第218話 あくまでも4コマです♪
4コマ劇場 アイオライト_577・・・・・2011/12/04
シリーズ3
タイトル「あくまでも4コマです♪」
★ 1コマ ★
今から五千年ほど前に創造された聖界『精霊界第四聖界クリスタル』
創造神同士の戦い『ジュエルウォーズ』によって、崩壊への道を進み始めた人間界の代替として十四創神の一人……精霊神クリスタル(ショウ)が同じく十四創神の時空神エメラルドの協力を得て創造した新しい聖界である。
通常、聖界創造するためには数百年もの期間を必要とするわけだが――崩壊の進む人間界からの移住を考えると、それだけの時間をかけている場合ではない。精霊神クリスタルは、十四創神の能力と引き替えに、僅か3ヶ月という短期間で聖界創造を成功させた。
その結果……、能力を失ったクリスタル――ショウは、己の半身でかつてのパートナー、十四創神アメシストの魂を受け継いだアリスによって殺されてしまった。そして、ショウを死に追いやってしまった罪の意識から、アリスは十四創神の転生後能力引き継ぎを拒否……。自らも人間界から消滅した。
ショウとアリスの死によって人間界崩壊は加速する。
人間界の全ての生命は、聖界創造直後の第四聖界クリスタルに移住するしかなかった。しかし、創造直後の聖界は、大気も安定せず、とても生命の暮らせるような環境ではない。
そこで、天空神サファイアの役職を引き継いだ優子が中心となって、第四聖界クリスタルの各地に地下都市を建設する。人間界から移住してきた人々は、地下都市で数百年を暮らすことになった。
地下都市の痕跡は、五千年経った今となっても各地に残っている。ルチルクォーツ王国の砂漠地帯エリアDにある『忘却の迷宮』も、そんな地下都市の一つであった。
★ 2コマ ★
エンスタタイト帝国の玉座に初老の男が座っている。王座を継いだ幼いコンドライトに代わって、全ての王政を取り仕切っていたドルールという名の前国王の弟……。つまりは、コンドライトにとっての叔父――エンスタタイト帝国の実質的な支配者であった。
ドルールの計画は順調に進んでいた。前国王の死後、コンドライトのサポートを理由にエンスタタイトにおいての実権を握る。後はコンドライトを亡き者にするだけというところで、予想していなかった事態が発生する。異世界より、この聖界の宝を収集するため、光竜アレキサンドライト(アレク)が現れたのだ。
見た目こそ人と変わらないアレクであったが、真の姿は全長100メートルを超す、まさしくドラゴンの姿であった。ドルールは、なんとかアレクを利用できないものかと考える。そして思いついたのがラリマー47国の完全統一……全ての国を支配してしまうことであった。
伝説によると光竜の力は凄まじく、その気になれば僅か数日で聖界すら滅ぼしてしまうと伝わっている。ドルールは、そんな伝説を利用して人々の恐怖を煽り、光竜アレキサンドライトを『エンスタタイトの魔竜』と位置づけ、周辺国に無条件降伏を呼びかけた。
当然、各国はそのような呼びかけに応じるはずもない。そのためドルールは、何も知らないコンドライトを唆し……真の姿のアレクに乗ってラリマー各国を巡ってみてはと進言する。無邪気なコンドライトにお願いされて、アレクも渋々と了承した。
数日後、ラリマー各国に激震が走る。国の上空に現れた巨大な怪物は、まさに伝説上の生物ドラゴンであったからだ。各国の代表は、それが『エンスタタイトの魔竜』であると理解する。伝説上の魔竜と戦っても勝ち目はない。各国は否応無しに降伏するしかなかった。
いかにも表面上ではあるが……ここにラリマー全土はエンスタタイト帝国によって統一された。
後はコンドライトを暗殺することで、全ての権力はドルールの手に入ってくる。コンドライトが生きている限り、ドルールは真の帝王ではないからだ。
だが、不穏な空気を察したのか、アレクがコンドライトを連れて、エンスタタイトから姿を消してしまう。それに焦ったのはドルールである。
民を捨てて逃げ出したコンドライトは良いとして、問題はエンスタタイトの魔竜であるアレクが不在なことであった。
辛うじて纏まっているラリマーではあったが、それはエンスタタイトの魔竜という恐怖があってのこと。アレク不在が知られれば、各国による反乱の危険性がある。
そこでドルールは、かつてラリマーに進軍を繰り返していた宿敵である隣国『ルチルクォーツ王国』への宣戦布告という大きな目的を掲げた。各国の意識を魔竜の存在から逸らせるためである。
ヒューマイト国の人形使いスペクトロライトのルチルクォーツ潜入。デンドリチック国による進軍ルートの確保。それらもまた、ルチルクォーツ王国への宣戦布告の下準備であった。
それ以外にも、消えたアレクたちの捜索が同時に進行されている。そしてもう一つ、エンスタタイトに残る文献の内容を調べるため、とある遺跡の調査が極秘裏に進められていた。今まさに、その遺跡調査の結果がドルールに報告されようとしていた。
★ 3コマ ★
「ほぉ、それが例の石か……」
透明なケースに収められた3センチほどの石を見て、ドルールは怪訝そうな表情で呟いた。漆黒のガラス……いや、宝石の様に結晶化しているものの、何処にでもありそうな鉱物にしか見えなかったからだ。
そんなドルールの様子を見て、ケースを持つ老人がニヤリと微笑む。
「間違いありません。これが異世界の鉱物とされる『魔石』です」
「魔石か……。魔族という得体の知れない種族が住むとされる異世界――魔界にある鉱物だな。魔界など、本当に存在しているのか?」
「我々の祖先は、この聖界に移り住む前、人間界に住んでおりました……。つまりは別の聖界です。同じように魔界が存在していたとしても、なんら不思議ではありません。それに……」
「……ん?」
「我々の力の源には、二種類の属性があります。すなわち、精霊力属性と魔力属性です。そして、殆どの者が魔力属性……。精霊界で暮らす我々に備わる力が魔力であることからも、魔界が存在している証明となるでしょう」
元来、人間族は……精霊族よりも魔族に近い種族だとされている。ただし、強大な魔力を有し、精霊族に匹敵する力を持つ魔族とは、比べものにならないほど貧弱な種族であった。
それは、精霊界第四聖界で暮らすようになって多少は改善されているわけだが……全種族の中でも最弱――それが人間族に対する評価であった。
「まぁ、魔界が存在しているか存在していないかはどうでも良い。文献にある通りの力がその魔石に備わっているかどうか……」
「この魔石は、間違いなくルチルクォーツ王国にある地下遺跡――通称『忘却の迷宮』の奥で発見されたものです。この魔石を回収するため、エンスタタイトの先兵が三十人ほど犠牲になりましたが――」
「そうか……」
忘却の迷宮には『古の巨大魔蟲』と呼ばれる大百足が無数に巣くっている。おそらく先兵は古の巨大魔蟲に喰われたのだろう。それなのに、ドルールはそのことに全く関心を示さなかった。
★ 4コマ ★
「文献によると、聖界創造直後……人間界より移動してきた人々は、各地に建設された地下都市で暮らしていたそうです。人々が安定した地上に出たのは、それから数百年後のこと……。しかし、忘却の迷宮で暮らしていた者は、ただ一人として日の光を見ることは叶わなかった。聖界が安定する前に、全ての者が死んでしまったからです」
「その原因となったのが……魔石」
「そうです。魔石は生体に取り憑くことで奇跡の変化を引き起こします。身体を細胞レベルで活性させて、生体を異形の姿『魔獣』へと変化させるのです」
「魔獣化……だな」
「はい。魔獣化した者に噛まれると魔石のコピーを憑けられることになります。魔石を憑けられた者は、自身に宿る魔力や自然界に存在する魔力……。そして、人々から向けられる負の感情をため込むことで……魔獣化を起こします」
「その結果、忘却の迷宮に移住した人々は滅んだ――」
「閉鎖された空間では、どこにも逃げ道がありませんから」
「たった一つの魔石が持ち込まれたことによって古の都市が滅んだか……。だが、魔獣化した生体を操ることさえできれば強大な戦力となる」
「たとえ操ることができなかったとしても、敵国へ魔獣を放つことで我が帝国の勝利となります。我らが何もしなくとも、勝手に滅んでくれるわけですから」
「くくくっ……。よし、まずは生体に魔石を憑ける実験を始めよ。その後、魔獣によるルチルクォーツ進軍を開始する!」
「ははっ、仰せのままに――」
ドルールの言葉に老人は不気味に微笑む。老人にしてみれば、ルチルクォーツ進軍などより、魔獣を復活させることの方が重要なのだろう。
エンスタタイト帝国に持ち込まれた一つの魔石によって、後にラリマー全土を巻き込む事件が起こることになる。魔石とは、ドルールたちが考えているより、危険な……取り扱いの困難な物であった。
だが、魔石の驚異は、なにもエンスタタイト帝国だけの問題ではなかった。
国土内に魔石の眠る忘却の迷宮を持つルチルクォーツ王国。危険度からすれば、ラリマーの比ではない。
数ヶ月後に忘却の迷宮で行われる予定のユークレース『ナンバー決定戦』も不安要素の一つである。いや、もっとも留意すべきは、ルチルクォーツ王都には……魔石に憑かれた者が存在していることであろうか――
いまから五年前、忘却の迷宮で深手を負った冒険者ジェムシリカ……。彼女の胸元には、漆黒色をした魔石が憑いていた。
その事実は、瀕死のシリカを治療したユークレース・サポート部のトップ……ターフェアイトにしか知られていない。知ってはいるのだが――シリカの命を蝕む巨大魔蟲の毒素に意識が向いてしまい、魔石が危険なモノだとは夢にも思っていなかった。
魔石は、精霊力属性であるシリカに憑いたことで、急激な反応を起こさなかったようである。しかし、シリカに憑いた魔石は、周囲の人たちの魔力、自然界の魔力を徐々にため込むことで、活動を始めようとしていた。
不幸なことに、先に人間界で発生した『魔獣化事件』に関わった優子やリウムも、シリカに憑いた魔石の存在に気づかなかった。唯一、気づいていたのは美咲だったが……忘却の迷宮に眠る怨霊との関連を疑い、優子たちから聞いていた魔石とは思わなかったようだ。
シリカに憑いた魔石が発動するのは時間の問題である。魔獣化し、自我を失って、無作為に人々を襲うようになるのだろうか……。
カーテンの閉められた薄暗い自室の中で、シリカは何をするでもなく無意味に佇んでいる。しばらくして、シリカは両のまぶたをそっと開いた。巨大魔蟲の毒素によって失われたはずの視力……。開かれた瞳からは、鈍くて赤い――不気味な光を放っていた。
★ コメント ★
赤目シリカの活躍(?)も書くつもりでいましたが――なんだか笑いに走ってくれそうだったのでやめました(爆) ← 意味不明♪