ハートシャドウデス逆恨み
奏歌と心が渋谷のセンター街で買い物をしていた時、一人の同年代の少女とトラブルが起こした。
「庶民は、分不相応と言う言葉知らないのでしょうか?」
相手は、黒服を連れたいかにものお嬢様、金森泉。
奏歌が真っ向から受けて立つ。
「世の中には、マナーって物があるのよ。人が手に取って、品定めしてる物を奪っていくのは、最低の行為よ!」
泉は、鼻で笑う。
「笑わせてくれるわ! 貴女達みたいな貧乏人に買えるのかしら?」
顔を真っ赤にして怒る奏歌。
「馬鹿にしないでよね! お小遣い貯めて来たんだから!」
泉は、値札を見て驚くふりをする。
「あら、随分とリーズナブルなのね。うちのペットの一回分の食費で買えるのね?」
「何が言いたい!」
掴み掛かりそうな奏歌を心が止める。
「今日は帰ろ、折角の買い物何だから楽しまなきゃもったいない」
奏歌は、渋々それを受け入れる。
店を出て奏歌が苛立ちをぶちまける。
「もー最低! あんな奴は、死んだ方が……」
心が口を塞ぐ。
「本気じゃないのに、そんな事を言ったら駄目。悪い言霊は、口にした人間を不幸にするよ」
奏歌は、直に謝る。
「悪かった。止めてくれてありがとう……」
心は、笑顔で告げる。
「それじゃあ、予定通り、あちきがいきたかったケーキ屋さんに行こう!」
眉をひそめる奏歌。
「行列店じゃなくても美味しいお店あるよ」
心は、指を振る。
「そこは、美味しいお店じゃないの」
「じゃあ何なの?」
奏歌の質問に心は、両手を広げ答える。
「凄く美味しいお店!」
ため息を吐く奏歌であった。
その頃、警視庁では、新たに届いたハートのカードで捜査会議が開かれていた。
「今回のカードには、『騙されて妻と娘を殺された。同じ思いの味会わせてから殺さないと気がすまない』と書かれてありました」
賢一の報告に源三が舌打ちする。
「最悪だな。奴なら実行するぞ……」
賢一が唾を飲み込む。
「しかし、奴は、今まで無駄な殺しは、していません」
様々な憶測が飛ぶなか謙治が告げる。
「犯罪者の良心を当てにするべきでは、ない。我々は、最悪のケースを想定し、その可能性を摘み取っていかなければならない」
刑事達が頷くなか、賢一が弱音を吐く。
「しかし、今回は、情報が少なすぎます……」
すると源三が不敵な笑みを浮かべた。
「ヒントは、あるさ。ここ最近で妻と娘を失いながら夫が生き残った事件や事故を探せば良い」
謙治が直ぐに後を付け足す。
「自殺や病死も忘れるな」
「はい!」
直ぐ様、刑事達が動き始める。
泉の父親、八頭は、代々続く総合病院の医院長で、凄腕の外科医であった。
家族の事も二の次にして患者の治療にあたっていた。
その結果、妻は、不倫をし、娘の泉は、我が儘放題の躾の出来ていない少女になっていた。
そんな八頭だったが、深酒を呑んでいた。
「あの移植手術は、断行すべきじゃ無かったのか?」
八頭の前には、一冊のゴシップ雑誌が置かれていた。
そこには、八頭が失敗した、母親から娘への生体間移植の事が載っていた。
海外で臓器移植手術を行う金が無かった娘を救う危険な賭けで、失敗した。
医療事故とも呼べない仕方ない結末だったのにこんな記事になったのは、妻がとんでもない事を言ってしまったからだ。
『海外で治療を受けられない貧乏人が死んだくらいで一々騒がないで、私は、これから銀座のブランド店に行くのだから!』
その言葉が大々的取り扱われていた。
問題の夫人は、激怒し、父親の代から知り合いの政治家を通して圧力をかけてそれ以上拡がるのを強引に止めた。
八頭にとっては、そんな事は、どうでも良かった。
「私がゴッドハンドだったらな……」
自分の手を見詰める八頭に声が掛けられる。
「来世に頑張って下さい」
八頭が驚き、声がする方を向くとそこには、問題の夫人と娘、泉を担いだ心がいた。
「……君は?」
いきなりの少女の登場に八頭が困惑するなか、心は、夫人を床に落とす。
「痛い! 何が起こったの?」
戸惑う夫人の背中を踏む心。
「……!」
胸が圧迫され声を出せない夫人をみて八頭が怒鳴る。
「止めるのだ! そんな事を続けたら死んでしまう!」
心が頷く。
「だって、あちき殺人代行者、俗に言うところのハートシャドウデスだから。因みに今回は、貴方が手術に失敗した少女の父親が依頼人で、貴方の目の前で、奥さんと娘を殺し、絶望の中で殺す事になってるよ」
普通に語る心に八頭が慌て懇願する。
「手術に失敗したのは、私だ! 殺すのなら私だけにしてくれ!」
心は、更に強く踏み込みながら告げる。
「依頼だから無理、諦めて」
「待ってくれ!」
八頭が叫ぶなか、骨が折れる生々しい音と共に夫人は、目を見開き絶命した。
「次は、娘さんだけど、最期に話す? そのくらいは、させてあげられるよ」
八頭が悩んだ後に頷く。
心は、八頭の前に泉を放り投げた。
「泉、大丈夫か!」
慌て駆け寄る八頭。
「痛いわね……」
目を覚ました泉は。父親がいることに驚く。
「どうしてお父様が?」
八頭は、泉を背後に庇い言う。
「私が時間を稼ぐから逃げるのだ!」
「何をいっている……」
言葉の途中で絶命した母親を見付けてしまう泉。
「あの少女は、ハートシャドウデスらしい。早く逃げてくれ!」
八頭の言葉に泉は、ひきつった顔で言う。
「冗談だよね? だってその子、昼間渋谷で友達と買い物してたんだから……」
心が頬をかく。
「偶然て怖いね。まさかターゲットに会うとは、あちきも思わなかったよ」
淡々と答える心に八頭が娘と顔を合わせ説得する。
「死んでも私が止めるから、逃げてくれ!」
「嫌だよ、冗談は、もう止めてよ……」
状況についていけない泉を八頭がつきだす。
「早くするのだ!」
その瞬間、鎌のカードが泉の喉を切り裂いた。
娘が絶命する出血を浴び、しゃがみこむ八頭に、心が告げる。
「奥さんと娘が死ぬ瞬間をじっくり味わったね?」
八頭が床を叩き叫んだ。
「私が何か悪いことをしたのか! 患者を救おうと精一杯の努力をしてきただけだ!」
心が苦笑する。
「そうやって家族を蔑ろにして歪ませ、あんな記事を書かれてしまった。それを見た遺族の気持ちがこの結末を呼んだんだよ。結局貴方は、家族と言う自分の一部をほって置いた。それが原因じゃない?」
八頭は、呆然としたまま命を失った。
翌日、犯行現場に来た源三は、鎌のカードに書かれた内容を見て怒鳴る。
「妻や娘を殺され、絶望した所を殺すなんてふざけた事を依頼するなよ!」
賢一が悔しげに告げる。
「依頼には、忠実ですからね……」
源三が苛立つ。
「下らないプロ根性を出しやがって!」
その夜、心の所に奏歌から電話があった。
『昨日の子が死んだらしいの……』
途中で止まった言葉の続きを察知して心が答える。
「奏歌のせいじゃないよ。悪いのは、狂った人殺し何だから」
少しの沈黙の後、奏歌が言う。
『昨日、止めてくれてありがとう。お休み』
電話を切った後、心が呟く。
「悪いのは、狂った人殺しのあちき……」
無表情な心にキスをするリリス。
唇を離しリリスが告げる。
「ベッドの上で他人の事を考えるなんてマナー違反ね。お仕置きよ」
そのまま心を体力の限界まで攻め立てる。
疲れて深い眠りについた心の頭を撫でながらリリスが呟く。
「神よ、どうしたら、この純粋故に罪を背負った少女を救えるのでしょうか? 私には、一時しのぎに麻薬中毒患者に麻薬を与える様な事しか出来ません。どうか、大いなる慈悲の心をこの少女にお与え下さい」
心底願うリリスであった。
どんな偉人でも、家族との関係を蔑ろにする人間は、幸せになれないってことですかね。
何気にリリスが心に殺人をやらせている内心を呟いてたりします。
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