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焼け跡から続く光  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

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13/19

過ちか否か

扉が閉まり、外界の音がすべて断ち切られた。


金属が噛み合う鈍い音が、やけに大きく耳に残る。その余韻が消えると同時に、世界は急に狭くなった。


残ったのは、互いの呼吸と、心臓の音だけ。


地下牢の冷たい空気の中で、

二人分の体温だけが、確かにそこにあった。


――二人は、互いの温もりを確かめ合い、

言葉では足りない想いを、静かに重ねていった。


それは衝動ではない。

欲望に押し流された結果でもない。


恐怖の底で、何度も迷い、何度も躊躇い、それでも最後に「ここにいる」と選び取ったものだった。


クロウの腕の中で、リコリスはそっと目を閉じる。


背中に回された腕は驚くほど慎重で、まるで壊れ物に触れるようだった。


触れているだけで、クロウの熱を感じるだけで、身体に残っていた震えが少しずつ治まっていく。


恐怖が消えたわけではない。

ただ、今はそれよりも強いものに包まれていた。


「……こんな形でも、私は嬉しいです」


掠れた声でそう呟いたが、クロウは何も言わない。

ただ強く抱き寄せた。


息が絡まり、鼓動が重なる。

その沈黙が、何より雄弁だった。


行為の後、リコリスはクロウの胸に顔を埋める。


硬い胸板の向こうで、心臓がまだ早鐘を打っている。


どくん、どくん、と。


少し乱れたそのリズムが、生きている証のようでそれだけで胸の奥がじんと温かくなった。


罪悪感は、消えない。


魔王軍に協力してしまったという事実。誰かを救うために、別の誰かを裏切ったかもしれないという想像。


取り返しがつかないことをしたのかもしれない。


その重さが、静かに胸に沈殿していく。


「……私、許されないよね」


ぽつりと零れた言葉は、祈りにも似ていた。

クロウの指が、リコリスの髪を梳く。


ゆっくりと、確かめるように。


「誰にだよ?」


低く、ぶっきらぼうな声。


「世界に…です。私は魔王軍に協力してしまいました。クロウさんにも、大変な思いをさせちゃいましたし……」


言葉にするほど、自分の選択が怖くなる。

正しさから、確実に外れてしまった感覚。

だが、クロウは迷わなかった。


「別にいいだろ」


短く、はっきりと。


「それでも生きろ。俺は、いつもそう選ぶ。」


リコリスは顔を上げ、彼を見る。


そこにあったのは、慰めでも、逃げ道でもない。

責任を引き受ける覚悟だけ。


それが、逆に救いだった。


どれくらい時間が経ったのだろうか。


地下牢の闇は深く、外の世界は何も変わっていない。それでも、リコリスの中で一つだけ、揺るがないものが残った。


この人を、絶対に救いたい。


世界がどうなろうと。

自分が何者と呼ばれようと。


その想いだけが、静かに燃えていた。


「……私、頑張る。」


小さな声だったが、確かだった。


クロウは一度だけ頷き、ゆっくりと立ち上がる。


差し出された手を、リコリスは迷わず取った。

扉の向こうには、再び地獄が待っている。


憎しみも、選択も、血も――きっと避けられない。


だが今度は、独りではない。


扉が開く。


静寂は終わり、

二人の運命が、再び動き出した。

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