第36章「呼べる場所」
昼前。
砦の外で、
弓の音がした。
乾いた音が、
一定の間隔で続く。
ヨルは、
壁の上から見下ろしていた。
レインが、
的を立て直す。
その横で、
カイが矢を拾っている。
「……精度は、
十分やな」
ヨルの言葉に、
レインは照れたように笑う。
「……ここ、
狙う場所は多いけど」
「……守るには、
形が足りん」
ヨルは、
うなずいた。
その言葉を、
聞いていたのは
二人だけじゃない。
サラが、
少し離れたところで
水桶を置いた。
「……今のままやと、
怪我人が出たら
手が回らない」
レインが、
それを聞いて
少し黙る。
「……昔な」
弓を下ろし、
ヨルを見る。
「……村の見張り台、
壊れたことあってな」
「……妹が図面引いて、
俺らで直した」
ヨルは、
何も言わない。
「……俺ら、
妹がおる」
「……王都で、
建築の仕事しとる」
サラが、
顔を上げた。
「……建築士?」
「……見習いやけどな」
「……理屈っぽくて、
現実しか見いひん」
レインは、
苦笑する。
「……けど、
こういう場所見たら」
「……“直せるかどうか”
真っ先に考えるやつや」
ヨルは、
すぐには答えなかった。
「……呼べるか?」
レインは、
正直に答える。
「……分からん」
「……王都の仕事、
簡単に抜けられる
立場やない」
「……それに」
カイが、
初めて口を開く。
「……ここが
“続く場所”やないと、
呼べん」
その言葉は、
重かった。
サラが、
静かに言う。
「……続ける気は、
ある」
レインは、
その言葉を聞いて
深く息を吐いた。
「……なら」
「……俺らは、
残る」
即答ではない。
だが、
迷いもない。
「……呼べる場所に
なるかどうか」
「……それ、
見届けたい」
ヨルは、
二人を見る。
「……守る覚悟は、
あるか」
レインは、
弓を握り直す。
「……逃げ場やったら、
来てへん」
カイも、
静かにうなずいた。
ヨルは、
短く言う。
「……なら、
今日からや」
砦の中。
クロは、
その話を聞いていた。
壁に手を置き、
崩れた石の感触を確かめる。
「……呼べる場所、か」
呟く。
それは、
簡単な言葉やない。
だが。
誰かを呼ぶ覚悟が、
初めてここに生まれた。




