理由と説明と木の扉
異世界に行く理由と色々な説明です。
御都合主義
「異世界…とな?」
「はい」
63歳である源三郎に異世界とか言って通じるのかと聞かれれば答えはイエスである。
実は源三郎、若い時は漫画やケータイ小説、ライトノベルなどなどを読み漁っていた過去があり、異世界転生ものとかも何度か読んだことがあった。
最近はあまり読んではいなかったが剣と魔法の世界などに憧れたあの頃は目を瞑れば今でも思い出すことが出来る。
箒に跨がったり呪文を唱えてみたり思えば馬鹿なことをしていたものだ。
だが、そんな過去があるからこそ源三郎は神様の話をすんなりと受け入れる事が出来た。
「…なんで儂なのだ?」
「抽選の結果です」
「ちゅう…せん…?」
「そうです」
誰しもが死後異世界に行くわけではないだろうと感じた源三郎は自分が行くことになった理由を問うたが、その理由はまさかの抽選であった。
それを聞いたときの源三郎の顔は異世界に行けと言われたときよりも間抜けである。
それもそうだろう。
並々ならぬ理由があるのだろうと構えたのに、蓋を開けてみれば唯の抽選結果だったのだから。
「100年に一度、異世界同士は交流の為に自分の世界の人間を1人他の世界の人間と交換するのです。ですが、自分の世界の人間を異世界に送り込むとなると生者では色々と問題が生じますからね。死者の方に抽選で行ってもらうようにしてるんです」
「向こうの世界でなんかせねばならぬ事とかはあるのか?」
「特にはありませんが…異世界に送られた死者は肉体を持ちません。なので、器となる肉体を向こうの神が用意するのです。その際、器となる肉体には魂が入っていない状態でなければいけません」
「…つまりどういうことじゃ?」
なんとなく分かるような分からないような曖昧な神様の説明に源三郎は眉間に皺を寄せる。
言いにくいのか神様は源三郎の言葉にあーだのうーだの唸っている。
「えー、つまり…肉体も一回死んだ身体を使います」
「…転生ではなく憑依のようなものかの?」
確かそんなようなゲームをやったことがある気がする。
死んだ主人公が不慮の事故で亡くなった別の人間の身体に入り人生をやり直す話だ。
「まあ、簡単に言えばそうです」
「ふぅむ…なんじゃめんどくさそうじゃのう」
折角の新しい人生だ。
色々人間関係から築いていこうと考えていたのだが、この場合人間関係は既に築かれているだろう。
他にも問題が多そうである。
「すみません…健康な肉体は約束致しますので…」
「んー…まあ、ええじゃろ。行くことにしようかの!…というかどうせ拒否権ないのではないか?」
問題は多そうだが、新しい人生を歩めるチャンスがそこに転がっている。
しかも、昔憧れた異世界での生活だ。
問題があるからとチャンスを捨てるのは勿体ないと源三郎は感じた。
源三郎の最後の言葉に神様は苦笑で肯定した。
異世界には今すぐ行くらしく、真っ白でなにもなかった空間にポツンと木製の小さな扉が現れた。
普通ここはもっと神秘的な扉じゃないのかと内心源三郎はツッコミを入れながらひんやりとしたドアノブに手をかける。
ふと、後ろを向くが相変わらず神様の姿は見えない。
だがなにも言わずに行くのもあれである。
それに久方振りの話し相手であり、僅かな時間であったが源三郎は人と会話する喜びを思い出させてくれた神様に感謝していた。
「じゃあの。…ありがとうな神様よ」
短くそう言うと源三郎は扉を開きその中へと入っていった。
源三郎が扉の向こうへと消え、扉が閉まると再び扉はその姿を消し、元の白い空間だけが広がっていた。
異世界に行く理由のこじつけ感が半端ない。