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焼け跡から続く光  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

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魔王軍の影

黒煙を目指して駆けるたび、

リコリスの足は小刻みに震えていた。


それでも止まらない。

止まれない。


クロウが隣にいること。

それだけが、彼女を前へ押し出していた。


近づくにつれ、鼻を突く焦げ臭い匂いが濃くなる。


焼けた木、血、鉄。 


嫌な記憶が喉の奥からせり上がり、胸が締め付けられた。


そして、森が開けた瞬間。


「……っ」


リコリスは、思わず足を止めた。


そこに立っていたのは、漆黒の鎧に身を包んだ男。


人の形をしていながら、人ではない――


そう直感させるほどの殺気が、周囲の空気を歪ませている。腰から力が抜け、リコリスはその場に崩れ落ちた。


呼吸するだけで肺が重たい。

立っているだけで心が削られる。


「……あの時の……魔王軍の……」


声にならない声が漏れる。


忘れるはずがない。

あの日……


研究所を、

仲間を、

日常を、


たった一人で蹂躙した存在。

――魔王軍幹部、闇騎士。


闇騎士は何も語らない。

ただ、そこに立っているだけだ。


それだけで、この場を制圧してしまう程の…

圧倒的な魔力を感じる。


クロウは一歩前に出て、リコリスを背に庇う。


「……俺が行く。」


 低く、静かな声。


「リコリス、立てるか?」


その言葉に込められた覚悟を、リコリスは理解してしまった。


クロウは、あの薬を使うつもりだ。

魔獣となり、命を削ってでも戦うつもりなのだ。


リコリスは、その短い言葉の中に、

戻ってこない覚悟を見てしまった。


「……逃げてくれ」


クロウの声は、ほんのわずかに震えていた。


「これ以上、誰かが死ぬのは……もう耐えられない。」


一族を失い、それでも生き延びてきた彼の言葉は、

重くリコリスの胸に突き刺さる。


「……嫌だ」


リコリスは、ふらつきながらも立ち上がった。


「嫌です……! 私にとって、クロウさんは……」


喉が詰まる。それでも、言葉を絞り出す。


「大切な人なんです!あなたを置いて逃げるくらいなら……ここで、一緒に……!」


震える手で、護身用のナイフを握る。


それは武器というより、

逃げないための、言い訳だった。


勝てないことは分かっている。

それでも、後悔だけはしたくなかった……


――その瞬間。


背後から、ぬるりとした感触が絡みついた。


「……あらあら。」


女の声。甘く、粘つくような声音。


「盛り上がっているところ悪いんだけれど……あなたは、死なせないわよ?」


触手のようなものがリコリスの身体を絡め取り、強制的に引き寄せる。振り返った先にいたのは、妖艶な微笑みを浮かべたダークエルフの女だった。


彼女はまるで愛しいものを抱くかのように、リコリスを腕に収め、耳元で囁く。


「ねえ、研究者さん。あなたに、ぜひ協力してほしいことがあるの。あなたは……選ばされる側でいるの、もう疲れたでしょう?」


クロウが叫ぶ。


「くそっ…リコリスから離れろ!!」


リコリスを助ける為に放った一撃は、闇騎士に容易く制圧されてしまう。


その隙をついた触手は、クロウの身体を一瞬にして拘束してしまう。


ギチギチギチ……バシンッ!!

 

「…ぐっ……ぐあぁぁ!!」


触手はクロウの身体を締め付け、

地面へと叩き付ける。


地面に押し付けられたクロウが悲鳴をあげた。


「クロウさん!!」


リコリスは声をあげることしかできない。 

いくらもがいても触手は外れなかった。


「安心なさい。」


ダークエルフの女、

魔王軍四天王アゼリアは、くすりと笑った。


「協力してくれたら、彼はまだ生きられるわ。」


殺さない、じゃない。

生きられる。


その言葉だけが、

世界で唯一の光に見えた。

その一言が、リコリスの心を強く揺さぶった。


クロウを助けたい。

でも、魔王軍に協力する?

そんなこと、許されるはずがない。


それでも………


「協力すれば……本当に、クロウさんを……?」


声は震え、涙が頬を伝う。

アゼリアは、満足そうに微笑んだ。


「ええ。私は嘘はつかない主義なの。」


赤い瞳が、逃げ道を塞ぐ。


「さあ、どうする?あなたが断れば……彼はここで終わりよ?」


時間が………

止まったように感じられた。


「その必要はないぞっ…ぐあぁぁ!!!」


アゼリアがクロウに手をかざし、

触手はさらにクロウを痛めつけた。


無骨で、不器用で、でも誰よりも優しい――

私の大切な人。クロウを助けたい。


リコリスは深く、息を吸い込む。


――これで、もう戻れない。


そう分かっていても、

それでも。


「……分かりました。協力します!」


その言葉に、アゼリアは心底嬉しそうに頷いた。


「ええ、賢明な判断ね。さあ、行きましょう。

 あなたにしか、できないことがあるのだから」


こうしてリコリスは、クロウの命と引き換えに、

自ら魔王軍の城へと足を踏み入れる。


この選択が正しいとは思えない。


けれど――


この時の私は、

それでも生きていてほしい人を、選んだ。

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