8.
エクソシスト……。書き手の脈絡のない自慢話や身の上嘆きが、特別役に立つとは思えなかった。それでもベアルシは読み進めた。
何かは出てくるはずだ。この男がエクソシストである以上、必ず何かを教えてくれるに違いない。ベアルシは残りの文章に目を走らせた。流麗な筆致が、書き手の本来の品性を物語っていた。
『実のところ、この場所に縛られた霊魂たちが問題なのではない。彼らはただ、無念の死を遂げたに過ぎない。強いて言えば、十七歳の時に二十三人の女性が監禁殺害された密室の方が、危険度で言えば上だっただろう。だが、あの密室よりもここが危険な理由は単純だ。「人形」があるからだ』
古来より、人形は呪術の道具として使われてきた。人間の身代わりとなる厄払い、あるいは人間に代わって神を祀る者。人間と瓜二つ。
人間を模して作られた、けれど魂は宿っていない、極めて理想的な「器」。
人形というものは、その成り立ちからして霊魂が取り憑きやすいのだという。その上、この人形師は並外れて高名な男だった。
狂ってしまったとはいえ、彼の手成る人形は、人間と呼んでも差し支えないほどの出来映えだ。狂った人形師と、数百体もの人形がある家。
『少し考えれば、ここには何人たりとも立ち入ってはならず、今後数百年にわたって霊を閉じ込め、緩やかに消滅させる以外に方法がないことに気づけたはずだ。それほどまでに、ここは危険な場所なのだ。私がどれほど傲慢で愚かであったかを、骨の髄まで分からせるほどの場所なのだから』
ここに閉じ込められた霊魂たちは、狂った人形師に無念にも心臓を抉られただけでなく、腐り始めた息子の肉体を補うための代用品として利用された。
彼らの魂が見ている前で、その手足は切り刻まれ、すでに死んだも同然の息子の腐敗した体に繋ぎ合わされ、捨てられ、また繋がれ……。
バラバラになった己の肉体と、ズタズ타に引き裂かれた心。
二度と会えぬ愛しい人を思い、何度焦がれても、弄ばれた魂はこの場所に囚われ、逃げ出すことは叶わなかった。
そんな彼らにとって、器である人形は格好の媒介だった。囚われた魂と同調した人形たちは、その体に霊を宿し、肉体の代用品となって立ち上がった。
彼らは今すぐにでも人形師を殺したかっただろう。だが、憎悪を抱いた人の魂はそうはしなかった。呪いが全身に刻まれ、怒りがすでに焼け落ちた肉体をさらに焦がそうとも、思考は氷のように冷えていった。彼らは待ち、そして待ち続けた。
人形師が息子の心臓を作り上げるのを。その心臓を、息子の体に再び押し込むその時を。
『そしてついに、十二人の犠牲者が出た頃。人間のそれと恐ろしいほど「同じ」心臓が作られた。力強く鼓動する心臓を見つめる人形師の表情は、あまりに恍惚としていて……人形たちは、今すぐにでも彼を殺したいと思ったはずだ。
これまでの忍耐がなければ、その場で仕留めていただろう。賢明な人形たちは己を抑え、作り上げられた心臓が息子の胸に吸い込まれるまでを見届けた。心臓が体内に入ると、息子は大きく震え、ゆっくりと目を開けたのだ』
ベアルシは先ほど自分が目撃した光景を思い出した。見開かれた目、虚ろな瞳……。
『だが、それだけだ。目を開けた息子の瞳に映るものは何もなく、だらりと垂れ下がった手足は、さながら人形のようだった。「なぜこんなことに?」と戸惑う人形師の、あの澄み切った純粋な表情を見たとき、人形はもはや耐えきれず、彼を吊るし上げて殺してしまった。
あまりに呆気ない死に、人形たちは茫然自失とした』
「違う。私が望んでいたのは、こんな単純な死じゃない」
「もっと、残酷になる必要があるわ」
「私にそうしたように。私たちにそうしたように」
人形たちの声が耳元で聞こえてくるようで、全身に鳥肌が立った。
『行き場を失った怒りは、人形たちを怨霊へと変え、人形という優れた体を得た彼らは、家に入り込む者を片っ端から殺して遊び始めた。時を経るごとに、人形たちは残酷さを増していった。
残酷な遊びの果てに、彼らは「魂を喰らう方法」を知ってしまったのだ』
「魂を喰らう……?」
どういう意味だろう。魂が魂を喰らうと、一体どうなるのか。ベアルシは生唾を飲み込み、次のページをめくった。
『魂を喰らった霊魂は、実に厄介な存在だった。
そもそも霊魂というものは、永遠に現世を彷徨えるものではない。一定の時間が過ぎれば、彼らは強制的にこの世から消え、本来行くべき場所へと向かう。
しかし、他者の魂を喰らうと、その魂は行くべき場所を忘れ、永遠に現世に縛り付けられることになる。その状態になれば、理を無視するほどに魂をズタズタに引き裂き、跡形もなく焼き尽くさぬ限り、その存在を消し去ることはできない。当然、その魂に安らぎが与えられることはない』
魂を引き裂くなど、肉体を持つ人間にできることではない。それなのに、この厄介な存在たちがここには掃いて捨てるほどいる。正気の沙汰ではなかった。
結局、私は除霊を諦め、屋敷を脱出するためにあらゆる手を尽くし始めた。容易なことではなかった。人形たちは、人間を追い詰め、弄び、殺す方法を誰よりも熟知したプロだった。
彼らはすでに人格が崩壊し、本能にのみ忠実な存在と化していた。弱点を見つけるのは困難を極めた。いくら破壊しても、壊れた体を引きずって追ってき、いくら焼いても、燃え上がる体のまま突進してくる。
『数百体の人形があるのだ。器の一つや二つ、壊れようが焼けようが問題ではない。屋敷ごと焼き払おうとしても無理だった。屋敷に近づくだけで、人形たちが襲いかかってくるからだ。
もっとも、脱出した今となっては、二度とこの屋敷を訪ねることはないが。並の術者なら近づくことさえできないだろう。
人形たちに持ち込んだすべての武器を奪われ、絶望に打ちひしがれていた頃、私は自分よりも先にここにいた誰かの日記を目にした。そこには、人形たちの弱点が記されていたのだ』
(弱点が記された日記!)
ようやく求めていた情報が現れた。ベアルシは急いで次のページをめくった。
『第一に、彼らは特定の音に弱い。
それは、古びたオルゴールの音だ。そのオルゴールを鳴らし、火を放てば、彼らは魂ごと焼き尽くされる。半信半疑だったが、試してみると信じられないほど効果的だった。
ただし、オルゴールが有効であることを彼ら自身も悟っており、必死にオルゴールを破壊しようとしてきた。そして、かなりの犠牲を払った末に、オルゴールは壊れてしまった』
「あ……」
思わず落胆の溜息が漏れた。くそ、壊れたオルゴールのことなんて、こんなに長々と書かないでよ。
『希望を捨てるのはまだ早い。オルゴールと火の洗礼を受けて以来、彼らは滅多なことでは火に近づこうとしない。もしこの文章を読んでいる貴殿がすでに「火」を手にしているなら、それを決して絶やしてはならない。彼らは火を恐れている。
特に銀の燭台に灯された蝋燭の火は、彼らにとって毒も同然だ。
真っ先に探すべきは、火と燭台だ。覚えておけ。また、壊れたオルゴールの残骸を探すことを勧める。壊れてはいても、この屋敷にはオルゴールを修理できる場所が残っている。オルゴールを作ったのは、人形師の息子なのだから。
彼が人形師の目を盗んで自らの隠れ家にしていた場所。そこへ行けば、必ずオルゴールを直す部品があるはずだ』
(部品があったところで、直せるかしら……うーん……)
自信はなかった。けれど、ないよりはマシだと思い、ベアルシは探すべきリストに「オルゴールの残骸」を書き加えた。
『また、決して人形を攻撃してはならない。自らの器が危ういと感じれば、人形たちは仲間を呼ぶ。彼らに囲まれれば、二度と逃げ出すことはできないと心得ておけ。
最も注意すべき人形は十二体。彼らは悲劇の始まりであり、人形師に真っ先に殺害された十二人の村人たちだという。彼らもオルゴールには弱いが、動きを止めるほどではない。
彼らを無力化するには、より特別な何かが必要だ。だが、私はその方法を探るよりも逃げることを優先したため、詳細は知らぬ。
ゆえに、ただ逃げろ。彼らは知性的で、人間の呼吸音を見抜く術を知っている。ポルターガイスト現象を引き起こし、空間を歪めてくる。
最後に、この十二体とは別に、一体の気になる霊魂がいる。私がいた時、彼は動かない状態だった。だが、人形師を殺した頃の人形たちは、まだ魂を喰らう方法を知らなかった。
つまり、そこにはまだ「彼」……人形師の魂が残っている。そして、血縁の肉体は、この上なく優れた器となるのだ』
(人形師……最後のアレ……あの、男のこと?)
月光の下で見た最後の姿が脳裏をよぎり、全身に鳥肌が立った。
『この文章を読んでいる貴殿の前に、人形師の魂は現れただろうか? もしその魂が……器に入っているならば、貴殿は……いや、やめておこう。すべては仮定に過ぎない。ともかく貴殿が無事に脱出できることを願い、十二体の人形の特徴を記す』
妙に引っかかる一文だった。人形師に出会うとどうなるというのか。集中して読み進めようとしたベアルシは、白紙のままの次ページを見つけ、思わず叫び声を上げた。
「なっ、何ですって?!」
最も重要な部分が、乱暴に破り取られていた。嘘でしょ。この屋敷の数百体もの人形の中から、どうやってたった十二体を見つけろというの? 他のページも探してみたが、無惨に破られた跡があるばかりだった。仕方なく、読める部分を読み返す。
『数百体の人形の中に、八体の縫いぐるみがあるはずだ。息子が生前に作っていた、子供のための人形。彼らが貴殿を助けようとした時は、無条件に彼らに従うことを勧める。
息子の断片的な魂が宿った縫いぐるみは、貴殿をここから脱出させる手助けをしてくれるだろう。もともと十三体あった縫いぐるみは、私のせいで八体にまで減ってしまった。貴殿が訪れる頃には、一体も残っていないかもしれないが……』
ベアルシは自分の傍らに置かれたスカーフを一度見下ろし、再び込み上げてくる涙を堪えた。もしこの手帳の後に来たのが自分なら、残っているのはもう七体だ。
破られたページをめくり、再び読める箇所を開く。
『窓から飛び降りるなどという愚かな真似をする者はいないと思うが、念のために言っておこう。絶対にやめることだ。奴らは動きを捉える術に長けている。貴殿が落下する瞬間、奴らはむしろ感謝しながら、貴殿を頭から喰らい尽くすだろう』
『ああ、いつになったら抜け出せるのだろうか』
『周囲に人形がおり、隠れる場所がない場合は、火を傍らに置き、体を極限まで丸めて呼吸を止め、人形が通り過ぎるのを待て。人形は視覚よりも聴覚に注意を払っている。貴殿の心臓の付近に、時計を忍ばせておくことも忘れてはならない。人形は時計と心臓の音を区別できない。しかし呼吸音だけははっきりと見抜く。その事実を肝に銘じておけ』
『レスト、このクソ野郎。私をこんな場所に放り込むなんて。出られたら真っ先にお前を殺してやる』
『もう一生、人形なんて見たくない。目玉が飛び出し、髪は振り乱れ、割れた顔の隙間からにんまりと笑うあんな人形、なぜ存在するのだ』




