『悪魔の取引』
この世界にいきなり悪魔がやってきた。
しかし、悪魔がやってきたと言っても世界が滅ぶわけでも無く、ただ商売にやってきたそうだ。
悪魔達は言った。
『あなたの欲望、買い取ります!』
なんだか怪しいリサイクルショップのような文句の上、扱っているものが更に怪しさを増している。
だが、悪魔達の言っていることは本当であった。悪魔達に電話なりメールなり、あるいは手紙でも送れば立処に目の前に現れ査定と買取を行ってくれる。
最初怪しんでいた人類だがやはりというべきか当然というべきか勇敢と無謀を履き違えたような人種が現れ、欲望を売りに行った。
結果は驚くべき物だった。彼(あるいは彼女)は大金を持って帰ってきたのだ。
この結果に「悪魔達は世界を滅ぼしにやってきたのだ」や「神は言っている、悪魔達を浄化せよと」等と言っていたリアリストあるいはイデアリストたちは声を小さくするほかなかった、なぜなら彼らだって生きている以上金は欲しいのだから。
そして意外な事に聖職者達は欲望を売り払うことをむしろ推奨し始めたのだ。それもそうだ、大概の宗教では「禁欲的であれ」等という非現実的なことを言っていたのだ。しかし、皮肉にも悪魔達(その頃になると聖職者達は手のひらを返し悪魔ではなく天が遣わした存在であると言い始めていた)の手を借りることによって実現がひどく簡単になったのだから推奨するのも当然だ。
他にも、重度の喫煙者や糖尿病患者、ダイエットに挑戦する人等など様々な人に歓迎された。
なにせ今まで我慢するだけだった欲望を、売ることによってお金に変えられ健康にもいい。やらない奴は本当は健康になる気はない! とまで言われた。
更には国が刑罰として採用し始めたところもあった、特に性犯罪者等に執行し性欲をなくしお金は国の物とする。犯罪者以外からは文句が出ない素晴らしい刑罰とされた。
結果、悪魔が来てから世界は平和となり争いのない世界が生まれた。
「ふぅ、もうこの世界で買い取るものもなくなってきたかな」
悪魔達はそう言うと次々と消えていった。
しかし。世界はどうなったかというとそのままだった、いや更に平和になった。
人々の欲求がなくなったため、働かなくなり。子供も生まれなくなった。
人類はほとんど姿を消した。
そして最後に残った人たちはこう言った。
「ただでくれないんなら、いらないよ」