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ハートシャドウデス総理

「今回の依頼に意味があるとは、思えませんが?」

 リリスの言葉に依頼人が断言する。

「構いません」

 リリスがため息混じりに告げる。

「また別の同じような人間が総理になるだけですよ」

「それでも、殺して欲しいのです。今の日本の政治の象徴を」

 依頼人の暗い覚悟にリリスがカードを差し出す。

「解りました。詳しい依頼内容をここに」

 二百万を置き、カードを受け取る依頼人。



『私にお任せください。皆様の明るい未来を作って見せます』

 家で心と宿題をする奏歌が、暇つぶしに総理大臣による政見放送を視聴していた。

「ワンパターンな台詞だね」

 奏歌の感想に心が宿題をしながら答える。

「政治家が、とんでもない事を言い始めたら、独裁の始まりだよ」

「そうかもしれないけど、どいつもこいつも同じ事を言うんだもん」

 奏歌の言葉に、心がシャーペンの頭で、奏歌のノートを叩く。

「そんな事を気にしていないで、宿題をやる」

 視線を逸らす奏歌。

「……後で写せば終わるし」

「そんな事ばっかりしてると馬鹿になるぞ」

 奏歌の父親、源三の突っ込みに奏歌が言う。

「そういう父さんは、宿題をちゃんとやったの?」

 視線を逸らす源三。

「人生色々だ」

「似た者親子だよね」

 心の呟きに乾いた笑いを浮かべる奏歌と源三だった。

 そんな時、源三の携帯が鳴る。

「事件か? 何だと、シャドーハートデスからハートのカードが届いたって! 直ぐに行く!」

 電話を切ると源三が脱ぎかけていた上着を着なおしながらいう。

「今夜は、泊り込みになるから、先に寝ていてくれ」

 駆け出す源三。

「また、あいつが出たんだ」

 嫌悪感を示す奏歌。

「迷惑だよね?」

 心の言葉に強く頷く奏歌。

「本当に迷惑!」

 心が視線をずらして言う。

「宿題を写して良いよ」

 笑顔になる奏歌。

「ホント! ありがとう!」



 警視庁の会議室には、何時も以上に緊張に張り巡って居た。

「『娘が死ぬ羽目になったのは、政治の所為。その罪をトップに払ってもらう』、これがハートのカードに書かれていたメッセージだ」

 謙治の言葉にまず発言したのは、公安課長だった。

「政治のトップ詰まり、総理を狙うとした場合、ハートシャドウデスを語った、テロリストの可能性もありえる。今回の調査は、公安がメインに行うべきだ」

 次に声を上げたのは、警備課長だった。

「総理の警備は、我々警備課の任務。当然、今回の指揮は、我々が中心になるべきですな」

 源三が反論する。

「ふざけるな、カードからも今回の事件は、ハートシャドウデスの犯行予告に間違いない。そうなれば、今までの経験からも捜査一課が陣頭指揮を執るのが当然だろう!」

 警備課長が鋭い目で告げる。

「そして、総理を被害者リストに追加するつもりか?」

「それは、言いすぎです!」

 賢一も反論する中、公安課長が告げる。

「とにかく、ターゲットが総理である以上、我々も黙っている訳には、行きません」

 そんな中、謙治が告げる。

「解っている。とにかく、ハートシャドウデスを捕まえる事が最優先でしょう」

 それに反意が示される。

「とんでもない。犯人確保は、二の次だ! 総理の安全確保こそ最優先に決まっている!」

 警備課長の言葉に公安課長も頷く。

「総理を殺されるなど、警察庁の汚点だ。総理の命は、命を狙われる犯罪者とは、違うのだからな」

「聞き捨て出来ないな! それじゃ、今まで死んだ奴は、死んでも構わなかったみたい聞こえたぞ!」

 源三の詰問に公安課長が苦笑する。

「そうでしょう? 死刑囚に、殺人犯、殺人ギルドのトップ。どれも死んで当然の輩です」

 源三が立ち上がろうとするのを賢一が止め、謙治が告げる。

「公安課長、今の発言は、この場には、不適切な物でしょう。ここは、法を守る砦、警視庁なのですから」

 大人しく頭を下げる公安課長。

「確かに。申し訳ございませんでした。しかし、総理を殺される訳に行かないのは、確かです」

「総理だけでは、ありませんが、当然の事です。警備は、警備課にお任せします。我々捜査一課は、依頼人の捜索と総理周辺の調査に当たらせてもらいます」

 謙治の言葉に警備課長が頷く。

「任せておくが良い。お前らみたいに警備対象を殺されるようなドジは、しない」

 捜査一課の面々が睨む中、警備課長が席を立つ。

「捜査資料は、今日中に公安に届けてください」

 公安課長も席を立つ。

 机を叩く源三。

「奴ら、何様のつもりだ!」

 賢一がなだめる。

「相手は、課長クラスなんですから、もう少し落ち着いてください」

「うるせえ!」

 荒れる源三に苦笑しながら謙治が残った捜査一課の面々に告げる。

「相手は、間違いなく一流の殺し屋で、殺害方法に法則性が無い。特に今回は、殺すことがメインだ。警備課の連中の警備もある以上、狙撃の可能性も高い。警備課の警備情報を元に、狙撃可能場所に捜査員を配置する。残ったメンバーは、公安からの資料も使って依頼人の特定だ」

 一度、言葉を切り、謙治が力強く言う。

「今度こそ、奴を捕まえて、犯行を阻止する。いいな!」

「はい!」

 捜査員達が一斉に動き出す。



 次の日曜日のプールがある遊園地。

「あれ、父さん達、なんでこんな所にいるの?」

 心とプールに来た奏歌が源三と賢一を見つける。

「捜査の……」

 何か言おうとした賢一を拳で黙らせ、源三が言う。

「今日は、日が悪い。帰るんだ!」

 頬を膨らませる奏歌。

「嫌よ! リリスさんに貰ったタダ券が無駄になるもん!」

「プール代くらい、俺が出してやるから今日は、止めろ!」

 源三が強い口調で言うが、奏歌も折れない。

「折角きたのにプールにも入らないで帰るなんて、絶対に嫌!」

 睨み合う親子。

「まあまあ、ここに奴が来るって確証があるわけじゃないんですから、良いじゃないですか?」

 賢一がとりなすと源三が渋々許す。

「プールは、良いが、間違ってもジェットコースターには、近づくなよ」

「はいはい。父さんの安月給で、ジェットコースターのチケット代なんて無いから、安心して良いよ!」

 奏歌の嫌味に源三が怒り出そうとするのを賢一が止め、笑顔で言う。

「今度、チケットショップの格安のフリーパスポート券をあげるから、それで楽しんでよ」

「約束だからね!」

 奏歌は、そういって頭を下げている心と一緒にプールに向かう。

 ため息混じりに、話題に上がったジェットコースターを見る源三。

「しかし、本当にこんな所から、総理の狙撃が行えるのか?」

「ジェットコースターのコースから近くの施設の視察する総理のスピーチ会場を望遠鏡で確認出来るそうです。まあ、警備課の方では、遠すぎて棄ててますがね」

 賢一の説明に舌打ちする源三。

「可能性高いところは、警備課か公安が押さえていやがるからな。しかし、奴なら他人が不可能と思う殺人をやってのけるからな」

 頷く賢一。



 浮き輪を使って流れるプールを流れていた心が告げる。

「小用に行って来る」

「おしっこならここでしちゃえば?」

 冗談混じりの発言に心が睨むと苦笑する奏歌。

「ウォータースライダーで並んでるから、早く戻ってきなよ」

 心が頷く。

「了解」

 そのまま心は、駆け出すと、人目の無いところで、壁をよじ登り、ジェットコースターが通るトンネルの上に出る。

 そこには、大人用のコートとライフルがあり、コートを纏い、スコープを覗き込む。

 中心に映し出された総理の顔。

「風が強いけど、一定、いける」

 引き金が引かれる。

 銃弾は、風に流されながらも総理の頭蓋骨を貫いた。

 心は、素早くスタッフ用の出入り口に向かうと、コートとライフルに火をつけ、壁を降りて、プールに戻っていく。

「遅い! もう少しで間に合わなかったよ!」

 文句を言う奏歌に心が謝る。

「ごめん」

 二人は、ウォータースライダーをすべる。



 プールをあがり、帰ろうとする奏歌と心であったが、出口で待たされる羽目になった。

「何を調べてるの?」

 奏歌が一応だけに確認していた賢一が答える。

「硝煙反応だよ。まあ、プールに入っていた二人には、関係ないんだけどね」

 そのまま検査をパスする奏歌と心であった。



 警視庁の会議室。

「犯行後直ぐに出口を封鎖したのに、どうして犯人が捕まらない!」

 公安課長が怒鳴る。

「警備課も参加して、周囲を完全に封鎖したのだ、出口のチェックで見つかる筈だ!」

 拳を握り締めて賢一が説明する。

「奴は、コートとライフルを燃やしましたが、それ以外の衣服を処分していませんでした。それは、施設内のゴミ箱などを捜索し間違いありません。その為、服についた硝煙反応をチェックしたのですが、該当する人物は、居ませんでした」

「洗い流した可能性は?」

 公安課長の指摘に源三が答える。

「こっちだって、その可能性も考慮した。乾燥機の使用をすぐさま止めさせ、荷物に入っているものを含めて洋服にその痕跡が無いか確認したが、駄目だった」

「それじゃあ、奴は、コートだけを羽織、裸で犯行を行ったというのか?」

 警備課長の言葉に謙治が頷く。

「その可能性が高い。近くにプールがあり、水着姿で移動した可能性も考慮して、プールの出入り口のカメラをチェックし、リストアップしている。その中にハートシャドウデスが居る可能性が高い」

「その資料を公安に渡したまえ!」

「警備課にもだ!」

 苛立つ公安課長と警備課長に素直に資料を提示する謙治。

 会議後、賢一が言う。

「資料をすんなり渡して良かったのですか?」

「奴が捕まえられるなら縄張り意識に拘る必要は、無い。だが……」

 言葉を濁す謙治。

「リストの中にハートシャドウデスは、居ない。俺の勘がそう言ってる」

 源三の言葉に謙治が苦笑する。

「私もだ。奴がそんなに簡単に痕跡を残す奴なら、もっと以前に捕まえている」

 賢一が拳を握り締める。

「悔しいです」

「その悔しさを忘れるな。絶対に奴を捕まえるぞ!」

 源三の言葉に、捜査一課全員が頷くのであった。



『私にお任せください。皆様の明るい未来を作って見せます』

 宿題をする奏歌が殺害された総理の代わりに新しくなった総理の初心表明を聞いて呆れる。

「まるっきし同じじゃん。無意味な殺人だった気がする」

 心が聞き返す。

「意味がある殺人ってあるの?」

 奏歌が複雑な顔をする。

「殺人に意味なんて無いか。馬鹿なことを言ったわ」

 強く頷く心であった。

狙撃もお得意の心でした。

壁をよじ登ったり、本当に何でも出来ます。

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