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神々の黄昏  作者: さくら
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第004話


ギルドに向かう。

行く途中で地図の輝点の色を確認する。街の中では赤色の点はなかったので赤色は敵を表しているのだろう。実際、一昨日初めて地図を意識したときに魔物名が出ていたので赤の輝点は敵だという自信はあったが。青はロゼリアと親父さんで、緑はそれ以外の人だった。どういうことだろう。しばらく立ち止まって考える。うーん、推測するに青は知り合いで敵意のない人、緑は中立もしくは敵意のない人だろうか。いまいちはっきりしない。あとでヘルプに情報があるか調べてみよう。なので、これに関しては保留とする。


ロゼリアに教えてもらった道を歩く。時計塔を目印に歩いてきたがギルドの建物はなかなか大きい。いや、時計塔は教会の建物でギルドはその横に建っているだけだが。


ウェスタン風の上下が空いている両開きの扉を押して中に入る。

カウンターに窓口が5つほどあり、それぞれ人が座っている。対面は壁で一面に依頼らしき紙が貼ってあり、冒険者用の丸机と椅子が何セットか置かれ、半分ぐらいは人で埋まっている。

なかなか広い。ちなみに地図によるとギルドにいる者は全て緑で表示されている。

俺は入り口付近でしげしげと中を見回しつつ状況を観察していたら、一番近くの窓口から声をかけられた。


「いらっしゃいませ、本日は依頼でしょうか、請負でしょうか」

「ええっと、冒険者の登録をしたいのですが」

「登録ですか。イシュタルの冒険者ギルドをご利用ありがとうございます。こちらで登録の手続きをとらせていただきます」


声をかけてきた女性がカウンターを挟んだ向かいの席を勧めてきたのでそこに腰掛ける。


「それではこちらの用紙にご記入をお願いします」


用紙を見ると、名前、職業、レベル、スキルとある。昨日ロゼリアに聞いた話だとレベルとスキルは必要なかったはず。


「このレベルとスキルは申告しないといけないのですか」


受付の女性は用紙をのぞき込むと、首を横に振る。

「いえ、任意ですので空白でも結構です」


では問題ないな。名前はアキ、職業は魔法使いと書いて提出する。


「アキさんですね。職業は魔法使い。こちらに間違いないでしょうか」

うなづく。


「では、少々お待ちください」

そう言うと女性は奥に引っ込んでいく。


俺は椅子に腰掛けたまま、小声で「イーズドロップ盗聴」の呪文を唱える。後ろの丸机にたむろしている連中の話を聞くためだ。


「依頼主からボーナスもらったぜ」

「おぉ、そりゃどうしてよ」

「王都に行くまでにかなり襲われてな。ハズレを引いたとぼやいてたらボーナスだって銀貨1枚を別に貰えたんだ」

「そんなに襲われたのか」

「ああ、別の連中に聞いた限りだと特に増えている訳じゃないらしいがな。いつもの倍、襲われたさ。たまたまなんだろうがひどいもんだぜ」

「とにかく無事で良かったな」

「全くだ」


「誰か東方諸国に行く方はいませんかね」

「そりゃまた危険度が高いな」

「一度でいいので東方諸国に行ってみたいのですよ」

「お前さんは魔法使いだからな。パーティメンバーを募集して、パーティごと雇われるしかないんじゃないか。それでも東方に行く商人は数少ないから難しいと思うが」」

「そうなんですよね。あーあ、一目この目で見てみたいんですがね」


「帝国は変わらずか」

「今は小康状態だが、一ヶ月前の大規模侵攻は凄かったらしいぜ」

「へぇ、それでどんな感じで凌いだんだ?」

「アルティアが暴れまくったとさ。相変わらず恐ろしい火力で魔物を燃やしつくしたらしい」

「あの魔女は相変わらずだな」

「アベルも血まみれアベルって名前がついたとか」

「そんなに魔物が出たのか。相変わらず帝国方面は怖いねぇ」

「そういや、あいつら三次職間近らしいぜ」

「ほう、そりゃ久しぶりのビッグニュースだ。このまま冒険者を続けるのか」

「いや、知らねぇが話だとそのまま冒険者やるって聞いたぞ」

「国が黙ってないだろうにな。ただでさえ人材がマックスベルしかいないのによ」

「そうだな、これで帝国に仕官したら王都の連中は泡吹いて倒れちまう」


「久しぶりにイシュタルに来たが、最近どうだ」

「変わらず景気はいいぜ。ただ南街道の方は魔物が増えたって感じはするな」

「ほう」

「東西の街道に関しては変わらないが、王都へ向かう街道はいつもより増えているようだ。王都へ行く際は護衛の数を増やしておいた方がいいぜ。まあ増えたといってもゴブリンぐらいだが、たまにオークが出るとも聞くので注意しな」

「そうか、帝国に比べるとイシュタルは天国だな。女神イシュタルに感謝を」

「感謝を」


ここでも主な話題はアベルとアルティアの三次職間近と魔物が増えたって話か。ある程度自分のことが済んだらアベルとアルティアの顔を拝んでおきたいな。どうやらかなり有望らしいから、一度確認だけしておきたい。将来への布石だ。


「アキさん。ギルドカードができました」


盗み聞きもひとまず済んだところでタイミング良く、ギルドカードができたようだ。

登録料銀貨1枚を支払って、ギルドカードと革の小袋を受け取る。

カードには名前と職業とギルドランクしか記されてないのを確認した。初登録なのでギルドランクは最低のFだ。


「ではそちらのギルドカードが身分を証明するものとなりますのでなくさないでください。なくされると再発行料として銀貨3枚いただくことになります。そちらの袋は底なしの小袋という袋で、お金のみですがいくらでもしまえる袋です。ギルドカードと紐付けされていますので他の方に盗まれてもお金を盗られることはありません。ただし袋にしまったお金はその袋からしか取り出せませんので、盗まれたら袋にしまってあった分のお金は使えなくなってしまいます。十分ご注意ください」

おお、便利だがなくすと大変な袋だ。こちらの袋には無くしてもいいぶんだけしまっておこう。元々持っていた財布らしき袋はディメンジョンオブウェアハウス異界倉庫でしまっておこう。どれくらい移し替えようか。交金貨を100枚ぐらい取り出しておけば問題ないかな。


「依頼を請ける際は後ろの壁に貼ってある依頼書とギルドカードをお持ちください。依頼は人数やギルドランクや職業制限がかかっている場合もありますのでよく読んでからお持ちくださいね。それでは当ギルドをよろしくお願いします」

財布のことを考えていたらギルドの説明が終わり、受付の女性は頭を下げる。

思っていた以上にあっさりと終わった。もっと規則だの細かいことを覚えさせられるのを覚悟していたが、これは助かる。

俺は受け付けてくれた女性にお礼を述べると、壁の方を振り返り、依頼を見始めた。



依頼書。

壁一面に貼ってあるからものすごい依頼の量かと思ったら、依頼書が大きくて面積を取っていただけだった。だいたいA4サイズぐらいか。そんな紙が目の前に貼られている。見にくい場所には貼らないようで、壁の上や下の方には貼っていない。あくまでも手の届く範囲で貼られている。まあそれでも何十件か依頼があるのだからすごい。ざっと見た限りではランク別に左から右へと貼ってある。左がFランクで右がBランクだ。正直AやらBがどれくらい強いのかわからない。そういや有名なアベルとアルティアのギルドランクはCだったよな。早くそこまで上がりたいものだ。そんなことを思いつつ、Fランクの依頼を確認する。


「薬草採取:Fランク:最低人数無し:職業制限無し:期限明日まで:大銅貨1枚:ノダチを茎から50」

「見張り台勤務:Fランク:最低人数無し:職業制限戦士:期限一週間:大銅貨1枚と銅貨10枚:見張り台で魔物の動きを見張る」

「荷物持ち:Fランク:最低人数無し:職業制限無し:期限三日:大銅貨1枚と銅貨20枚:採取した鉱物を背負う。力持ち希望」

「鉱物採取:Fランク:最低人数無し:職業制限戦士:期限明日まで:大銅貨1枚:鉄鉱石を採取。こちらで用意する籠一杯分」

「力仕事:Fランク:最低人数なし:職業制限無し:期限無し:銅貨20枚:庭の石を動かして欲しい。力持ち希望」


どうやら思っていた以上にFランクは使い走りらしい。討伐系依頼は上位ランク制限がかかっているのか見あたらない。これではEランクになっても戦いの実力―――レベルは上がらないと思うのだがいかがなものだろうか。Eランクになってから初の実戦なんて危ないだろうに。駆け出し冒険者を死なせないための配慮なのか判断つかないが、ギルドとしたらEランクの討伐依頼を失敗されまくったら信用が落ちてしまう。最初にふるいにかける方がいいと思うが、ギルドの考えがよくわからない。


まあいい。ギルドの考えなんて俺が考えても仕方がない。

俺は首を振ると、とりあえず気軽にできそうな「薬草採取」の依頼を剥がし、カウンターに持って行った。

「この依頼を請けたいんですが」

ギルドカードと共に出す。

「はい、請負ですね。ノダチを茎から50本採取となります。ノダチはわかりますか」

「いえ、よくわからないですので何か参考になる資料はありませんか」

「こちらになります」

そう言うとカウンターからノダチと思われる詳細な絵と生息情報を記した紙を渡してくれた。

この絵を見るとノダチとはアザミっぽい感じがする植物だ。茎にトゲがついており素手での採取は止めた方が良さそうだ。軍手を購入しておこう。

「こちらの紙は後で返していただきますのでなくさないようにお願いします」

「助かります」

これで初の依頼を請け負った。さっさとこなすか。俺はギルドを出ると革の手袋を購入した後、地図を見て街の南門へ歩いて行った。


イシュタルの街は北側に川が流れている。イシュタル川と呼ばれ東西に延びている川だ。交易街道も川に沿ってはるか東西に続いており、東西を結ぶ中間地点がここイシュタルの街である。南には川はないが交易街道があり、そちらは王都まで伸びている。昨日と今日で仕入れた噂だと王都へ続く道は魔物が増えたかもしれないと言っていたが、たまたまかもしれないし定かではない。

俺は南門を抜け、外へ出る。馬車が余裕ですれ違えるぐらいに幅のある道が遠くまで伸びており、結構先の方に薬草が採れる森が見える。街から結構離れているが、近ければ依頼なんてしないだろう。俺は周りに人がいないのを確認してからシャットアウト気配遮断とインビジブル不可視の呪文を唱えて、街道を南下する。

1時間ぐらい歩いてようやく森についた。体そのものが違うので断言はできないが、徒歩のスピードは平均で時速4kmから5kmだと記憶している。とすると森まで4kmから5km離れている計算になる。実際正確な時間はわからないので全ては感覚での話しだが、そんなにはずれていないだろう。俺は遠くに見えるイシュタルの街の城壁を見る。街道沿いに視界を遮る建物がないのでよく見える。この大きさが4-5km先に見える大きさか。しばらく城壁を見つめてから、改めて薬草生息地の地図を広げる。地図によると薬草が生えている場所はそんなに奥まで行かない場所のようだ。念のためにハードスキン肌石化の呪文を唱えておく。この呪文はACを上げる呪文であり、俺が唱えると100上がる。他の人のACが通常どれくらいなのかわからないが、魔法使いにしてはそこそこ頑丈だろうと信じている。でないと平和な日本で暮らしていた俺としては足がすくんでしまう。半分暗示のようなものだが、大丈夫大丈夫と念じて森の中へ足を踏み入れた。足下を見ながら踏み固められた道を進んでいくと、薬草の絵と同じに見える草が道の脇に生えているのが確認できた。薬草生息地の地図を見て、目印の木があることからここが生息地なのだろう。この群生しているノダチを再度見比べ、同じなのを確認すると採取を始めた。同じ箇所から採りすぎても群生地がなくなっても申し訳ないので、間引くように十数本採り、また別の群生地へ向かう。そうして50本のノダチを約束通り採取し終えたが、木陰から見える太陽は頂点にも達していない。頭の地図を確認する。特に赤や緑の輝点もない。正確に言うと遠くにはあるが、俺がいる近くには輝点はない。森近くの街道周辺をたまに緑の点が動いていくぐらいだ。つまり敵もいないし目撃者もいないということだ。それならば少々音を立てても問題ないだろう。ちょうどいい機会だし、もう少し奥の方へ行ってから魔法の練習をしよう。


森の奥にぽっかり拓けた場所があった。ここなら具合がよい。俺は腰を下ろすと呪文を確認しはじめた。

呪文。

まず攻撃呪文として地水火風雷の系統の呪文があり、それぞれバリエーションがある。他に支援系の魔法や結界関係の魔法、クリエイト系の魔法や移動系の魔法があったりする。もちろん支援系の呪文で最高なのがエンチャント魔法付与であり、この強力無比かつバランスブレイカー的な呪文が究極の一だと信じている。こうして改めてみると魔法使いのイメージに合わない呪文がかなりある。この支援系やポーション作成の魔法なんてウィザードのイメージよりソーサラーのイメージの方が強い。俺からするとソーサラーって火にかけた鍋をかき混ぜて何かを作っているイメージがあるし。あと呪文の量が多いのにも参った。要所要所で一番適している呪文を即座に唱えなければいけないだけに、この量には困る。覚えなければいけないからだ。もしかしてエンチャンターになるための転職条件にこの呪文の量は関係あるのではないだろうか。例えば三次職までの魔法職を全て経験しないといけないとか。僧侶系の回復呪文が一切入っていないところをみると、この予想はあながち間違っていないかもしれない。ヘルプには呪文一覧の記載はなかった。あくまでも自分が取得した呪文それぞれにイメージを合わせたとき内容がわかる感じだ。これだけ大量にある呪文をいちいち確認する? なんてめんどくさい。とりあえず今は必要そうな物から少しずつ覚えていこう。

しばらく確認作業に終始する。地水火風雷の呪文と効果、その発展系の呪文と効果。支援系の呪文とその発展系の呪文の効果。結界や移動系の呪文の効果を確認する。見れば見るほど恐ろしい。魔法使いは最終的に砲台だ、なんてどこかのマンガで見たことあるけどまさしくその通りな呪文が多数そろっていた。個人やパーティを倒す呪文ではなく、対軍用の範囲攻撃呪文を普通に覚えているのだ。まさにチートでそんな自分がちょっと怖くなったりする。ざっと確認して思わずため息をつく。魔法の練習をしたら森が消えそうだ。今日の収穫は攻撃魔法以外の魔法が結構充実しているのがわかったことかな。特にクリエイト系の中でポーション作成の魔法があることがわかったのは大きい。ちなみにポーション作成の魔法は触媒が必要になっている。これって錬金術師のイメージが強いのだがどうなんだろう。金属生成や錬金の呪文がないのでそちらは錬金術師専門の魔法なんだろうか。そんな推測もしつつ、俺は立ち上がった。思っていた以上に魔法の攻撃力が強かったので練習は取りやめだ。さっさと帰って、次の依頼を請けよう。そういえば、Fランクは依頼を複数請けられないらしい。ギルドの依頼をこなせないと罰金や最悪ランク降格があるのだが、Fランクの人間は違約金が払えそうにないし、これ以上ランクを下げることもできない。だから複数依頼の受注は禁止にしているとのことだ。妙に納得してしまった。

FからEに上がるのに最低20件以上の依頼をこなさないといけないので今日は街に戻ることにした。依頼を複数受けられるのであれば、薬草採取系の依頼をいくつも受けたのだが、ランクが上がるまでそれはなしだ。今は一つ一つ地道にこなしていくしかない。木々の隙間から太陽をのぞき見る。急げばもう一件ぐらい請けられるだろう。俺は早足で森を抜け、街へ戻っていった。


イシュタルの街。

ギルドの受付にて地図とノダチとギルドカードを渡し、報酬の大銅貨1枚をもらう。受付の職員はカウンターの奥でギルドカードに今回の仕事を無事完了させたことを記録させている。魔法的な方法で記録しているのでギルドカードを見ても違いがわからない。この辺はギルドがちゃんと記録したと信用するしかない。俺は続けて今日中に終わりそうな採取の依頼を見つけてまた街の外へ出ていった。


夜。

だいぶ遅くなったが、昨日と同じく隅の方で食事をする。結構な人数が入っているところをみるとここの評判はいいようだ。確かに美味しいと思う。鶏肉の味がするソテーを切りながら、そんなことを考える。パンをスープに浸し、呪文を唱えて店の中に響く声を盗み聴く。うーん、今日は特に面白い情報は話してないな。昨日と同じ話か内輪の話。特に聞いておきたい話はなさそうだ。しばらくいたが、収穫はなかったので席を立つ。親父さんに(ロゼリアは厨房のようだ)軽く会釈すると部屋に戻っていった。


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