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後悔コレクト

カヤ「ちょっと!私の出番も下さいよ!」

ヒューイ「お前がいると神獣の描写が増えて面倒いらしいぜ」

スカラー「それにカヤとソラがいると騒がしさのビッグバンが起こるんだと」

鳳は、ただの貿易商人だった。


俺がそのことに気付かされたのは、彼が呆気なく弾をくらい、床に倒れた時だった。


鳳はパーティ会場が混戦になる前に一人で抜け出し、同じ建物内に備え付けられている倉庫へと走り込んだ。

その倉庫はパーティ会場にも負けないくらい広く、あちこちに棚や積み上げられたコンテナがあって簡単に身を隠せそうだった。

窓はないため薄暗く、当たり前のように埃っぽくて、それは俺にとって不利な環境を充分作り出していた。


だから、おびき寄せられたのだと思った。


きっと、鳳はすぐにどこかの棚かコンテナに身を隠すだろうと思った。


しかし同時に、隠れられる前に殺せばいいとも思った。


だから俺の指は、鳳がどこにも隠れようとしない異変に気づく前に引き金を引いた。


「お前は本当に鳳なのか」


弾丸を食らって足から血を流している鳳は、自分の力で近くの棚まで這いずるように移動してもたれかかった。


「嘘は言ってない」


「じゃあ何故俺に抵抗しない」


上級貴族を敵に回すようなことをしておいて、この場所まで抜け出してきておいて、何故。


「君が私のことをどう聞いているのか知らないが」


鳳は何を思ったのか、そう言いながら撃たれた足の方のズボンを破き始めた。太ももの真ん中辺りまで破くと、着弾した場所が見えるようになる。


「……っ!」


その足を見た俺は、戦慄せざるを得なかった。


そこには一切の傷がなかったから。先程まで溢れていた血の跡はあったが、傷口は見当たらない。


「私が君達にした依頼は、私を殺して欲しいというものだ」


「は……?」


自殺の手伝いを依頼した、ということなのだろうか。

ティカをこのパーティへ無理矢理呼んだのが依頼ではなかったのか。


「私は、自分の身体をすぐさま完璧に治癒させる異能を持っている。簡単には死ねない」


「どうして死にたいんだ」


「来栖という男を知っているか?私の護衛だ」


「ああ。そいつに会場の警備を依頼された」


と言っても、共に警備をしていた兵士があの様子では、既に来栖も怪しい。


「実は護衛などではない。彼は私より偉い立場の人間だ。私は雇われた貿易商人に過ぎない」


まさか。


「これは全て来栖が仕組んだことだ。一人でも多くの貴族を一箇所に集め、自分の敵組織を装った仲間に拉致させそうとした」


もし鳳が生きていて、来栖が何食わぬ顔でいれば。

上級貴族たちの目には、鳳が悪者として映るだろう。

自分たちを呼び寄せ、騙そうとしたのは鳳だと、会場にいた全ての貴族がそう思うだろう。


「本当、なのか」


自分でも驚くほど低い声だった。


「本当だ」


ふざけるな。

それが本当なら、ソラは。

俺の指示で来栖を探しに行ったソラは。

……今頃。


「……お前が死んでも、来栖が罰せられるとは限らないぞ」


「それでもいい。貿易商人という手駒が消えるだけでも意味があるのだ」


――鳳を殺してください


これが、本当の依頼。


――くれぐれも、間違いの無いように


犯してはいけないのは、誰にとっての間違いなのか。


「さあ、私を殺せ」


鳳は迷いのない目で俺を見る。

こいつを殺すなら一発で殺すか、それが出来ないなら連続して弾丸を撃ち込むかしかない。

更に迷っている時間はない。

俺は、ハンドガンの銃口を鳳の額に向けて構えた。


俺の中にざわざわしたものが生まれる。


「……無心でいられない殺しは初めてだ」


弾丸は、乾いた音と共に鳳の額を貫いた。

埃っぽく淀んだ倉庫の空気と、よく分からない嫌悪感で吐き気がした。


その空気から逃げるように、その嫌悪感を忘れるように、俺はすぐさま鳳の遺体から目を背け、ソラを探した。


――また現実から逃げるのか


俺の視界には、建物全体が入った。あまりにも広い場所だったり、犬塚邸のように何らかの工作がされていれば全体が見渡せない場合もある。けれど、今回は普通に全体を視ることが出来た。


勿論そこにはパーティ会場も入っており、騒ぎは収まっているようだった。

というのも、その部屋には既に人がいない。ティカも、ヒューイも、シンも。


護衛部は、パーティが終われば仕事も終わるはずで、もう屋敷に戻った可能性もある。


しかし。


「っ……」


その三人は、パーティ会場の一階下、俺がいる階の一階上の廊下に揃っていた。


……ソラはどこにもいない。


俺の身体は、それを確認するとほぼ勝手に動いた。


倉庫を出ると澄んだ空気が肺に流れ込み、一気に身体が楽になる。


階段を駆け上がり、ティカたちを見つけて走り寄ると、全員が真剣な表情をしていた。シンからは殺気さえ感じられる。誰かが何かを言う前に、ティカが腕輪を通して発言した。


『鳳はどうしました?』


「殺しました」


『では、依頼は終わりですね』


――帰りましょう


そう続きそうな言葉だった。実際、ティカはそう言いたかったのだと思う。

しかし、依頼が終わったというのにこれ程重い空気なら訊かずにはいられない。


「何かあったんですか。……ソラは、どこに行ったんですか」


鳳の本当の依頼は、自分を殺して欲しいというものだった。どうしてもティカにもパーティへ参加して欲しいという依頼は、来栖への忠誠を明らかにするためのカモフラージュだったのだろう。

出来るだけ多くの貴族にパーティへ参加して欲しかったのは、本当は来栖の方だ。彼の依頼は、パーティ会場の護衛だった。何者かが鳳の命を狙って会場を襲うかもしれないから、と。更に、護衛は現地にいる兵士と共に行って欲しいとのことだった。しかし、実際に何者かが会場を襲った時、兵士は使い物にならず、寧ろ俺達の動きを阻害しようと見張っているようだった。会場を襲った何者か分からない集団は来栖の仲間で、その集団に貴族を拉致させようとした。

そうすれば、表向きの悪者は来栖ではなくあの集団になる。

護衛の依頼をしたのは、自分がちゃんと会場の警備も強化していたという証拠が欲しかったからか。


「スカラー、ソラは……っ?」


ヒューイが俺を見て話そうとするが、ティカに服の裾を掴んで止められる。ティカの顔には、いつもの微笑はなかった。


『来栖の目的は貴方です』


「……は?」


ティカが何を言いたいのか分からなかった。

来栖の目的は貴族の拉致だと、鳳が言っていた。

あれは嘘なのか。

一体何が本当なのか。


俺の目は、現実のみを視るくせに、真実を視れない。


『ソラは攫われました。シルヴァと連絡を取って確認したので確かです。居場所も特定済みらしいので、すぐ助けに行けます』


それでも、すぐ助けに行こうとしていないこの状況は。

来栖の目的が俺だからか。


「何故、目的が俺だと分かったんですか」


何故、俺の命をそんなにも守ろうとするのですか。


『ソラに端末を渡したままだったでしょう? ここに落ちていました』


ティカはそう言って俺に端末を差し出した。

俺がそれを受け取って画面を見ると、受信したメールが開かれていた。


差出人はシルヴァと書いてある。


『見た通り、シルヴァから届いていたメールです。読んでください。全てそこに書かれています』


そこに書かれていたのは、先ほどティカが述べた、ソラが攫われたこと、その居場所、来栖の目的が俺であることについてだった。

ソラの居場所は廃工場らしい。


そして、最後に書かれていたのは。

これらの情報をこんなに早く得られた理由。


パーティ会場脱出時に来栖と鉢合わせして話したから、という文章だった。


「話した……?」


『本人から聞いた話だということでしょう』


それをわざわざ俺達に知らせたという事は、この情報は裏付けされていると考えていい。

だから、来栖がシルヴァに完全な嘘を吹き込んだとも言えないということで、ソラを助けるならこれを頼りにしろということなのだろう。


ここまで、分かっているのなら。


「スカラー、行ってはいけません」


「っ……?!」


何故。

ソラとシンを助けておいて、言霊を使って今更助けに行くのはダメだと言うなんて。


頭の中で、ティカの言葉が何度も反響する。


間違いの無いように。

ソラを助けに行ってはいけない。


犯してはいけないのは、何に対しての間違いか。

ソラを助けに行くのは、間違いなのか。


行ってはいけない。


来栖の目的が俺だから。

何故かティカは俺の命に過保護だから。


――大丈夫、貴方は死なないわ


俺は。


「……俺は死にません」


絶対に、死なない。

来栖の目的が俺でも、来栖がどれだけ強くても。


「行かないといけない気がするんです」


俺は、感情を捨て、本能を隠して、そうやって生きている貴族が嫌いだ。


ティカ、ヒューイ、シンの三人に背を向けた俺は、シルヴァから端末に送られてきた座標位置に向かった。


自分にかけられた言霊も忘れて。

言霊の有効期限は……。

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