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焼け跡から続く光  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

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5/7

クロウの過去

その日の行程はほどほどに切り上げ、

ふたりは森の端で野営をすることになった。


リコリスは小川のほとりで膝をつき、クロウに教わった焼き方を思い出しながら魚を焼いている。


ハーブを内臓を取った魚の腹に詰め、

弱火でじっくり――


その通りにやっているつもりだ。

香草と魚の香ばしい匂いがふわりと立ち上がる。


うまく焼けてる…よね?

クロウさん、食べてくれるかな……?


不安と期待に胸をくすぐられながら、リコリスは木陰で休むクロウの方を見る。彼は相変わらず無愛想だが、昨日より少しだけ柔らかい雰囲気に見える。


「クロウさん、お魚焼けましたよ! どうぞ!」


リコリスは慎重に焼き魚を差し出した。

クロウは目を少し丸くし、眉間の皺をゆるめる。


「……お前が焼いたのか?」


「はい! 教えてもらった通りに焼いてみました!」


クロウは魚のニオイを嗅ぎ、無言で魚にかぶりつく。リコリスは胸の前で手をぎゅっと握りしめ、

彼の顔色をうかがった。


「……まあまあだな。俺のほうが上手い。」


不器用に吐き捨てるような言葉。

しかし、その口元はわずかに緩んでいる。


「よかった!もっと練習して、絶対美味しいって言わせてみせます!」


嬉しそうに笑うリコリス。

クロウは照れたのか、すっと視線を逸らした。


その瞬間――


ガサガサッ!


茂みが揺れ、クロウは立ち上がる。


「誰だ! 出てこい!」


リコリスは思わず身を縮める。

クロウはリコリスを庇うように茂みを睨んだ。


茂みをかき分けて現れたのはぼろぼろの服を着た少年。怯えきった顔でブルブルと震えている。


「す、すみません……ただの旅人です。匂いに誘われて、つい……」


クロウは鋭い目で少年を見据える。


「行商ギルド『紅』の……ランスといいます。仲間とはぐれてしまって……お金も食料も尽きて……

助けていただけませんか……」


力なく崩れ落ちるランス。


「クロウさん、助けてあげませんか?」


リコリスは不安そうにクロウを見つめた。クロウは何かを考えるように二人を見つめ、深く息を吐く。


「……仕方ねぇな。少しだけだ、恩に着ろよ。」


「ありがとうございます……!焼きたてのお魚です!美味しいですよ。」


リコリスは魚を差し出し、ランスは涙を浮かべて受け取る。その光景に、クロウは目を細めた。


「クロウさん、少しでいいので……一緒に連れて行ってあげませんか?」


リコリスの重ねてのお願いに、

クロウは苛立ち混じりに頭をかいた。


「……最寄りの村までだ。それ以上は知らん!お前だって……人外の世話になどなりたくないだろう?」


クロウがランスをギロリと睨んだ。その不器用だが優しい言葉に、リコリスはぱっと花のような笑顔を見せる。


「ランスさん、よかったですね! クロウさんは……ちょっと口悪いですけど、本当は優しいんですよ!」


「ありがとうございます……迷惑にならないように頑張ります……!……一人になるのは、もう嫌ですから……」


二人の会話を聞きながら、クロウは大きなため息をついた。


「明日からはペースを上げるぞ。戦えねぇ足手まとい二人を連れて歩くんだ、気を抜く暇はねぇからな。」


横目で二人を睨みながら言うその声には、

不思議と本気の怒気はなかった。



ーーーーー


翌朝。


空気はまだ少し冷たく、

森には白い霧がかかっている。


三人は次の村を目指して歩き出した。リコリスはランスの歩調に合わせ、ゆっくりと横を歩く。


「魔王軍は……最近……この辺りの村を襲っているらしいんです。僕のギルドも…もしかしたら……」


ランスは悲しげに視線を落とす。

リコリスはそっと彼の手を握った。


「大丈夫です。必ず見つかります。諦めちゃダメです!」


その言葉にランスは少しだけ微笑み、歩みを進めた。その様子を後ろで見ていたクロウの表情には、

わずかな葛藤が浮かぶ。


「人間なんて助ける価値はないのに…」


ポツリと呟いた一言は吹き抜ける風に消えた。


リコリスの優しさ。ランスの必死さ。


それらが…

彼の中の何かをじわじわと溶かし始めていた。


その夜、一行は森の中で野営することにした。

クロウは見張り役として木の根元に腰掛け、

周囲の気配を探っている。


リコリスはランスと共に簡単な夕食を作り、

3人はお腹を満たした。


ランスは体力が戻りきっておらず、すぐ眠ってしまった。眠れないリコリスはクロウの方へ向かい、クロウが休んでいる木の近くに座った。


「クロウさん、少し……お話しできませんか?」


意外な問いに、クロウは眉をひそめてリコリスを見る。


「……何の話だ?」


「クロウさんのこと、もっと知りたいんです……」


焚き火の灯りに照らされるリコリスの瞳は真剣だった。クロウは休んでいた木の枝から飛び降りる。


リコリスを見ながらしばらく沈黙し…


重く口を開く。


「……昔、人間の“人外狩り”に全部奪われた。家族も、故郷も、全部………だから……これ以上何も奪われねぇように力を求めている。お前が作る獣人化薬がどうしても欲しい。これでいいか?」


重苦しい声音に、リコリスの胸が締め付けられた。


「……私たち人間がごめんなさい。でも…クロウさんは一人じゃありません。私……クロウさんの力になりたいです!」


そう言ってリコリスはそっと彼の手に触れる。

クロウは視線を落として呟いた。


「ひとりじゃない。……最近、妹にまた会えた。」


一瞬、焚き火が爆ぜる音だけが響いた。


「……お前たちの研究所に、囚われていたがな。」


「……ネロリちゃんの、こと……ですよね。あの……ごめんなさい……」


リコリスは肩を震わせ、言葉を詰まらせた。

クロウはネロリの実の兄だったのだ。


「全部聞いてる。ネロリから……お前のこともな。」


クロウの眼差しが、鋭くリコリスを射抜く。

耐えきれず、リコリスは俯いた。


「大切な妹さんを傷つけた私を……どうして、殺さないんですか……?」


「お前には利用価値がある。お前が作る薬が必要だ。薬が手に入ればお前に用はない。まだ殺さないでやる。……仮にお前が死にたいと言っても、まだ殺してやらんからな。」


冷たく言い放たれ、リコリスは息を呑む。彼の顔を見ることができず、胸の奥がぎゅっと痛む。


クロウは立ち上がり、木を軽々とよじ登った。


「……もう寝ろ。これ以上話すことはない。」


短い言葉を残し、彼は上の枝に腰を落ち着ける。

その背中は、どこか寂しげだった。


リコリスは罪悪感に押し潰されるようにうつむき、

そっと寝床に戻り横になった。


私の罪を償うにはどうすればいいのかな?


魔獣化薬はまだ未完成の危険な薬だ。薬がクロウの身体をどれだけ蝕むのか分からない。


そんな危険なもの…クロウには渡したくない。


リコリスは悩みながら、ゆっくりと眠りについた。

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