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後悔コレクト4

カヤ「ヒューイさんって、ほぼ毎日スカラーさんと晩酌してるんですよね?私も混ぜてください!シルヴァちゃんもたまに混ざってるみたいですし!」

ヒューイ「未成年は駄目」

カヤ「えー!ずるいです!ヒューイさんずるいですー!聞いてます?!ヒューイさーん!あ、ちょ、どこ行くんですかー?!」

スカラー「カヤ、何があったのか知らないけどうるさい」

カヤ「すみません!」

エンシェが去ってからかなりの時間が経った。

エンシェはもうすぐ船が帝都に着くはずだと言っていたが、もう到着したのだろうか。

外の様子を確認したいところではあったが、情けないことに俺は眠気と戦っていた。身体も嘘のように重い。


「早く……」


早く来い。来栖がこんな大掛かりなことまでして、このまま俺を牢屋の中で死なせるはずがない。

それならいずれ迎えが来るはずだ。

その迎えを待ち続けて衰弱した俺は、牢屋へとやって来た二人に気付かなかった。


「おい」


とすぐ近くでえ声が聞こえてから顔を上げると、いつの間にかそこには若い音が二人立っていた。彼らは俺の生存を確認すると、牢屋を開けて中に入り、俺の両手を背中できつく縛った。両足には銀色の冷たい枷をはめられる。二つの枷は短い鎖で繋がっており、普通に歩く分には問題ないが走るのは厳しそうだ。

……一生見ることがないはずだった、奴隷用の器具。

それが今自分を拘束しているのだと思うと嫌悪感を抱かずにはいられなかったが、ぐっと抵抗を堪える。


「立て」


そう言われてふらふらと立ち上がる。

二人に挟まれるようにして大人しく付いていくと、広い甲板に出た。道中では何度か階段を上ることになり、今の俺にとってはそれさえも苦痛で空が見えた時には既に息切れをしていた。


「はぁ、はぁっ……そと、か……」


狭い船内よりも空気はかなり美味しい。

船は普通の港に停泊しているようだ。

朝日は完全に登りきっているが、太陽の位置を見る限りはまだ朝だと言える。それなのに、ジリジリとした暑さがあった。王都はほぼ一年中が冬で、こういう暑さは感じたことがない。そのことからもここが帝都だと分かる。

甲板から港までを肉眼で見渡すが、エンシェの姿はない。


俺は若い男二人に、甲板の上にいるスーツ姿の男の所へと連れられた。

整えられた黒髪。生真面目そうな風貌。

忘れるはずがない。俺がソラを逃がして意識を失う前に、一瞬だけ顔を見ることが出来た来栖だ。

来栖は目線で若い男二人を追い払い、二人きりになると口を開く。


「ちゃんと話すのは初めてだな。今ではこんなことになっているが、お前は一応上級貴族だから、自己紹介や世間話から始めた方がいいかな」


来栖は肩を竦め、俺をからかうような、冗談めかした口調で言った。このまま本当に自己紹介を始めてしまう前に、俺は来栖を睨みつけるようにして言い放つ。


「要らない」


俺はもう上級貴族ではないし、自己紹介も世間話もどうでもいい。


「それより目的を教えろ。俺を帝王に差し出すのか」


「流石察しがいいなぁ。でも、その前にまだお前には別の用がある」


来栖はふざけた空気を消し、歪んだ笑みを浮かべる。別の用が何なのかは分からないが、俺は来栖の表情に狂気を感じ取って数歩後ずさった。


ふざけた空気に代わって、まるで本当に狂気を纏ったかのような雰囲気を帯びた来栖は、より一層深い笑みを見せて心底楽しそうに言う。


「俺はずっとお前を手に入れたかった。一目見た時に思ったんだ。何て美しいんだ、その美しい顔が苦しみで歪んだ様はもっと美しいに違いない、と」


「は……?何を、言っているんだ」


「その時からずっとお前のことだけを考えてきた。やっと俺の努力が実る時が来たんだ。安心しろ、殺しはしない」


ああ、そうだろう。

と、俺は心の中で歯噛みする。苦しみで歪んだ顔が見たいなら、殺してしまっては意味が無いのだ。

来栖が言った別の用とは、彼の個人的な趣味趣向に関するものだったらしい。


来栖の発言に対する気持ち悪さで鳥肌が立つ。

反射的に逃走経路を探すが、逃げ道は港に掛けられた階段状の橋しかない。この体力で海に飛び込む判断を最初にするのはあまり好ましくない。


「そんな反抗的な目、どこで覚えたんだい?まあ、少しくらい抵抗してくれた方が楽し……」


俺は来栖の言葉を最後まで聞く前に走り出した。目的は港へと降りる階段。

左右の足枷と、それを繋ぐ鎖がジャリジャリと音を立てる。歩幅を間違えれば転んでしまうことは明らかだ。


「おや?鬼ごっこか、なるほど。遊びに付き合ってやるのも悪くない。だがそっちに行ってはいけない」


後ろから悠長な来栖の声が飛んでくる。

行ってはいけないと言われても逃げる道はここしかない。それにここで立ち止まると、確実に来栖の趣味趣向にこちらが巻き込まれることになる。


俺の足が港に降りるための階段を捉え、一段降りようとした瞬間、俺は何かに後ろへと弾き飛ばされた。


「ぐあ……っ?!」


何回かバウンドしながら数メートルも後ろに転がる。

腕も足も拘束されている俺は、受け身をとることも出来ない。


俺が痛みに耐えながら顔を上げた時には、不幸中の幸いか、甲板に何度か叩きつけられた衝撃で、手首を縛っていた縄が解けていた。


「だからそっちはダメだと言っただろう」


来栖はこの状況を楽しんでいることを隠しきれない(隠す気はないのかもしれないが)笑みを浮かべて俺の前にしゃがんで目線を合わせた。


「……お前、異能者だろ」


「そう。俺の能力は異能力を無効化する。だからいくらお前の目でも、あの階段に仕掛けた見えない壁は検知されない」


ソラを助けたあの廃工場で、俺が来栖を見つけられなかった理由だ。

少し前くらいに、俺の言葉を受けたソラがティカに来栖のことを報告しているだろう。


「さて、この船からも人払いが済んだ。お楽しみを始めようじゃないか!」


来栖が両手を広げて叫ぶようにそう言うと、甲板全体に奇妙な模様が現れ、その模様が不気味に発光した。


「っ……?!」


その瞬間、俺は解放された右手で、シャツの上から心臓部分を強く握らずにはいられなかった。


「う、ぐっ……なんだ、これ……っ」


全身の細胞が、何かに拒否反応を起こしているようだった。心臓は今まさに握りつぶそうとされているように痛い。その苦しさに呼吸すらも忘れ、酸素が足りなくなったのをたまに思い出し、咳き込むようにして息を吸う。視界が霞む。目に涙がたまる。


どこかで、感じたことのある痛み。


「言っただろう?俺の側はお前にとっての地獄だ」


「ぁ、ぐはっ……」


ついに俺は両手で心臓を抑え、それでも尚終わることのない苦痛に血を吐いた。


「折角お前専用の術を作り出したんだ。さあ、顔を見せろ」


来栖は楽しそうにそう言ってこちらに手を伸ばした。その手が自分の身体に触れる前に、心臓部分から右手を離して来栖の腕を掴む。この状態では力の加減など出来ず、無意識のうちに相当強い力を込める。


「ふざけ、な、……ぅぐ」


知っている。この痛みを、昔味わったことがある。

神様を撃った後、反逆者として囚われたあの時。

そう、あの時も、これと同じような痛みだった。


「華音スカラー、俺の腕を離せ」


俺は華音じゃない。どいつもこいつも、俺のことを華音だと言って聞かない。


俺が頑なに下を向いていると、収まりきらなくなった涙がぽたぽたと甲板の上に落ちていった。

いっそのこと気絶した方がまだマシだ。

俺が何もかも諦めて来栖の腕を離そうとしたその時。

突如甲板の上に巨大な影が落ちた。太陽の光を遮って、船の上に何かがいるのだ。


「あれはっ……?!」


来栖が驚愕の声を上げる。

何があったのか俺が確認する前に、誰かが甲板を歩くような音がして影がなくなった。

歩行の音に混じって、刃物で木材をひっかく不快な音が響く。それらの音は段々とこちらに近づいてきて、俺と来栖の少し手前で止まった。

……そして、


「絶対に許さない」


聞き慣れた声が投げかけられた。

俺が驚きに目を見開き、恐る恐るそちらを見るとそこには、霞んだ視界でも間違えようのない。


「……そ……ら……?」


ソラの姿があった。パーティーの警備へ行く前に選んだあの長剣を片手に持ち、それで甲板を傷つけながら歩いていたようだ。


「はぁっ……はぁ……」


俺は必死に息を整える。気付けばそこに描かれていた模様は消えており、全身に押し寄せていた苦痛の波も収まっている。


「チッ……想像以上に早いな……まさか神獣に乗って海を渡るとは……」


来栖は毒づき、ちらりと港の方を見てから俺を無理矢理立たせ、喉元にナイフを突き付けてきた。


「あのお姫様……裏切ったのか。まあいい」


半ば来栖に支えられるようにして立っている俺も、顔を上げて港を見る。


「っ……?!」


港には、たった二人を除いて人がいない。

港と言えば、様々な街から来た人が交流する場で、常に賑わっているはずなのに。現に先程まではたくさんの人がいた。


「どうして……」


港にいるたった二人の人間が誰なのか理解した瞬間、掠れてほとんど聞き取れない、か細い声が漏れた。

あれは、ヒューイとエンシェだ。二人は向き合って何かを言い争っているように見えた。知り合いなのだろうか。

思考を中断するように、来栖とソラの会話が耳に入ってくる。


「犬塚ソラ。今すぐ武器を捨てろ」


「それは無理だ。スカラーを離せ!」


「ではこう言おう。今すぐ武器を捨てないと華音スカラーを殺す」


「く……っ」


ナイフの刃が俺の首筋に触れる。しかし、俺の思考は妙に冷静だった。このまま来栖がナイフを横に掻っ切れば、確かに俺は死ぬだろう。勿論ソラにもそれが分かっており、どうすればいいのか迷っているようだった。


けれど俺は知っている。

俺が殺される可能性は低いということを。


ソラと目が合った気がした。

必死に能力を使ってソラを視ると、ズボンの後ろ側にハンドガンを隠すように挟んでいるのが分かる。

まだソラには銃の扱い方を教えていない。

それなら……。


――あれは、俺のためのものだ。


「……ソラ」


俺の声は細すぎて、ソラにも、来栖にさえも届かない。

ソラは迷った末にゆっくりと剣を下ろし始めていた。

俺は必死に声を張り上げようとする。


「ころせ……っ」


「どうした?」


反応したのは来栖の方だ。

この声はソラに届かなければ意味が無い。

俺はたった一言のために、肺いっぱいに息を吸う。


「殺せ、ソラ!」


こんなに大声で叫んだのは初めてかもしれない。吸った息を全て吐き出したその声は、今までにないほど響き渡った。

来栖が俺からソラに注意を移した時、既にソラは剣を握り直し、駆け出していた。同時にズボンの後ろに剣を持っていない左手を回し、引き抜いたハンドガンを俺に向かって捨てるように投げる。

それが俺の手に届かないよう妨害するのは、来栖にとって何ということのない簡単なことだっただろう。


しかし、妨害をするその瞬間さえあれば、ソラの剣は来栖の身体に届く。

来栖は一瞬でそれを見極め、俺を甲板に突き飛ばすように離した。


「いっ、た……」


来栖に乱暴に離された俺は、背中や肩を甲板に強く打ち付ける。ハンドガンは手を伸ばせば届く位置に落ちており、それを取りながら顔を上げると、来栖が短いナイフ一本でソラの長剣を受け止め、勢いを利用して受け流しているところだった。


力や技能の差があるのは一目瞭然だ。


俺は、拾った――あるいは渡された――ハンドガンを来栖に向けて構えた。やはり視界は霞んだままであり、いつものように狙い通り弾丸が命中する可能性は低い。


「たのむ……!」


神様を殺した俺が、今になって神に祈るなんておかしな話だ。

引き絞ったトリガーは、今までから想像もつかないほど重かった。

小さく火花を散らして、乾いた破裂音と共に発射された弾丸は、来栖の背中を掠めて海の向こうへと消えて行く。


――これでいい。


ハンドガンの音によって、一瞬だけ作られた来栖の隙。

甲板の上では、その隙をついたソラが来栖の手の中からナイフを跳ね上げていた。


俺は、ゆっくりと瞼を閉じる。


青色のはずのソラの目が、金色に輝くのを見た気がした。

こ!ん!に!ち!は!

さ!く!しゃ!で!す!

気付けば、この小説を連載し始めてから一年以上が経過していました。時の流れって早いですね、怖いですね。

まさかここまで連載が続くとは思っていませんでした(←オイ)。

連載が続いているのは、確実に読者様のお陰です。

お読みいただき、ありがとうございます。本当に感謝しています。

感想やダメ出しなど、いつでもお待ちしてますので、今後ともよろしくお願い致します。

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