第50章「直しながら暮らす」
朝。
廃砦は、
静かだった。
静かすぎて、
逆に落ち着かない。
「……朝って、
こんな音せんもんやっけ」
ミケが、
あくびをしながら言う。
「……人が
増えたからな」
クロは、
中庭を見回す。
壁は欠けている。
床は歪んでいる。
だが、
干された布は増え、
水桶も並んでいる。
壁の上では、
ヨルが外を見張っていた。
「……崩すなら
外側からやぞ」
短く言う。
「……分かっとる」
クロは、
背負い袋から筒を取り出した。
リィナから預かった図面。
紙は、
何度も折り直された跡がある。
「これが、
あの“来んかった妹さん”の?」
ミケがのぞき込む。
「……ああ」
「めっちゃ
書き込み多ない?」
「……完成前提やない
からな」
クロは、
紙を広げる。
線は、
真っ直ぐじゃない。
数字も、
ところどころ消されている。
「……ここ、
壁厚くしすぎちゃう?」
レインが言う。
「……石、
足らんで」
カイが、
静かに指摘する。
「……王都やったら、
三日で却下やな」
レインが苦笑する。
「……ここは王都やない」
クロは、
即答した。
「……削る」
「……削るん?」
「……壊れたら
直す」
ミケが吹き出す。
「その発想、
砦向きすぎやろ」
作業開始。
石を運ぶ。
木を組む。
縄を張る。
「……これ、
支え足りん」
「……足りるって」
「いや、
倒れる」
言った瞬間、
木が傾いた。
「ほらぁ!」
「……今のは
想定外」
「言い訳や!」
笑い声。
フェイが、
水を運んでくる。
「少し、
休んだら?」
「……もう一枚
石積んでから」
昼前。
壁は、
少しだけ
“壁っぽく”なった。
「……見た目、
マシになったな」
「マシ止まり?」
「……マシ止まり」
ミケが、
満足そうにうなずく。
「でもさ」
「ちゃんと
人が住む場所に
なってきとる」
クロは、
図面を見てから
砦を見る。
「……ああ」
図面どおりではない。
だが、
線は生きている。
夜。
焚き火の周り。
「……今日、
何も起きんかったな」
「……それが
一番や」
ミケが薪をくべる。
「砦ってさ」
「直しながら
暮らす場所やな」
クロは、
少し考えてから言う。
「……暮らしながら
直す場所や」
ミケは笑った。
「どっちでも
ええわ」
焚き火が、
静かに燃える。
砦は、
まだ不格好だ。
だが。
今日も、
ちゃんと
人が眠る。
壁の上で、
ヨルが空を見ていた。
遠くで、
鳥が一斉に飛び立つ。




