第42章「噂の形」
王都の酒場は、
昼から賑わっていた。
仕事を終えた職人。
旅の商人。
勇者の凱旋を見に来た者。
「聞いたか?」
「北の魔物、
また一掃やって」
「さすが勇者様や」
笑い声。
杯の音。
クロたちは、
隅の席に座っていた。
目立たない場所。
だが、
話は自然と耳に入る。
「……なぁ」
ミケが、
小さく言う。
「ネクロマンサーって、
なんやと思う?」
レインが、
首をかしげる。
「……死者を
操るやつ、
やろ?」
「……危ないやつや」
「……勇者様が
嫌う存在」
それは、
断定だった。
隣の席。
「最近な、
変な噂があってな」
「廃砦の辺りや」
クロは、
グラスを置いた。
「……どんな噂や」
商人が、
楽しそうに言う。
「死霊が、
夜に歩く」
「怪我人が、
勝手に生き延びる」
「勇者様の指示に
従わん連中を
匿っとるらしい」
笑いが起こる。
「ほんまかいな」
「怖すぎるやろ」
クロは、
何も言わなかった。
ミケが、
肩をすくめる。
「……話盛られとるな」
レインが、
苦笑する。
「……噂なんて、
そんなもんや」
だが。
「……勇者様も
動くかもしれんな」
誰かが、
ぽつりと言った。
「秩序を乱す存在は、
放っとけんやろ」
それは、
ごく自然な意見だった。
誰も、
悪意を持っていない。
ただ、
正しさを信じているだけだ。
クロは、
席を立つ。
「……行こ」
酒場を出る。
外は、
明るい。
王都は、
何も変わっていない。
変わったのは、
言葉の向きだけだ。
噂は、
もう「面白話」じゃない。
正義に触れる形を
持ち始めていた。




