ハートシャドウデス組織
「殺し屋の組織ってあるのかな?」
奏歌の言葉に心が頷く。
「暴力団があるのと一緒で、そこに営利があれば、組織化もするけど、どうしてそんな事を聞くの?」
奏歌が苦笑する。
「お父さんが愚痴ってたんだ」
警視庁、捜査一課。
「何が悲しくて犯罪者、それも人殺しの親分の身辺警護なんてしないといけないんだ?」
不満いっぱいの源三。
謙治が真剣な顔で言う。
「これは、チャンスだ。ハートシャドウデスと同時に組織を壊滅させる」
賢一が唾を飲む。
「出来ますか?」
源三が断言する。
「するんだよ!」
やる気を出す。
山奥の豪邸、そこに住む、冷たい目をした老人、具九が即答する。
「警護は、不要だ。帰れ」
言われた賢一が怯む。
「しかし、相手は、正体不明の殺人代行者です。何があるか解りません警察の警護があった方が安全です」
具九が苦笑する。
「その台詞は、一度でも奴の仕事を阻止出来てから言うのだな」
何も言えなくなる賢一の代わりに源三が前に出る。
「ならば協力をしていただきたい。凶悪犯、ハートシャドウデスを捕まえる。一般市民の義務ですよ」
具九が舌打ちをする。
「屋敷の中には、仕事上の極秘秘密がある。屋敷の外だったら好きにしろ」
賢一が不満そうな顔をするなか、源三が頭を下げる。
「御協力、感謝します」
そのまま退室すると賢一が小声で尋ねる。
「屋敷の中で警備出来なければ、奴等のしっぽを掴めませんよ?」
源三が笑みを浮かべる。
「大丈夫だ、ハートシャドウデスが侵入して騒ぎになったとき、凶悪犯逮捕を口実に踏み込んで、奴等のしっぽも一緒に掴む」
そして具九は、真剣な顔になる。
「まさか、この業界の人間に命を狙われる事になるなんてな」
側近の黒服が静かに告げる。
「先に仕掛けますか?」
具九は笑みを浮かべる。
「あれは、殺し屋としては、一級品だ。下らんポリシーを振りかざす小娘には、勿体無い。向こうから来ると言うのだ、捕らえて、わしの手駒に加えてやろう。まさか、出来ぬとは、言わないな?」
黒服があっさり頷く。
「考えるまでもございません。ボスの為なら自らの命すら差し出す様に調教してやります」
高笑いをあげる具九。
「あくまで、あの屋敷にいる間に殺す事になったけど、大丈夫?」
リリスの問い掛けに薬のカプセルを飲みながら心がOKサインを出す。
「準備万端。上手くやって見せるよ」
そして、警察の包囲網の隙をついて館に侵入する心であった。
しかし、心の侵入は、組織の人間には、直ぐに察知され、組織の中でも指折りの使い手達が心の捕縛に動く。
心が廊下を、音をたてずに走っていたが、突然飛び上がり天井の突起にぶら下がる。
「良い感をしている。だが、それでは、後が続くまい」
廊下に隙間なく張り巡らされた宇宙空間でしか合成出来ない特殊合金の糸が一斉に心に向かって動く。
心は、床に飛び降りた。
「諦めたのか!」
驚く声と裏腹に心は、床に着地した。
「残念でした、固定されてない糸だったら、あちきでもコントロール出来るよ」
自らが操っていた糸の暴走(心のコントロール)で血塗れになった男を残して先に進む心。
次に心の前に立ち塞がったのは、日本刀を鞘に入れたまま構える男だった。
「居合い抜きの達人って奴だね?」
男は、あっさり認める。
「剣を極める為、実戦を求めてこの世界に入った。その成果を見せてやろう」
「そう、頑張って」
心は、そう言うと動きを止めた。
長い沈黙の後、男が動いた。
「はい、おしまい。居合い抜きみたいなスピード勝負の技は、速さの引き換えにストップが効かない。後の先を取れなかった時点で敗けだよ」
投擲した針で男を床に縫い付けた心が先に進む。
次に現れたのは、軽装な男。
心の放った針を避け、カマキリを思わせる手刀を放つ。
「中国拳法だね」
身を屈め避けた心に笑みを浮かべる男。
心は、服の胸元が切り裂かれている事に気付き深呼吸をする。
「暗器、あっちは、殺しも歴史が長い」
無言で接近する男の一撃を全く避けず頭で受ける心に男の顔が強張る。
無造作につき出された指が男の両目を潰した。
たんこぶを擦りながら心が言う。
「どんな攻撃もヒットポイントを外せば威力が落ちる。そして意外と簡単な外し方は、動かない事。読みすぎだよ」
さらに進んだ心の前に具九の側近の黒服が現れる。
「この組織でもトップの三人を下した腕は見事。しかし、ここまでだ」
心は、よろめき倒れる。
「強力な痺れ薬を撒いたね?」
黒服が頷く。
「常人なら致死量だ。死にたくなかったら、大人しくする事だな」
そのままガスマスクをした男達につれて行かれる心であった。
「待っていたぞ」
具九が素っ裸で運びこまれた心を見る。
「毛も生えてない小娘にトップスリーが破れたかのか?」
驚く具九に黒服は、心が来る前に飲み込んでいたカプセルを見せる。
「油断しないで下さい。捕まった時を想定して、理性を破壊する代わりに潜在能力を解放する秘薬を飲んでました。念のため、胃と腸を完全に空にしておきました」
冷や汗を拭う具九。
「流石は、伝説と言われた志野上家の最高傑作だけは、ある。しかし、これ以上は、何も出来まい!」
具九が笑みを浮かべた時、心が答える。
「本当にそう思った?」
黒服が駆け寄ろうとしたが、倒れる。
心を連れてきた他の男達も同様だった。
後退る具九。
「何がどうなっているのだ? お前には何も残されていなかった筈だ!」
心が笑みを浮かべた。
「体が残ってた。事前に分解しづらく、気化しやすい痺れ薬を大量に飲んでいた体が。この人達は、発汗や糞尿と一緒に排出されたそれを吸収して動け無い。カプセルは、その為の囮だよ」
「それだけの薬を飲んで平気だったのなら、どうして捕まったのだ?」
具九の質問に心が苦笑する。
「貴方を逃がさない為、普通に突破したら逃げるでしょ?」
驚愕する具九に心が近付く。
「待て! 金ならいくらでも払うだから、私の下につけ」
必死に裏切りを求める具九に対して心が淡々と言う。
「ごめんなさい、あちきは、人殺ししないと生きていけない化け物だから、そういうのは、通じないの」
慌てていい足す具九。
「人殺しの仕事だったらいくらでも回す! 趣味でやっている様な奴より確実に沢山の仕事を斡旋出来るぞ!」
悩む心。
「それは、心引かれる条件かも」
みゃくがあるとかんがえた時点で具九は、勘違いをしていた。
心を人殺しが好きな殺人狂だとおもっただろうが、違った。
「この仕事を受ける前だったら、スカウトされても良かったんだけどね」
具九が反応する前にその首が胴体から離れた。
館の外で待機していた源三のところに具九の側近の黒服が現れた。
「主人がハートシャドウデスに殺されました」
いきなりの展開に賢一が戸惑う。
「それで犯人は?」
黒服が死神のカードを差し出す。
「私が主犯です」
言葉を無くし固まる賢一の代わりに源三が手錠を嵌める。
「殺人容疑で逮捕する。共犯者が近くにいる筈だ、直ぐに捕まえろ!」
警官隊が動くなか黒服が肩をすくめる。
「構成員は、地下の秘密通路から逃げました。このアジトの廃棄をします」
爆発する館。
舌打ちする源三。
「ハートシャドウデスについて知ってる事を吐いて貰うぞ!」
「どんなに憎んでも憎み足らない具九を殺してくれた恩が有るのに唄うと思いますか?」
忌々しげに睨みながらも黒服を連行する源三達。
源三達が乗ったパトカーを見ながら心が首を傾げる。
「あの人の腕だったらもっと安全な方法で具九を暗殺出来たよ?」
リリスが悲しげな顔をして説明する。
「具九には、一人の養女が居たの。具九にとっては、ていのいい性欲処理の道具でしか無かった。でもその子にとって具九は、確かに親だった。彼女を愛していた彼は、彼女と約束していた、何があっても全力で具九を守ると。その後、具九は、彼女をあっさり捨てゴマとして使い見捨てた。彼は、それを許せなかった。それでも彼女との約束を破れなかった。だから全力で守っても具九を殺せる貴女を雇ったのよ」
眉を寄せる心。
「凄く意味不明」
リリスは、心の頭を撫で告げる。
「貴女が理解出来る日が来ることを祈って居るわ」
そして近くのペンションに戻る二人であった。
今回は、戦闘メインでしたが、意外な依頼人にも拘りました。
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