双子令嬢の片割れは魔道侯爵のお眼鏡にかなう
ハーディング伯爵家には双子の令嬢がいる。
双子なだけに見かけはそっくりで、親である伯爵夫妻でさえも見間違えることがあるくらいだ。
しかし性格は真逆で、姉のララは明るくて押しが強く、妹のルルはのんびり屋だが我慢強かった。
伯爵夫妻は、社交で目立つのはララだろうから、ララに婿を迎えて跡継ぎに。
辛抱の利くルルは、しかるべき家に嫁に出すのがいいと考えていた。
◇
「わたくしに縁談ですか?」
「そうだ」
驚きました。
婚約するなら社交上手なララのほうが先だと思っていましたから。
ララが羨ましそうに言います。
「いいなあ、ルルは。お父様、お相手は誰なの?」
「アラスター・フェアチャイルド侯爵だ」
「「えっ?」」
ララと同時に声を上げてしまいましたが、その意味は違っていました。
わたくしは侯爵家の当主が求めてくださるのかと驚いたのですが……。
「アラスター様って、魔道侯爵?」
「うむ」
「ええ? どうなの、それは」
「あの、魔道侯爵様というのは?」
社交に精を出す耳聡いララは知っているのかもしれませんが、わたくしは存じません。
ララとお父様が代わる代わる教えてくれます。
「宮廷魔道士で、社交には滅多に出ない方なのよ。わたしも実際に拝見したことはないのだけれど」
「俺も見たことはないな。フェアチャイルド侯爵家は数年前に代替わりした。現当主アラスター殿は二〇代半ばのはずだ」
あ、侯爵家当主といっても若い方ですのね。
少し安心しました。
「相当変人だって話なのよ」
「魔道バカだという噂だな」
「はあ」
変人? 魔道バカ?
不安になってきますね。
でもわたくしの知らないことをたくさん知っている方なのでしょう。
「魔道侯爵様は、どこでわたくしのことを知ったのでしょうか?」
わたくしはパーティーでいつも壁の花です。
ララのことを知っていても、わたくしについてはララの妹くらいの認識しかない方が多いのですが。
「いや、うちに双子の姉妹がいることをどこからか聞きつけたらしい。妹のルルが余ってるだろうから婚約を結んでくれまいか、という先方からの申し出なのだ」
「「えっ?」」
正直過ぎるのではないでしょうか?
実際には政略による婚約なんてそんなものだと思いますが、普通はお世辞でも褒めてくださるものかと思っていました。
ララが言います。
「ではわたしがお相手でもよかったんじゃないの?」
「ララに偏屈者のパートナーが務まるとは思えん」
お父様の言う通りかも。
ララが淑女らしくない、首を竦めたポーズを取っています。
「フェアチャイルド侯爵家は名家で、当主アラスター殿本人も魔道侯爵の異名を取るほどの傑物だ。婚約が成るならば我がハーディング家にメリットは大きい」
「そうですね」
「逆に侯爵家には得があるのかしら?」
お父様が首を捻ります。
「さて? しかしアラスター殿はこれまでもあちこちに縁談を持っていったらしいのだが、婚約に至ったことは一度もないはずだ」
ララと顔を見合わせます。
そうよね、侯爵様だったら縁談がたくさんあっても当然だわ。
むしろ二〇代半ばで結婚していないのがおかしいです。
「変人だから断られちゃうの?」
「いや、アラスター殿が断ることがほとんどだそうだ」
ええ? 申し込んだ側から断るのですか?
それもどうなんでしょう。
「古くからの名家だと、格式やマナーにうるさいのかしら?」
「かもしれんな。だからこそルルだ」
「はあ」
確かに普段のマナーならば、わたくしはララより上でしょう。
でもララだってわたくしと同じ礼儀作法を学んでいます。
やろうと思えば淑女の振る舞いはできるのですが。
「とりあえず顔合わせしようということになったのだ」
「わかりました。魔道侯爵様に気に入られるかはわかりませんが」
「うむ、相手が相手だ。気にしなくてよい」
あ、うまくいったら儲けもの、くらいの感覚のようです。
こうしたことに消極的なわたくしに場慣れしろという目論見なのでしょう。
気が楽になりました。
「ではルルよ、日が決まったらまた連絡するからな」
◇
「アラスター殿がぜひルルと婚約したいとのことだ」
「はあ」
ありがたいことですが、正直困惑です。
何故に?
顔合わせ自体は普通に終わりました。
こちらからはお父様お母様以外に、魔道侯爵様の顔を見てみたいとのことでララもついてきました。
魔道侯爵様は身なりにあまり気を使わない性質のようです。
変わった眼鏡をおかけになっていっしゃいました。
礼儀作法にうるさいということはなさそうで、少し安心いたしました。
「ルルったら、嬉しくないの? 大変な美形でいらしたじゃないの」
そうなのです。
魔道侯爵様は銀髪の美丈夫でありました。
魔道士は研究室にこもりきりなことが多いので、勝手に華奢な人みたいなイメージをもっていたのですけれども。
あにはからんや筋肉質なお方で。
『うむ、必要な素材や薬草を得るために、フィールドやダンジョンにまいることも多いのでな』
と仰っていました。
魔物と戦ったりもするのでしょうか?
心配です。
「ルルのどこを気に入ったのかしら?」
「ララと間違えていたのではなくて?」
「そんなことないわ。侯爵様ったら、ルルをガン見だったじゃないの」
頷かざるを得ません。
でも魔道侯爵様に積極的に話しかけていたのはララだったのです。
侯爵様がイケメンだったからだと思いますが。
わたくしは本当に座っていただけで。
「……でもわたくし達の顔は同じですから、わたくしの顔を見ていたということはララの顔を見ていたことと一緒ですよね?」
「ええ? 何なのその理屈。でもあながち間違いでもないのかしら?」
お母様が笑います。
「バカなことを言っていないで。めでたいではありませんか」
「そうだな。どういう理由だかわからんが、ルルが婚約という運びになったのは事実なのだ」
「いいなあ、ルルは」
いいのかしら?
嬉しいことは嬉しいですけれども、何だか気味が悪いのです。
◇
「楽しかったか?」
「はい!」
アラスター様が歌劇に連れていってくださいました。
話題の人気作なので大興奮です!
「見たかったものなのです。でもなかなかチケットが取れなくて」
「ルルが喜んでくれてよかった」
「アラスター様は歌劇にお詳しいのですか?」
「いや、こうしたものにはまるで縁がなくてな。歌劇というものは初めてだ」
「そうだったのですか?」
ビックリしました。
大人気歌劇ですよ?
てっきり歌劇にお詳しくて、チケットを取る伝手でもあるのかと思っていました。
「婚約したという話をしたら、チケットを譲ってくれた人がいてな」
「御親切な方ですね。ありがたいです」
アラスター様が柔らかな笑みを向けてくださいます。
アラスター様のどこが変人なのでしょうか?
とても魅力的な方だと思うのですが。
「わたくし、アラスター様の婚約者でとても嬉しいです」
アラスター様に対して感謝の言葉を述べていなかったことに気付きましたので、精一杯の気持ちです。
あれ? アラスター様複雑な顔をされていらっしゃいますね?
「アラスター様?」
「いや、失敬。私はルルが褒めるに値するような人間ではないのだ」
「どういうことでしょうか?」
侯爵家の当主が伯爵家の娘に気を使ってくださるのですよ?
これ以上のことはないと思うのですが。
「ひょっとしてアラスター様にはお親しい女性がいらっしゃるとかですか?」
「いや、いない! 私にはルル、君だけだ!」
跡継ぎが大事ということもあります。
わたくしも伯爵家の娘です。
夫の愛人くらいのことで文句を言ったりはしませんのに。
でもアラスター様の顔が赤いですね。
わたくしだけだというのは本当のような気がします。
「では何でしょうか? アラスター様はとても素敵な殿方だと思うのですけれど」
大きな身体で慌てていらっしゃるアラスター様可愛いです。
「……すまない。今は言うのが怖いのだ。いずれ必ず話すから」
「はい、わかりました」
何やらアラスター様には秘密があるようですが?
◇
「ルル、どういうことなのよっ!」
「どう、と言われても……」
ララに詰め寄られますが困惑です。
ことの発端は今朝のことでした。
――――――――――
『今日は魔道侯爵様とどうするの?』
『とっておきのおいしいものを食べさせてくださると仰っていたわ』
『いいなあ、わたしはお勉強ばっかり』
わたくしがアラスター様の婚約者となれば、自然ララがハーディング伯爵家の跡継ぎとなるわけで。
領主としての教育が本格化しているのです。
でもララだって人脈形成のためと、しょっちゅう食事会にもお呼ばれしているはずですが。
『魔道侯爵様のようなイケメンと食べる食事と、おっさんの嫌らしい視線に嘗め回されながら食べる食事が同格なわけないでしょ!』
もっともな気もします。
ララが可哀そうですね。
『ねえ、今日だけ魔道侯爵様を貸してよ』
『ええっ? そんなことは……』
『バレないようにするから』
アラスター様と会った時のことは全て報告していますし、ララがわたくしに化けた時に見破った人はいません。
でも……。
『ルルばっかりズルいわ。わたしだって魔道侯爵様の婚約者になる可能性があったのに!』
『うっ、そう言われると……』
『今日だけでいいから!』
――――――――――
というわけで、今日アラスター様とデートしていたのはララです。
わたくしは家で勉強しておりました。
わたくしも侯爵の妻となるのです。
ハーディング家に関係した人脈はともかく、領主教育が不要というわけではありませんからね。
しかし、帰ってきたララが文句を言ってきます。
正直心当たりが全くないです。
どうして?
「ルルは、魔道侯爵様がとっておきのおいしいものを食べさせてくれるって言ってたじゃない!」
「ええ、そう聞いておりましたけれど……」
「ゲテモノ料理だったわよっ! イモムシの炒め物とかサソリの唐揚げとかっ!」
「えっ?」
「ものすごい笑顔で食べさせられたわっ!」
予想外でした。
しかもものすごい笑顔?
今までわたくしには見せてくださっていない表情のようですね。
興味があります。
「……アラスター様は野外活動が多いですので、ゲテモノ料理がお好きなのかもしれません」
「はあ? 何それ?」
「わたくしも知りませんでした」
ゲテモノ料理は困りますね。
でもアラスター様がお好きということは、もしかしておいしいのでしょうか?
一度経験してみたくはあります。
「とにかくっ! わたしもこのままでは引き下がれませんわ!」
「どういうこと?」
「いい目を見させてくれるまで、時々魔道侯爵様を譲りなさい!」
「ええっ?」
ひどい目にあってもなお、アラスター様とともに過ごす時間のほうがいいようです。
よっぽど勉強に飽き飽きしてるんだろうなあ。
本当にララ可哀そう。
「わかったわ。でもバレないようにしてね」
「もちろんよ。わたしだって妹の婚約者と遊び回る姉なんて噂されては一大事ですもの」
自覚があるんじゃないですか。
まったくララったら。
◇
――――――――――魔道侯爵アラスター視点。
「困った……」
「ん? アラスターどうした? お前が頭を抱えているなんて珍しいな」
「殿下」
レイノルド王太子殿下だ。
同い年ということもあって、学生時代から仲がいい。
政務に疲れると、今でもこうやって私の仕事場である魔道棟にまで気軽にやってくるのだ。
「何というか……」
「お前が困るなんて理由は一つしかないだろ。つまり婚約者関連だ」
「わかりますか」
「わかるわ。火を見るより明らかだわ」
得意げな顔が癇に障る。
しかし殿下は幼い頃から婚約者がいて六年前に結婚、二児の父親でもある。
私よりも異性関係には強いはずだ。
「オレに相談してみろ」
「面白がってるだけのような気がしますが」
「政務政務でくさくさしてるんだ。エンターテインメントを提供しろ」
まあ殿下にとってみれば私の悩みなどつまらんことかもしれんが、それでも気晴らしにはなるかもな。
「アラスターの婚約者は、ハーディング家の双子令嬢の妹のほうだったろう?」
「ええ。一言で言って天使です」
「何度も聞いた」
ルルは天使だ。
あんな令嬢は見たことがない。
「その眼鏡で見ても天使なんだな?」
「はい」
私の眼鏡が魔道具だと知っている者はごく少ない。
見た者の性格まで映すというもので、極めて利用価値が高いのだ。
「つまり朴念仁のアラスターでは婚約者を喜ばせることができない、ということなのだろう?」
「いえ、その辺はどうにか」
「ほう?」
不思議そうな顔をしないでいただきたい。
私だって調査くらいするのだ。
むしろ分野が違うだけで、調査は得意と言える。
「では婚約者の天使な性格に合わせるのがツラいということなのか?」
「いえ、それも全く」
ルルはちょっとしたことで喜んでくれる。
とても好ましい。
会っていると和む。
「となると……先代が文句付けるわけはないよな?」
「はい」
領地に引っ込んでいる両親には連絡だけしてある。
ようやく私が結婚する気になる娘が見つかったかと大はしゃぎだ。
「じゃあ何が問題なんだ?」
「実はルルと会う日、ルルの代わりに双子の姉が来る時があるのです」
「は?」
殿下の目が点になっている。
「ルルになりきって来るんですよ。どうしたものかと」
「面白いな。初めて聞いたぞ、そんなの」
「面白いですか? 正直見た目だけではルルか姉かわかりませんね」
「ははあ、じゃあ双子で入れ替わってバレたことがないんだろう。お前は眼鏡のおかげで見分けがつくんだな?」
「さようです」
「ふうん。双子なのに全然性格が違うものなのか?」
「違いますね。姉は普通です」
ルルだけが天使なのだ。
「それで二度とすり替わるなどという気を起こさないよう、初めて姉が来た日にゲテモノ食堂へ連れていったのです」
「ひどい」
と言いながら大笑いの殿下。
「で、どうだった?」
「どういうわけか、以後も懲りずに入れ替わってることがあるんです。その度にストリップ劇場に連れて行ったり、魔力を抜く実験に付き合わせて疲労させたりしてたんですが……」
「にも拘らず姉が来る時があると」
「はい」
「アラスターが婚約者に嫌われているということは……ないよな。その眼鏡で確認しているんだから」
「無論です」
「おかしいじゃないか。何故とんでもない目に遭ってまで姉が来たがる?」
「ルルがぽろっと漏らしたところによりますと、姉に対する領主教育が厳しくなっているそうで」
「ああ、なるほど。ハーディング伯爵家にはその二人しか子がなかったか。当然といえば当然だな」
「息抜きさせてやりたいという気がルルにあるようなのです」
天使なルルは優しい。
わからなくはないんだが。
「しかし婚約者の姉を連れ回すというのは問題でしょう?」
「まあな」
「それに最近ルルが私のことを疑惑の目で見るんです」
「ぶぶっ!」
二人で情報を共有しているんだろう。
私のことをゲテモノ好きストリップ好きと誤解しているに違いない。
「どう弁解したものかと……」
「全部打ち明けろ。その眼鏡のこと、いつまでも隠し通すつもりはないんだろう?」
「ま、まあ殿下の言う通りですが」
「遅くなればなおさら話す機会がなくなるわ。向こうにだって妹の婚約者に会っていたという非がある。今がチャラにするチャンスだ」
「しかしルルには非がないので」
「ハハッ、姉の共犯だ。問題ない」
なるほど?
でも眼鏡のことを話すのは後ろめたいのだが。
「心配なら王宮に連れてこい。オレも同席してとりなしてやろう」
この際殿下の手をお借りするのが正解か?
殿下に借りを作るのは面白くないが、状況が拗れるのはさらによろしくない。
「ではよろしくお願いいたします」
「任せろ。アラスターが惚れた令嬢をオレも見てみたいからな」
あっ、そんな理由だったのか。
◇
――――――――――ルル視点。
「ま、まさか行先は王宮なのかしら?」
「ねえルル、どうなってるのよ?」
そんなことを言われましても。
今日は少々変わった趣向があるから姉ともども招待すると、フェアチャイルド侯爵家の馬車を用意されたのです。
どこへ行くかは聞いていませんでしたので。
到着しました。
やっぱり王宮です。
どうなっているんでしょう?
扉が外から開けられるとそこには……。
「アラスター様と、王太子殿下?」
「えっ?」
何故なのです?
殿下が得意げに仰います。
「ルル嬢はアラスターがエスコートするが、ララ嬢に相手がいなくては片手落ちだろう? オレが務めよう」
これが変わった趣向ですか?
不意打ち過ぎるんですけど!
「ふむ、すまんが見分けがつかん」
「ルル」
アラスター様はしっかりわたくしを見つめ、手を差し出してきますね。
わたくしとララの見分けがついているようです。
「アラスター様はわたくし達をちゃんと見分けてくださるのですね。嬉しいです」
「それに関して謝らねばならぬことがあるのだ」
「はい?」
どういうことでしょう?
何故かレイノルド王太子殿下が笑いを嚙み殺していますね。
「ここでは何だ。中へ来てくれ。ララ嬢、お手をどうぞ」
「恐れ入ります」
◇
「ではつまり、アラスター様は最初からわたくしとララを区別できていたと」
「できていた。その上でララ嬢がルルの代わりに現れた時には嫌がらせをしていた。許してくれ」
頭を下げるアラスター様。
真っ赤になっているララ。
面白くてたまらんという顔をしているレイノルド殿下。
妹のふりをしてその婚約者に会っていて、しかも当人に知られていたとなればララが恥ずかしがるのはわかりますが……。
「私にゲテモノ食いやストリップ鑑賞の趣味はない。ルルに誤解されるのがツラいのだ」
「ああ、そういうことでしたか」
安心しましたが、少し残念な気もしています。
「肝心のルルとララ嬢を見分けていた方法なのだが」
「方法、ですか?」
重要なこととも思えませんが。
眼鏡を外すアラスター様。
眼鏡なしだとさらに美形でいらっしゃいます。
素敵です。
「この眼鏡が魔道具なのだ。他人の性格や感情を見ることができる」
えっ? そんなハイスペックな眼鏡だったんですか?
レイノルド殿下が補足説明してくれます。
「アラスターの発明品だ。司法に外交に非常に有用な魔道具であることは理解できると思う。こうしたものが存在することは内密にしてくれ」
「「わかりました」」
性格や感情がわかるなら、かなりの情報を得られるでしょう。
国益に関わる魔道具です。
存在を秘匿するのは当然でしょうね。
それにしても王太子殿下が秘密にしてくれというほどの魔道具を製作してしまうアラスター様の、何と優秀なことか。
尊敬してしまいます。
「ララ嬢とルル嬢の性格は全く違う。魔道具の眼鏡で見分けていたということだ」
「そうだったんですね」
「具体的にわたしとルルはどう違うんですか」
「ルルは天使なんだ」
あっ、アラスター様のスイッチが入りましたか?
すごくお優しいお顔になっています。
「慎ましやかで些細なことで喜んでくれて。それでいて好奇心は旺盛で。理想の女性だ!」
「あ、ありがとうございます」
「アラスターは学生時代からかなりモテていたんだ。しかし文字通りお眼鏡にかなう令嬢がいなくてな」
「欲深で嫉妬深くて私にばかり色目を使ってくる令嬢はうんざりなんだ」
「ちなみにその眼鏡でわたしを見ると、どう見えるんですか?」
「ララ嬢メンタル強っ!」
レイノルド殿下が驚いています。
でもそれを正面から聞けるのがララなんですよねえ。
「……普通だ。積極的なところは評価できる」
「御配慮ありがとうございます」
うふふ、欲深で嫉妬深くてアラスター様に色目を使うというのは、多かれ少なかれララにも当てはまることでしょう。
ララったらそれがわかってて反撃したかったんですね?
澄ました顔で御配慮ありがとうございますだなんて。
お茶目で強気なんですから。
アラスター様が頭を下げます。
一体どうしたのです?
「こんな眼鏡を使って、ルルの心を覗くようなマネをして悪かった」
「えっ?」
「私を嫌わないでくれ!」
すがるような目で見てくるアラスター様。
全然気にしていませんのに。
「嫌うも何も、アラスター様はこんな魔道具を作れるなんてすごいなあ、としか思わないのですが」
「そ、そうか」
「ルル嬢、アラスターを許すのに条件をつけてやるといいぞ」
アラスター様がレイノルド殿下を射殺すような目で睨んでいます。
殿下は涼しい顔ですね。
許すも何も条件なんて……あっ!
「ではわたくしもゲテモノ料理屋とストリップ劇場に連れていってもらいたいです」
「「「えっ?」」」
何だろう?
皆が驚いていますね。
行ったことがないので一度経験してみたいだけなのですが。
「る、ルルが望むのであればならばいくらでも」
「ありがとう存じます!」
「ルルあんたバカじゃないの?」
「それからララが見たという、アラスター様のものすごい笑顔というのを、わたくしにも見せていただけませんか?」
「ハハッ、予想外だ。確かにルル嬢は面白い。アラスターが惚れるだけある」
苦笑しながら殿下が続けます。
「アラスターのサディスティックな笑顔はな。何かを企んでいたり復讐したりする時に見せるのだ。残念ながらルル嬢には縁がないだろう」
「そうなのですか」
少し残念ですね。
アラスター様の優しい表情が戻ってきました。
「ルル、君は本当に好奇心旺盛だな」
「……かもしれません」
「アラスター、ルル嬢を抱きしめてよいのだぞ。予が許す」
「えっ?」
「わたしと殿下は後ろを向いているわ」
本当にレイノルド殿下とララが後ろを向いてしまいました。
アラスター様が初めてハグしてくれます。
「ルル、君は可愛い」
「いえいえ、アラスター様こそ立派なお方です」
「私なんかにはもったいない」
それこそわたくしが言いたいセリフですのに。
ああ、アラスター様は大きいですね。
わたくしは小柄なので包まれてしまいそうです。
「アラスター様、殿下とララが見ています」
「知っている」
いつの間にかレイノルド殿下とララがこっちに向き直ってニヤニヤしています。
「恥ずかしいので放していただけませんか?」
「難しい要望だな」
もう、アラスター様はしょうがないんですから。
今のわたくしの感情をその眼鏡で見ないでくださいね。
――――――――――後日談。
「サソリの唐揚げは大変美味でした」
「ルルあなた舌バカなんじゃないの?」
「イモムシの炒め物もなかなか」
ルルの耐性はメッチャ高い。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どう思われたか下の★~★★★★★で評価してもらえると、励みにも勉強にもなります。
よろしくお願いいたします。




