第9章 「前に立つ理由」
朝。
焚き火の跡を踏み消して、二人は歩き出した。
山道は細く、風が強い。
バキッ。
前方で、木が折れる音。
クロが足を止める。
「……来る」
倒木の陰から、人影が三つ現れた。
距離は近い。
刃物を持っている。
「……通るなら、
協力してもらおか」
ミケが小さく息を吐く。
「……朝から、
面倒やなぁ」
クロは前に出ない。
距離を見る。
左右を見る。
逃げ道を測る。
考えが走る。
その一瞬。
ドン。
盾が、道の中央に置かれた。
刃が振られる。
盾に弾かれる。
「……下がれ」
低い声。
ヨルだった。
クロは、息を吸う。
「……ヨル」
ヨルは振り返らない。
盾を構えたまま、相手の目を見る。
「……ミケ、
左に寄れ」
「……クロ、
後ろを見ろ」
短い指示。
迷いがない。
クロは、背後に声を張る。
「……道を使わせてもらう」
沈黙。
男たちは、舌打ちして下がった。
戦いにならない。
それが、正解だった。
倒木から少し離れたところで。
ヨルが足を止める。
まだ、並んでは歩かない。
前に立つ位置だ。
「……迷いが減ったな」
ヨルが言った。
「……どこへ向かうつもりや」
クロは、即座に答えた。
「……分からん」
一拍。
「……せやけど、
立ち止まらへん」
ヨルは、それ以上聞かなかった。
「……危ない道になる」
「……それでも進むなら、
前に立つ人間が要る」
ミケが、横から言う。
「……それ、
あんたのことやろ」
ヨルは否定しない。
クロが、はっきり言った。
「……俺は、
考えすぎる」
「……守りたい時ほど、
動けん」
「……だから」
「……前に立ってほしい」
風が、吹き抜ける。
ヨルは、盾を背負い直した。
「……条件は変えん」
「……迷ったら、
私は前に出ない」
ミケが、苦笑する。
「……厳しいなぁ」
「……助かる」
クロが言った。
ヨルは、クロを見る。
「……私は、
前に立つ」
「……進むか止まるか、
決めるのはお前や」
クロは、即答した。
「……決める」
ヨルは、短くうなずく。
そして、一歩だけ距離を詰めた。
「……なら、
一緒に行く」
行き先は、まだない。
だが、進む覚悟は揃った。




