02) よく目が合う日なのね。
「罰」
「がっ!?」
ノックもなく扉を開けると同時に担当のオバチャンはキーワードを発動させていた。
「寝てないで起きな、行くよ」
ぶっきらぼうに言いつけられた命令に、おずおずと従い部屋から出る。
そしてさっきの広間に連れて行かれ解放される。
まぁ、担当オバチャンから解放されただけなんだけど。もちろん腕輪は付いたままだ。
「37人の未来の勇者諸君、ちゃんと食事は摂れたかね?」
非難の視線がキンキン罰ゲームオッサンを射抜くが、罵声は無い。
37人も居るのか、見たところ日本人ばかりか。
っていうか、何それ……勇者諸君って?どこの宗教なんだよ。
周りの36人を観察してみると、おそらく中高生から20代の男女の混成集団のようだ。ただ不思議と皆オイラより背が高い。
さっき強制退場になっていた可哀想な青年も、腕輪を装着しておとなしくしている。
「なかなか良い表情じゃないかね?まぁ、よいわぁ」
キンキン罰ゲームオッサンが腕を振り上げパチンと指を鳴らすと兵士達が麻袋を抱えてやって来て、各人の前に造作なく置いていった。
「さぁ、コレからチョットした実験に付き合って貰うよぉ」
実験という言葉に数人がビクッと反応する。
その動作をウンウンと満足気に見て頷きながら続ける。
「まぁ、痛みや苦痛は無いから安心したまえぇ。取り敢えずパーティーを組んで貰うぞぉ、並んだ先頭の奴がパーティーリーダーとなるんだぁ」
邪教徒さんが金属製のプレートを持って、6列に並べと指示をする。ひとつのパーティは6人で組むとのことだ。
ん?6人で組むパーティーなら、1人余るじゃないか?と思っていたらキンキン声罰ゲームオッサンと目が合った。
「おっとぉ、一人余るよなぁ?ヨシ、お前はコッチだぁ36番。これで編成するぞぉ」
キンキン声罰ゲームオッサンは手に持った金属プレートオイラに差し出し、触れろと言う。
金属プレートを見ると、やたらと文字数の長い表示がある。そのプレートに触れるとオイラの名前が浮かび上がった。不思議過ぎて意味が解らん。どういう仕組みだよ?
ってことは、あの長文表示はキンキン罰ゲームオッサンの名前か?長くて読み上げるのも面倒臭そうだ、もうキンキン罰ゲームオッサンで良いんじゃないかと思う。
「36番、お前には特等席を用意してあるからなぁ?」
キンキン罰ゲームオッサンはオイラにクイっと手招きする。
あぁ、絶対に轢き倒した件を根に持ってるな……
そういえば、オイラの自転車はどうなったのかね。
「その袋の中にある物を装着しろぉ」
目の前の配られた袋を開けると仮面と外套が入っていて、みんな渋々と装着していく。仮面の意味が解らんわ、これで邪教徒の仲間入りか……
抵抗しても仕方ないので装着していると、キンキン罰ゲームオッサンも仮面と外套を装着する。
「準備できたなぁ?それでわぁ付いて来いよぉ」
スタスタと歩き出すキンキン罰ゲームオッサンは楽しそうにドアを蹴り開け、中庭らしき場所に出て行く。
中庭に出てみると、少し異様な感じがした。微妙に嫌な雰囲気、威圧感、切迫感があって逃げたしたくなる。
その原因が庭の中央に組み伏せられた大きな黒い龍のオブジェだと解った。リアルすぎて怖すぎる。
黒龍オブジェは金色の模様が入った包帯っぽいモノに絡まれ、さらに何重もの鎖で縛られている。
極め付けは地面に凄く怪しげな光を放っている模様だろう。
頭と思わしき部分には黒い袋がかぶせられている。まさに邪教徒の生贄って感じだぞ、おい。
「よーし、集合だぁ」
キンキン罰ゲームオッサンは37人の集合を確認すると、黒龍オブジェに近づき頭の布袋を引き抜く。
直後、37人は息を飲む。後退る者やペタリと座り込む者までいた。
本物の龍のように見える。しかも、リアルすぎて半端ない威圧感を放っている。
口は鎖で閉じられいるが、鎖と牙の隙間から発せられる激しい息遣いが更に恐怖を掻き立てる。
(呼吸してる!?生きてる?イヤイヤそりゃないわ、新技術?テレビで見た恐竜よりずっとリアルじゃん)
「凄いだろぉ?ドラゴンだぜぇ?しかも古龍種で族長と来たもんだぁ」
『人間風情が、調子に乗るなよ?』
頭の中に言葉が響いた。
(喋った!?指向性のスピーカーか?)
「あぁ?何か言ったかぁ?」
キンキン罰ゲームオッサンが返す言葉と同時に剣を振り抜き、ドラゴンの顔から血飛沫が上がった。
漠然と見ているだけのオイラは、モロに生暖かい龍の返り血を浴びた。
(は?なんじゃこりゃぁ!?)
『我に対する屈辱、その身を持って晴らして呉れようぞ!』
龍の怨嗟の言葉が放たれるのを待って居たかの様に、今度はゆっくりと剣を振り上げて、振り下ろす。
たったそれだけの動作で……ただひと振りで龍の首を切り落とした。
オイラは一歩も動けず、目の前に転がってきた首を呆然と眺めていた。
瞬間、龍の目がカッ!と開き、衝撃波を放つ。
オイラの仮面は吹っ飛び、そして首だけの龍と目が合った。
『怨!』
恐ろしさに腰を抜かすまでもなく、オイラは意識を失った。