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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

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襲撃

静寂は、唐突に破られた。


――違う。


破られたのではない。

上書きされたのだ。


パァァァン!!!


空が裂けるような音がする。


耳をつんざく轟音とともに、空気そのものが震え、

次の瞬間、炎と瓦礫が村へと降り注いだ。


「――伏せろッ!!」


爆風が家屋を薙ぎ倒し、木造の壁が紙のように砕け散る。


悲鳴と怒号が入り混じり……

村は一瞬で地獄と化した。


「魔王軍だ!どうして急にっ……!」


カイルが叫び、空を仰ぐ。


黒い翼を持つ兵たちが降下してくる。

鎧に刻まれた紋章は魔王軍のものだった。


クロウは即座に動いた。

リコリスを引き寄せ、背中で庇う。


「落ち着け。まずは生き残ることを考えろ。」


その声は低く、だが揺れていない。

リコリスは歯を食いしばり、頷いた。


「……はい。私は、避難を!」


「頼む」


言葉はそれだけで十分だった。


ーーー


「こっちです! 動けない人を優先して!」


リコリスは必死に声を張り上げ、

戦えない村人たちを森の奥へと誘導する。


年寄り、子ども、怪我人――

誰一人……

置き去りにはできない。


背後で、爆炎が弾けた。

熱風が髪を焼き、地面が揺れる。


「――っ!」


振り返ると、黒翼の兵が迫っていた。

 

その瞬間、影が閃いた。


「俺の女に手ぇ出すな!」


クロウだった。


その言葉に、胸が跳ねた。

同時に、嫌な予感もした。


クロウは地を蹴り、獣のような速度で間合いを詰める。爪が閃き、敵兵の喉を裂いた。


血飛沫が夜空に散る。


クロウの身体から、かすかに赤黒い光が溢れ出していた。


「クロウさん……?」


「こっちを見るな。やることがあるだろう!」


その怒号に、

リコリスは我に返り、再び走り出す。


ーーー


「戦える者は俺について来い!」


カイルの号令とともに、村の若者たちが即席の陣形を組む。


避難が完了し…

反撃の準備が整ったのだ。


襲いかかる黒翼の魔王軍を、大地に引きずり落とし、トドメを刺す。


「やるなぁクロウ!相変わらず無茶しやがるぜ!」


剣を振るいながら、カイルが叫ぶ。


カイルは戦い慣れている。この村はそれだけたくさん襲撃を受けてきたのだろう。


「危なくなったら下がれよ!!」


カイルの言葉にクロウは口元を歪めた。


「調子に乗るなカイル。俺が危なくなるような相手なら、お前はもう死んでるぞ。」


爪と牙、そして漆黒のナイフ…あるもの全てを使って戦うクロウ。実力は圧倒的だ。


「ははっ!言ってくれるじゃねえか!」


軽口とは裏腹に、二人の連携は完璧だった。 


背中を預け、死角を補い、

魔王軍の兵を一体ずつ確実に沈めていく。


だが――数が違った。


「流石に……多すぎる…」


クロウが歯噛みする。


空から、さらに増援が降りてくる。


「避難組が危ないぞ!」


誰かの叫びが響いた。


魔王軍の一部が進路を変える。

明らかに戦えない者たちを狙って…


絶望が、喉元まで迫った、その時――



「――そこまでだッ!!」


鋭い号令が、戦場を貫いた。


赤い外套を翻し、複数の影が戦場へなだれ込む。


行商ギルド「紅」。精鋭揃いの護衛団が、鮮やかな動きで敵陣に切り込んだ。


「遅れて申し訳ない!」


先頭に立つ男が叫ぶ。リーダーのベニだ。


「紅の誇りにかけて、皆を守り抜け!!」


ベニの一撃が、空を裂く。

戦況は、一気に傾いた。


連携、装備、統率――


すべてにおいて魔王軍を上回る動きで、

紅のメンバーは敵を圧倒していく。


「押し返せ!今だ!」


クロウとカイルも呼応し、反撃に転じる。


やがて、最後の敵兵を始末した。


ーーー


村に静寂が戻る。


燃え残る家々。

傷ついた村人たち。

それでも全員生きている。


「……助かった」


誰かが、そう呟いた。

我々は、完全に勝利したのだ。


安堵が広がる中、

リコリスははっとして周囲を見渡す。


「……クロウさん?」


いない……


胸が、嫌な音を立てた。


「クロウさんは……?」


問いかけに、カイルが唇を噛む。


「……ごめんよ、リコリスちゃん……あの馬鹿……指示役の幹部がいるはずだって、飛び出して行っちまった。」


カイルは目線を逸らし、頭を抱えた。


「……そんなっ」


心臓が、強く脈打つ。


まただ。

また、一人で――


私が弱いから、いつもひとりで行かせてしまう。


「どっちへ行ったか分かりますか?」


リコリスは、震えを抑えた声で尋ねる。


「東だ。森の奥」


答えを聞いた瞬間、リコリスは立ち上がっていた。


「私も行きます」


「待て!危ない!」


カイルが慌てて腕を掴む。


「今度は幹部クラスだぞ!」


だが、リコリスの目は揺れていなかった。


「……一人で行かせるわけにはいきません」


静かで、強い声。


「クロウさんは……私の、大切な人です」


その決意に、カイルは何も言えなくなった。


リコリスは踵を返し、東の森へと走り出す。


闇の奥へ。

戦いの気配が残る場所へ。


待っていて……クロウさん……


恐怖よりも、想いが勝っていた。


彼女の背中を、赤い月が照らしていた。


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