第6章 「選ばなかった道」
夕暮れ。
二人は、山道を下っていた。
「……今日は、
何も起きへんな」
ミケが伸びをする。
「……それが一番や」
クロは、前を見たまま答えた。
その時。
「――助けて!」
右から。
近い。
子どもの声。泣いている。
ほぼ同時に――
「――こっちや!」
左から。
少し遠い。
複数人。男の怒鳴り声。
ミケが足を止める。
「……え?」
クロも立ち止まった。
右は、すぐそこ。
左は、林の向こう。
「……別れて行く?」
ミケが言う。
クロは、地形を見る。
坂。林。
合流は、難しい。
「……危ない」
「……でも、
どっちも放っとけへん!」
クロは、息を吸う。
「……一緒に行く」
「……まず、近い方や」
二人は、右へ走った。
林を抜ける。
子ども。
一人。
足を取られて、動けない。
「……大丈夫や!」
ミケが駆け寄る。
クロが、後ろを見る。
時間が、削れていく。
「……立てるか?」
子どもは、泣きながらうなずいた。
ミケが背負う。
「……よし、戻るで!」
二人は、来た道を戻った。
走る。
息が切れる。
左の方向。
もう、声はない。
「……まさか」
二人は、急いだ。
坂を下りきった先。
倒れた男が、二人。
荷が、散らばっている。
遅れてきた村人が、立ち尽くしていた。
「……さっきまで、
声してたんや」
クロは、その場に立ち尽くす。
助けた。
子どもを。
でも――
助けなかった。
選ばなかった。
夜。
二人は、焚き火の前に座っていた。
「……別れて行ってたら、
どうやったやろ」
ミケが言う。
クロは、火を見る。
「……判断、遅れた」
否定も、言い訳も、しなかった。
しばらくして、ミケがぽつりと言う。
「……前に立って、
決める奴がおったら」
クロは、答えなかった。
でも、胸の奥に、
はっきり残った。
力より先に、
決断が要る。
そして――
それを引き受ける覚悟が、
自分には、まだ足りない。
第6章・終わり




