第4章 「盾の噂」
朝。
道は、少し賑やかになっていた。
「……人、多ない?」
ミケが、前を歩きながら言う。
「……流れとるな」
クロは、周囲を見る。
荷を背負った者。
子どもを連れた者。
怪我人。
「……どっから来たんやろ」
クロが答える前に、声がした。
「……西の方や」
年配の男。
足を引きずっている。
「……勇者様が、通らはった」
空気が、少しだけ重くなる。
「……それで?」
ミケが聞く。
「……助かった人もおる」
「……でもな」
男は、言葉を選ぶ。
「……通った後、残るもんは、少ない」
沈黙。
一行は、小さな野営地に着いた。
布と木で作った、簡単な囲い。
「……ここで、一晩休む」
クロは、うなずいた。
火を起こす。
水を分ける。
「……あんたら、昨日の夜、無事やったんか?」
女の声。
「……なんで?」
ミケ。
「……この辺、野盗が出る」
「……でも、昨夜は静かやった」
クロとミケは、顔を見合わせる。
「……理由、聞きたい?」
「……聞く」
「……でかい盾の女がおる」
クロの手が、止まる。
「……しゃべらん」
「……でもな、判断が早い」
「……子どもと怪我人、先に下げる」
「……危ない場所には、自分が立つ」
「……その代わりや」
「……あの人、腕に包帯巻いとった」
「……寝とるとこ、一回も見てへん」
ミケが、目を細める。
「……それ、昨日の……」
女は、うなずいた。
「……名は知らん」
「……名乗らん人や」
別の男が、口を挟む。
「……あの人が言うと、みんな動く」
「……理由は、後で説明する」
「……まず守る」
クロは、静かに息を吐いた。
「……頼れるな」
ミケが、小さく笑う。
「……ああいう大人、少ないで」
その夜。
火のそばで、クロは考える。
名も知らない誰か。
前に出て、
名も残さず、
危ない場所に立つ。
その代わりに、
何かを削っている。
「……会うたら、礼、言わなあかんな」
風が吹く。
遠く。
盾が地面に立つ音がした。
クロは、立ち上がる。
「……今度は、逃がさん」
ミケが、にやりと笑う。
「……やっと、会えそうやな」
火が、揺れた。




