母さん」


本格的な冬が来た。

やはりあれから人間は一人も現れず、他の小動物たちも長い眠りに入ってしまって見当たらなくなった。

私は、なんとか集めてきた木の実を、寝ているお母さんの側に置く。


……このままじゃダメだ。


私は、無い頭で必死に考えた。

考えて、考えて、考え抜いた先に見つけたのは……。


人間の街に、降りるということだった。


眠っているお母さんの元を離れて森を抜けると、とても明るい場所にでた。

いつの間にか地面は柔らかい土ではなく、固くて茶色い何かに変わっている。

そこはとても殺風景な場所で、小川が一つと、いまにも壊れてしまいそうなほどボロボロの家が点々と建っている。

そして、住んでいる人間達は皆、ボロボロに擦り切れた布をまとっていた。

何だか、シンデンにいた人間達と雰囲気が違う。


生気を失った目をしている人間の中から、比較的若い者を探して餌として捕まえるのは、私にとっては容易なことだった。

森の住処へ帰ったころには太陽が真上にあったが、まだお母さんは起きていない。


「お母さん……?」


大丈夫。今日からまた、ご馳走が食べられるからね。


それから一週間が過ぎた。

私は毎日のように人間の街へ降りていき、食料を手にして住処へと戻った。

けれど、お母さんはずっと目を覚まさない。


私は寂しくて寂しくて、大声で泣いた。


たくさんの人間と、たくさんの魔物と、たくさんの小動物、それに神獣まで見た。

だから私は、薄々勘付いていた。


――私の身体は人間に似ている。


そして。

また私は人間の街に降りていく。

するといつもとは違って、森の出口に一人の人間が立っていた。私がシンデンで見た人間と同じような、ちゃんとした布をまとっている。私はその人間の顔に見覚えがあった。


「っ……!」


お父さんの仇。

あの時私の住処を荒らした人間だ。

私は、神獣が言っていた新しい人生というのを忘れて、その人間に襲いかかった。

しかし、その人間はとても強くて、簡単に返り討ちにされてしまう。私が人間に組み敷かれて身動きが取れなくなった時、すぐ傍に眩い光が生まれた。それが神獣のものだと察した私は、必死に目を開ける。


「人間と意思疎通できるよう、神獣である私から力を授けよう」


「え……?」


「この力は、お前が新しい道を否定した瞬間に失われる。さあ、人間の言葉を聞け。そして選べ」


それだけ言い残して、光は消えてしまった。

そして、人間の口が動く。


「……やっぱり、お前だったか」


「えっ」


私には人間の言葉が分からない。

私には人間の言葉が話せない。

ずっとそうだったし、それは今でも変わらないはずだった。

でも私はこの時、目の前にいる人間の言葉を理解することが出来た。

そして驚く事に、私自身も人間の言葉を話すことが出来た。


「家族はまだ森にいるのか」


「かぞ、く……」


「お前の家族を一匹殺したのは俺だ。だから罪滅ぼしのつもりで言う。俺と一緒に来い」


この人間と一緒に……?

これが新しい道なのだろうか。


「お前は今まで魔物の家族として生きてきたかもしれない。でも、その家族はもういないんだろう。だったら、これからは人間になれ。俺が新しい家族になる」


「私、は……私は、今更人間には、なれない」


今までずっと食料だったものに、自分がなるなんて考えられない。

それに、貴方はお父さんの仇。貴方が何を言おうと、お父さんはもういない。


選べ。

自らの人生を。


「でも……でも、私……っ、私は、獣。それでいいなら、行く……」


「……分かった。じゃあ付いてこい。俺が人間を教えてやる」


どうしてこんな決断をしたのかは分からない。

でも、多分……私は寂しかったんだ。

もう誰もいない森の中で、一人で生きていくのが。




「名前を教えてくれ」


「名前……ない」


「じゃあ、呼んでほしい名前とかないのか」


「……ない。何でもいいから勝手に決めて」


「そうか。なら……カヤ。夜月(やつき)カヤ」


「……貴方の名前は何」


「スカラー」


「分かった。スカラー……さん」

お久しぶりです、バイトが嫌すぎる作者です。

バイト行けば楽しいんですけど、行くまでがとても辛いですね。


久々の更新で申し訳ないです。6月中には……と思っていたら、間に合いませんでした(現在7/1、00:02)。

でも、これくらい誤差だよね!!((


何はともあれ、こんな支離滅裂な文章を読んでくださった皆様、こんなに更新ペースの遅い小説をブックマークしてくださっている皆様、本当にありがとうございます。毎日の励みです。


また頃合いを見て作者が後書きに出てくると思います。


今後とも作者共々、この作品をよろしくお願い致します。

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