転章 ALL complete2
カヤ「肝試し行きませんか?!」
スカラー「俺パス」
ヒューイ「俺もパース」
シルヴァ「私もパス」
スカラー「ソラシン連れていけ」
カヤ「二人揃って逃げそうなので嫌ですー!」
それは、たった一つのミスだった。
「二度とこの家の敷地に足を踏み入れないでちょうだい」
その声は廊下まで響いた。
知っていた。
こうして、俺は偶然にも聞いてしまったから。
あの金髪の少年が、この家の住人に嫌われていたことくらい。
何度も追い返されては、懲りずにまた訪ねてきていることくらい。
知っていたのだ。
「……」
俺は、その少年を助けずにずっと視ていた。
いつものように俺の家を訪ねてきて、使用人に無理矢理追い返される所を。
たった一人の友達だったはずなのに。
だから、これはミスだったのだ。
俺は確かにあいつが好きだった。
お姉様の次には好きだった。
――けれど、上級貴族は捨てられなかった。
下級貴族だったその友達を、俺が助けることは出来なかった。
今まで完璧を強いられてきたなら尚更。
「華音様?どうなさいましたの?」
俺が廊下に隠れてその様子を視ていると、後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには金髪縦ロールの女の子が不思議そうに立っていた。
「……エンシェ」
「華音様、何だかお顔が優れませんわ。お部屋に戻りましょう?」
「ああ」
その日、エンシェは楽しそうに『神様』について話してくれた。
王城には神様と呼ばれる人がいて、善意に基づくものであれば、何でも願いを叶えてくれるのだという。
「本当にそんな人がいるのか?」
「ええ。数日前にお会いしましたもの」
見て見ぬふりをした現実は。
翌日。
俺の目の前まで迫っていた。
朝起きると、屋敷の前にあった下級貴族の家がなくなっていた。家だった物の残骸と、焦げを残して。
そこにはまだ兵士や近隣住民が集まっていて騒がしかった。
火事が起きたのだということは一目瞭然だった。
家は全焼。住んでいた下級貴族の遺体はなかったそうだ。
しかし。
――その家の住人は全員死んだ
その時の火事で死んだ。
住人の誰ひとりとして連絡がつかなかったことが理由として挙げられた。
その日を堺に、あの金髪の少年は来なくなった。
もう懲りたのだと思った。
これは、たった一つのミスだった。
たった一人の友達を失った俺は、静かに腐っていった。
気がつけば。
「お父様、お母様、もうエンシェには会いたくありません」
俺は。
「もうこんな縛られた生活は嫌です」
友達を見捨ててまで守った上級貴族という立場を。
「スラム街の方が余程自由だ」
自ら手放した。
上級貴族としてどの貴族からも敬われていた華音家は、常に完璧であるため、俺という汚点をなかったことにした。
俺は地下の空間に閉じ込められた。
一切の食事もせず、そのままここで死ぬのだと思っていた。
お父様やお母様、それに使用人が、俺が消えたことを世間にどう説明したのかは分からない。けれど、彼らの言ったことを誰もが信じただろう。
この空間へ俺を連れてきて、ドアの鍵を閉めたのはお姉様だった。
「辛いことがあるなら祈りなさい。神様はきっと助けてくれる」
だから最後に聞いたのは、お姉様の声だった。
「貴方の友達の名前は天園ヒューイ」
そう言われて、俺は友達の名前も知らなかったのだと思い知らされる。
どうしてお姉様はあの少年の名前を知っていたのだろう。
ドアの向こうに消えていくお姉様を見ながら、俺は思い出していた。
あの日、エンシェが教えてくれた神様と呼ばれている人の外見を。
茶色の髪で、赤い目をしていたという言葉を。
お姉様の髪色と目の色は。
「お姉、様……?」
――神様なんて存在するなら
――何故今すぐ俺を救ってくれないのか
何がミスだった?




