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焼け跡から続く光  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

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6/7

魔獣

「やったー!道だぁー!!」


弾けるようなランスの声が、森にこだました。


「良かったぁ……もう獣道はこりごりです……」


リコリスも思わず肩の力を抜く。


背の高い木々が途切れ、視界いっぱいに光が差し込む。長く続いた獣道を抜け、ようやく人の手が入った砂利道へと出たのだ。


足元は安定していて、滑る心配もない。枝に頬を引っかかれることも、ぬかるみに足を取られることもない。


それだけのことが、こんなにも嬉しいなんて。


「天国みたいですね……」


リコリスがそう呟くと、ランスは大きく頷いた。

二人の顔には、久しぶりに安堵の色が浮かんでいた。


――だが、その平穏は、あまりにも脆かった。


「後ろ……魔王軍だ。」


低く鋭い声が、背後から飛んでくる。

心臓が、ぎゅっと掴まれたように跳ねた。


振り返るより早く、クロウが前に出る。


リコリスとランスを庇うように、一歩、二歩と距離を取る。


「お前たちは足手まといだ。早く逃げろ!」 


怒鳴り声には、迷いが一切なかった。


背中越しに伝わってくるのは、戦う者の覚悟。それが分かってしまうからこそ、リコリスの胸は締め付けられる。


「嫌です!クロウさん、一緒に逃げましょう!」


反射的に、腕を掴んでいた。


離したら、もう二度と戻ってこられない気がして怖かった。


クロウは一瞬だけ、視線を伏せる。

ほんの刹那。けれど、それは確かに“躊躇”だった。


「さっさと行け。俺は死にたくないんだ、邪魔をするな。」


冷たい言葉。突き放すような声。


けれどリコリスには分かっていた。

これは、彼なりの優しさだ。


「リコリスさん、行きましょう!」


ランスが叫び、強く腕を引く。


「僕たちがいたら、クロウさんの邪魔になるんです!」


足がもつれ、転びそうになりながら走る。


背後では、クロウがゆっくりと、魔王軍の方へ歩き出していた。


行かないで………


喉まで出かかった言葉を、必死に飲み込む。


リコリスは走りながら、震える声で叫んだ。


「クロウさん……!実は……魔獣化薬の試作品を、少しだけ……少しだけ持ってるんです!」 


胸が苦しい。息が切れる。


「使ってほしくなくて……完成してないからじゃなくて……貴方が壊れてしまいそうで、怖かったんです……!」


クロウの目が、はっきりと揺れた。


リコリスは懐に手を入れ、小さな小瓶を取り出す。

ランスに引っ張られながら、振り返り、力いっぱい投げた。


「どうか……無理だけは、しないでください!絶対に、生きて……また会いましょう!この先で……待ってます!」


カラン、と乾いた音。


小瓶は地面を跳ね、クロウの足元に転がった。

彼がそれを拾い上げたのを、確かに見た。


それだけを確認して、二人は村のある方角へと走り去った。


――必死に逃げ、どれほど経っただろう。


ーーーグオオォォッ!!!!


森の奥から、世界を引き裂くようなおぞましい咆哮が響き渡る。


「クロウさん……!」


胸が、張り裂けそうだった。


「ダメです!!リコリスさん!僕達が戻ったら、本当に足手まといになります!!」


ランスは泣きそうな顔で、それでもリコリスの手を離さず、必死に走り続ける。


その目も、潤んでいた。


やがて辿り着いた小さな村。

宿の扉をくぐった瞬間、リコリスは崩れ落ちた。


どうか……どうか、無事で……。


その夜、何度も目が覚めた。

窓の外には、静かに瞬く星。


久しぶりのふかふかベッドは快適はずなのに落ち着かない。


瞼を閉じても、クロウの背中が浮かんでくる。


冷たい瞳の奥に隠された、不器用な優しさ。

何気ない仕草に、何度も救われてきた。


気づけば、彼はただの同行者ではなく、

かけがえのない存在になっていたのだった。


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