132)闇の精霊は怒るのね。
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ぱちん!
とぷん。
怪しい紫魔王が指を打ち鳴らすと、魔王と彼は地面に沈んで消えた。
彼が居なくなると解った瞬間に飛び付こうとしたが……今回も間に合わなかった。
その失意から怒りへと豹変するのに数瞬も掛からなかった。
『また!またぁぁあああ!!』
すっぴょこ☆ばんばん☆
隣では魔導書が陸に上がった魚の様に跳ねている。
『探してぇ!全力で!!』
すぱぱんっ☆
全身の毛を逆立てて、魔導書に詰め寄る。
それに応えるかのようにパチバチと放電する魔導書。
呆然としているシーフやメイドともうヒトリの精霊を後目に、黒猫と魔導書は怒りを露わにしている。
ぼんっ☆
『見つけたあぁ!』
彼の仲間の足元に闇の魔法陣を展開する。
『逃がさない……絶対に!』
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最初は変わった契約者だと思った。
袋に縛られた低位の精霊と契約するとか。
もうヒトリの精霊の扱いが雑なトコとか。
逆にウチに対しては壊れそうだといって優しいとか。
闇の精霊と聞いても顔色ヒトツ変えないなんて。
あの猫娘を助けるために腕と足を切られるなんて。
自分が血を流して死に掛けてるのに、猫娘の治療を優先させるなんて。
ただ、なんとなくわかった気がする。
それは、大精霊が頬を染めてクネクネしながら惚気てた話〝好き〟ってヤツ。
ソレに気付いた時、自分の居場所である〝彼〟を護るために、必死になった。
袋の精霊として無理矢理埋め込まれた空間魔法を必死に操作して。
自分の核が削られる痛みに耐えながら、開いた穴へ相棒を送り込む。
無理な魔法の使用で自らの精霊の格が最低まで堕ちたけど、後悔はしなかった。
忌まわしい姿になって嫌われると思ったけど、彼が生きているのなら契約破棄されても構わなかった。
見られることに対する拒絶を彼は全く無視して、無理矢理引っ張り出してくれた。彼の手は温かかった。
次は演習場で突然消えてしまった時。
突然の出来事に対応できず、彼の行く先も解らず、ただ待つしかできなかった。
壁の向こうで囁かれた、迷宮に取り込まれるとロストするという話に耳を塞ぐ事しかできなかった。
彼が無事に戻って来ることだけを願った。
取り戻した格で何があっても彼を護るという決意が見事に砕かれた。
そして今、自負など棄てて魔導書に協力を願った。
座標とタイミングは魔導書に任せ、転移門を開く事だけに集中した。
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彼を追って出た場所は凄く広い部屋だった。
手を振りながら、目の前の魔物達を壁に叩きつけていた。
ウチは彼の肩に爪を立てて飛び乗った。
『これ、なに?』
「あぁ、さっきの魔力漏れの後始末。魔物生成で漏れた魔力を消費するんだってさ」
『手伝う?』
「流れ弾……はミッチーが何とかしてるな。だったら魔物の処理、精霊袋に送れる?」
彼に直撃するようなモノは躱しているし、味方に飛んできたモノは本の精霊が得意のアーススパイクで対処している。
返事をするまでも無く、奥の方で倒れた魔物を精霊袋の中へと転送していく。
袋の中の精霊達に送った魔物を解体して魔石を戻す指示を出す。
返送された魔石から新たに魔物が復活する。そして壁に叩きつけられるサイクル。
回収された宝箱は猫娘に処理させる。
ある程度倒し切ったところで、魔物は涌かなくなった。
「またかぁ!あんの魔王……!」
とぷん。
勇者が叫びながら床に沈んで消えた。
……もう大丈夫、手は打ってある。ウチは再度仲間の足元に魔法陣を浮かび上がらせる。
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「……なんで居るのよ?」
さっきの大部屋と変わって、家具などが置いてある部屋に来た。
“あんの魔王”が追いかけてきた“ウチ達”に質問を浴びせる。
再度彼の肩に飛び乗ったウチは“こう”答える。
『逃がさない、絶対』
「おい勇者、そのヤンデレ精霊……怖いんだが?」
「シーちゃん?可愛いんですが?」
今は子猫の姿で彼に撫でられるのが至福の時間です。
「単体の転送を追いかけて来るなんて、超コワイんだが?」