9.
教会だの聖堂だの。祠だろうが寺だろうが、あるいは他の何だろうが。「神」などという存在を祀っていると大層な看板を掲げている連中は、どいつもこいつも詐欺師だ。
聖堂の頭上に掲げられたステンドグラスが放つ多色の光彩を眺めながら、デイブは目を細めてそんなことを考えていた。
だが、はた目には、色とりどりの美しい光の下で、敬虔に神へ祈りを捧げている姿に見えることだろう。彼は極めて自然な動作で頭を下げ、目の前に座って目を輝かせている群衆を見渡した。
実用性など微塵もない華美な法衣を端然と纏い、口からは流暢な説교を垂れ流しながら、デイブ은心の中で繰り返していた。
神などというもの、いや、神に仕えると言いながら金を目当てに集まる奴らは、やはり人間のクズだと。
それもそのはずだ。もし神というものが存在するのなら、あるいはこの光景をご覧になっているのなら、聖なる神を祀るこの聖堂に……それも世界で指折りの古風な造りで、金を湯水の如くつぎ込み、醜い者や汚れた者、浮浪者など一歩たりとも立ち入れぬほど清潔で輝かしいこの聖堂に、首の折れた霊や四肢の切断された霊が入り込めるはずがないではないか。
明らかにここで死んだであろう死刑囚から、内臓を零した幼い見習い修道女の姿まで。
多種多様な霊魂がここを彷徨い、ミサに訪れた人々を盗み見たり、指で突いたりしていた。
実に見事な光景だ。彼らが他人に何をしようと傍観していたデイブだったが、自分の方へ寄ってくれば、鋭い眼光で射すくめて黙らせてやった。
幽霊、化け物、亡霊、霊体……呼び名は様々だが、所詮、霊魂という人種は愚かな上に無駄に勇敢で、何度懲らしめても時間が経てばまた這い寄ってくる。
愚かな奴らだけが幽霊になるのか、あるいは霊になったことで生前の知識を失い、愚かになるのか。いずれにせよ、苛立たしく、邪魔で、間抜けだということだけは反論の余地のない現実だ。
吐き気がするほど溢れかえる霊の姿に、今すぐにでも銃をぶちまけて一掃したい衝動をぐっと堪え、残り少ない説教を素早く締めくくった。
除霊というものは、予想以上に骨が折れ、金も労力もかかる割に、大した感謝もされない最悪の職業の一つだ。それゆえ、金が動かない限りは、死んでも関わりたくないのが本音である。
(霊の分際で、自分の命だけは惜しいのか、消滅の危機にさらされると逆上して襲いかかってくるからな。死んでるくせに、何をそんなに未練たらしく……)
心の中で悪態をつきながら、表面上は晴れやかな微笑みを浮かべて説教を終えると、万雷の拍手が沸き起こった。
中には涙を流す者までいるが、なぜ泣いているのかデイブには一ミリも理解できなかった。最後の一歩まで完璧な所作で締めくくり、聖堂内部にある「祈りの部屋」に入ると、デイブはすぐさま煙草に火をつけた。
告解を行う聖なる部屋でしてはならない行為であるどころか、神への冒涜に近い振る舞いだったが、デイブは微塵も気にせず、ふうと紫煙を吐き出しながらニコチンで脳を洗浄し始めた。全く、狂信者どもの前にいると息が詰まって仕方がない。
首を締めつける法衣を緩め、しゃがみ込んで旨そうに煙草を吸い込んだ。空は晴れ渡っている。
「神父の野郎が、説教が終わるなり煙草かよ……。てめえは間違いなく病気でゴロゴロのたうち回って死ぬぜ。不良神父め」
精巧な細工が施された、退屈なほど同じレパートリーの天井画を見上げていたデイブの視界を遮るように、一人の男が顔を覗き込んできた。
濃い金髪と滑らかな肌、真っ青な瞳は、まるで神の肖像画を見ているかのように秀麗で美しい。声まで神聖なその男は、本物の神の化身のようにも見えたが、デイブはその聖なる姿を目にするなり、顔を歪めて低く毒づいた。
(このクソ野郎。目の前に歩く性器みたいな面を出しやがって。煙草が不味くなったじゃねえか)
「黙れレスト。毎晩お前の部屋を出入りする女の数を見てから言え、このクソ野郎。お前こそ神様にアレを切り落とされて死ぬぜ。女たらしの神父め」
心のこもった返礼をしながら、デイブは彼の面前に中指を突き立てた。もちろん、残りの指は固く折られた状態だ。レストの野郎が自分のところへ来る時は、大抵ろくでもない話を持ってくる時だ。
警戒するデイブの心理が伝わったのか、レストはカラカラと笑いながら空いている椅子に腰を下ろした。
「そう警戒するなよ。別に難しい仕事じゃない」
言うのは簡単だろうよ。口しか動かさない野郎が。
デイブは奥歯を噛み締め、苦い顔をした。本当に金さえ絡まなければ関わりたくない男だ。しかし、レストが流す「製品」は霊魂に対して効果絶大で特殊なため、取引を断つことはできない。
特に、彼が持ってくる仕事は困難だが、その分報酬も弾むし、製品を好きなだけ持っていけるという大きなメリットがあるため、拒絶しにくい。今日の特別講義も同様だ。
報酬は、霊魂に直接的な打撃を与えられる銀の弾丸六十発。惜しんで使えば半年はもつ。手元の弾丸や聖水と合わせれば、数年はあの野郎の顔を見ずに済むのではないか。
神の加護か、科学の力か。霊を撃ち殺す特殊弾丸は極めて優れた代物だった。だが、優れた品には往々にして法外な値段がつくもので、デイブは常にその物資に飢えていた。
もっとも、今日に限っては違う。今のデイブはそれなりに潤っており、わざわざこんな状態で野郎の仕事を引き受ける気はなかった。
デイブが苛立ち紛れに煙草をふかしていると、レストが例の癪に障る――女が見ればとろけるという微笑を浮かべた。あ。あの笑い方は不吉だ。
「まだ余裕があるから悩んでるのか? 悩む必要もない条件にしてやろう。報酬は十年間、銀の弾丸と聖水の無制限提供だ。最高だろ?」
デイブは当分飢える心配はない。だが、十年以上飢えなくて済むなら、それに越したことはない。おまけに無制限だ。蓄えておくだけで心が安らぐだろう。無制限という餌に気分を良くし、思わず内容も聞かずに頷いてしまった。
「いいだろう、契約成立だ。それで、内容は?」
「十年前、お前が失敗したあの屋敷だ。あそこの霊の浄化、および消滅」
「オーケー、契約破棄。他の奴を当たれ」
ありえないほどの好条件だったが、デイブは報酬を諦めてでも、二度とあの場所へは行きたくなかった。やはり旨い話には、反吐が出るような仕事がついて回る。世の中、クソみたいなことばかりだ。
世間知らずの二十歳。闇雲に踏み込み、弾丸も聖水も底をついて、半死半生でようやく逃げ出した場所だ。あそこへ戻るくらいなら、今日を自殺日和に決めた方がマシだ。デイブは断固として首を振り、立ち上がった。
そうして未練なく立ち去ろうとしたデイブだったが、続く言葉に足を止めざるを得なかった。
「あそこに人が入ったんだ。聖堂の地下に隠されていたはずの屋敷の鍵が、どうやって消えたのかは分からないが……人が行った以上、助け出さなきゃならない。そして、この件に最も適しているのはお前しかいないんだ。分かっているだろ? あそこの霊がどれほど危険か」
「冗談だろ?」
「まさか」
「この聖堂の地下に入れる人間は、たったの五人しかいない。大司教、司教、お前、俺、そしてルイリン修道女。五人だ。なのに鍵が消えただと? 地下の中でも、特に厳重に保管されていたはずのあの鍵がか?」
「ああ。それが問題なんだ。神の加護を受けた聖職者の中でも、特別な力を持つ我ら五人が守るこの地下を突破し、消えた鍵が民間人の手に渡ったこと。それ自体が大問題だが、その民間人があの中に入ってしまったんだよ」
信じられないといったデイブの声に、レストはそれまでの笑みを消し、真剣な表情を浮かべた。
「神の加護を受けていても、ルイリン修道女様とお前を除いた大司教様、司教様、そして僕は、霊を見ることさえできない。ルイリン修道女様は地下を守らねばならず、ここを離れることはできない。かといって、並のエクソシストを送るわけにもいかない。あそこは、本当に危険だからな」
「はあ……正気かよ……」
行くべき人間が自分しかいないことは、誰よりもデイブ自身が理解していた。かといって、行きたくないものは行きたくないのだ。
溢れ出る悪態を隠そうともせず、デイブは荒っぽく髪をかき上げた。彼が結んだ「特別な契約」のせいで、デイブは自分が浄化しきれなかった場所で、命が亡霊に蝕まれるのを黙って見ていることはできなかったのだ。
(だから、屋敷を逃げ出す時に、鍵を世界で一番安全なここに保管したんじゃないか! いや、そもそも鍵はともかく、あんなお化け屋敷に入る物好きがどこにいるってんだ!)
深い溜息をつき、デイブは扉を蹴って外に出た。彼がどこへ向かうか承知しているレストは、先ほどの真剣な顔はどこへやら、再び不敵な笑みを浮かべて足を組み、彼を見送った。
「行く前に司教様の部屋へ寄って、聖水と弾丸を惜しみなく持っていけ。屋敷に入った人間が、どんな状態か分からないからな」
「帰ってきたら、真っ先にてめえを殺してやるからな、レスト!」
呪詛を吐き捨てて、デイブは部屋を後にした。ちくしょう。全く、この場所には滅多に来ないってのに、来るたびにクソみたいなことばかり起きやがる。




