第7章 「落ちる前」
山道は、細かった。
片側は崖。
反対側は、岩肌。
「……ここ、
嫌な音する」
ミケが言う。
ゴロッ。
小石が、足元を転がった。
「……落石や」
クロが、足を止める。
その時。
「――助けて!」
前方。
岩の陰で、子どもが倒れていた。
足が、石に挟まっている。
「……大丈夫や!
今助ける!」
ミケが駆け寄ろうとする。
「……待て!」
クロが止める。
上。
崖の上から、砂が落ちている。
「……また来る」
「……引っ張ったら、
余計に崩れる」
ミケが歯を噛む。
「……ほな、
どうすんねん!」
クロは、周囲を見る。
石。
棒。
角度。
考える。
ゴロゴロ……
音が、近づく。
「……時間ないで!」
クロは、一歩踏み出した。
だが、次の手が出ない。
その瞬間。
ドン。
盾が、崖の下に突き立てられた。
ガン!
大きな石が、盾に当たって砕ける。
砂と破片が、舞う。
「……下がれ」
低い声。
短い。
盾の後ろに、女が立っていた。
「……子ども、
動かすな」
ミケが叫ぶ。
「……足、
挟まっとる!」
女は、子どもの足元を見る。
一瞬。
「……石、
割れる」
女は、盾を少しずらした。
崖から落ちる石の進路を、受け止める位置に。
「……ミケ」
名前を呼ばれて、ミケが固まる。
「……横から、
支えとる石を叩け」
「……上やない。
重なっとる下や」
ミケは、歯を食いしばる。
「……了解」
石の下側。
力が集中している場所。
ガキッ。
音と同時に、石が割れた。
子どもの足が、外れる。
「……今!」
クロが、子どもを抱き上げる。
次の瞬間。
ゴォン!!
大きな落石。
盾が受ける。
女は、一歩も退かない。
音が、止まる。
砂が、落ち切る。
静かになる。
子どもは、震えながら泣いていた。
「……助かった……」
女は、盾を回収した。
息は、乱れていない。
クロは、言葉を失っていた。
「……判断、
遅れた」
女は、クロを見る。
「……迷ってた」
それだけ。
ミケが、ぽつりと言う。
「……あんたが、
おらんかったら……」
女は、答えない。
「……守るなら」
「……先に、
前に立て」
背を向ける。
クロは、反射的に声をかけた。
「……待ってくれ」
女は、止まらない。
「……一緒に来てほしい」
少し、間。
女は、歩きながら言った。
「……次も」
「……迷うなら、
私は前に立たん」
それだけ言って、
道を外れた。
ミケが、息を吐く。
「……条件、
はっきりしとるな」
クロは、盾が立っていた場所を見る。
迷う時間を、
消せる人。
それが――
今の自分に、
決定的に足りないものだと、
はっきり分かった。




