第一羽 僕 人間になったよ!
人気のない紫色の森の奥深く、透き通った湖面に映る自分を見て一人の男が悩んでいました。
「うーん…?なんでこんなことになっちゃってるんだろう?
…僕、鳥のはずなんだけどなぁ」
そう この男はついこの間まで鳥だったのである。
綺麗な羽根を広げ、青い大空を飛びまわっていた。
ところが今はどうだろうか? くちばしは無く、綺麗な羽も無く、細い足も無い
代わりに整った唇、五本指の手、しっかりとした足を手に入れていた。
面影といえば、羽根のと同じ色の髪の毛と瞳ぐらいだ。
「人間ってやつだよねこれ なりたいともなんとも思ったこと無いんだけどな…」
「ん?そこの小僧、こんな森の奥で水浴びか?」
声に驚いて振り向くと、大きな熊を背負った大男がいた。
「水浴びなんてしてないよ?」
「じゃあ何で真っ裸なんだよ。露出狂か」
「ろしゅつきょうが何かは知らないけど裸って変なの?」
「はあ!?おまえ田舎者どころの騒ぎじゃねぇぞそれ!
人間は大昔から服ってのを着てるもんだ。みーんな裸だったら服屋が潰れるぞ」
鳥は大昔から裸である。故に元鳥の男は不自然だとは思わなかったのである。
「そうか、人間は服を着るものか…でも僕、何も持ってないよ。
どうしよう?」
「…狼かなんかにでも育てられたのか…?いや、言葉は通じてるが…」
「何ブツブツ言ってるの?よく聞こえないよ?」
しばらく大男は何か考え込み突然ぱっと顔を上げ元鳥男の両肩をがっちり掴み言った。
「よし決めた!お前俺についてこい」
「え?いきなりどうしたの?」
「いいか?いくらここが山奥っつったって人は来るもんだ。若い娘さんが山菜採りに来るか もしれねぇ そんな時に真っ裸のお前さんを見たらどうだ?」
「?また水浴びしてるのって言われるんじゃないのかな?」
「で?お前はなんて答えるんだ?」
「水浴びなんかしてないよって言う」
そう言うと大男は頭を抱えて言った
「だあああやっぱりな!!そんなこったろうと思ったよ!!そんなことしたら
衛兵に通報されて豚箱行きになっちまうぞ!!」
「えええ!?僕 豚じゃないのに!?」
「豚じゃなかろうと何だろうと関係ねぇんだよ!!」
「そ、そんなの嫌だよ!僕 豚箱行きたくない!!」
「だろ?だからから俺がなんとかしてやる」
「ほんと!?」
「お前悪いやつじゃなさそうだし、このままほっといて捕まったら俺の良心が痛む
俺の家まで少し遠いがそれまでこれで我慢しろ」
そういって大男は元鳥男に自分の上着を渡しました。
かなり体格の差があるので元鳥男が着ると、コートのようにひざ下まですっぽり覆われます
「あーやっぱダボダボだな…手先出てないし、ほら袖折ってやるから手ぇ伸ばせ」
「ありがとう!大男さん!」
「なんだそりゃ そういや自己紹介してなかったな俺はカインだ
おまえは名前なんて言うんだ?」
聞かれて気づいた元鳥男には名前はないのだ。ごく普通に鳥として暮らしてきたから
親には息子としか呼ばれたことがないし、他の鳥達だって名前なんてものはなかった。
だが、自分や自分と同族の者を見て人間はこう呼んでいた。
「スズメ…僕 スズメ!」