第40章「正しい場所にいる人」
建築局の裏手。
昼休みの鐘が鳴り、
人の流れが少し緩んだ。
リィナは、
壁際で図面を丸めていた。
「……兄さん」
レインが、
一歩前に出る。
「……久しぶりやな」
「……三年ぶり」
淡々とした声。
リィナは、
兄を見たあと、
その後ろの二人を見る。
「……そちらは?」
「……旅の仲間」
レインが言う。
「……クロと、ミケ」
ミケが、軽く手を振る。
「どーも」
リィナは、
それ以上踏み込まない。
「……要件は?」
直球だった。
「……少し、話せへんか」
「……時間は、十分」
三人は、建築局の裏庭へ移動する。
石畳。
測量用の杭。
半分組まれた柱。
「……砦にいる」
レインが、まず言った。
「……廃砦や」
「……人が、住んどる」
「……増えとる」
リィナの手が、一瞬止まる。
「……人が住める場所じゃない」
「……だから、来た」
「……見てほしかった」
「……形にできるかどうか」
リィナは、はっきり言う。
「……王都の仕事を捨てる理由にはならない」
ミケが口を挟む。
「……せやろな」
「……ここ、正しい場所やもんな」
リィナは、否定しない。
「……勇者様の事業は、世界を救う」
「……建築は、その基盤」
「……崩れない構造を作るのが、私の仕事」
クロが、初めて口を開く。
「……正しいな」
リィナが、クロを見る。
「……あなたも、そう思う?」
「……思う」
「……でも」
クロは、言葉を選ぶ。
「……正しさは、全員を拾わない」
沈黙。
リィナは、視線を外す。
「……拾えない命は、ある」
「……入らない人もいる」
一拍。
「……でも、無理に入れようとしたら、全部崩れる」
石畳を指で叩く。
「……柱一本ずらしただけで、建物は歪む」
「……情で足した分は、必ずどこかが割れる」
静かな声だった。
「……それを防ぐのが、ここでの仕事」
ミケが、少し顔をしかめる。
「……数に入らん人もおる」
「……入らん」
リィナは即答する。
「……だから危険なんや」
「……砦みたいな場所は」
「……理屈の外にある」
レインは、深く息を吐く。
「……分かった」
「……今は、それでええ」
リィナが、兄を見る。
「……兄さん」
「……ここは、正しい場所や」
レインは、静かにうなずいた。
「……せやな」
三人は、庭を後にする。
背中に、リィナの声が届く。
「……図面が必要なら」
「……理屈だけは、渡せる」
「……構造は、裏切らないから」
それだけだった。
王都の鐘が、また鳴る。
遠くで歓声が上がった。
勇者の凱旋だ。
リィナは、その方向を見る。
「……英雄は、迷わない」
その言葉は、
誰に向けたものか、分からなかった。




