第8章「行き先のない地図」
夜。
焚き火が、小さく鳴っている。
「……なぁ」
ミケが、枝をくべながら言った。
「……そ~いえばさ」
クロは、火を見たまま返事をしなかった。
「……これって、
どこに向かってるん?」
間。
火が、ぱちっと弾ける。
「……なんとなく、
歩いてるだけちゃう?」
クロは、しばらく黙っていた。
「……最初は、
そうやった」
ミケが顔を上げる。
「……今は?」
クロは、懐から杖を出した。
焚き火の明かりに、
古い紋章が浮かぶ。
「……これ」
「……遺跡で拾った」
「……ネクロマンサーの、
杖や」
ミケは、目を丸くした。
「……え、
今さら言う?」
すぐに、肩をすくめる。
「……いや、
分かっとったけど」
「……ちゃんと聞くんは、
初めてやな」
クロは、苦く笑った。
「……俺も、
ちゃんと話すん、
初めてや」
杖の紋章を、指でなぞる。
「……これな」
「……ただの飾りちゃう」
「……誰かが作って、
どこかで使われてたもんや」
「……せやけど」
「……どこで、
何のために、
使われてたかは、
分からん」
ミケは、火を見つめる。
「……つまり?」
クロは、息を吐いた。
「……つまり」
「……俺、
何者になったんか、
分からん」
「……だから」
「……これの“元”を、
探しに行こうと
思ってる」
ミケは、少し考えてから言った。
「……目的地は?」
「……ない」
正直な答えだった。
「……あるのは、
この紋章だけや」
ミケは、吹き出した。
「……行き先のない旅かい」
「……めっちゃクロらしいな」
クロは、笑えなかった。
「……正直な」
「……俺、
判断が遅い」
「……守りたい時ほど、
迷う」
焚き火の向こうで、
ミケがじっと聞いている。
「……この先」
「……危ない場所、
多分、行く」
「……俺とミケだけやと、
守れへん場面が出る」
「……だから」
「……前に立って、
決められる人が、
必要や」
ミケが、にやっと笑う。
「……ヨルのこと?」
クロは、うなずいた。
「……力やなくて」
「……判断を、
頼りたい」
しばらく、沈黙。
ミケは、火を見たまま言った。
「……で、私は?」
クロは、まっすぐ言った。
「……ここで、
別れてもええ」
「……巻き込むのは、
違うと思う」
ミケは、目を瞬いた。
「……え?」
「……今さら?」
立ち上がって、
クロの前に来る。
「……楽しそうやん」
「……ネクロマンサーやで?」
「……紋章の謎やで?」
「……判断できる大人探すんやろ?」
肩をすくめる。
「……行くに決まってるやろ」
クロは、驚いた顔をした。
「……軽いな」
「……重すぎるより、
ええやろ」
ミケは、焚き火の前に戻る。
「……それに」
「……クロが迷ってる顔、
嫌いやない」
「……ヨルも、
そのうち捕まえよ」
クロは、杖を握り直した。
行き先は、まだない。
でも。
行く理由は、
できた。




