第39章「正義の中心」
王都は、
騒がしかった。
通りに並ぶ旗。
掲げられた紋章。
人々の声は、
明るい。
「勇者様が、
また魔物を倒したらしいぞ!」
「次は、
魔王城の外郭やって!」
ミケが、
思わず言う。
「……すごい人気やな」
「……そらそうや」
レインが答える。
「……ここは、
勇者の都や」
クロは、
人の流れを避けるように歩く。
石畳は、
整っている。
水路も、
清潔だ。
排水の流れは淀みなく、
石は均一に組まれている。
「……別世界みたいやな」
「……王都やからな」
レインが、
短く言った。
広場に出る。
人だかりの中心に、
演台が組まれていた。
「本日、
勇者様は!」
「北部の魔物群を
完全に討伐されました!」
拍手。
歓声。
クロは、
立ち止まらなかった。
その少し先。
壁に貼られた紙。
「王都建築局
技術補助募集」
レインが、
足を止める。
「……あいつ、
ここや」
ミケが、
紙を見る。
「……堅そうなとこやな」
「……堅いで」
レインが苦笑する。
「……正しさで
できとる」
建築局の中。
人は、
忙しそうだった。
木材の寸法。
図面。
石の強度試験。
誰も、
顔を上げない。
石を叩く音が、
一定の間隔で響く。
未来の歪みを、
今のうちに潰す場所。
「……妹の名前は?」
クロが聞く。
「……リィナ」
「……理屈屋や」
その時。
「……そこ、
柱の位置、
ずれてます」
はっきりした声。
一斉に、
視線が集まる。
若い女が、
図面を指していた。
「……三年後、
ここ、
必ず歪みます」
周囲が、
ざわつく。
「……誰だ?」
「……技術補助です」
リィナだった。
レインは、
思わず声を上げる。
「……リィナ!」
彼女は、
一瞬だけ兄を見る。
「……今、
仕事中」
それだけ言って、
また図面に戻る。
ミケが、
小さく笑う。
「……想像以上やな」
クロは、
広場の方角を見る。
歓声は、
まだ続いている。
正義は、
ここでは疑われない。
歪みは、
計算される。
削られた声は、
最初から数に入らない。
だからこそ。
この都では、
疑問を口にすること自体が
異物だった。




