第38章「行く理由」
朝。
砦の空気は、
昨日より重かった。
人が増えたからじゃない。
足りないものが、
はっきり見えたからだ。
クロは、
焚き火の前で座っていた。
「……食料、
水、
寝る場所」
「……全部、
今のままやと
持たん」
ヨルが、
腕を組む。
「……守るだけやと、
削れていく」
サラが、
レオの様子を見ながら言う。
「……医療も、
限界が来る」
沈黙。
そこへ、
レインが一歩前に出た。
「……今なら」
「……妹、
呼べるかもしれん」
カイが、
静かに兄を見る。
「……王都やぞ」
クロの声は低い。
「……戻れる保証は
ない」
「……勇者の道の、
ど真ん中や」
レインは、
はっきりとうなずく。
「……分かってる」
「……せやけど、
今行かな」
「……呼ぶ意味がなくなる」
カイが、
初めて口を開いた。
「……俺は残る」
全員の視線が、
カイに向く。
「……ここに、
弓は必要や」
「……兄貴が
戻る場所を、
俺が守る」
レインは、
一瞬だけ目を閉じた。
「……頼む」
ヨルが、
短く言う。
「……それでええ」
「……外に出るのは、
三人や」
クロが立ち上がる。
「……俺と、
ミケと、
レイン」
「……砦は、
ヨルとカイに任せる」
ミケが、
軽く肩を回す。
「……都かぁ」
「……重たそうやな」
レインが、
苦笑する。
「……妹は
もっと重たいで」
クロは、
ヨルを見る。
「……守り、頼む」
ヨルは、
即答する。
「……戻れ」
「……戻って、
“形”を持って来い」
命令だった。
準備は、
最低限。
武器。
食料。
地図。
門はない。
だが、
見送る人はいた。
老人の一人が言う。
「……あんたらが
行くなら」
「……ここは、
守る」
クロは、
頭を下げた。
「……頼む」
三人は、
歩き出す。
砦は、
背中に残った。
カイは、
壁の上に立ち、
弓を構える。
レインは、
振り返らなかった。
ミケが、
横から言う。
「……妹さん、
どんな人なん?」
レインは、
少し考えてから答える。
「……正しいことしか
言わん」
「……せやから、
嫌われやすい」
ミケが、
楽しそうに笑う。
「……会うの、
楽しみやな」
クロは、
前を見たまま言った。
「……説得できるかは、
分からん」
「……でも」
「……行く理由は、
できた」
王都は、
遠い。
だが。
戻るための旅が、
今、始まった。




