03) 寝起きなのね。
(今……何時だ?)
普段なら目覚めは良い方なのに、今日は特別体が重い。
昨日か一昨日にでも激しい運動でもしたっけ?と思いつつ身体を動かす。
(あ、あれ?うおおお??)
思う様に身体が動かずに焦る。
動けない事が怖くなったので、神経を集中して手足の感覚を探ってみると、ちゃんと五体は満足のようだ。
(何があったっけ?)
徐々に記憶が蘇る。光るマンホールやキンキン罰ゲームオッサンの顔、そして……龍のこと。
そして辛うじて視界の隅に見える腕輪の存在。
(夢オチじゃなかったのかよ、くっそ)
何とか頑張って身体を起こそうとするが思う様に動かない。
時間を掛けてゆっくりと起き上がり、ベッドから足を下ろす。
その足が勢いよく重力に振り回され、身体がそれに耐えられなかった。
ごべちゃっ。
見事に落ちた、ずるりと受身など出来ずに腰を軸に身体を捻って顔から着地。
(いってぇ!)
息も絶え絶えに掠れた声をあげる。
(声もまともに出せないのか、まいったな……)
やっとのことで仰向けになり、頑張って座り込む。鼻血は出ていないようだ。
落ち着いたところで周囲を見回すと、どうやら昨晩泊まった部屋のようだ。
テーブルの上には食事が置かれており、ベッドの上には分厚い本が置かれている。
(腹減ったなぁ、どうやって食えば良いのかねぇ)
まだ痛む顔面を重い腕で摩りながら考えていると、ドアが唐突に開く。
「あ、お気づきになられましたか?でも、どうして床に座られているのですか?」
小柄な修道女の様な女の子が声を掛けてきた。
10代半ばくらいに見えるが、凄く声が高い……頭に響く。
「ちょっと待ってくださいね?」
そう言うと小柄ちゃんは通路に顔を出して誰かを呼んでいる。
後ろ向きなのに、その声はどんだけ響くんだよ。直ぐに手で耳が塞げないのが辛いわ。
間もなく、ガタイの良い青年が部屋に入って来て、小柄ちゃんと話す。そしてオイラを持ち上げた。
「よっこいせ……っと」
(お、うお!それは……ちょっとやめてー!)
俗に言う「お姫様抱っこ」をされてしまった。抵抗する間もなくベッドに添えられる。
あぁ、もうお婿さんにイケないわ!気力も折られてしまいそうよ!?
気力体力ともに底を尽きそうになっていると、小柄ちゃんがオイラの体にペタペタと紙切れを貼りだした。
紙には金の模様が描かれており、貼られたところが痒くなってくる。
小柄ちゃんがひとしきり紙切れを貼り終えて指差し確認を行って呟く。
「指差し確認をすると、事故の確率がグンと減るのよ?」
(誰に説明してんだか……って、事故って何!?やめてぇぇぇ!!)
反論の言葉は伝わっていなかったようだ。
小柄ちゃんは白い本を取り出し手を当てて目を閉じる。
徐々に本が光りだし、オイラに貼られた紙切れも光りだす。
パパパパパパぱんっ!
爆竹が弾けた様な音が鳴り響き、小柄ちゃんは尻餅をつく。
もしかして、事故ったのか?事故ったんだろ!?
「え?ふえぇぇ!?」
小柄ちゃんは呆然と持っていた本を見つめる。
持っていた本から綺麗な糸クズが吹き出している。
オイラの体に貼り付いていた紙切れは、弾けた様でキレイさっぱり糸クズになっている。
それはそれで、痒さが増すんだが……
「得意魔法なのに弾かれました……どうしましょ?」
オイラに聞かれても困るんだが、しかも魔法ってナニ?
身体に札貼って魔術とかって……B級ホラー映画ですか。
「とりあえず、2番目に得意な魔法を使いますね?」
なんじゃそりゃ?また魔法とか言ってるよ。
そういえば、龍とか魔法とか色々変だぞ?
見たことのない文字とかあるし、みんな変な格好だし……
ぷすっ
ぷす、ぷすっ
「ふんふふんふ~ん♪」
小柄ちゃんが何か刺してる、オイラの身体に深く。
画鋲だ、画鋲を指してる。異様に針の部分が長いヤツ。
(うおぉぉぉぉ!?あれ?痛くない?)
現状が理解できていないオイラを余所に小柄ちゃんは黒い本に手を添えた。
「通しま~す……通りました~」
「何すんだぁぁぁ、あ!?」
小柄ちゃんがビックリしている。
オイラも自分の声に驚いた。