第5章 「前に立つ人」
昼前。
道は、細くなっていた。
「……ここ、嫌な感じする」
ミケが、足を止める。
耳が、ぴくりと動く。
「……迂回するか?」
クロが言う。
「……いや」
ミケは、前を見る。
「……この先、放っとかれへん」
ドン。
前方で、荷車が倒れた。
悲鳴。子どもの声。
道の先。
荷車の周りに、武装した男が五人。
「……囲まれとる」
ミケが低く言う。
クロは状況を見る。
子ども二人。年寄り一人。
逃げ場は、ない。
「……俺が、前に出る」
ミケが言った。
「……待て」
クロが止める。
「……間に合わん!」
ミケが飛び出そうとした瞬間――
ゴン。
視界の端で、何かが落ちた。
盾。
大きな盾が、道の真ん中に突き立てられる。
「……下がれ」
低い声。
落ち着いている。
盾の後ろに、女が立っていた。
刃が来る。
ガン!
盾に弾かれる。
女は押さない。
追わない。
ただ、止める。
「……後ろ、逃がす」
クロが子どもたちを抱き上げる。
ミケが横を固める。
数呼吸。
男たちは舌打ちして、距離を取った。
「……ちっ」
「……割に合わん」
五人は、来た道を戻っていった。
静かになる。
「……助かった」
クロが言う。
女は、クロを見る。
「……無茶するな」
少し、間。
「……次は、もっと早く決めろ」
ミケが腕を組む。
「……あんたが、噂の盾?」
「……ヨル」
それだけ名乗る。
ヨルは荷車の方を一瞥して、背を向けた。
「……待って」
クロが呼び止める。
「……礼、言わせて」
ヨルは振り返らない。
「……守るなら、迷うな」
それだけ言って、歩き出す。
ミケが、ぽつりと言う。
「……大人やな」
クロは、その背中を見る。
前に立つというのは、
殴ることでも、命令することでもない。
判断を、引き受けることだ。
そう思った。




