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神々の黄昏  作者: さくら
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第009話


午後。

近所の食事処で昼食を食べた後、一休みしてから東門へ向かう。魔物と戦うためだ。

1キロほど歩き、人目がないのを地図で確認すると、インビジブル不可視とシャットアウト気配遮断を唱えてからフライ飛行でイシュタル川を超えて北の荒れ地に向かう。

荒れ地を眼下に納めつつ、しばらく飛ぶ。脳内マップには赤い輝点がポツポツと浮かんでくる。いくつか固まっている点ではなく1つだけポツンと独立している点を探す。いきなり複数の敵を相手に大立ち回りをしたくないからだ。

ようやく条件に合うのを見つけた。周りに赤い点はなく、連携される状況ではない。よし、こいつにしよう。俺が戦えるかだけのために奪う命にしばし思いを寄せてから、そこへ向かう。


いったん高度をあげて、件の点のヤツをバードアイ遠視で眺める。

あいつはなんだろう。かなり大きな人型。ジャイアントだろうか。片手に棍棒のような太い棒状の物を持っている。ハードスキン肌石化の呪文を唱えてから100mほど離れた場所に着地する。どうやら相手はこちらに気づいたらしく、棍棒を地面に叩きつけて威嚇してくる。

まずファイヤーボール火球の呪文で倒せるか確認しよう。


「ファイヤーボール火球」

30センチぐらいの火の玉がジャイアントに向かって飛んでいく。距離があったのにもかかわらず、ジャイアントは避けきれない。狙い通り腹のど真ん中をファイヤーボール火球が打ち抜いた。ドンという音とともにジャイアントは地面に倒れる。だが死んだわけではない。こちらを憤怒の形相でにらみつけ、地面に指を立てて少しづつ前進してくる。今度は別の呪文を唱えよう。


「ウォーターボール水球」

ファイヤーボール火球と同じく30センチぐらいの水の玉が狙い通りにジャイアントの頭を貫いた。

「えっ?」

攻撃魔法だから当然なんだろうけど、いつも顔を洗ったりうがいしている魔法が物理的に頭を貫くのを見て思わず絶句する。

今度こそジャイアントは息絶えたらしく、その場で物言わぬ肉塊と化した。


考証しよう。

周りに敵がおらずジャイアントを示す点もなくなったのを確認してから、今使用した魔法について考える。

今回唱えた呪文は呪文リストでいうと上の方にある呪文だ。つまり初級呪文クラスと俺自身は推測している。そして唱えたレベルは1であり、そんなに威力がないだろうと考えていたのだが、思っていた以上に威力があった。魔法が凄いのか、高レベルの俺が凄いのか。現状だと断定できないがとにかく凄いということだけはわかった。ずいぶん前に読んだマンガで「メラゾーマではない、メラだ」と言ったキャラがいた。メラとは国民的有名RPGゲームの火炎系初級魔法で低レベルでも唱えられる呪文、メラゾーマは火炎系究極魔法で高レベルでないと唱えられない。主人公達が火炎を見て火炎系究極魔法だと驚いていたら、敵の詠唱者が火炎系初級魔法と訂正するシーンだ。つまり俺が詠唱すると、初心者魔法でも上位クラスの威力を秘めているのでは、という推測が成り立つ。この世界でも魔法使いは砲台よろしく後ろから高威力の呪文を唱えて敵をぶっ飛ばすぽいなあ。初級呪文でこの威力ならば、上位呪文だとどうなるのだろうか。本当に対軍相手に無双できそうな気がしてきた。


そういえば、魔物を倒すとお金とかアイテムを落とすのがRPGの基本だけどこの世界ではどうだろう。ジャイアントの死体の周りを探してみる。お、見つけた。そこにあったのは棍棒と袋に入った銀貨10枚。そういえば棍棒が魔法の武器かどうかどうやって鑑定するのだろう。何か呪文でもあるかな。リストを探してみる。アプレーザル鑑定とアプレーザルオブディテール詳細鑑定という呪文が見つかった。どうやらこれで普通の武器か魔法の武器かを鑑定するようだ。アプレーザル鑑定とアプレーザルオブディテール詳細鑑定は何が違うのだろうか。まあアプレーザルオブディテール詳細鑑定を唱えておけば間違いないだろう。


「アプレーザルオブディテール詳細鑑定」


ジャイアントの棍棒(2d4)

先が太くなった木の棒。相手を殴打してダメージを与える。筋力が27以上ないと装備できない。


鑑定結果を見る限り、特に魔法がかかっているわけではないようだな。だけど「ジャイアント」と名前がついているのでただの棍棒じゃないかもしれない。とりあえず一応持って帰ろう。売ったら金になるかもしれない。俺は強く握られた指を一本一本引き剥がすとディメンジョンオブウェアハウス異界倉庫にしまう。あとは特に落ちてない。


あっさりしすぎて戦った気がしない。怖いことは怖いがもう少し実戦経験を積むべきだろう。俺はフライ飛行を唱えて赤い輝点を探す。


今度は2つの点。上から見るとどうやらトロルのペアのようだ。二対一はまだ早いかな、と思ったがいずれ経験すること。気づかれないように頭上高く近づいて先制攻撃を仕掛ける。


「ファイヤーボール火球」


いきなり頭上から火の玉が落ちてきて慌てる二匹。惜しくも狙った頭に当たらず、腕一本を使えなくしただけだった。下ではトロルが吼えている。かなり怒っているように見える。無事な方が地面にしゃがむと、岩をつかんでこちらに投げ始めた。うぉ、当たる当たる。慌てたせいか、制御が乱れてふらふらする。まずい、このままじゃ落ちる。さすがにこの状態で落ちたらやられるだろう。覚悟を決めて制御のみに集中する。自分の頑丈さを信じろ。左手で顔をかばい、右手は杖を握ったまま。ビュンビュン岩が飛んでくるが、幸いなことに当たることはなかった。


制御を取り戻すと、トロルの投げる岩が届かない距離まで上昇し無事体勢を立て直した。いったん一息入れてから、100mほど離れたところに着地する。胸がドキドキしている。これが戦いの高揚感か。俺はトロルを睨む。奴らは投げることを止め、走って向かってくる。フライ飛行はまだ効果有り、地面の上10cmぐらい浮いた状態を維持して、迎え撃つ。


「ファイヤーボール火球」

今度のはレベル5だ。先ほどより二回りぐらい大きな火の玉が目の前に浮かぶ。

「行け」

合図と共にトロルに向かって飛んでいく火の玉。大声を上げて避けようとするが、腕がない方は避けきれず直撃する。五体満足の方は転がって避けきった。


一瞬で。

当たった火の玉が爆発した後には片手だったトロルの下半身しか残らなかった。

バタバタと上半身がない状態で数メートル走った後、バランスが崩れたのかゴロンと地面に転がる。

上半身はどこにもない。どうやら一瞬で燃えたらしい。

とんでもない威力だ。これで下位クラスの魔法だっていうのだから、魔法使いの攻撃力は相当なもんだ。


相棒がやられて、五体満足な方が先ほど以上に大きく吼える。荒野に響くその咆吼は仲間を呼び寄せてるのではと思わせるぐらい大きい声だ。まだ敵はいる。気を抜くな。俺は足に力を入れその場で踏ん張る。固い地面の感触が俺の意識をはっきりさせる。改めてこのときのことを思い返すと、持続的な効果がある呪文を意図的にオフできるらしい。このときはただ落ち着くために足に力を入れただけだが、結果からすると持続時間内でもオフにすることがわかったのは収穫だった。


無傷のトロルは距離50m弱。走れば数秒で対面するとはいえ、慌てなければ2回ぐらい呪文を詠唱できるだろう。

俺は敵を睨む。心臓がドキドキしている。転がったトロルは地面を叩き、立ち上がる。俺をにらみ返すと一声吠えてから走り寄ってくる。


今だ。

「ウォーターボール水球」

先ほどと同じくレベル5で唱えた魔法は目の前に大きな水の球を作り上げる。

「土手っ腹にぶち込め!」

俺の合図で目標めがけて飛ぶ水球。トロルは避けようとするが球の直径が大きく避けきれない。若干ずれたが、腹に当たり穴を開ける。地響きを立てて倒れるトロル。だが戦意は失っておらずこちらを睨んでくる。

ファイヤーボール火球とウォーターボール水球の違いはどうやら爆発力か貫通力の違いっぽい。ファイヤーボール火球は上半身を吹っ飛ばした。ウォーターボール水球は腹を貫通していった。なるほどこんな違いがあるのか。

俺は敵に目をやる。こぼれる臓物を手で押さえつつ立ち上がろうとするトロルのタフさに驚く。血の臭いが辺り一面に漂い、鼻につく。

「タフだな。でも終わりだ」


俺がファイヤーボール火球を唱えて、そいつの頭がなくなるとともに生命活動は終了した。




今回の戦いで学んだことは、魔法使いはいついかなる時でも落ち着いてないといけない。集中力を切らすと敵の接近を許してしまう。卑怯かもしれないけど、遠方からの攻撃で仕留めるべきだろう。安全だと思っていた空中も間接的な攻撃をされたらさほど安全ではない。もちろん高度を上げればいいのだが、集中が大事となる。インビジブル不可視とシャットアウト気配遮断を唱えていたが、効果が切れたわけではないのに敵に見つかった。こちらから攻撃すると無効になるのかもしれない。今後検証していく必要がある。ファイヤーボール火球は爆発力、ウォーターボール水球は貫通力が重視されている。他の元素系の呪文はどうなのだろうか。一度試しておかないとならないだろう。

こんなところか。


今回倒したトロルの死体の側で戦利品を漁るが、アイテムはなかった。元々素手だったので期待はしていなかったが、ちょっとくやしい。腰につけた袋に銀貨と銅貨が入っていたのでそれを頂戴した。二匹倒して銀貨9枚に銅貨10枚。ギルドの依頼を受けるよりよっぽど儲かる。まあ討伐系の依頼を受けてないので自信はないが。

そういえば、ジャイアントは知らないけど、トロルは強い敵である、と確かロゼリアが言っていた。となるとトロル戦で獲得したお金も強敵な分、額も高いってことになる。そしてそれよりも多くの銀貨が得られたジャイアントはもっと強いと思われていそうだ。まあこの辺のことはギルドで聞いてみよう。できればリストか何かでイシュタル周辺に出没する敵一覧を見せてもらえると助かる。


こわばった身体をほぐす。やはりそれなりに緊張していたらしい。赤い点は近くに無し。しばらくここは安全だろう。トロルの死体を魔法で燃やしつくしてから、俺はしばらく休憩する。血や臓物を見ても気持ち悪くならなかったのは大きい。岩を投げられて集中を乱したのはマイナスだが、経験を重ねていけば大丈夫だろう。殺し合いをした場所で休める自分に驚く。やはりこの身体はおかしい。リアルでは高所恐怖症だった俺が、高いところを飛んでも足がすくまなかったし、生き物を殺しても何とも思わないところが。

そんな事を考えつつ、しばらく休憩した。



休憩も終わり。

俺は立ち上がると、敵を探す。ジャイアントにトロル二匹。人型のモンスターと戦えたのは大きな収穫だ。もう少し慣れたら多対一も経験したい。ソロの魔法使いである俺にとってもっとも危険があると思えるのは、複数からの同時攻撃だ。もちろん複数を同時に相手取るような戦略を取ってはいけないのだが、状況次第によってはそうなりえてもおかしくない。まず弱い敵を複数相手取ってみよう。一匹しかいなかったら近接戦を挑んでもよい。となると初心者レベルの敵と言えばゴブリンがお約束かな。よし、ゴブリンを探してみよう。


俺はフライ飛行で高度を取ると、ゴブリンを探して飛び回った。


数時間ぐらい飛んだだろうか。途中、一匹でいたジャイアントやトロルをついでとばかりに空中から攻撃して倒しもしたが、ようやくゴブリンの群れが見つかった。弱い敵は群れる、これは厳しい生存競争を勝ち抜くために必須条件だ。こんな基本的なことを忘れ、一匹でうろついているゴブリンを探していた俺はバカだ。複数の敵を避けていたらゴブリンなど見つかるはずもない。そんな当たり前のことに気づくのに数時間かかったわけだ。


眼下には50匹ぐらいのゴブリンが群れている。岩山の隙間で集落を形成しているようだ。ふと憐憫の情がわいた。こいつらは人間を襲っているのだろうか。もし襲っていないのに力任せで殺していたら罪悪感でおかしくなるかもしれない。この世界に来て色々変わったけど、大元の気持ちは変わらない。いや変わっていてほしくない。弱者をいたぶる趣味を持っていないし、持ちたくないのだ、俺は。


トロルやジャイアントを倒したときにはわかなかった感情。何故かゴブリン達を見ていたらそんな感情がわいてきた。

俺は距離を取って地面に下りると、ゆっくり近づいていく。


見張りのゴブリンが俺に気づいた。高い声を出し仲間に警戒を促す。ゴブリンの群れはよく統率されており、メスらしきゴブリンや小さなゴブリンが隙間に逃げ込み、槍や斧、剣や弓を持った大人らしきゴブリンがこちらをうかがう。不揃いの装備。刃が欠けていたり錆びていたりする武器を持ち、なにやら高い声を出し続けている。と、10匹いや20匹近くのゴブリン達が散開する。見渡すと、包囲攻撃をするつもりらしい。徐々に近づいてくる。


「やはり魔物か」


俺を見つけたとき、ゴブリンが逃げるのなら見逃してやってもいいと思った。が、あいつらは向かってくる。俺が奴らのテリトリーに侵入したからだろうけど、武器を持って向かってくるのだ。

戦う意志があるなら迎え撃つのみ。


といっても、散開されてしまうとやりにくい。固まっていたら楽だが、散開されて逃げられるのもうまくない。

よし、ここはあの魔法でいってみよう。


『ファイヤーウォール火壁』 消費MP3

任意の場所に火の壁を作る魔法。レベル10まである。レベルにより有効時間、高さ、幅、長さが変わる。


「ファイヤーウォール火壁」

レベル10で唱えてみる。MPは30ほど減った。レベルがある魔法は消費MPにレベルを乗算した結果が消費MPになるようだ。火の壁は俺が意図したとおりにゴブリンの後ろを半円形で囲むように現れる。これで後ろには逃げられない。前に進むしかなくなったわけだ。キイキイ騒いでるゴブリンだが、リーダーらしきゴブリンが一喝すると俺めがけて矢を放たせる。


「ウィンド突風」

慌てずに対弓矢用の呪文を唱える。飛んできた矢は強風にあおられ、地面に落ちる。リーダーが剣を振り上げなにやら命令をくだす。ゴブリン共が全員でかかってきた。


これはこれは。あれだけの数に近づかれたら死ぬかもしれない。バクバクする心臓をなだめつつ、次の呪文を唱える。


「サンダークラウド雷雲」

対集団戦用魔法。レベル5のそれはゴブリン達の頭上に雷雲を呼び寄せ、十回弱の雷を打ち落とす。稲光が辺りを照らし、雷が地を砕く。轟音が響きわたり、目の前が真っ白になる。雷と炎の壁で幻想的な光景がそこに存在する。しばらくして雷雲がぼんやりと消え去ったとき、俺以外の生きている者は誰もいなかった。

なんという威力。向かってきたゴブリン共はピクリとも動かず地に伏している。体の所々が赤黒く炭化し、異臭が漂う。


「オーバーキルだな」

さすがにやりすぎたかもしれない。戦利品は見るまでもない。全て黒こげだ。


これで魔法勝負に限れば目処がついた。慌てず落ち着いて、フライ飛行で遠くからドカンとかます。これが基本の戦い方となる。近距離時はテレポート瞬間移動で距離を取るか、いっそディメンジョンドア次元扉で離れてから仕切り直す。相手との距離をとるように動こう。問題点として一対一もしくは超近距離時、距離を離せられない場合の戦い方を考えないといけない。あとは自分の肉体強度とHPについても。どれだけやられれば、どれぐらいHPが減るのか、魔法が封じられた場合を備えるべきだ。例えば水中戦、例えば崩壊しそうな洞窟内、色々シチュエーションはある。その中で賢く生き残るために俺は考えるのを止めてはいけない。


岩山の隙間に逃げ込んだ残りのゴブリンは岩山を崩壊させて終了とし、俺は空へと飛び立った。さらなる敵を目指して。


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