爺と神様と白い部屋
最近書いたものです。
亀更新でゆっくりのんびり進んでいく予定です。
ストック全然ないのに投稿して大丈夫か私。
「おや?どこじゃ此処は…」
部屋で寝ていたはずなのだがポツンと真っ白い部屋に儂は立っていた。
まだ夢の中なのだろうか。
だとしたらこれは明晰夢?とかいうやつなのだろうか。
60年程生きてきたが初めての経験だ。
顎に生えた髭を触りながら自分の置かれている状況に思考を巡らせているこの男は名を杉崎 源三郎といい、年齢は63歳である。
もう高齢と呼ばれるような歳なのだが未婚であり、一人暮らしであった。
そう、一人暮らしだったのだ。
「人間…聞こえますか」
ふと耳に聞き覚えのない声がして髭を触る手を止めキョロキョロと周囲を見回すが誰の姿もなく源三郎は首を傾げた。
「誰じゃい」
「私は貴方達人間のいう神という存在です」
「ほぉ、神様か」
源三郎は呟くように言葉を発すると再び髭を触り始める。
これは源三郎の考えるときの癖であった。
「…となると、これは夢ではなくお迎えかの?」
それは疑問系であって疑問系ではなかった。
答えが分かっている疑問系というやつである。
なので疑問というより確認という方が正しいだろう。
そう、源三郎は既に亡くなっていた。
死因は熱中症。
夏だったため暑い日が続いていたのだが、高齢だった源三郎は感覚機能が鈍くなっており、それほど暑さを感じてはいなかった。
結果、熱が籠もった室内に長時間居たことと水分をこまめに取らなかった事により熱中症が引き起こされた。
誰かしら同居人が居たら救急車を呼ぶなり保冷剤を身体に挟むなりして対処してくれたかもしれない。
しかし、先述したように源三郎は一人暮らしであり、対処してくれる人は居らず、文字通り眠ったまま目を覚ますことはなかった。
源三郎の確認に神様は一言「はい」と答えた。
確認を終えた源三郎はやっぱりなという感想で悲しいとか辛いとかはない。
63年生きたのだ。
確かに平均寿命まで生きれてはいないが源三郎はそこそこ満足だった。
悔いていることと言えば確かに一人暮らしは楽だったが、家族というものを作りたかったなということ位だ。
さて、自分が死んでいることを理解した源三郎だが、新たな疑問が生まれた。
それは何故自分が今この場に居るのかということだ。
「儂はこれからどうなるのだ?」
素直に神様に対して疑問を投げかけた。
死後の世界というものがどういうものなのかよく分からないが、ずっとこの世界に一人ぼっちという訳でもないだろう。
というよりこんな白だけの世界にずっと一人だけというのは精神が崩壊しそうである。
もう死んでいる為死ぬことも出来ず永遠に一人きりというのは…拷問といっていいだろう。
「そうですね。貴方を此処に呼んだ理由をお話しましょうか。
…貴方にはこれから異世界に行っていただきます」
「……………ひょ?」
神様の言葉に儂は変な声を出して硬直した。
読んで頂きありがとうございます。