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そして俺はグリズリーと名乗った

「それで、状況を説明してもらえると有難いんだが」


 泣き止んだ少女とどこかくたびれてしまったカエルのぬいぐるみの正面に立ち俺は説明を求めた。


「それはオレっちが先に聞きてぇんだが、なんでまたお嬢は泣いてたんだよ」


 典型的なアマガエルのような色合いの細身のカエル、頭に王冠を乗せ、首にはヒーローみたいな赤いマフラーを巻いてたりする、見様によっては少しかっこいいと思えた。


「そ、それはね、私がこの子を呼んだんだけど、この子がね、生まれる前の魂だったって言うから……私この子の人生を奪っちゃったんじゃないかって、思って……」


 それを聞いたカエルが「あちゃー」と言った感じで顔に手を当て天井を仰ぎ見る。


「そりゃー、ま、やっちまったもんは仕方ないって、いずれこうなる時が来るかもしれないって母ちゃんが言ってたじゃないか、やっちまったもんはどうしようもないって」

「でも、でもっ……」


「困ったなー」と言いつつ再び泣き出した少女をあやすカエル。

 俺はまずどうするべきかを考えた――――気にはしていない、これはまず伝えるべきだと思う。


 確かに俺は転生前の魂だったんだと思う、だがそれだけだ、どこの誰のとこに生まれるとか決まっていた訳じゃないしそれを邪魔されたからといって目くじらを立てる必要はない。

 むしろこのまま転生すれば俺は俺ではなくなっていただろう……どの道名前は思い出せないが、別の世界の知識なんていうものも多分失われていたんじゃないだろうか。


 あの神様? は俺の知識で世界を変えろとか言っていたけど俺はそれを出来ないと断ったからな、できないのなら無駄に知識を持っていても邪魔だならば、消してしまおう……あの神様ならやりかねないと言う不思議な予感があった。


 今、熊のぬいぐるみとして昔の知識がなんの役に立つか分からないが、無いよりマシだとは思えている。

 ならばだ、俺は俺であるためにこの子に付いていかねばならないだろう、それならば早いうちに打ち解けておかねばならない。


「あー、ゴホン。……とりあえず俺の名前は『グリズリー』でいいや、そっちのカエルとお嬢さんの名前をとりあえず教えてくれないか? 転生を邪魔された事については怒ってないからな?」


 そう言ってやると少女は「ほんと?」と言って泣き止んだ、カエルもホッとしている。


「コホン、それじゃあ改めて、私は、アリシア、こっちのカエルがアーノルドで……私は人形使いっていう職業なんだけど、最近お母様が死んでしまって、お母様が生前大事にしていらした熊のぬいぐるみを媒体に新しい人形をその仲間にしようと思ったのだけど……」

「それが俺だったと……それで、君が俺のマスターな訳か?」


 マスター、ご主人様、主、うん色々呼び方はあるだろうが、俺としては横文字の方が言いやすい、というかマスターとか店主的な意味合いで生前よく喫茶店とかで言ってた気もする。

 ご主人様とかそういう言い方には少し抵抗感があるしな、マスターでいいだろう。そう思ってた時が俺にもありました。


「アリシアで構いませんよ、仲間といってもどちらかといえば家族みたいなものですから……アーノルドは生前が変わったお仕事をしていたというのであんな呼び方をしてますけど他のみんなは普通にアリシアと呼んでくれますし」

「そうか、ならアリシア……俺はこの世界のことはよく知らないから今後共よろしく頼む」


 俺はぺこりと頭を下げた、ぬいぐるみならではの柔軟さで俺の頭は床について、それから一回転……アリシアが上から覗き込んできてそれが無性に恥ずかしかった。


「ふふっ、こちらこそよろしくお願いしますね」


 とアリシアが言い終わると、カエル……確かアーノルドだったかが俺に絡んできた。


「ようよう、新入りぃ、てめぇお嬢が気を許したからって俺は認めていないんだからなっわかったら俺のことは『兄貴』か『先輩』って呼べよな」


 カエル兄貴、カエル先輩……んー先輩の方がいいな、つか兄貴とかってなんか堅気の人間じゃないっぽいっていうのは俺の偏見だろうか?


「そうか、分かった『カエル先輩』」

「カエルじゃねぇ! アーノルドだっ」


 カエル先輩の右ストレートが俺の顔面にめり込む。


「もうっアーノルドったら……大丈夫? 怪我はない?」

「いや怪我はないっていうか人形なのだからそもそも痛くも何ともないだろう?」


 俺は顔を手で挟み揉みほぐすようにして、変形……は流石にしていないだろうけど顔を元に戻した。


「痛くなかっただと!? オレっちの渾身の一撃が!」

「変ですね、私の人形は五感とかそのへんはちゃんと備わるようになっているんですけど」


 となると……『物理無効』か、確かそんなこと言ってた気もする、確かに無効、全然効いて無いが。


「そこら辺はこのぬいぐるみが特別って事だろう? アリシアのお母さんがずっと大切にしていたって言うぐらいだから」


 だから、なんだって思ってはしまうが、チートとか言わないほうがいいだろうし。


「そうですね、確かにグリズリーの体になっている物はちょっと特殊でマジックアイテムで口の中に物を入れられるようになってるんです、それも無制限に」


 所謂四次元なんとかーみたいな袋を内蔵しているということらしい、その袋自体破壊不可能らしいからぬいぐるみの部分である俺も破壊は出来ない、そういうことにしておいた。


「とりあえず、他のみんなも紹介しますね」




 そう言ってアリシアが扉を開くと、そこには人形たちが忙しなく動き回り家事を行っていた……まさに人形屋敷という感じだった。

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