第35章「足りないもの」
夜明け前。
砦は、
まだ眠っていた。
サラは、
一人で起きていた。
レオの様子を、
確かめる。
熱は、
大きく変わらない。
「……水、
少ないな」
小さく呟く。
砦の外に出る。
水場は、
近い。
だが――
「……これ、
外から丸見えや」
足跡。
昨日、砦に来た者のものだ。
まだ消えていない。
サラは、
眉をひそめる。
「……怪我人、
増えたら……」
想像する。
水を汲む人
看病する人
動けない人
一度に重なったら、
守れない。
砦に戻る。
ヨルは、
すでに起きていた。
「……気づいたか」
「……水」
サラは、
即答する。
「……それと、
夜」
「……薬、
保管する場所がない」
ヨルは、
否定しない。
「……分かってる」
「……でも、
直す人間が足りん」
サラは、
少し考えてから言う。
「……人を増やす前に、
“流れ”を作らなあかん」
「……診る場所」
「……寝かせる場所」
「……水を運ぶ人」
ヨルは、
短く息を吐く。
「……つまり」
「……このまま
人が増えたら、
全滅する」
サラは、
否定しなかった。
沈黙。
ヨルが、
砦の壁を見る。
「……クロは、
戻る」
「……その時までに、
形を作る」
サラは、
小さくうなずいた。
「……間に合えば」
その一言が、
重かった。
朝。
ミケの笑い声が、
砦に戻ってくる。
クロも、
一緒だった。
サラは、
二人を見る。
「……足りないもの、
ある」
クロは、
何も聞かずに答えた。
クロは、一瞬だけ考えた。
砦を見回し、サラを見る。
「……作ろ」
それだけで、
話は終わった。
ここは、
守れる場所じゃない。
守れる形に、
作り直す場所だ。




