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階級フェイト8

ヒューイ「あ、シルヴァ」

シルヴァ「あら、貴方誰だったかしら」

ヒューイ「名前くらい覚えて?! ねえ?!」

シルヴァ「冗談よ」

ヒューイ「冗談に聞こえねぇ!!」

「お前の家に何があったのかは知らない」


向けられた銃口を恐れる素振りも見せない犬塚の話し始めはこんな感じだった。


「何があって貴族を追放されたのかは知らないが……国がお前を必要としている」


「国……?」


「そうだ。国王がお前と引き換えに多額の金を提示した」


国王。俺の記憶上では会ったことがない。何故今更俺が必要なのだろうか。異能者なら他にもたくさんいる。わざわざ貴族を追放されたような男をもう一度連れ戻して何をしたいのか。


「お前の力は周りに知れている。無闇に捕まえようとする一般人はいないだろうな」


いつから国王がそんな勧告を出したのかは知らないが、今まで誰にも意味わからず襲われることがなかったのはその為か。


「だが、本当の理由はそうではない。一般人は、国王の言った男が、お前だと気付いていないのだ」


「は……?俺を知らずに俺を探しているってことか……?」


「国王はお前の幼少期の写真を出したが……」


犬塚はスッと目を細めて俺を見る。いや、正確には俺の瞳を見る。


「そんな冷たい目はしていなかった」


そりゃあ、世界を知っていくにつれて純粋な色は誰でもなくなっていくものだろう。ヒューイのように、嫌な感情を捨てて生きていけない限り。


「貴族だったお前のことは貴族しか知らない。追放したお前に会いたい貴族なんているだろうか」


犬塚は俺の瞳を見たまま続ける。


「あの写真は幼すぎる。平民はお前を特定出来ない」


何だか俺の方が居心地が悪くなって目を逸らした。


「それに、一番の問題は……国王はその幼い彼の名前をこう言った」


銃を持つ指が震えた。俺は国王がその名前を何と言ったのか知らない。けれど、聞いてはいけない気がした。聞いてしまったら、都合よく積み重ねたものが壊れ始めてしまう気がした。今すぐ犬塚の話をやめさせるべきだ。そう思ってはいたけれど、震える指はそれ以上動かなかった。


「華音スカラー、と」


華音(かのん)といえば、連想されるのはただひとつ。赤ん坊でもない限り、誰だって知っているだろう。

四年前。まだティカが率いる組織のことを知らなかった頃、俺が殺そうとした相手の名字は華音だった。その相手は、人々から愛され、頼りにされ、誰もが足元に跪いてこう呼んだ。


――神様。


「何の、冗談だ」


「冗談ではない。俺は華音スカラーに会ったことがある」


犬塚は本気で言っているようだった。大真面目な表情で続ける。


「お前とそっくりだった。瓜二つだ。その瞳を除いて」


これが、偶然だと思うか?

犬塚の言うことが本当だったとしたら、偶然なんて言葉では片付けられないだろう。瓜二つというまでに似ていて、下の名前も同じだなんて。有り得ない。だが有り得ている。


次の犬塚の言葉は、俺を混乱に押し込むには十分だった。


「……お前は、誰なんだ」


塔楼スカラー。それが俺の名前だった。それ以外の名字を持っていた記憶はない。だから、神様と同じ姓を持つ華音なんて、そいつは、


「っ……別人だ」


俺の喉から発せられた掠れた声に、自分でも驚く。


「華音とそっくりな俺を見て、お前は同一人物だと思ったかもしれない」


だが信じない。信じられない。


「だがそいつは、俺とは別人だ……!」


だって、信じたくないだろう?

幼少期の頃が何も思い出せないなんて。親の顔も、どうやって過ごしていたのかも、自分が本当に塔楼家に生まれたかどうかも。

俺が覚えているのは、上級貴族の家に生まれて、ずっと部屋からスラム街を羨望の目で見ていたこと。親にそのことを告げると痛めつけられたこと。家を抜け出して、神様を殺そうとしたこと。


「こんなに似ているのにか?」


「うるさい……!」


もう聞きたくない。銃を持つ指に力が入る。それを意識する余裕もなかった。俺はそのまま引き金を引き、いくら動揺してもぶれない銃口から発射された弾丸が犬塚の脳を貫くはずだった。はずだった、ということは、そうはならなかったということだ。俺がミスったからではない。弾丸が発射される直前、犬塚の後ろ、犬塚邸の方から叫びとも咆哮ともとれるような声と共に、少年が飛び出してきたからだ。


「うおおぉらぁッ」


その飛び出してきた少年は、迷わず犬塚の方へ猛ダッシュするやいなや回し蹴りを放った。いきなりのことで反応が遅れた犬塚は急所を外すのが精一杯で避けられず、少年の脚をくらいながらも少年を巻き添えにしてもつれ合いながら庭にぶっ飛ばされた。


「ソラ……っ」


「元気すぎて手に負えねぇよ……」


犬塚邸の玄関から、心配そうなシンに続いて、疲れた様子のヒューイが出てくる。その服は所々赤黒い血で汚れていた。

……返り血か……?誰かと戦ったのだろうか。もしかしてここで犬塚邸を透視した時に見えた女と。


既に夕焼けは終わっていて、空は紫色だった。


「ソラ!!」


俺の意識を完璧に現実に引き戻し、冷静さを取り戻したのは、シンの叫び声だった。犬塚を蹴飛ばしたのはソラで間違いない。しかしその勢いが止まらずに一緒に飛ばされてしまって足を捻ったのか、立ち上がるのに時間がかかっていた。一方犬塚の方には大した怪我がなかったようで、ナイフを持ってソラに迫る。


「ッ……」


俺は反射的にそちらへ銃口を移し、一気にトリガーを引き絞った。乾いた音と振動と共に超高速で飛来した弾丸は、狙いを逸れることなく犬塚の手――ではなくナイフに命中する。流石にその衝撃を受けてナイフを握り続けるのは困難で、手から離れたナイフは犬塚邸の方へ弾けとんだ。

俺の腕は自然とそこからわずかに動き、照準を犬塚の頭部に移した。ソラが犬塚邸から出ている以上、犬塚が抵抗するようなら依頼達成を確実なものにするには、殺すしかない。というか、殺すのが手っ取り早い。そして、ナイフを吹っ飛ばされた犬塚は降参のポーズをとらず、ベストの内側に手を入れた。


「ッ……」


あれは別の武器を取り出すための動作だ。そうでなかったとしても、その可能性があるなら潰すべきで、そう間違われる行動をとるなら抵抗と同じだ。

しかし俺が指に力を入れた瞬間、またしてもそれ以上の動作を、立ち上がったソラの大声が遮った。


「待ってくれ!」


……え。

これは恐らく犬塚か俺への訴えだ。けれど自然と全員が動きを止める。


「……俺がやる」


「ソラ……?」


そう言ってシンから予備のナイフを受け取るソラに、疑問の声を漏らしたのは誰だったか明確ではない。


「こいつは……オレの父親なんだ」


その告白ひとつで、息が止まるほどの戦慄を覚えた。

……ソラが何を言っているのか分からなかった。


「ソラ、僕も」


「なんだ……お前らまだ逆らうのか……」


シンがソラの隣に立ち、犬塚が懐から取り出した新しいナイフの背を指でなぞる。

依頼に出る前に、シンの強さを見ていた俺は銃口を下ろした。ホルスターに差し込んで、自然とヒューイの顔色を伺う。


ヒューイは家族が大好きだった。以前本人が言っていたのを聞いたことがある。他から見たら幸せではなかったかもしれないけれど、それでも自分にとっては大好きな家族だったのだと。……自分でも幸せだったとは言わず。

ヒューイは目の前で行われている親子の対立から目を逸らし、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


しかし、依頼主であるシンの命に決定的な危険が迫らない限り、俺にもヒューイにも彼らを止めることは出来なかった。


犬塚は、俺とヒューイが加勢しないのを好機と見たのか、ナイフを気だるげに持って双子に襲いかかった。



1


……鈴霧。


目が眩むほどの照明に照らされただだっ広い部屋で、鈴霧と呼ばれた人物は馬鹿デカイ窓の外を見ながら悠長に紅茶を飲んでいた。部屋の中は薬品の臭いで満たされていたし、窓から絶景が見えるわけでもなく、お茶をするような場所ではない。


「ああ、来ると思っていたよ」


鈴霧は愉快そうに笑みを浮かべ、窓の外から視線を外さずに言った。遠くの方、ちょうど東側の貴族街の辺りで、目を凝らさなければ分からないくらいの赤い光が瞬いた。


……あれは何?


「見た通り、魔法陣の光さ」


そういうことを訊いてるんじゃないわ。何故魔法陣が使われているのか、ということよ。


「ボクは種を与えたんだ。まさか本当に我が物にしてしまうとは思ってなかったな」


やはり、あれはお前の仕業なのね。


鈴霧は冷徹な視線を受けても動じた様子を見せず、近くの机から椅子を引っ張ってきて座った。背もたれに体を預けて足を組む。


「でも、よかったじゃないか」


……?


「キミの弟は、間違いなく優秀なやつだったようだ」


っ……!私の弟を研究に使うなと言ったはずよ。


「これはキミの意思だよ。確かめたかったのはキミだったはずだ」


……お前が知ったような口をきかないで。私がいつそんなことを頼んだというの。


「確かにそうだね。申し訳ない」


反省の色は全く見えなかった。楽しそうに窓の外を眺めていた鈴霧は、空になったカップを手の中でくるくると回して弄び、ふっと笑を消して虚空を見つめた。


「彼を救っているのは、他でもないキミだ」


鈴霧にしては珍しく真面目に話す。


「いつまで彼を生かし続けるのか、そろそろ考えてみてはどうだろうか」


哀れむような漆黒の瞳をした鈴霧と目が合った。

真実はどこにもない。

誰も知らないのだから、誰かが知る可能性もない。

強いていうならば、神のみぞ知る……。

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