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神々の黄昏  作者: さくら
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第008話


宿屋。

ロゼリアに帰った旨を伝え、部屋へと上がる。ここ数日は「アマノイワト天の岩戸」の呪文を唱えてない。最初の頃は唱えてから外に出ていたが、ロゼリアからシーツや布団を交換できないと苦情を言われたのだ。全くもって考えが回らなかった。俺は彼女に頭を下げて謝り、それ以降は私物を置きっぱなしにせず「ディメンジョンオブウェアハウス異界倉庫」でしまうように習慣づけている。


この世界に来てからずっと穏やかな天気が続いている。雨も降らず、暑さも厳しくない気候。おかげで布団もふかふかでとても気持ちがよい。横になってしばらく布団の感触を味わって満足した後、客で忙しくならないうちに風呂へ向かうことにした。


いつも通り断りを入れてからカウンターを抜けて中庭へ足を踏み入れる。中庭はまるで都会のオアシスのごとく、高くそびえる石の建物群の中にポッカリ空白地帯として存在する。その真ん中には浴槽があり、湯気で若干湿っぽい。


「周りの建物に窓がないとはいえ、ちょっと不用心だよな」

ロゼリア達から何も言われていないのでそのままにしているが、覗き対策をしなくていいのだろうか。あと雨対策も。雨に関しては屋根をつければいいだけだが、覗き対策になると物理的に壁を作るか魔法で見えないようにするしかない。世間でどれくらい魔法が多用されているかわからないから、もう少し慎重に魔法を使っていくべきなのだろうけど、ここ数日接した感じだとロゼリア達は魔法に関してかなり疎いようなのでもう少し使っても大丈夫のようにも思える。一応口止めしているけど、過信は禁物。派手にならず、目立たないように使っていかないと。

俺はそんなことをダラダラ考えつつ、覗き対策をどうするか悩む。

「そんな都合の良い魔法なんてあるかな」

一人つぶやきつつ、しばし呪文リストを眺めずばりの魔法を見つけた。


『ピーププリベンション覗き防止』 消費MP10

インビジブル不可視と違い、この呪文は対象を見ようとしたときに対象がぼんやりとしてよく見えなくなる魔法である。その効果は物理的に覗いたときと魔法的手段で覗いたときに効果を発する。詠唱者よりレベルが高い者が魔法的手段で覗いたときは呪文の効果を得られないので注意が必要である。


ぼんやりとしてよく見えないってどの程度だろうか。誰が入っているかわからないレベルぐらいか、性別すら判断つかないぐらい、か。俺は男だからあまり気にしないけど、女性は胸とかおしりとかの形を気にしそう。まあとりあえずこれを候補にしてみよう。

問題はこの効果をエンチャント魔法付与できるかということである。ピーププリベンション覗き防止を唱えてもいつかはその効果は消え失せる。効果を恒久的なものにしないといけないので、石に呪文効果を付与した上で対象を風呂近辺に設定できれば問題ない。

クリエイトリトルストーン小石作成の呪文を唱えて小石を作る。一つずつ手に持った上でエンチャント魔法付与の呪文でピーププリベンション覗き防止の効果を付与する。大量のMPが抜ける感覚。だが前回の風呂作成時と違い、気持ち悪さはさほどでもない。

「慣れたのかな」

俺はエンチャント魔法付与した石を浴槽付近の各辺に4つ置く。そして反対側に先ほどクリエイトリトルストーン小石作成で作った小石を置いて、ピーププリベンション覗き防止を置いた側から覗いてみる。特に悪意を持ったつもりはなかったが、こちらから覗くと浴槽すら見えない状態だ。ぼんやりと、例えるなら磨りガラス越しに見ているようだ。念のため四方全ての方向から見てみる。エンチャント魔法付与した石を含め、反対側に置いた石も何も見えない。ただ浴槽近辺だけぼんやりとしている。


「これなら大丈夫かな」

後でロゼリアに協力をお願いして確認してみよう。




風呂にも入り。

ロゼリアを呼んで覗き防止の呪文の効果を確かめようとしたが、忙しそうだったので明日以降に回すことにした。

厨房をすり抜けて部屋に戻って一息入れて。下に降りて食事をする。今日のメニューは初日と同じメニューだった。まだ一週間も経ってないのに同じメニューとは。思ったよりこの世界は食の研究が進んでないのかもしれない。そのうち親父さんにメニューの数について聞いてみることにしよう。




部屋。

もうそろそろ酒場デビューを考えてもいいかもしれない。ベッドに横になりつつそんなことを考える。

「でも俺、人見知りだしなあ」

人見知りというかめんどくさがりやというか。一人で行動するのを苦にしないタイプなので、こちらから積極的に話しかけることに抵抗を覚えるのだ。

「正直、人付き合いってめんどうだしなあ。それに俺自身のことは適当にごまかさないといけないし」

自分のことを適度に納得させるカバーストーリーは未だ考えていない。これも考えなければと思いつつ有耶無耶になっている。

「いいや、これも明日以降の課題」

どんどん明日以降の課題が増えていっているが仕方ない。俺を選んだナニカがいけないのだ。ちょっと開き直ってみる。


「明日はできるだけ多くの依頼をこなそう」

一人呟き、今日は早めに寝ることにした。




朝。

起床後、すぐに魔法を唱えて水を呼び出す。顔を洗い口をゆすぎ水球に吐き戻す。水球はしばらく空中に浮かんだ後、床を濡らさず消えるので結構便利だ。いったん口に入れても水球に吐き戻せば一緒に消えるので室内でも躊躇せず使える。


目が覚めたので服を着て下に降りる。

ロゼリア達に挨拶をして朝食を注文し、ゆっくり食べる。

一息ついたらギルドへ行くのだが、今日は昨日エンチャント魔法付与した呪文の効果を確かめるべく、ロゼリアに声をかける。

「ロゼリア、ちょっと空いてる?」

「はい、なんでしょうか」

風呂を作ってから気のせいかロゼリアと距離が縮まった気がする。まあ客からお得意さんに変化したぐらいだけど。

「ちょっと風呂を改良したから確認したいんだけど、中庭に案内してくれるかな?」

「改良したのですか? ちょっと気づきませんでしたが。わかりました、どうぞこちらへ」


ロゼリアの先導で中庭へ向かう。

よし、確認開始。

ロゼリアに壁近くに立ってもらい、浴槽近くでたたずむ俺が見えるかどうか確認する。

「あれ、アキさんが見えません」

「どういう風に見えない?」

「浴槽の周りがぼんやりとして細かい部分が何もわからない感じです。アキさんが立っていることすらわかりません」


成功したらしい。念のため四方それぞれの壁に立ってもらい確かめる。

「すごい、全然見えません」

さらに念を入れレビテーション浮遊で水面の上ぎりぎりで浮かんで見えるか確認してもらう。

「ロゼリア、今、水面の上に浮かんでいるけどどう見える?」

「いえ、何も見えません。ぼんやりとしているだけです」


ロゼリアと交代して今度は俺が壁近くに立つ。四方それぞれの壁で確認するが確かに見えない。見えないのが目的だから成功なんだが、よく考えると詠唱者本人にすら見えないのはどうなんだろう。エンチャント魔法付与した石が持ち去られると結構まずい事態になるのでは? 俺がこの世界でどれくらいのレベルかわからないが結構高いレベルだろうと自負している。そんな人間が唱えた魔法を見破れるヤツはそういないだろう。つまりこの石を使って犯罪行為をされてもわからないということになってしまう。エンチャンターが予想通り最終職でかつレベル93の俺が見えないってことは、この世界ではほぼ確実に見えないということに等しい。ちょっとそれに気づくのが遅すぎた。が、すでにロゼリアに披露してしまったし、ロゼリア達関係者以外に見つからないことを祈ろう。


念のために石だけ持ち去られないようにするため、石を埋めた場所を中心に1mほどの大きさでスクレローシス硬化の呪文をかける。これで石を持っていこうとしてもスクレローシス硬化の効果を破るか1mサイズの大きさで持ち帰らないといけなくなる。これならなくなってもすぐ気づくだろう。

待たせたロゼリアにお詫びして、何をやっていたのか質問を受けたので、覗き防止魔法の調整と答えておいた。魔法に詳しくないロゼリアならごまかせるだろう。

これで風呂に関しての懸念点は解決した。それ以外の問題は特に思いつかないので、もう大丈夫だろう。厨房に親父さんと奥さんがいたので、覗き対策をした旨を伝え、しつこいようだけどと前置きした上で口を酸っぱくして風呂の件を誰にもいわないように伝え、埋めた石を掘り返さないことを約束してもらった。とりあえずこれで風呂に関しては終わったと思っていいだろう。




ギルド。

宿屋を出てすぐに向かう。ギルドに入ると目があったいつもの受付の職員に会釈して依頼書を眺める。件数をこなしたいので街中の作業で何があるか確認する。うーん、Fランクの依頼だと良さそうな物がないなあ。地道に採取系の依頼で件数をこなすしかないか。

依頼書を壁からはがし、受付に渡す。いつぞやと同じくノダチの採取だったので、南の森へ行く。魔法を使ってちゃっちゃと済ませたいところだけど、ギルドで怪しまれるのも損なので素直に歩いて行く。

「今日はいいとこ3件ぐらいかな」

ノダチを採取し終えたら、街に急いで向かう。できれば今日中に4件は依頼をこなしたい。往復2時間ちょいと簡単だけど面倒な仕事。さすがFランクに依頼するだけある。俺はギルドカウンターに提出すると、次の依頼を請け負った。




夜。

なんとか4件の依頼をこなした俺は、風呂場でゆっくりお湯につかる。街中での仕事がなかったので件数のわりに時間がかかった。夕方までに終わらず夜になってようやく最後の依頼を終わらすことができたので。まあこれで16件。20件まであともう一踏ん張りだ。宿泊も延長しないと。明日泊まれば前金分は終了するからな。面倒くさいから一ヶ月分払ってもいいが、王都や帝国にも行きたいのでそれは止めておこう。


風呂から出ると食事をして、ロゼリアに7泊追加をお願いする。銀貨3枚に大銅貨1枚を渡して、またしばらくやっかいになる旨を伝えた。




翌朝。

早起きした俺は朝食を食べてギルドへ向かう。あと4件でランク認定試験を受けられるだけに気合いの入り方が違う。

ギルドで依頼書を眺める。特に目新しい依頼はないようだ。残念。今日も地道にこなしていくか。俺はいつになっても絶えることのない薬草採取の依頼を請け負って、ノダチが生えている森へ向かった。


森。

1時間ほど歩いて到着した。今回はノダチではなくて違う草がほしいらしい。カルマナという草でこの時期に白い花を咲かせるので花が咲いたものを根っこごとご所望とのこと。あまり大きく成長しないので生息地の地図を見て地面を注意して探す。白くかわいらしい花が咲いているのを見つけた。どうやらこれがカルマナらしい。イラストと見比べて確認した後、依頼の10本を傷つかないように丁寧に採取する。いい香りがすると職員が言っていたが、確かにいい香りがする。これでシャンプーが作れたら人気になりそうだな、と考えつつ街に戻る。


受付で提出した後、さらに依頼を請ける。できるだけ早く依頼を終わらせたつもりだったが、本日の成果は3件。あと一歩及ばなかった。仕方ない。明日20件目を終わらせた後、ギルドランクの認定試験を受けよう。認定試験といえば試験内容の依頼は決まったのだろうか。朝も挨拶を交わしたギルド職員に質問してみた。


「すいません。明日にでもギルドランクの認定試験を受けられそうなんですが、試験内容は決まったのでしょうか?」


受付の職員は席を外すことなく「はい」と答えた。

「ええっと、アキさんの試験は決まりました。試験内容を申し上げることはできませんが、パーティで受けるのが前提となるレベルとなっております」やはりそうか。過去の試験内容は教えてくれるだろうけど、まだ行われていない試験の内容に関しては秘密に決まっている。でなければ事前にパーティなどでその試験対象となる魔物を殺してしまえばいいのだから。自己申告だからどう倒したかなんて、監視者がいない限りわかるはずがない。しかしパーティで受けるのが前提のレベルか。明日20件目の依頼をこなしたら、魔物と戦っておこう。試験前に一度は魔法を使った実戦を体験しておく必要がある。本番の試験で失敗したら目も当てられない。そういや試験に落ちた場合、再試験はどうなるんだろう。聞いてみるか。


「ちなみに試験に落ちた場合、再試験はすぐに受けられる物ですか?」

「いえ、依頼を3件ほど請けていただいてからとなります」

なるほど、ギルドとしては再試験をすぐに行わせるつもりはないようだ。再試験をえさに依頼をこなしてもらう。依頼件数は減るし、試験を受けられるレベルにある人間が依頼をこなすので成功率もあがる。ギルドにとっては損がない仕組みだ。

「わかりました。明日にでも20件目の依頼をこなして、明後日にはギルドランクの認定試験を受けたいと思います。よろしくお願いします」

俺は頭を下げて礼を述べるとギルドを出て行った。




宿屋。

風呂に入った後、夕食を食べる。今日は珍しくお客さんの入りが悪い。ロゼリアが手持ちぶさたにしている。

「ロゼリア」

声をかける。

「はい、なんでしょうか」

「今日はいつもより少ない気がするけど」

「はい、何でも帝国での戦いが一段落したらしく、雇われていた冒険者の皆様が帰ってくるようなんですよ。この街を本拠地にしている方が多いので、今までいた方々は王都に戻られるようで」

「というと、イシュタルの街を本拠地にしている冒険者は腕がいいってことだよね?」

「はい、どちらかというと王都は冒険者でもなりたての方が多く、ここイシュタルの街はランクの高い方が多いです」

そうか、ここは東西を結ぶ中継地だから仕事もあるけど要求レベルも高いのか。今まで帝国に雇われていたから王都の連中がここに出稼ぎしに来てたが、一段落した話を聞いて王都に戻っていったわけか。王都の方が冒険者レベルが高いと思っていたがそんなことはないようだな。ってことはここにいればアベルだのアルティアだのに会えるのかな。

「アベルやアルティアはどこを本拠地にしているか知っている?」

「はい、ここの街です」

なんと、ラッキーなことにイシュタルを本拠地にしているらしい。ならここで待っていれば会えるってわけか。

「ありがとうね」

お礼を言って席を立つ。帝国からここまで何日ぐらいかかるかわからないが、さっさとEランクになっておいたほうがいいな。


部屋に戻り、明日のことを考える。

明日は午前中に1件の依頼をこなす。そして午後はまるまる魔物と戦う時間にあてよう。

いよいよ、だ。俺の戦闘能力が明らかになる。どの程度の力なのか、怖いけど楽しみでもある。自分を信じろ。あれだけの高ステータスなんだ。きっと強いに違いない。竦まず、怯まず、脅えず、呪文を唱え敵を殲滅しよう。

俺は興奮する精神を無理矢理押さえ、明日のために早めに寝ることにした。




この世界に来て9日目となる朝を迎えた。

今日でランク認定試験の前提となる20件をクリアする。

「よし、今日も頑張るか」

着替えなどの準備をして食堂へ降りていった。

朝食をしっかり食べて、ギルドへ向かう。


ギルド。

街中の依頼は今日もなかったので、早めに終わりそうな依頼を探す。

「薬草採取かな」

相変わらず制限がないFランクの依頼は多くない。

「いいや、ラスト1件だし早く終わらせよう」

依頼書を剥がし、受付に渡す。

「おはようございます」

いつもの職員だ。

「おはようございます、今回で20件目ですね」

「ええ、頑張りました」

「そうですね、ソロなのに順調に依頼をこなしていただき、当ギルドとしても大変助かっております」

頭を下げられた。

「いえいえ。明日ランク認定試験を受けたいと思いますのでよろしくお願いします」

「わかりました。それでは試験に合格することを祈っております。その前にこの依頼を完遂することが大事ですけど」

「確かに。ヘマしないよう気をつけます」

そう言って薬草採取の依頼を請ける。

「よし、さっさと終わらせよう」

ギルドを出ると、急ぎ足で南門に向かう。




森。

地図を見て採取場所まで歩いて行く。今回の依頼は薬草採取とあるが果実というか実を持ってくることだ。マリスの恵みといわれるこの実は多少であるがMPを回復する効果があるらしい。依頼者はこの実を使ってMPを回復させるポーションを作るようだ。ちょっと気になったが俺はかなりの数のポーションを持っているので現状だと必要ない。そもそもじっとしていれば自動回復するし戦闘時のような緊急時でもない限りポーションはそんなに必要ない。依頼の数だけ実をもぎ取ると、街へと引き返す。


ギルドで窓口の職員に実を渡す。

「おめでとうございます。これでEランクへの認定試験を受けられるようになりました。認定試験を受ける際には受付にて私ども職員に申しつけてください」

受付の職員が頭を下げる。

「ありがとうございます。明日受けるつもりでいますが、当日の申し込みでいいのですよね?」

「はい、Eランクの試験は何かを準備するようなことはありませんので当日の申し込みでも大丈夫です」

「わかりました。明日を予定しておりますのでよろしくお願いいたします」

俺も頭を下げてギルドを出た。


よし、これで明日は認定試験だ。問題なく合格できるだろうけど、念のために実戦をこなしておこう。

俺は戦いに赴く前に昼食を食べることにして、通りを歩き始めた。


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